新版 論文の教室 レポートから卒論まで

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大学生のバイブル

論理的に文章を書くためのノウハウを、主人公とともに時系列を辿りながら伝授していきます。また、論文の情報を収集するためのインターネットの活用法についても解説されています。よりよい論文を書けるようになるための文章指南書です。

戸田山 和久 (著)
出版社 : NHK出版 (2012/8/28)、出典:出版社HP

本文イラストカズモトトモミ
ポデザイン宮口瑚
校関大河原晶子

目次

はじめに
Ⅰキミは論文って何かを知っているか
第1章 論文の宿題が出ちゃった!
1-1ヘタ夫くん登場!
1-2とりあえずやるべきは辞書に投資することだ
1-3剽窃とは何か?それはなぜサイテーの行為であるのか

第2章 論文には「問いと主張と論証」が必要だ
2-1論文とはどんな文章か
2-2論文を書くときに絶対に忘れてほしくないこと

第3章 論文にはダンドリも必要だ
3-1論文を書くときに、豪快さんはチトまずい
3-2[ダンドリその1]課題の主旨をよく理解しよう
3-3[ダンドリその2]テーマの見取り図になるような資料を探して読む
3-4[ダンドリその3]問題をデッチあげるために基本資料をもう一度読む
3-5[ダンドリその4]問いをきちんと定式化してみる
3-6[ダンドリその5]問題に取り組むための調査を進める
3-7教員とハサミは使いよう

第4章 論文とは「型にはまった」文章である
4-1まずは模倣からアプローチすべし
4-2論文の構成要素は五つ
4–3アブストラクトとは論文の内容を要約したものである
4-4問題提起・主張・論証―本体では三つのことをやるべし
4-5型に従うことの意味

Ⅱ 論文の種を蒔こう
第5章 論文の種としてのアウトライン
5-1論文は構造化された文章である
5–2論文に構造を与えるためにアウトラインがある
5-3アウトラインは成長し変化する
5-4報告型の課題のためのアウトライン
5-5しかし、そもそもアウトラインをどうやって作るのか
5-6カテゴリーの階層構造

第6章 論証のテクニック
6-1論証って何だ?
6-2よい論証とダメ論証の違い
6-3妥当な論証形式の例
6-4ちょっと弱い論証形式の例①(帰納的論証)
6-5ちょっと弱い論証形式の例②(アブダクション・仮説演繹法・アナロジー)
6-6論証形式を論文に応用する方法

Ⅲ 論文を育てる
第7章「パラグラフ・ライティング」という考え方
7-1パラグラフと段落の違い
7-2パラグラフの内部構造
7-3ダメなパラグラフ
7-4パラグラフの分割
7-5アウトラインが成長してパラグラフになって、パラグラフが成長して

第8章 わかりやすい文章を書くために
8-1わかりやすけりゃいいのか?
8-2文章怪奇大事典
8-3語の選び方

第9章 最後の仕上げ
9-1注を付けるとカッコイイ
9-2引用の方法
9-3最高に面倒くさいのは参考文献
9-4内容がイマイチならせめて体裁だけでもキレイにしてね
9-5最後にもう一度だけ読んでよ

ここまでましになったヘタ夫の論文
練習問題の解答
巻末豪華五大付録
A論文提出直前のチェックリスト
B論文完成までのフローチャート
Cここだけのインサイダー情報:論文の評価基準
D「禁句集」―作文ヘタ夫くんの使いがちな表現トップテン+α
Eおすすめの図書など

あとがき
*本書掲載のURLは二〇一四年十一月現在のものです。

戸田山 和久 (著)
出版社 : NHK出版 (2012/8/28)、出典:出版社HP

はじめに

本書の独自性とねらい

世の中には数えきれないほどの「論文の書き方本」がある。そうした類書と本書の最も大きな違いはつぎの点にある。それは、これら無数の類書の中で、この本だけが私によって書かれたということだ。この違いは読者のみなさんにはどうでもいいことかもしれないが、私にとってはとても重要である。なぜなら、売れゆきが私の経済状態にかかわりをもつのは本書だけだから。

