心理統計学ワークブック―理解の確認と深化のために

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心理統計学をより深く理解する

心理統計学は、心理学の分野において苦手に感じる学習者が最も多いもののうちの一つです。本書では、心理統計が苦手な学習者のために、誤答に至ったプロセスと推察して詳しい解説が付けられています。心理統計学を深く理解し、有効に活用したいと考えている方におすすめのテキストです。

南風原 朝和 (著), 杉澤 武俊 (著), 平井 洋子 (著)
出版社 : 有斐閣 (2009/9/1)、出典:出版社HP

本書のコピー、スキャン,デジタル化等の無断複製は著作権法上での例外を除き禁じられています。本書を代行業者等の第三者に依頼してスキャンやデジタル化することは、たとえ個人や家庭内での利用でも著作権法違反です。

はじめに

実際に問題に取り組むことによって,理解が曖昧であったり誤解したりしていたことに気づき,そこからより深い理解に至るというのは,とても大切な学習のプロセスです。心理統計学のように苦手に感じる学習者が少なくない領域では,そのプロセスが特に重要だと思います。また,学習者もそのことを感じており,大学の授業で「お薦めの問題集はありませんか?」という質問を何度も受けました。しかし,心理統計学全般にわたって演習 用の問題を提供する本はなかなか出版されませんでした。そこで,それぞれの大学で心理 統計学の授業を担当している私たち3人が相談し,協力して作ったのがこのワークブックです。

本書は,学習者が自らの理解を確認し,さらに深化させるために主体的に演習問題に取り組むことや,教師が授業の流れに合わせて教材として利用することを想定して構成しました。内容は,基本的な用語の意味を問うものから,データを使った作業を通して学ぶことを意図したもの,さらには現実の研究場面でのデータ解析に近い状況での解釈や判断を求めるものまで、幅広く設定しました。また,概念や方法の間の相互関連がわかるような作問を心がけました。そして,各問題には、その問題で正答しなかった学習者を念頭におき,誤答に至ったプロセスを推察してくわしい解説をつけました。これは,問題に正答した場合でも,理解をより確かなものにするうえで役立つでしょう。
これらの演習問題に加え,本書では,心理統計学の新たな展開や歴史,やや高度な問題やコンピュータ・シミュレーションなど、理解を深めるだけでなく,統計的知識を広げられるような「トピック」も数多く掲載しました。

全体の章構成は著者の1人(南風原)が執筆した『心理統計学の基礎——統合的理解のために」(有斐閣アルマ)に準拠していますが、どのテキストを使っているかたにも柔軟に問題を選択して利用してもらえるよう、それぞれの問題にその内容をあらわす見出しを付けて、目次にその一覧を示しました。また、テキストによって記号の使い方に違いがある場合があることをふまえ、付録に本書で使用している記号の一覧を示して、読者が使用しているテキストにおける記号との照合ができるようにしました。

心理統計学のワークブックということで,企画の段階で時間をかけて検討したことの1つに、ソフトウェアを使った実習をどう位置づけるか、ということがありました。広く流 通している市販のソフトウェアの使い方を解説し、実習のための課題を用意する,ということも考えました。しかし、そのような内容の書物は数多く出ていることと,その内容を含めることで,理解を確認し深化させるための問題数を削減することになっては当初の目的が達成できなくなると考え,ソフトウェア実習という内容は省きました。その代わり,ほとんどのパーソナル・コンピュータに装備されている表計算ソフトウェアであるExcelと、無料でダウンロードして使用でき、最近急速に利用が広まっているRについて、付録で入門的な解説を行い、本書の問題やトピックにおいても一部使用しました。一般に統計学の学習において,ソフトウェアを使いこなすスキルを磨くことや、ソフトウェアで実際にデータ解析を体験しながら理解を深めることはとても重要なことですので,それぞれの環境の中で、ソフトウェアを用いた学習も並行して進めていただきたいと思います。

