東大塾 社会人のための現代アフリカ講義

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あらゆる角度から現代アフリカについて学べる

大学の講義を、交代でそのまま口語収録しているので、臨場感があります。内容としては、産業資源のページにおいて農地をげんやと思ってしまう日本の企業や、アフリカの農業低生産性、中国はなぜアフリカで受け止められるのかといったことについて現場からのメッセージを強く発信しています。

遠藤 貢 (編集), 関谷 雄一 (編集)
出版社: 東京大学出版会 (2017/9/28)、出典:出版社HP

まえがき

2017年の夏に駒場で例年開講している後期課程の「アフリカ国際関係」の授業を履修していた中に,ケープタウン大学でのサマースクールに出かけるという二人の学生がいました。1980年代に学生時代をおくっていた身から顧みると、まさに「隔世の感」を抱かずにはいられませんでした。当事研究対象にしていた南アフリカは、アパルトヘイトの改革と変動を迎え混乱している時代でしたが,現地調査に行くというようなことは選択肢の中にはありませんでした。ただし,サマースクールに限らず、また学部生,大学院生に限らず,最近では指導学生などが頻繁に,しかも長期にわたる調査などを目的としてアフリカ滞在することがきわめて一般的になっています。それだけ,アフリカという地域が「近く」なったのだろうと思います。

しかし,他方で依然としてアフリカは「遠い」大陸だというのが普通の日本の人たちにとってはより実感に近いのかもしれません。最近は頻度が減っているような印象を持っていますが,以前はよく「なぜアフリカ(などという日本とそんなに関係のない地域)のことを研究しているのか」ということを質問されました。確かに多くの人にとってアフリカという地域をよりよく知ることが何か大きな意味を持つということは無いだろうとは思います。しかし,アフリカという地域は、いろいろと「知的好奇心」をかき立てる魅力にあふれ,勉強すればするほどわからなくなるところが面白いということもできるように思い重す。

アフリカは現在54カ国から構成されていますが、本講義で主に対象となっているサハラ以南アフリカ(サブサハラアフリカ)は、北アフリカ諸国を除く48カ国からなる多様な世界です。人口も約10億人(2016年現在)を突破しています。ルワンダの大虐殺やソマリアでの「ブラック・ホークダウン」などで「紛争大陸」とみられ,今日でもナイジェリアのボコ・ハラムに代表されるような不安定性を有しているという見方は一般的だと思います,他方,人口規模にも示されるように経済市場として「最後のフロンティア」と考えられたり,稀少資源の産出に注目して「資源大陸」とも考えられるなど、,現代世界におけるユニークな地域としての認識もあります。さらには近年の中国の経済進出の影響が,様々に伝えられ,最近ではケニアでの鉄道建設(ナイロビから、ンバサ)に注目が集まりました。その多様性とその変容過程の全貌を理解することは非常に難しいのですが,本書では,執筆者(講師)それぞれの立場から。変容するアフリカへの様々な問題がユニークな視座から検討されています。

本書は,2015年秋季に開催された「グレーター東大塾」アフリカ「飛躍するアフリカと新たなる視座」での10回の講演をもとにしてその内容を編集したものです。2015年は、翌年の2016年に初のアフリカ開催(ケニアの首都ナイロビ)となる第6回アフリカ開発会議(TICADVI)を前に、「最後のフロンティア」とも評されてきたアフリカに一定の関心が寄せられた時期でもあり、日本在住のアフリカ出身の方をはじめ民間企業の方からも多くの参加者を得ることが出来,また高度な質問を出していただきました。その後,TIVADVIに向けてはアフリカが抱えるいくつかの課題ガ現われることになりました。
第1に中国経済の減速などに起因する国際資源価格の下落による経済成長の後退,そして第2にエボラ出血熱の流行のもとで明らかになった保健システムの脆弱性,そして第3に西アフリカや北東アフリカ地域での暴力的過激主義の拡大,といった課題です。換言すれば,第1の課題は,2000年代に入ってから,アフリカには特に資源価格の上昇と連動する形での高い経済成長がみられてきたものの,一局面として経済の停滞が生じていることでした.また,第2,第3の課題に示されているように、アフリカにおいては依然として十分なガバナンスが実現していない,あるいは政府が機能しないといった状況の下に,様々な安全保障上の課題が表出されている状況が継続している状況があります。しかし、本書でも改めて示されているように、アフリカは課題の山積する地域というだけではなく、多くの潜在的な力を持つダイナミックな大陸でもあります。本書が,少しでもアフリカに関心を持った読者にとって、この魅力的な地への一つの導きとなることを強く願っています。

