改訂版 はじめての心理統計法

【最新 – 心理統計を学べるすすめ本 – 入門教科書から実践書まで】も確認する

心理統計をはじめて学ぶ人のための1冊

本書は、大学1年生や2年生といったはじめて心理学で必要な統計方法を学ぶときに参考書として利用することを想定して書かれています。数学が得意でなくても少しずつ統計に慣れていけるようになっているので、自習でも十分に心理統計法の基礎知識を修得できるでしょう。

鵜沼 秀行 (著), 長谷川 桐 (著)
出版社 : 東京図書 (2016/9/1)、出典:出版社HP

改訂版 はじめての心理統計法

改訂版刊行にあたって

今回の改訂は、2008年に刊行した『はじめての心理統計法』に大幅な加筆・ 修正を行って、現在心理学教育の現場で求められる幾つかの要請に応えまし た。一つは、近年の心理学界における資格の動向を踏まえて、取り上げる内 容をその要請に対応させたことです。第二には、授業の中で学生が自ら予習・ 復習を行うことが以前にも増して求められていることから、より自習に適した形にしました。第三に、旧版を用いた8年間の講義の経験と学生の意見を 踏まえて、やや詳しすぎた解説や内容を削除し、代わって最近の分析で求められる内容を追加しました。
具体的には、今回の改訂版は 2008年に刊行した旧版に以下のような変更 を加えたものです。

(1) 多変量解析を新たに第9章に追加しました。因子分析や偏相関、重回帰分析について、実例を用いて初学者にわかりやすい解説を行いまし た。これは、最近の心理学関連の資格の動向も考慮した内容です。平 成27年9月に国家資格としての公認心理師が誕生することが決まりました。また28年4月からは、認定心理士(日本心理学会)に心理調査 士が加わることになりました。これらの資格では、実験・調査・観察 などによって収集されたデータを処理するための知識が重視されています。このような要請にも充分に応える内容になっています。

(2) 学習者の自習に役立てていただくために、理解のポイントになる箇所にTryとして新たに小テストを追加しました。また、各章の最後には 練習問題が加えられました。これらは、臨床心理士をはじめ、これま での種々の心理学関連資格の試験を踏まえて、特に学生が誤りやすい 点を中心に作られたものです。受験の際にも役に立つはずです。

(3) 効果量や多重比較を中心に、近年の学界の動向を踏まえて加筆しました。専門的な研究や、専門職の試験で求められるこれらの最近の分析 方法は、入門レベルでは触れられていないことも多いのですが、今回 の改訂では「くわしい説明」の項で丁寧に解説しています。

この改訂版で、読者の皆さんが心理学の方法についてさらに理解を深めて いただくことを願っています。最後に、煩雑な改訂作業に取り組んでいただいた東京図書・松永智仁さんにこの場をお借りしてお礼を申し上げます。
平成28年4月
著者

はじめに

本書は、大学の初年次あるいは2年次の学生が、はじめて心理学で必要な 統計的方法を学ぶときに、教科書あるいは自習用の参考書として利用していただくことを想定して書きました。ただ、10 数年の学部や大学院での統計 法の講義経験から、学部高学年や大学院修士課程での基礎的なことがらの復 習や自習にも充分活用していただけると思います。
本書は、以下のような特徴をもっています。

(1) 数学が得意ではない読者を想定しています。そのため、中学程度の数学の知識で充分に理解できるように、繰り返し丁寧に解説し、計算過 程も省略せずに記載することで、どんな計算がおこなわれているのか、 1つひとつ確認できるようにしました。ですから、自習でも充分に心 理統計法の基礎知識を修得できます。

(2) 統計法では、ある程度の数学記号を必要とします。本書では、数学記号を使用する場合は、そのつど説明を加え、前ページに戻らなくても そこで再び理解できるように配慮しました。また、例を使って具体的 に数学記号の意味や計算の手順をわかりやすく説明してありますので、 記号に慣れていなくても計算ができます。

(3) 少しずつ統計的な表現に慣れていくことができるように配慮してあります。本書の最後では、大学の教科書に出てくる統計的な表現を理解 できるようになります。そのために、一部では実際の研究で使われる 記号も使っています。最後まで「太郎くん」「花子さん」の統計ではあ りません。

(4) 心理学の中でどのように統計が使われているのかを理解できるように、実際の研究例を Research として紹介しています。心理学でおこなわれる観察、検査、実験、調査などの方法を具体的に知ることで、どの ように心理統計法が利用されているのかがわかります。

