通読できてよくわかる 水の科学 (BERET SCIENCE)

【最新水について知る・学ぶおすすめ本】も確認する

身近だけれど、意外と知らない水のことが良くわかる

私たちは水に囲まれて生活しています。本書では、そんな身近な水について改めて「なぜ」という視点で問いかけをしながら、性質や問題点について解説されています。「水」について理解するのにちょうどいいフルカラーの入門書です。

橋本淳司 (著)
出版社 : ベレ出版 (2014/8/22)、出典:出版社HP

はじめに

水はとても身近な存在であり、飲まないと生きていくこ とができません。一方で、あらゆる物質のなかで最も不思 議な性質をもっているといえます。マーティン・チャップ マン博士(ロンドン市バンク大学名誉教授)によると、水の 「常識はずれ」な性質を数えると67もあるといいます。

その1つは、温まりにくく、冷めにくいこと。
私たちの体は60~70%ほどが水で占められています。
私たちは体内を水で満たしているので、極端に熱が上 がったり、下がったりすることなく、生体の機能を維持で きます。

不思議な性質の2つ目は、固体の水のほうが、液体の水 より軽いこと。ほとんどの物質はその逆で、固体のほうが 液体より重いのです。
だから池の表面が凍っても、底には液体の水があります。
もし池の水が底から凍っていったとしたら、魚は死に絶 えてしまったでしょう。

3つ目に、いろいろな物質を溶かします。私たちが生き ているのは、この力のおかげです。食べ物からとった栄養 を血液に乗せて運んだり、不要な物質を尿として排出したりしています。水ほどいろいろな物質を溶かす働きをもつ物質は自然界に他にはありません。

本書では、日常見慣れた現象・出来事を題材に、改めて「な ぜ」という視点を投げかけながら、水の性質をわかりやすくお話ししていきます。
また、水不足、水汚染、気候変動などの水問題や、その 解決方法、水についての最新トピックスも紹介します。
現在、さまざまな科学技術や新しい水政策によって、水問題の解決が図られていますが、そこには大切な視点があります。

1つ目は、水循環という広い視野でとらえることです。 たとえば、水道水は地下水や川を原水としており、その水 は水源の森に降った雨です。また、自分のところへ流れて くる水だけでなく、自分が流している水にも注目すること が大切です。たとえば、生活排水、工業排水、農業排水な どです。このように視野を広げると、真の問題が見えてき たり、問題を解決する選択肢が増えていきます。

2つ目は、水のことといっしょに、食料やエネルギーの ことも考えることです。水問題とは、当たり前ですが、水 そのものに問題があるわけではありません。水問題がなぜ 大きくなったかというと、人間の経済活動が大きくなり過 ぎたことに関係します。いまのままでは、私たちは地球の資源を使い尽くしてしまいます。持続可能な社会をつくるには、水、食料、エネルギーの関係を合わせて考える必要 があります。

こうした視点をもちながら、身近にありながら謎につつ まれている水について知ることで、問題の本質や課題の解 決方法に気づくことができるでしょう。
では、これから不思議で興味深い水の世界へあなたを招 待します。ごゆっくりお楽しみ下さい。

2014年8月
橋本淳司

橋本淳司 (著)
出版社 : ベレ出版 (2014/8/22)、出典:出版社HP

もくじ

はじめに

第1章 水と科学
水は万物の根源なのか?
水が H2Oとわかったのは 19 世紀のこと
固体、液体、気体に変化する
水は固体より液体のときのほうが重い
水は比熱容量が大きい
融解熱、蒸発熱が大きい
融点、沸点が同系列の物質に比べ極端に高い
圧力によって融点、沸点は変わる
一定の条件のもと固体から気体へと変化する
水は多くの物質を溶かす
水は溶かし運ぶ
降り始めの雨には多くの物質が溶けている
表面張力が大きい
共有結合する水分子
水分子同士は水素結合で結ばれる
氷の分子は隙間が多い
原子力に利用される重水
水の粘度は温度が高いほど減少する
液体と気体の性質をあわせもつ超臨界水
0℃以下でも凍らない過冷却現象
ミネラルウォーターは無機物が溶けた水
ミネラルは必須条件ではない
水道水とペットボトル水の製造基準
海はなぜ青く見えるのか?
鉄の船はなぜ水に浮かぶのか?

第2章 地球と水、宇宙の水
地球は表面を水に覆われた惑星
地球型惑星の水の起源
水が存在する可能性のある惑星
わずかな淡水が偏在する
水蒸気が雲になるまで
潮の満ち引きは月の引力によって起きる
地球温暖化が水に与える影響
気候変動によって起こる水不足と災害
ハリケーン・サイクロンが起こるしくみ
地球上からなくなってしまう国
日本でも水没する土地がある
砂漠化によってすめなくなる土地
気候変動の生き物への影響
私たちの暮らしへの影響

第3章 水と人と生態系
水を汲みにいく時代から水を引き寄せる時代へ
エネルギーを使って水を運び、浄化する時代
エネルギーを使って水を生み出す時代
水の管理方法にはどのようなものがあるか
生態系の保全を第1に考えた水管理
陸の水をゆっくり流す
光合成によって生まれる水
豊かな森が水を育む
地下水が減った原因は田んぼが減ったこと
転作田を使った涵養方法
間伐で保水力が上がることもある?
豊かな森は魚を育む
雨水活用で洪水防止を図る

第4章 安全な水と技術
毎日どれくらいの飲み水が必要か
日本人は1日にどれくらいの水を使っているのか
生きていくのに最低限必要な水の量
水をとおして病気が広がる
多くの浄水場で採用される急速ろ過
塩素による水の殺菌
高度浄水処理で東京の水道はおいしくなった
生物の力で水をきれいにする「生物浄化法(緩速ろ過)」
浄水器が水をきれいにするしくみ
浄水器と活水器の違い
硬水を軟水にする
シンガポールの独立を支える生活排水
海水を真水に変える方法
災害に備えて水道水を溜めておく方法
ポリタンクに水を溜める方法
雨水を資源として活用する
大気から水をつくるという新発想
汗を飲料水に変える
ゴミにならない「食べられるボトル」

第5章 水汚染と技術
トイレ、風呂、キッチン、水を汚すものをいちばん流すのはどこか?
海水淡水化の盲点
工業による水汚染
農業で使う化学肥料が水を汚す
農薬中の水を汚す物質
放射能による水汚染
水の汚れをはかる基準
棲息している生き物で水の汚れがわかる
都市の成長と下水処理
黎明期から成長期のまちに必要な下水技術
下水処理の役割
下水汚泥はどのように活用できるか
成熟期に必要な老朽管を管理・再生する技術
トイレがないと水が汚れる
節水トイレの開発に力を入れる日本
水洗式トイレには下水道か浄化槽が必要

第6章 持続的な水利用
食料生産にはどれくらいの水が必要か
日本に輸入される食料生産の水
灌漑によってロスする水
食料自給率の低い国は他国の水に依存している
農業排水を再利用する
鉄1kgをつくるのに必要な水
超純水が半導体生産を支える
深刻な中国の水不足
中国の水不足が与える影響
企業にとっての水リスクとは何か?
水リスクをもつ企業は投資を受けにくくなる
水保全は水利用者の義務
家庭でできる水のレデュース
家庭でできる水のリユース
水とエネルギーのマイナス連鎖を断ち切る

本書の主な参考文献
科学用語さくいん

橋本淳司 (著)
出版社 : ベレ出版 (2014/8/22)、出典:出版社HP