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コロナ時代を生き残る
新型コロナウイルスによるパンデミックで、世界経済は生産と消費を大幅に抑制しなければならなくなりました。この苦難をきっかけとして、新たな会社のかたちやあり方を創造し、成長機会を掴み取るためにはどのようなことをすればいいのでしょうか。本書は、コロナの時代を生き残り、成長するために必要な経営的エッセンスを紹介しています。
目次
はじめに 破壊的危機に、どう対処すべきか
第1章 L→ G → F_経済は3段階で重篤化する
Lの第一波/Gの第二波/Fの第三波/今回は中国頼みの回復に大きくは期待できない/要注意・ダメージが長引くリスクがあるのはGとF、そして外需依存型のL
第2章 企業が、個人が、政府が生き残る鍵はこれだ
新時代の幕開けに世界的リスクイベントあり/誰が生き残る確率が高かったのか?/日本の金融危機とリーマンショックの歴史が示唆する学びとは/修羅場の経営の心得/修羅場の「べからず」集/悲観的・合理的な準備、楽観的・情熱的な実行/個人として身構えておくべきこと/政策的課題として想定しておくべきこと/緊急経済対策、守るべきは「財産もなく収入もない人々」と「システムとしての経済」/政策対応の撤収タイミングとメリハリが重要/危機の経営、再生のプロが減少している日本のリスク
第3章 危機で会社の「基礎疾患」があらわに
約10年おきに「100年に一度の危機」が起きる時代/大企業の基礎疾患の核心とは、「古い日本的経営」病/中堅・中小企業の代表的な基礎疾患は「封建的経営」病/今までの危機対応のショックが残した生活習慣病回帰、ゾンビ事業延命の罠にはまるな
第4章 ポストコロナショックを見すえて
Lの世界、Gの世界の両方に構造改革の好機が到来/真の淘汰と選択は危機時に始まる。ベンチャービジネスも同様/DXは加速する、そして破壊的イノベーションも加速する/モノからコトへの流れは加速する/GからLへ流れは変わる、LDXを起動せよ/株式会社、市場経済、資本主義の基詞も変わる/さらば「DXごっこ」/CXこそがDXへの本質的な解/TAはCXの大チャンス
おわりに 日はまた昇る、今は200%経営の時
はじめに 破壊的危機に、どう対処すべきか
コロナショックがやって来た。新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)で、少なくとも数カ月、場合によっては年単位で世界経済は生産と消費の両方を大幅に抑制せざるをえない情勢である。もちろん我が国の経済も。まさに破壊的な危機が私たちの生命と経済の両方に対して襲いかかっているのだ。
ここでシステムとしての経済が不可逆的なダメージを受けてしまうと、私たちの社会はパンデミックを克服した後に、今度は経済的な苦境に長期にわたって陥ることになる。産学官金が力を合わせウイルスとの闘いと並行して、産業崩壊、金融崩壊、雇用崩壊、経済崩壊の危機との戦いにも勝ち抜かなければならない。今回の危機はその広さと深さと長さにおいて、リーマンショックといった今までの危機を上回る破壊性を持っている。
新型コロナウイルスとの闘いはグローバルスケールで長期戦の様相である。他のウイルス性疾患のパンデミックと同様、一定程度の集団免疫の形成とワクチンや抗ウイルス剤の開発と普及で爆発的な感染と重症化をコントロールできる状況になるまでは落ち着かないであろう。要は数週間でかたのつく話ではないということだ。
言うまでもなく、それまで人々の経済活動は生産サイド、消費サイドの両面で著しい制約を受け続ける。特に消費の消滅は企業の存続に直結する激しいインパクトを持つ。企業にとってキャッシュ流入の大半は売り上げによるものであり、それが消えるとあっという間にお金がなくなる、すなわち人間でいえば重度の失血状態になり、ここでキャッシュショートすれば直ちに「死」に至る危機に直面する。
この過酷な現実は企業の大小、業種を問わない。リーマンショックの時、米国において、巨額の販売金融債権(と供務)を抱えている自動車産業の需要が消え、世界最大級の企業であるGMやクライスラーがたちまち倒産した。経営基盤が極めて強固なトヨタでさえ北米で資金枯渇の危機に遭遇し、急遽、奥田碩相談役(当時)が自ら動き、JBIC(国際 協力銀行)の協力を得て巨額の資金を米国に送金している。
同じ頃に日本では、国際線中心で、もともと高固定費体質に喘いでいたJALが需要の急減に直面し、やはり倒産に追い込まれた。2009年9月、私は故高木新二郎弁護士とともにJAL再生タスクフォースのリーダーとして弊社(IG PI)のプロフェッショナルたちとともに危機的状況に対峙したが、資金減少の度合いは凄まじく、月単位で最大800億円、毎日数十億円の現金が流出し、金融機関への元利支払いを止めてもあと一カ月余りでまったく資金が枯渇して給料も燃料代も払えなくなり、全面運航停止となり、かつてパンアメリカン航空が陥ったようにそのまま破産消滅する寸前まで追い込まれていた。
実際、今回のコロナショックでも、JALに代わってわが国の国際線のトップエアラインになったANAが、月間10 00億円レベルの現金流出にさらされ、日本政策投資銀行から急遽3000億円を借り入れるというニュースが先日、流れていた。