2017年8月
遠藤貢

遠藤 貢 (編集), 関谷 雄一 (編集)
出版社: 東京大学出版会 (2017/9/28)、出典:出版社HP

目次

第1講 変容するアフリカ
――その新たな視座への誘い 遠藤 貢
はじめに
1 人々の移動と交易の盛んな大陸
2 15世紀以降のアフリカを考える視座
3 植民地主義国家(colonial state)
4 独立期のアフリカ国家の特徴
5 グローバル化の進行下でのアフリカの新たな適応の様式とその現象化
6 「主権」をめぐる問題群

第2講 グローバル化するアフリカをごう理解するか
――資源・食糧・中国・日本 はじめに 平野 克己
はじめに
1 アフリカ経済はどうして成長してきたか
2 アフリカに投資が入ってきた
3 アフリカの消費爆発
4 サブサハラ・アフリカの輸出構成
5 各国のアフリカ輸入
6 資源の戦い
7 国際テロとアフリカ
8 アフリカの経済成長はいつまで続くか
9 経済予測比較
10 日本および東アジアの食料安全保障
11 アフリカは物価が高い
12 中国のアフリカ政策
13 中国をめぐる各国の動き
14 南アフリカのアフリカ域内貿易
15 南アフリカ企業の展開
16 日本経済の閉鎖性と低成長
17 日本企業の課題

第3講 政治
――長期の視点でアフリカを理解する 武内 進一
はじめに
1 独立後アフリカの政治経済
2 アフリカ諸国の共振を理解する独立をめぐって
3 冷戦期アフリカの政治経済
4 冷戦終結と紛争の頻発
5 2000年代以降のアフリカ政治
おわりに−アフリカ政治の見取り図

第4講 産業資源
――アフリカ・ビジネスの可能性と課題 白戸 圭一
はじめに
1 サブサハラ・アフリカのGDP成長率
2 サブサハラ・アフリカ向け外国直接投資額の推移
3 アフリカにおける日本の直接投資総額
4 日本による投資受け入れ上位5ヵ国
5 EUによる投資受け入れ上位5ヵ国
6 アメリカによる投資の受け入れ上位5ヵ国
7 中国による投資受け入れ上位5ヵ国
8 資源開発
9 アグリビジネス
10 産業資源の投資が1つの国を作り替えてしまうくらいのインパクトとは
11 地元の反対運動に直面する石油企業ケニアの事例
12 プロサバンナへの反対モザンビークの事例
13 土地,経済成長を巡る認識のギャップ
14 アフリカ農業の低生産性
15 「農地」を「原野」と誤認する外国企業
16 土地制度の問題
17 アフリカにおける「国家」とは?
おわりに−人口爆発にどう対応するのか

第5講 アフリカと日本のかかわり
――そのあり方に新しい展開 高橋 基樹
はじめに 「リオリエント」とアフラジア
1 「希望の大陸(?)」アフリカとその高度成長
2 日本の自助努力支援と東アジア
3 開発・工業化のための条件とは−先進国と東アジアの経験から
4 アフリカに開発・工業化の条件はそなわっているのか
5 世界経済の構造変化とアフリカ
おわりに−アフラジアの復興と日本の役割

第6講 アフリカにおける〈伝統〉の創造と変容
――マダガスカルの改葬儀礼から考える 森山 工
はじめに
1 マダガスカルと〈シハナカの地〉
2 シハナカにおける墓とファマディハナ
3 シハナカにおける墓の個別化
4 メリナにおける墓の形態
5 メリナにおけるファマディハナ
おわりに

第7講 現代アフリカの農村開発
――三国三様の現状 関谷 雄一
はじめに
1 ニジェール(参加型アグロフォレストリー)
2 ケニア(地域社会組織の台頭)
3 マラウイ(農民自立支援の最先端)

第8講 アフリカにおける紛争と共生
――ローカルな視点から 太田 至
はじめに
1 アフリカにおける紛争とその解決のための「主流の試み」
2 パラヴァーという「伝統」
3 ボラナ社会のクラン会合
4 トゥルカナ社会の婚資交渉
おわりに

第9講 アフリカにおけるグローバル化を考える
――ナイジェリアの紛争から考える 品田 周平
はじめに
1 ナイジェリアの政治概観
2 ナイジェリアの軍事政権の影響
3 1999年以降の民主政治と二つの紛争
4 過激化する二つの紛争とその現在
5 2015年の総選挙
6 ブハリ政権が直面する問題

第10講 アフラシアを夢見る
――アフリカアジアの架橋を目指す国際関係論 峯 陽一
はじめに
1 予見可能な未来
2 アフラシアの汎民族主義者の夢
3 歴史から学ぶ

あとがき

遠藤 貢 (編集), 関谷 雄一 (編集)
出版社: 東京大学出版会 (2017/9/28)、出典:出版社HP