(5)統計量や測度の計算方法は、皆さんがすぐになじめる例と心理学的な例の両方を取り上げて説明していますので、心理学を知らなくても心 理統計法を学ぶことができます。

(6)初学者向けの入門書ですが、大学生の卒業論文や大学院生の修士論文ぐらいまではほぼカバーできるように考えて書いてあります。そのた め、実際の研究においてありそうなデータを考慮しました。また、さまざまな統計量や測度が実際に使えるよう、1つひとつについてかな より詳しく踏み込んで解説しています。

(7) レポートや卒業論文を書くときに役立つように工夫されています。統計的結論など、実際にどのような書き方をするのか、読者がしばしば 「誤りやすい点をわかりやすく指摘しています。

本書の利用法

以上のような特徴を活かすために、つぎのように本書を利用していただく ことをおすすめします。
まず、ゆっくり気軽に読み始めてください。本書は大切なことを繰り返し 丁寧に説明しています。これまでの本は、一度だけの説明でそのことが理解 されたという前提で書きすすめられているものが多かったと思いますが、本 書ではあえて大切なことが繰り返されています。説明がくどくなりすぎる場 合には、参照していただく箇所をそのつど示しましたので、利用してください。

各節のおわりには、その節で学ぶポイントが示してあります。これは著者 のこれまでの講義の経験から、初学者がしばしば誤りやすい点をあげたもの です。その節をひととおり読んだ後や、講義の復習に活用してください。
一部の章をのぞいて、各章には研究例があげてあります。それにより、心 理学を身近に感じていただけると思います。データの収集(測定)がどのように行われ、心理学では何をどのように問題としているのか、を理解していただきたいと思います。2年生や3年生、あるいは卒業論文で実際にデータ を収集し分析する際にも参考にしてください。
実際の統計処理の手順を「まとめ」として最後に書きました。統計処理に どのように取りかかったらよいのかわからないときに利用してください。
最後に、本書の執筆と刊行にあたって東京図書の須藤静雄さん、岩元恵美さんからさまざまな具体的アイディアとご指摘をいただきました。煩雑な作 業を引き受けてくださったお二人の熱意と努力に感謝したいと思います。

平成20年春
著者

鵜沼 秀行 (著), 長谷川 桐 (著)
出版社 : 東京図書 (2016/9/1)、出典:出版社HP

目次

改訂版刊行にあたって、
はじめに
本書で使う主な記号一覧

第1章 統計の勉強をはじめる前に
心理統計はこころを理解するためのものさし
1.1 心理学の方法 (1)
なぜデータ処理が必要なのだろうか
1.2 心理学の方法(2)
どのようなデータ処理が必要だろうか
1.3 心理データの特性
こころを測る

第2章 データの性質と度数分布
データの性質と尺度レベル/度数分布
2.1 質的変数・量的変数、スティーブンスの4つの尺度
データのもつ性質について考える
2.1.1 質的変数・量的変数
2.1.2 スティーブンスの4つの尺度
2.2 質的変数についての度数分布
データの特徴をまとめる
2.2.1 度数分布表とは
2.2.2 グラフであらわす(視覚的にデータの分布の特徴をとらえる)
2.2.3 グラフ化の欠点
Research ● 乳児のアタッチメントの国際比較
2. 3量的変数についての度数分布
データの特徴をまとめる
2.3.1 量的データ(量的変数)を度数分布表にまとめる
2.3.2 量的変数についての度数分布表の概要
2.3.3 グループ化された度数分布とグループ化されていない度数分布
2.3.4 グループ化された度数分布表の作成手順
2.3.5 グループ化されていない度数分布表
2.3.6 グラフであらわす(視覚的にデータの分布の特徴をとらえる)
Research ● 顕在性不安検査 MAS(日本版)

第3章 代表値と散布度
分布の特徴をとらえる
3.1 代表値
データの特徴を要約する
3.1.1 平均値(算術平均)
3.1.2 中央値
3.1.3 最頻値(モード・並数)
3.2 散布度
データの散らばり具合をあらわす
3.2.1 標準偏差
3.2.2 四分位偏差(四分領域)
3.2.3 範囲(レンジ)
3.3 データの分布型から代表値や散布度について考える
データの分布型から考える
3.3.1 データの分布型のちがいによる代表値と散布度の算出
3.3.2 分布の偏りに対する対応(1):外れ値の処理
3.3.3 分布の偏りに対する対応 (2) : 変数の変換(調和平均、幾何平均)
3.4 分布の中の相対的位置と正規分布
順位と標準得点
3.4.1 順位
3.4.2 パーセンタイル順位
3.4.3 標準得点
3.4.4 標準正規分布の性質
3.4.5 標準正規分布表を利用する
3.4.6 偏差値
Research心的回転

