数学の力 高校数学で読みとくリーマン予想

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高校数学からリーマン予想を紐解く

数学とは、国境を越えて存在する純粋な学問です。教育現場では重要視され、多くの人の将来の方向付けに大きな影響を与えています。本書は、「数学の持つ特別な魅力は何なのだろうか」という謎を解明するために様々な角度から数学の魅力を伝えていきます。その中でも、数学史上最大の未解決問題であるリーマン予想についてを詳しく解説していきます。

小山 信也 (著)
出版社 : 日経サイエンス (2020/7/23)、出典:出版社HP

まえがき

数学には特別な力がある.数学は理工学の基礎であり現代社会を支えているとか,数学の応用によって最先端のテクノロジーが実現しているとか,そんな意味ではない.

人生において,数学という営みが人の生き方に及ぼす影響力,数学と人の精神とのかかわりの深さ,そうした観点で見たとき,数学のもつ特殊な魅力を認めざるを得ないということである.そんな事例は,数多く存在する.

四十代半ばで会社を辞め,脱サラ後の第二の人生を,数学専攻の大学院生として歩む者がいる.それはまるで,都会の喧騒を逃れ田舎に移住し農業に従事するセカンドライフにも似ている.そんな人々にとって,数学とは,大自然のようなものかもしれない.

あるいは,不登校で引きこもりだった高校生が,数学書に没頭して生きがいを見出し,独学で天才的な研究業績を上げる例もある.また逆に,数学の問題にのめり込んで他の一切に手が付かなくなり,進学や就職の機会も失い,途方に暮れる人生を送る者もいる.彼らにとって,数学とは,麻薬やギャンブルにも似た中毒性のあるものかもしれない.仮にそこまで極端なケースでなくても,定年後の趣味として緩やかに数学を楽しむ人は多いし,余暇に数学を学ぶ大人のための数学塾も盛況である.

こういう事例は,他の理工系の学問,たとえば電気工学や機械工学などでは見られないし,法学・経済学・社会学など文科系の分野でもなかなかないだろう.

しいて似た例を探すとすれば,文学や音楽などの芸術系の営みに,共通点があるかもしれない,趣味とする人々がいる一方,プロを目指しそれに没入して人生を棒に振る人々が少なからず,それも国境を越えて世界の至るところに存在する点など,確かに似ている.そういう意味ではスポーツとも共通点がある.数学者として身を立てることは,プロのスポーツ選手になるくらいに厳しい道のりであり,狭き門であるという見方もできる.

芸術やスポーツの世界で日本人の若者が世界的に活躍してニュースになると,テレビなどマスコミがその人の生い立ちから世界デビューまでの道のりを紹介することがある.かつて,私の妻がそうした報道を見て「数学者が世に出る経緯にそっくりね」と言ったことがある.確かに,無名時代の苦労から,収入に結びつかない努力をしながらの下積み,そして,海外に単身で乗り込み世界の最先端を学び,業績を上げて帰国した後は,世の中から手のひらを返したように評価される様は,少なからず共通している.

実際,海外生活の中身にも共通点は多い.もし,仕事の内容を見ずに生活スタイルや人とのかかわり方だけを追えば,数学者の暮らしぶりは,芸術家やスポーツ選手と区別がつかないだろう.

しかし,数学は決して,美術でも音楽でもスポーツでもない.純粋な学問,それも理系の基礎をなし歴史と伝統の最たる学問である.そのうえ,中学高校の教育では主役を張り,大学入試でも重視され,たくさんの人々の生涯の方向付けに大きな役割を演じている.こんな学問は他にないだろう,なぜ,数学にはこんな力があるのだろう.数学がもつ特別な魅力とは,いったい何なのだろう.

本書は,その謎を解明するための試みの一つである.攻略は,決して容易ではなく,そもそも一言で答えが述べられるようなものではないだろうが,本書では,いろいろな角度から例を挙げて数学の魅力を伝えてみたい.

そして,その中でも究極の題材が,数学史上最大の未解決問題であるリーマン予想である.本書は,リーマン予想がどんな問題なのか,高校数学を前提として解説する.それによって,数学の魅力の一端を伝えていければと思っている.なお,高校数学に属さない事項を補うため,巻末に付録を付けて解説した.本文だけを通読して一通りの理解ができるように努めたが,数学的な厳密さが気になる読者は,付録を使って勉強できるようになっている.

奥深い数学の世界を,本書を通じて一緒に探求して頂ければ幸いである.

著者

小山 信也 (著)
出版社 : 日経サイエンス (2020/7/23)、出典:出版社HP

数学の力
高校数学で読みとくリーマン予想
目次

まえがき

第1章 数学の力とは
1.1 数学研究とは~簡単な例を通して
1.2 素数が無数に存在すること
1.3 第一の力
1.4 何がうれしいか
1.5 第二の力
1.6 足し算と掛け算
1.7 ABC予想
1.8 平方数の和となる素数
1.9 バーゼル問題

第2章 リーマン予想と素数
2.1 ユークリッドからオイラーへ
2.2 大きな無限大
2.3 素数の逆数の和
2.4 ゼータ関数
2.5 複素平面
2.6 解析接続
2.7 関数等式
2.8 複素積分
2.9 素数定理
2.10 リーマン予想と素数

第3章 深リーマン予想
3.1 平方数の和となる素数(再考)
3.2 深リーマン予想とは
3.3 オイラー積の収束とは
3.4 深リーマン予想と素数
3.5 ディリクレ指標
3.6 算術級数定理
3.7 数値計算による検証
(A) L(s,x3)
(B) L(s,x4)
(C) L(s,x5a)
(D) L(s,x5b)
(E) L(s,x6)
(F) L(s,x7a)
(G) L(s,x7b)
(H) L(s,x7c)
(I) L(s,x8a)
(J) L(s,x8b)

付録A 環論と合同式
A.1 環論の基礎
A.2 合同式の解法
付録B テイラー展開
B.1 基本的な考え方
B.2 収束半径
B.3 テイラーの定理
付録C アーベルの総和法
C.1 基本的な考え方
C.2 部分和の公式
C.3 応用例

あとがき
索引

小山 信也 (著)
出版社 : 日経サイエンス (2020/7/23)、出典:出版社HP