統計嫌いのための心理統計の本:統計のキホンと統計手法の選び方

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統計の全体像がつかめる!画期的入門書

本書は、前半では統計や統計ソフトの使い方がわからない人が統計に詳しい人を頼るために必要な知識について紹介し、後半では主要な統計手法ついて、どのような全体像なのか掴んでいきます。そのため、統計手法や数式の詳しい解説や統計ソフトの使い方は書かれていないので、統計が嫌いな人でも読み進めることができます。

白井 祐浩 (著)
出版社 : 創元社 (2017/1/25)、出典:出版社HP

目次

はじめに――統計における3つの理解
第I部 統計が得意な人を頼るには
第1章統計が得意な人を頼るには
第2章統計手法を選ぶ上で知っておくべき用語
第3章尺度水準と代表値・散布度
第4章 統計手法を選択するための視点
第5章 統計手法の簡単な解説と研究例 —

第II部 心理学でよく用いられる統計手法
第6章 主要な統計手法を理解する上で知っておくべき用語
第7章 統計の種類と統計的仮説検定の考え方
第8章 t検定
第9章 分散分析
第10章 x 検定
第11章 ピアソンの積率相関係数

*付録――統計手法チェック表
*文献紹介1―統計の解説書
*文献紹介2――統計ソフトの解説書
*索引
*おわりに

Column1 量的研究と質的研究
Column2 分散と標準偏差
Column3 心理現象は順序尺度? 間隔尺度?
Column4 関係と違いを区別する方法
Column5等しいことを言いたい時は?
Column6 対応のないt検定と対応のあるt検定
Column7 統計研究は客観的か? (1)―解釈における主観性
Column8 統計研究は客観的か? (2) なぜ有意水準は5%なのか
Column9 分散分析と x^検定でわかることの違い
Column10 直線関係と共分散――なぜ直線関係で共分散が最大になるのか

白井 祐浩 (著)
出版社 : 創元社 (2017/1/25)、出典:出版社HP

はじめに 統計における3つの理解

0-1 本書の取扱説明書

本書は統計の専門家になるための本ではありません。「統計や数式が嫌い」で「本 を読んでもよくわからない」けれど、「研究で統計を使わないといけないので困っている」という統計嫌いの人のための本です。そのため、本書を読むに当たっては 次の点にご注意ください。

・本書を読んでも、統計で使われる数式や統計手法の正確で詳しい説明はありません。
・統計ソフトの使い方についての解説もありません。

これらの点について知りたい人は巻末に「文献紹介」として個人的におススメの 本を紹介していますので、そちらをご覧になって自分に合う本を探してみてください。本書で紹介するのは次のようなことです。

1 統計がわからないし統計ソフトの使い方もわからない人が、統計に詳しい人を頼るために必要な知識について紹介します。
2 主要な統計手法について、何となくこんなことをしているんだなという全体像 がつかめる形で紹介します。

本書は2部構成になっていますが、すべてを通読する必要はありません。自分に とって必要なところを選んで読んでください。
第1部では、1の統計に詳しい人を頼るために必要な知識について説明していま す。「別に統計について知りたいわけではないから、統計に詳しい人を頼るために 必要なことだけわかればいい」という人や、「統計手法の詳しい内容はわからなくていいから、どんな統計手法を使えばいいかがわかればいい」という人は第1部を見てください。
第II部では、2について、次節で紹介する「数式による理解」「文章による理解」「イ メージによる理解」という3つの理解の仕方を用いて主要な統計手法の解説を行い ます。少し前向きに「数式ばかりの統計の本は読んでもよくわからないけれど、少 しでも統計を理解したい」という人や「細かいところはいいから、統計の全体像を つかみたい」という人は、第II部を見てください。ただし、あくまで統計について の大まかなイメージを持つためのものとなっています。 また、本書は心理統計の本ということで、心理学を専攻する学生を念頭に置いて います。そのため、研究の具体例には心理学 (特に臨床心理学)の研究例を多く用いて いますので、その点はご了承ください。もちろん、内容としては他の学問領域でも 役立つ知識になっていますので、心理学以外を専攻している人もぜひ研究を進める 上での参考にしてください。