欧米の首脳はパンデミックとの戦いを既に「戦争(War)」(短期で終わる「戦闘(Battle)」ではない)と呼んでいるが、経済的にも戦時に入っていく可能性が高いのだ。そうなると企業経営における最大の課題はまず何よりもこの「戦争」を生き残ること、まさにサバイバル経営の時代に入るのである。
私がCEOをつとめる経営共創基盤(IGPI)は、わが国最強の企業再生プロフェッショナル集団であり、危機の時代のリアル経営における精鋭200名で構成されるプロフェッショナルファームと自負している。
約20年前の我が国の金融危機、そして約10年前のリーマンショック(世界金融危機)、東日本大震災と原発事故に続き、今再びコロナショックによる危機の時代。私を含む設立メンバーの出身母体である産業再生機構時代、そしてIGPIになってからの3年間を通じて、名前を出せる案件だけでも三井鉱山、カネボウ、ダイエー、ミサワホーム、地方バス会社群、日光鬼怒川の旅館群、JAL、東京電力、新日本工機、商工中金……私たちは数々の、そして多種多様な修羅場をくぐって来た。
ある時は、アドバイザー、公的なタスクフォースや委員会のメンバーとして。ある時は、ハンズオン(参画)型で送り込まれた経営者、取締役、経営スタッフとして。またある時は、自ら対象企業を買収して経営し、さらにはその企業群の一部が大津波被害と原発事故に直接対峙することで。そこでIGPIのプロフェッショナルたちは、危機の時代における経営のリアルに直面し生き抜き、その後の再成長への転換点とする要諦を体得してきた。
今回のコロナショックは、その広さと深さと長さにおいて、過去の危機を上回る破壊性を持っている。その一方で、繰り返されてきた危機の底流においては、グローバル化とデジタル革命による破壊的イノベーション、産業アーキテクチャー(構造)の大転換も進行している。そこでは大きな産業やビジネスモデルが数年で消滅するような破壊的変化も起きている。イベント的な危機が発生しているときも、産業アーキテクチャーの転換が進行しているときも、いずれにせよ「破壊の時代」を私たちは生きているのである。
じつは今回のコロナショックが起きる直前から、私は、コーポレートトランスフォーメーション(CX)こそが、日本企業生き残りの今年最大のキーワードとなると確信していた。CXとは、破壊的イノベーションによる産業アーキテクチャーの転換が続く時代に、日本企業が会社の基本的な形、まさに自らのコーポレートアーキテクチャーを転換し、組織能力を根こそぎ変換することを意味する。
しかし、現実のCXを仕掛けるときに、じつは最初の難関となるのが「始動」だ。部分的にデジタルトランスフォーメーション(DX)を取り入れて業務改革を行うような話ならともかく、産業や事業が消えてしまうような劇的環境変化に対し、持続的に対応できる企業に進化することは、企業の根源的な組織能力の進化、多様化、高度化が求められる。そこに手をつけることは非常に大きなストレスを伴う、時間のかかる改革の始動になる。組織も人間も習慣の生き物である。何か大きなきっかけ、強烈な体験に遭遇しないと、本質的な改革を始動するのは難しい。
そこにコロナショックが突然襲来した。危機の経営の第一のメルクマール(指標)はなんと言っても生き残りである。同時により良く生き残る、すなわち危機が去った後に誰よりも早く反転攻勢に転じ、CXによる持続的成長を連鎖的に敢行できるように生き残ることである。過去、危機の局面をその後の持続的成長につなぐことに成功した企業は、危機の克服や事業再生、すなわちTA(Turn Around)モードを引き金としてCX(Corporate Transformation)を展開した企業である。
コロナショックという破壊的危機の時代を生き残る修羅場の経営術を、喫緊に共有するべきであるとの使命感から、私は、本書(TA編)を約一週間で書き上げ、緊急出版することにした。なお、続編(CX編)も追って刊行される(2020年6月予定)。著者という形を取ってはいるが、本書は最強のマネジメントプロフェッショナルファームを代表して、約3年にわたり「破壊的危機」と「破壊的イノベーション」の時代を戦ってきた約200名のプロフェッショナルたちの経験、方法論、ノウハウを凝縮して公開するものである。
昭和の後半の30年間、日本の経済と企業は戦後復興から高度成長を走り抜け、国内的にはバブル経済のピーク、国際的にはジャパン・アズ・ナンバーワンへと駆け上がった。ところが、次の平成の約10年間は、バブル崩壊と日本経済の長期不振、そして売り上げ成長、収益力、時価総額のあらゆる面で、日本企業の存在感が失われた時代となった。この間、中国など新興国企業の勃興もあったが、同じ先進国である米国や欧州の企業との差も大きく広がっている。
繁栄の30年、停滞の30年。そして年号が令和に代わり、まさに新たな30年が始まるタイミングで日本はコロナショックに対峙したのである。この苦難を乗り越え、かつ経済危機で色々なものが壊れるなかで、それをきっかけとして、新たな会社のかたち、あり方を創造できるか。より柔軟でしなやかな多様性に富み、新陳代謝の高い組織体、企業体に大変容、トランスフォーメーションできるか。日本企業は再び、試されている。
危機はチャンスである。本書で紹介する経営的エッセンスを活用してもらい、今度こそ、大中小の規模を問わず多くの日本企業がこの危機を乗り越え、かつその後の抜本的な改革と成長機会を掴み取ることを切望している。
2020年 4月15日
冨山和彦