第4章 相関係数と連関係数
-2 つの変数の間の関係を分析する
4.1 直線相関
2 変数間の直線的関係の強さを調べる
4.1.1 ピアソンの積率相関係数
4.1.2決定係数と非決定係数
4.1.3 予測(1) : 変数Xから変数 Yを予測する
4.1.4 予測(2):変数 Yから変数Xを予測する
4.2 順位相関係数
2つの順位値の間の関係を調べる
4.2.1 スピアマンの順位相関係数
4.2.2 ケンドールの順位相関係数
4.3 連関係数
カテゴリカルな2変数間の関係を検討する
4.3.1 クロス集計
4.3.2の係数(四分点相関係数)
4.4 その他の相関係数
カテゴリカルな変数と量的変数の関係
4.4.1 点2系列相関係数(点双列相関係数)
Research • 母親変数と子どもの知的発達に関する日米比較

第5章 標本と母集団
得られたデータとその背景にある「全体」の関係
5.1 母集団と標本抽出
限られたデータからはじめよう
5.1.1 母集団と標本
5.1.2 無作為抽出の他に考えるべきこと
5.1.3 母数と統計量
5.2 標本分布と標準誤差
統計量の散らばりを使う
5.2.1 統計量は変化する:標本分布
5.2.2 統計量の散らばり:標準誤差
5.2.3 現実的な問題:標本が1つならば
5.3 正規分布と確率変数
正規分布を使うために
5.3.1 確率分布と確率変数
5.3.2 標準正規分布
5.3.3 標準正規分布を使うために
5.3.4 標本分布と正規分布の関係:標本平均の場合

第6章 統計的仮説の検定と推定
データからどのようにして母集団について結論を出すか
6.1 統計的仮説の検定とは
仮説の意味と検定の手順
6.1.1 統計的仮説:帰無仮説とはい
6.1.2 仮説検定の手順
6.1.3 帰無仮説を棄却する基準:有意水準と臨界値
6.1.4 仮説の方向性と検定:片側検定と両側検定
6.1.5 2つの誤り
6.2 検定の実際
t 分布を使う
6.2.1 母集団の標準偏差がわからないとき
6.2.2 t分布と自由度
6.2.3 p値と効果量
6.3 区間推定
範囲を推定する
6.4 相関係数の検定
変数間の関係を分析する
6.4.1 ピアソンの積率相関係数の検定
6.4.2 相関係数の検定と評価
6.5 度数についての検定
推測統計の手法
6.5.1 x(カイ2乗)分布を利用する1:独立性の検定
6.5.2 x(カイ2乗)分布を利用する2:適合度の検定
Research ● 地下鉄内での援助行動

第7章 t検定
2つの平均値の間の有意差を検定する
7.0 t検定をはじめる前に
2つの平均値の比較について考える
7.0.1 2つの異なる母集団とは?
7.0.2 t検定の目的
7.1 対応のない場合(独立の場合
2 つの平均値の差を検定する
7.1.1 t検定の前提条件(t検定において仮定されること)
7.1.2 統計的仮説と検定の方向
7.1.3 t 検定の手順と計算
7.2 対応のある場合(関連のある場合)
2つの平均値の差を検定する
7.2.1 「対応のある場合」とは
7.2.2 t値の計算(対応のある場合)とは
7.3 2つの平均値の差の信頼区間
差の大きさはどのくらいか
7.3.1対応のない場合”の2つの平均値の差の信頼区間
7.3.2 “対応のある場合”の2つの平均値の差の信頼区間
Research ●知覚的防衛