「心理統計学の基礎」の「はじめに」にも書いてありますが,私たちは、私たちは「統計学は難しい」と実感しています。本書を作る過程でも、自分たちの理解が完全なものでないことに何度か気づかされました。ですから、読者のみなさまにも,本書の問題にすぐに正答できなくても、解説やテキストを参老にして根気強く学習を続けてほしいと思います。本書が,心理統計学を深く理解し,有効に活用したいと考えている読者のかたに,少しでもお役に立てればと願っています。
最後になりましたが、有斐閣書籍編集第二部の櫻井堂雄さんと中村さやかさんには,企画の段階から完成に至るまで大変お世話になりました。お二人ともご自身の大学時代の心理統計学の学習経験をフルに生かして、たくさんの貴重なご意見をくださいましたこと に、心より感謝申し上げます。

2009年6月
南風原朝和
平井洋子
杉澤武俊

著者紹介

南風原朝和(はえばらともかず)
1977年,東京大学教育学部卒業
1981年,アイオワ大学大学院教育学研究科博士課程修了(Ph.D.)
現在,東京大学名誉教授
主要著作:『行動科学における統計解析法」(共著,東京大学出版会,1990年),「心理学研究法入門−調査・実験から実施まで」(共編著,東京大学出版会,2001年),『心理統計学の基礎−統合的理解のために』(有斐閣,2002年),『臨床心理学をまなぶ7 量的研究法』(東京大学出版会,2011年),『統·心理統計学基礎——統合的理解を広げ深める』(有斐閣,2014年),『教育心理学 第3版』(共著,有斐閣,2015年),『検証 迷走する英語入試一スピーキング導入と民間委託』(編著,岩波書店,2018年)

平井洋子(ひらいようこ)
1984年、東京大学文学部卒業
1996年,東京大学大学院教育学研究科博士課程单位取得退学
現在,首都大学東京人文社会学部人間社会学科心理学教室教授
主要著作・論文:「測定・評価に関する研究の動向一尺度による測定と「定型」再考」(「教育心理学年報』 40,112-122,2001年),「心理統計技法』(分担執筆,福村出 版,2002年),「心理学研究法の新しいかたち」(分担執筆,誠信書房,2006年),「見直そう、テストを支える基本の技術と教育』(分担執筆,金子書房,2010年)

杉澤武俊(すぎさわたけとし)
1998年,東京大学教育学部卒業
2006年,東京大学大学院教育学研究科博士課程修了(博士(教育学))
現在,早稲田大学人間科学部学術院准教授
主要著作:『Rによる新しい統計学』(共著,オーム社,2008 年),「心理学檢定公式問 題集」(分担執筆,実務教育出版,2009年),「Rによる心理データ解析」(共著,ナカニシヤ出版,2015年),「心理学のためのサンプルサイズ設計入門」(分担執筆,講談社, 2017年)

南風原 朝和 (著), 杉澤 武俊 (著), 平井 洋子 (著)
出版社 : 有斐閣 (2009/9/1)、出典:出版社HP

目次

第1章 心理学研究と統計
問題
1 心理学研究の流れ
2 仮説の正しさと得られる結果
3仮説通りの結果が得られない原因
4 心理学研究のアプローチ法
5 時間的観点による調査研究の分類 解答と解説
6 測定の定義
7 データの図示
8 母集団とサンプル
9 記述的指標
トピック
1-1 データの視覚的表示の工夫
1-2 統計的方法の間の関連

第2章 分布の記述的指標とその性質
問題
1 記述的指標の位置づけ
2 平均と中央値の性質
3 極端な値に関連する用語
4 外れ値
5 数式による散布度の定義
6 分散と標準偏差の性質
7 線形変換後の記述的指標(1)
8 線形変換後の記述的指標 (2)
9 線形変換と尺度体系
10 2種類の平均偏差の大小
11 合成変数と集団の合併に関する公式
12 集団を合併したときの記述的指標
13 標準化と標準得点
14 標準化の応用
解答と解説
トピック
2-1対数間隔尺度、
2-2 平均と中央値の性質の確認