というわけで、私はなるべく多くの方々に読んでいただきたいと念じつつ本書を執筆した。もっとストレートに表現するならば、売らんかなの精神で書いた。……さて、本を売るにはどうしたらよいだろう。タイトルを『ハリー・ポッターと魔の論文指導』にして、腰巻きに「ワーナー・ブラザース映画化決定!」と印刷してもらえばよいのではないかという名案も浮かんだ。そうすれば、間違って買う人だけでも相当の数に及ぶのではないか。しかし、この計画はNHK出版の賛同を得ることができなかったので頓挫した。

第二のアイディアはマーケティングの正攻法だ。それは、ターゲットを圧倒的多数派に定めることに尽きる。ところで、圧倒的多数派とはどのような人たちか。それは、「論文が書けない人」だ。大学で教えていると、このことはつくづく実感する。こうして、本書のターゲットは絞られた。
ようするに、本書は、つぎのような人たちのためのものだ。「大学(高校でもいい)に入学したら、授業で論文の宿題が出ちゃった。それも四〇〇字詰めで一〇枚も。ツライナ~。書かないと単位を落としちゃうから、どうしても書かなくちゃ。でも、どうやって書いたらいいのかわからないよ。だって、これまで論文なんて書いたことないし、書き方を教わったこともないんだもん」という人。つまり、文章を書くことがとくに好きではなく、むしろ苦手な学生。つまり、いま本書を手にとっているキミだ。
キミの気持ちはよくわかる。私は大学で教えながら、科学哲学を研究している。「学者の端くれ」と言ってもいい。カッコよく言うと、フィロソファー=「知を愛する者」だ。でも、白状すると、私は論文を書くのが大嫌いだ。他人の本や論文を読んだり、議論をしたり、研究をしたり、人前で発表したりするのは本当に楽しい。この道を選んでよかったと心から思う。こんなふうに、研究することじたいは好きな私だけれども、さてその成果を論文にまとめましょうという段になると、途端に気分が暗くなる。なぜ、石油王やべルリン・フィル首席指揮者の道を選ばなかったのか悔やまれるほどだ。しかし、論文を書かないと学問の世界で生きていけないから、仕方なしに書く。つまり、知を愛しているだけじゃダメだよと言われるので、愛の燃えかすを活字にして暮らしているというわけだ。

とはいうものの、どんなにいやなことでも続けていれば少しは上達するのがふつうの人間だ。私じしん、風呂のカビ落としも、燃えないゴミの分別もだいぶうまくなった。というわけで、論文書きを日常業務の一つとしている不肖ワタクシが、初心者のキミたちに、偉そうに論文作成のノウハウを講釈しちゃおうというのがこの本だ。本書をまじめに読めば、論文が書けなくて立ち往生しているキミはなんとか論文が書けるところまでいく。なんとか書けて「C」の成績をもらえるキミは、もうちょっとましなものを書いて「B」か「A」をゲットできるようになる。……もし、そうならなかったら、評価しているキミのセンセイの頭がそうとういかれている恐れがあるので、そんな学校はすぐにやめてしまった方がいい。

読者のみなさんには本書を最後まで読み通してもらいたい。そのために私は、できるかぎり読みものとしても楽しい本になるように心がけた。これが、本書の第二の独自性と関係する。本書を書くために私は類書を片っ端から買って読んでみた。しかし、最後まで読み通せたものはまったくない。だってさうでせう。ひどくつまらないんですもの。唯一の例外が本書である。本書は私が最後まで読み通すことのできた唯一の「論文の書き方本」である。何度も読み通すことができたばかりか、書き通すことすらできてしまった。……ああ、書棚に戻さないで。これからまじめになるところですから。