第8章 分散分析
複数の平均値をまとめて比較する
8.1 一元配置
多くの平均値を一度に比較する
8.1.1 なぜ分散分析が必要なのだろうか
8.1.2 分散分析の考え方
8.1.3 分散分析の計算
8.1.4 効果の大きさを評価する:効果量
8.1.5個々の平均値をさらに比較したい:多重比較
8.2 要因計画
2つ以上の要因を組み合わせる
8.2.1 複数の要因を組み合わせると
8.2.2 2要因分散分析(被験者間計画)の考え方
8.2.3_2要因分散分析(被験者間計画)の計算例
8.2.4 分散分析の後で
8.2.5 1人の被験者を繰り返し測定すると:被験者内計画
8.2.6 1要因被験者内計画の計算例
Research ミューラー・リヤー錯視

第9章 多変量解析
3つ以上の変数の間の関係を分析する
9.1 多変量の分析
3つ以上の変数の関係を理解する
9.1.1 偏相関
9.2 重回帰分析
ある変数を複数の変数から予測・説明する
9.2.1 多変量データと多変量解析
9.2.2 重回帰分析とは
9.2.3重回帰分析の実行
9.2.4 重回帰分析の結果の検討
9.2.5 パス図を描く(図にあらわす)
9.2.6 結果のまとめ
9.2.7 重回帰分析をおこなうにあたって
9.3 因子分析
背後に潜む変数を仮定する
9.3.1 相関係数と因子分析
9.3.2 因子分析の考え方
9.3.3 因子の解釈
9.3.4 因子のもとめかた
引用・参考文献一覧
付表1 標準正規分布表
付表2 t分布表(臨界値)
付表3 2分布表(臨界値)
付表4 マン – ホイットニーのU検定のための表(臨界値)
付表5 F分布表(臨界値)
付表6 テューキー法で用いる女の表(臨界値)

分析のためのフローチャート
Try と練習問題の解答
索引

改訂版 はじめての心理統計法

本書で使う主な記号一覧
第2章
総度数N
総データ数 N

第3章
平均値(算術平均、標本平均) X, M
値の総和 ∑(シグマ)
中央値 Me
最頻値 Mo
標準偏差 SD
分散S
四分位偏差Q
四分位数の範囲 R
調和平均HM
幾何平均GM
標準得点z
偏差値Z

第4章
ピアソンの積率相関係数(相関係数)
決定係数
非決定係数R=1-72
回帰係数6
スピアマンの順位相関係数r,
ケンドールの順位相関係数T(タウ)
連関係数(ファイ係数) (ファイ)
点2系列相関係数(点双列相関係数) )

第5章
総データ数N
母平均(母集団の平均値) (ミュー)
母集団の標準偏差 o (シグマ)
母集団の分散
理論的な標本分布の平均値
標本の大きさ(データ数) n
標準誤差 SEE
平均値の標準誤差
平均値の標本分布の分散o/
不偏分散(不偏推定値) G
不偏分散からもとめた標準偏差 (シグマハット)
正規分布 N(平均 , 分散o)
標準正規分布 N (0,1)
確率 P
|第6章
帰無仮説 H
対立仮説 H
有意水準 a(アルファ)
有意確率(小値))
第一種の過誤の確率 a (アルファ)
第二種の過誤の確率 B(ベータ)
ティー分布、ティー検定 t
自由度 df
効果量(平均値の差) d
母相関係数p(ロー)
カイにじょう分布、カイにじょう検定 x2
観測度数 0
期待度数 E

第8章
平方和SS
平均平方 MS
群内の平均平方MS
誤差の平均平方MS.
テューキーの HSD法(多重比較) HSD
スチューデント化された範囲(多重比較)q
効果量(分散分析)
n(イータにじょう)
エフ分布、エフ検定、分散分析 F

第9章
偏相関
相関係数 1
分散拡大係数VIE
重回帰係数 R

CHAPTER1 統計の勉強をはじめる前に

この章で学ぶこと

心理統計はこころを理解するためのものさし
本章では、はじめて心理学を学ぶ皆さんに、なぜ心理統計法を学ぶ必要があるか、心理統計法のデータにはどのような特徴があり、どのようなデータ処 理の方法があるかを解説します。これから心理統計法を学ぶにあたって、今、 何を問題としているかを理解していただきたいと思います。統計学では集めたデータが数字であっても、「好き」「きらい」ということばであっても、「変 数」とよびます。また「こころ」を測定したデータは、こころを理解するための「ものさし」です。これを「尺度」とよびますが、尺度には4つの種類があります。これらについて1つひとつ説明していきますから、しっかり理解していきましょう。

鵜沼 秀行 (著), 長谷川 桐 (著)
出版社 : 東京図書 (2016/9/1)、出典:出版社HP