第3章 相関関係の把握と回帰分析
問題
1 散布図と相関関係の指標
2 2変数間の関連に関する統計量
3 共分散の性質
4 変数の変換と共分散
5共分散の最大値
6 共分散と相関係数の関係
7 相関係数の性質
8 合成変数の分散,共分散,相関係数
9 条件付きという考え方
10 最小2乗法による推定
11 回帰分析の用語
12回帰分析の実際(1)
13回帰分析の実際 (2)
14回帰分析の実際 (3)
15回帰分析の性質 (1)
16 回帰分析の性質 (2)
17 残差の意味
18 選抜効果
19 平均への回帰
20 変数の目盛りと相関係数
21得点変化の解釈
22 研究のタイプと変数間の関連性
23 相関関係と共変関係
24 因果関係の主張
25 測定の質をあらわす用語
26 妥当性の証拠
27信頼性の求めかた
28 信頼性と真値モデル ,
29 妥当性と信頼性の性質
30 相関の希薄化
解答と解説
トピック
3-1 最小2乗法を使わずに回帰直線を求める
3-2 テストの a係数を導く

第4章 確率モデルと標本分布
問題
1 統計的推測の用語(1)
2 サンプリングの方法(1)
3 サンプリングの方法(2)
4 母集団分布の役割
5 分布の名称
6変数の名称
7 確率的に変動するもの、しないもの
8統計的推測の用語(2)
9 不幅性と不偏推定量
10さまざまな標本分布
11 平均や比率の標本分布
12標準正規分布における確率
13 一般の正規分布における確率
14 標本分布における確率の意味
15 平均の差の分布
16 標準誤差の計算と解釈
17 標準誤差に基づくサンプルサイズの計算
18度数の標本分布
19周辺分布
20相関係数の標本分布
21フィッシャーのZ変換
22ランダム化とランダムサンプリングの区別
23頑健性
解答と解説
トピック
4-1 合成変数の性質を利用した2項分布の平均と分散の導出
4-2 コンピュータ・シミュレーションによる標本分布の近似

第5章 推定と検定の考え方
問題
1 統計的推測の方法の整理
2推定に関する用語
3 統計的検定に関する用語
4 いろいろな母数とその推定量
5 推定量と推定値の間の関係
6 最小2乗法による推定
7 最尤推定法と尤度
8 最尤推定法の考え方
9 相関係数の標準誤差とサンプルサイズ
10 検定の考え方と手続き
11 相関の検定と数表利用
12t分布における棄却の限界値と棄却域
13 検定における判断と確率 (1)
14 検定における判断と確率 (2)
15 有意水準やサンプルサイズの影響
16 p値の性質と意味
17 検定における2種類の誤り
18 検定力と検定力分析
19 相関係数の検定と結果の意味
20 フィッシャーのZ変換と検定力の計算
21 検定と信頼区間の関係
22 信頼区間の性質 (1)
23 信頼区間の性質 (2)
24 統計的推測の用語
解答と解説
トピック
5-1尤度関数と対数尤度関数
5-2 最尤法の限界とベイズ推定
5-3 有意水準5% はいつ誰が決めたのか
5-4 検定か区間推定か