本書が扱う「論文」の範囲

本書が対象にしている「論文」というのは、だいたいつぎのようなタイプの文章だ。

(1)大学(高校)の講義で、中間試験や期末試験の代わりに課される、自分でちょっと調べて考えて書いてねというような小論文。これはよく、「レポート」と呼ばれる。私が学生のころは、試験問題を作るのが面倒な教員(ということはほとんどすべての教員)は、「じゃ、単位ほしい人はレポート書いて。書けばOKだから」と言うのがふつうだった。でも、これは昔の大学の話。いまでは、レポートはきちんと採点・評価して、コメントをつけて返しましょう、というのが正しい大学教員のあり方になってきている。ということは、学生もそれなりのものを書かないとヤバクなってきたということだ。お互い、たいへんですなあ。

(2)大学(高校)の演習・セミナーで、一年間のまとめとして、自分の行った調査や研究に基づいて書く、もうちょいハードな小論文。最近は、よせばいいのに、こういう論文を書かせて学年末に学生の論文集を発行するというような授業も流行している。

(3)大学に四年間在籍して勉強したことの総決算として書く、いわゆる卒論。……とはいうものの、これは建前のことが多い。たいていの学生は、四年の夏休み明けまで何もせず、秋風が吹くと急に焦りだす。

この三つに共通しているのは、問いに対して明確な答えを主張し、その主張を論証するための文章である、ということだ。つまり、論理的に書かなきゃいけない文章だ。文系の学生なら、きっとるまでは書かねばならないし、理系の学生も、四年間の大学生活のうちに、いまではまず確実に書くことになるはずだ。理系だからといって、実験レポートだけ書いていればいいというわけにはいかないのだねえ。これは、自分も途中まで理科系学生だった私が言うんだから間違いない。なんでそうなるのかと言うと、ちょっとした論文を書けることは、文系・理系を問わず、現代社会人の基本的な教養の一部であると考えられているからだ。つくづく現代はヘンテコな時代だと思う。ちょっと昔までは、だれもが字を書けることじたい信じられないことだったのに、「論理的に文章を書け」だなんて……。こんな世の中に生まれちゃったために、論文をスイスイ書けるかどうかは、キミたちが楽しい学園生活を送れるかどうか、それどころかヘタすると卒業後のキミたちのサバイバルにもかかわってしまう。……うう、なんだかだんだん脅迫じみてきたぞ。

というわけで、本書の対象は基本的には大学生とちょっと背伸びをした高校生だけれど、どういう因果か、何かを論じ人を論理的に説得する文章を書く羽目になった社会人の方や、入学試験や編入試験の受験生にも応用してもらえるようになっている。

本書の構成と利用法

本書は、三つのパートと付録からなっている。第1部では、論文とはどういう文章で、どういうことに気をつけるべきかを述べた。言ってみれば「理論篇」だ。「実践篇」の前半に当たる第1部では、論文の原型となるアウトラインをどのように作っていけばよいかを述べた。そして、第皿部ではそのアウトラインを発展させてそれなりの論文を仕上げるまでのプロセスについて解説した。付録には、論文を書くにあたって役に立ついろいろな情報を収めた。
本書の基本的な主張は、論文はアウトラインを膨らませて書くものだということと、論文の命は論証にあるということだ。このため、アウトラインの作り方と論証のやり方に多くのページをさくことにした。これも本書の特徴になっている。
三つのパートを貫いているのが、作文の苦手な大学新入生がなんとか読むに耐える学期末論文を仕上げるまでの感動的なストーリーだ。私もこのストーリーを書きながら、主人公とともに怒り、絶望し、泣き、叫び、笑った。読者のみなさんにも、このストーリーをたどり、練習問題を解くことを通じて、論文書きを疑似体験していただきたい。
小説の世界にも、このように主人公の成長を追体験するものがあって、「教養小説(ビルドゥングス・ロマン)」と呼ばれている。たとえば、ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスター』などがその代表だ。本書の執筆を機に、私は「論文書き方界のゲーテ」と呼ばれることだろう。

戸田山 和久 (著)
出版社 : NHK出版 (2012/8/28)、出典:出版社HP