0-2 統計理解の3つの方法

みなさんは、本書を手に取ったということは、「統計が苦手だ。本を読んでも意 味がわからない」という人だと思います。では、どうしてそんなに統計に対する苦 手意識を持ってしまうのでしょうか?その理由の1つは、統計学は数学のイメー ジが強く、やたらと数式が並んでいるため、とっつきにくいという点が挙げられる と思います。特に、心理学は学問分野としては人文・社会科学に属しているため、 文系から心理学に来た人の中には「こんなはずじゃなかった……」と頭を抱える人 も多いのではないかと思います。数学アレルギーの人にとっては、統計が数学の一 分野というだけで、拒絶反応を起こしてしまうかもしれません。
また、それだけではなく、統計用語についても「母集団」や「分散」など堅苦しい 言葉が並び、あたかも知らない言語で書かれた本を読んでいるかのような感覚に陥る人もいるのではないかと思います。この文章での説明の難解さも統計嫌いを生み 出す要因の1つと言えるでしょう。
では、数式は見るだけでトリハダが立つし、難解な文章は読む気にならないという人は統計を理解することはできないのでしょうか? そんなことはありません。 私は統計には次の3つの理解の仕方があると考えています。

1数式による理解:数式を用いて統計を理解する方法。
2文章による理解:文章を用いて統計を理解する方法。
3 イメージによる理解:イメージを用いて統計を理解する方法。

数式による理解、文章による理解が難しい人でも、実はイメージという方法を用 いることで思いのほかすんなりと統計が理解できたりします。3つの理解の仕方に はそれぞれのメリットとデメリットがあり、どの理解の仕方が合っているかは人それぞれだと思います。この中から自分が得意なやり方を選んで統計を学んでいけば いいのです。まずは、この3つの理解の仕方がどのようなものなのかについて紹介 したいと思います。

0-3 数式による理解

数式による理解は数式を用いて統計を理解する方法です。多くの統計の専門書は 数式を用いて解説をしていますが、どうして数式が使われるのでしょうか?
その理由は、数式が数を扱う上で非常に効率のよい言語だからです。言葉で説明 すると何ページもかかってしまう説明を、たった1つの数式で説明することが可能 です。しかも、なかなか言葉にしにくい抽象的なことを、数式はいとも簡単に表現 します。例えば、「2を基準にして、ある値が1ずつ増えると、もう1つの値が2ずつ増える状態」を、数式では「y%3D2x+2」と非常にシンプルに表現することができ ますし、数式の意味さえわかっていれば、文章で表現されるよりも数式で表現されたほうがわかりやすくもあります。さらに数式の長所としては、値を入れればその まま答えを計算することができるという点があります。「2を基準にして、ある値 が1ずつ増えるともう1つの値が2ずつ増える状態で、ある値が3の場合、もう1つ の値は?」と聞かれても、とっさに答えは出てきません。しかし、数式で示されれば、xに3を代入すればいいということさえ知っていれば、y%3D2×3+2=8とすぐ に答えを出すことができます。
このように、数式による理解にはシンプルさと実用性という長所がありますが、 当然、短所もあります。1つは、数式の意味やルールがわからなければ、まったく 意味がわからないという点です。英語も日本語も単語や文法を理解していなければ 文章が読めないように、数式の意味やルールを理解していなければ数式によって統計という文章を理解することはできません。数式に関する基礎知識があって初め て、数式による理解が可能になります。心理学を学ぶ文系の人はそもそも数式という単語に慣れ親しんでいないため、数式で表現された統計という文章を読むことが できないのは当たり前といえば当たり前です。また、数式を用いた説明は非常に論 理的で数式の積み重ねで成り立っているので、わかる人にはクリアに理解できるの ですが、わからない数式が1つ出てくると後はお手上げ状態になってしまいます。 何となくわかるとか、そこそこわかるという理解の仕方はあり得ません。数式による理解は、数式という単語に慣れ親しんでおり、理路整然とした論理的な考え方を 持つ人に向いている理解の仕方と言えます。
数式による理解の例として、数式による平均値 (754ページ) と分散(754ページ)の 説明をイメージ0-1に載せています。