第6章 平均値差と連関に関する推測
問題
1 研究法に関する用語
2 平均値差と連関の検定に関する用語
3 検定で用いられる式の整理
4 検定における仮定
5 独立な2群の平均値差の検定
6 独立な2群の平均値差の標本分布
7 平均値差の標本分布が正規分布にならない理由
8 検定結果に基づく信頼区間の計算 (1)
9 信頼区間の性質と意味
10平均値差と効果量
11 効果量と検定力,サンプルサイズ
12 効果量に基づく平均値差の検定
13 群間の対応関係の判断
14 マッチングの利点
15 検定結果に基づく信頼区間の計算 (2)
16 群間の相関と検定力との関係
17質的変数に関する用語
18 独立な2群の比率差の検定
19 カイ2乗検定)
20ファイ係数
21クラメルの連関係数の計算
22 連関の大きさを示す3つの統計量の性質
23 検定方法の選択
24 平均値差や比率差の検定
25 検定方法の選択と実行(1)
26 検定方法の選択と実行 (2)
27 検定方法の選択と実行 (3)
28 検定方法の選択と実行 (4)
29 検定方法の選択と実行(5)
解答と解説
トピック
6-1 ノンパラメトリック法
6-2階層的データの取り扱い

第7章 線形モデルの基礎
問題
1 分散の分割
2 平方和とその分割
3 平方和とその自由度
4 自由度
5 独立変数の効果の検定
6 2値変数の効果の検定と2群の平均
7線形モデルのバリエーション
8 ベクトルによる変数と統計量の表現
9 回帰分析のベクトル表現
10 ベクトルによる平方和の分割の導出
値差の検定の関係
解答と解説
トピック
7-1 ベクトル表現を用いて回帰係数を導く

第8章 偏相関と重回帰分析
問題
1 疑似相関
2 変数の影響を除いた成分
3 変数の影響を除いた相関係数・回帰 係数
4 偏相関係数の計算
5重回帰分析
6 重相関係数
7重回帰分析の計算
8 多重共線性
9 重回帰分析の性質 (1)
10 重回帰分析の性質 (2)
11 偏回帰係数の検定と平方和のタイプ
12 重回帰分析における統計的推測の前提条件
13 分散説明率の増分に関係するもの
14 自由度調整済み重相関係数
15 重回帰分析の結果の解釈
解答と解説
トピック
8-1 部分相関と偏相関の使い分け
8-2 偏相関係数を導く
8-3 量的な独立変数間の交互作用

第9章 実験デザインと分散分析
問題
1 分散分析の適用場面
2 要因と水準
3 実験法の用語
4 平方和の分割
5 完全無作為1要因デザインにおける分散分析の性質(1)
6 完全無作為1要因デザインにおける 分散分析の性質(2)
7 完全無作為1要因デザインの分散分析表
8 外れ値除去による検定結果への影響
9 全体的な分散分析とテューキーの事後検定の結果
10 完全無作為2要因デザインにおける分散分析の性質
11 完全無作為2要因デザインの分散分析表
12 完全無作為2要因デザインの分散分析と事後検定
13 アンバランスデザインの影響(1)
14 アンバランスデザインの影響(2)
15 アンバランスデザインと平方和割
16 変量効果と固定効果
17 球面性の仮定
18 t検定と分散分析の関係
19 分析手法の選択
20 共分散分析
21 高次の交互作用
解答と解説
トピック
9-1 複数の検定結果の解釈
9-2イプサティブデータの分散分析

第10章 因子分析と共分散構造分析
問題
1 因子分析に関する基本的な用語等
2 因子分析のアプローチ法
3 1因子モデルにおける相関係数の復元
4 直交解と斜交解
5 因子分析と回帰分析の関係
6 因子分析の性質
7因子パタン,因子構造,準拠構造
8 単純構造の意味
9 因子の回転の目的
10 因子の回転の性質
11 因子の回転法
12 初期解の推定法
13 ソフトウェアの出力の解釈
14 共分散構造分析関連の用語
15 モデルの識別性
16 不適解 17モデルの適合度
18 同値モデル
19 希薄化の修正
解答と解説
トピック
10-1 因子分析と主成分分析の違い
10-2 共分散構造分析における適合度検定

引用・参考文献
付録
A 標本統計量と母数の記号一覧
B Excelの基本的な使い方
CRの基本的な使い方
D 付表・付図

南風原 朝和 (著), 杉澤 武俊 (著), 平井 洋子 (著)
出版社 : 有斐閣 (2009/9/1)、出典:出版社HP