0-4 文章による理解

文章による理解は文章で統計を理解する方法です。数式をほぼ使わず、文章だけ で説明している統計本もいくつか出ています。数学が苦手な人にとってはまだ手に 取りやすいですね。
文章による理解の長所としてまず挙げられるのは、数式の意味やルールを知らなくても理解ができるという点です。数学の基礎知識を持っていない人でも、日本語 はわかりますよね。文章による理解は数式という言葉を知らなくても、日本語さえ わかればある程度は理解ができます。これは文系の人にとっては非常に大きな長所 になります。また、1つの数式は別の数式による表現は難しいので、数式による理 解では補足や説明のバリエーションはありません。しかし、文章による理解であれ ば、例を挙げたり補足説明を加えたりすることで、何通りもの説明を行うことがで きます。このような説明のバリエーションがあることで、1つの説明でわからなくても他の説明で補足ができるため、すべては理解できなくても何となくはわかると いう中間的な理解が可能になります。
一方、欠点としては、たった1つの数式で説明できることを長々と説明しなくて はならず、また数式は抽象的で言葉にしづらい言語なので、説明がややこしくなってしまう点があります。さらに、数式は1つの意味しか持たないため誰が読んでも 同じ理解につながりますが、日常語は読み手の解釈によって誤解を生んでしまうこともあります。このややこしさといろいろな解釈を許す可能性が、文章による理解 を難しくしてしまうところと言えます。
このことから、文章による理解には当然、文章の読解力が必要になります。言葉 になりにくい数式を無理に言葉にしているため、うまく表現できないところや欠落 してしまっているところが出てくるのは仕方ありません。したがって、その点を自 分で補いながら読み進んでいくことが必要になります。また、ややこしい説明から 本質的な部分を見抜く力も必要となるでしょう。文章による理解は、文章の読解力 に優れた、ややこしい文章から本質を拾い上げられる人に向いている理解の仕方だ と考えられます。
文章による理解の例として、文章による平均値と分散の説明をイメージ0-2 に 載せています。

0-5 イメージによる理解

イメージによる理解は視覚的なイメージを利用して統計を理解する方法です。最 近はマンガやイラストを用いて説明する統計本も増えています。私の場合は統計を 教える時に図を用いることが多いのですが、視覚的なイメージが持ちやすいように 伝えることで直感的な理解につながるようです。文章だと長々と説明しなければな らないことが、図やイラストを用いることで、一目で何となく全体的な意味が理解 できます。
イメージによる理解の長所は、何となくではあってもわかりやすい、直感的理解 が可能な点です。数式もややこしい説明も必要なく、わずかな説明だけでその本質 的な意味や全体像が理解できるため、入り口としては非常に入りやすい理解の仕方 と言えます。
一方、欠点としては、直感的であるがゆえに大まかな理解にとどまってしまうところがあります。何となくはわかるけれどいざ説明しようとするとうまく説明でき なかったり、大雑把にはわかるけれど詳しいことはよくわからなかったりすること があります。その点では、理解の入り口には良いですが、より詳しく知ろうと思ったらさらに数式による理解か文章による理解にステップアップしていく必要がある でしょう。
イメージによる理解は、視覚的なイメージが得意で想像力が豊かな人、まず統計 の全体的な大枠を理解したい人に向いている理解の仕方と言えるでしょう。臨床心 理学を学んでいる人は特に統計が苦手という人が多い気がしますが、イメージ力や 直感力が重要な臨床心理学を学んでいる人にとってはこの理解の仕方が向いている のかもしれません。
イメージによる理解の例として、イメージによる平均値と分散の説明をイメージ 0-3に載せています。

0-6 3つの理解の方法と意味による理解

ここまで、統計の3つの理解の方法について紹介してきました。実際には、数式 と言葉とイメージの3つの理解の方法のすべてで理解して初めて、統計を本当に理 解したことになるのかもしれません。
そうは言われても、3つの理解の仕方をすべて理解できる自信がないと思う人も いるでしょう。ご安心ください。実は、この3つの理解は相互に関係し合っていま す。例えば、文章による理解で統計の意味がわかれば、それをもとにしてイメージ をふくらませていくことでイメージによる理解が、数式に当てはめていくことで数 式による理解が可能になります。数式による理解で統計の意味が理解できれば、数 式で理解した意味に沿って文章を読み解いていくこともできれば、イメージに置き 換えることもやりやすくなります。イメージによる理解で全体像をつかめば、後は それに沿って数式や文章を読み解きやすくなります。
いずれか1つのやり方で理解ができれば、残りの理解の仕方もわかりやすくなる のです。大切なのは、どの方法でもいいのでとりあえず1つのやり方で理解することです。初めの取りかかりが数式なのか、文章なのか、イメージなのかの違いに過 ぎません。自分が一番わかりやすい方法で、統計の意味(それが何を意味しているのか、 何をやっているのか)を理解すること、つまり「意味による理解」を行うことが重要な のです(イメージ0-4)。
本書では、これら3つの理解を駆使しながら、一見難しくお手上げ状態だと感じてしまうような統計をわかりやすく紹介していきたいと思います。少しでもみなさんの統計理解の役に立てたら幸いです。

白井 祐浩 (著)
出版社 : 創元社 (2017/1/25)、出典:出版社HP