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ビジネス・コーチングの問題点を改良していく
ビジネス・コーチングとは、効果的なコミュニケーション技術によって、メンバーの能力と自発性を引き出し、組織目標の達成と、個人の自己実現をサポートすることです。本書では、専門家の視点からビジネス・コーチングで起こりがちな問題を挙げ、効果的に運用されるように解決策を示しています。ビジネス・コーチングに取り組んでいる人、取り組もうとしている人におすすめです。
はじめに
なぜコーチングがうまくいかないのか
以前、「カウンセリング研修」がブームになったとき、うなずきながら、わざとらしく「なるほどねえ」と連発する管理職が増えたことがあります。
俗称「うなずき魔」です。
それが今はコーチング・ブームによって「それで、あなたはどう思う?」と口先だけで質問を繰り返す「質問魔」が増えています
実際、私たちが研修などを担当している多くの現場から、
「最近どうも上司のコミュニケーションのしかたに何か違和感がある……」
「話し終わると、嫌な感じが残るんです……」
という部下たちのフィードバックが聞かれます。
そして「それはいつごろからですか」と聞いてみると「どうも上司がコーチング研修を受けてきた後くらいかららしい」という笑えない話を少なからず耳にします。
でも、きっとその上司の「やっていること」は間違っていないのだと思います。「コーチング研修で習ったとおりにやっている」はずです。
でも何かが違う。
「それは一体何なのか? どうすれば解決できるのか?」
これが本書のテーマです。本書では、松下が主にEQの専門家の視点から、そして上村が主にビジネス・コーチングの専門家の視点から、机上の理論ではなく、あくまで現場で実践することを主眼に、この状況を打開する方途を述べています。
そもそも「コーチングが単なるテクニックやスキルとして扱われているのではないか」という危惧が、今回の企画の発端としてありました。
そして、「そのことへの警鐘を鳴らす」ことが本書の意図でもあります。
これから述べていくことは「コーチングは人を動かす小手先のテクニックではないし、小手先のテクニックでは人は動いたり変わったりするものではない」ということです。
ですから、本書はどちらかと言えば「問題提起の書」ということになるでしょう。次から次へと問題点が綴られていて、途中で嫌になる人もいるかもしれません。
しかし、嫌だからという理由で「問題直視」をしないわけにはいかないのではないでしょうか。
著者たち自身もコーチングの普及に一役買った張本人でもあります。見て見ぬふりなど決してできません。
今、日本のビジネス・コーチングは第一期を経て、第二期にさしかかろうとしています。第一の段階が「コーチングの広報・啓蒙期間」。そしてこの第二の段階が「運用・改良・定着期間」です。この第二段階というものをしっかり根づかせるためにも、今ここで「現実直視」をすることが大切だと考えます。
私たちは、本書を、ビジネス・コーチングに真剣に取り組んでいる人、取り組もうとしている人がお読みくださることを願って書きました。
そうした方々はこの問題提起に対して、きっとそれぞれの立場でご自分やご自分の組織に置き換えて真剣に考えて、行動してくださることでしょう。
そして、その方々の力によって、日本のコーチングは新しい局面に突入していくのだと思います。
本書を読んでくださった方々とともに、ビジネス・コーチングの新たなステージに向かえることを楽しみにしています。
なぜなら「いつだって問題の中に、答えはある」のですから。
二〇〇四年十二月
上村光典
松下信武
※用語について:コーチングを受ける人の呼び名はコーチイ、クライアント、プレイヤーなどさまざまです。本書では、前後の関係から、「部下」と「クライアント」の二つを使い分けています。ご理解が難しいときは、「コーチングを受ける人」と呼びかえていただければ、意味はおわかりいただけると思います。
Contents
はじめに――なぜコーチングがうまくいかないのか
Part1 ビジネス・コーチングの基本ポイント
ビジネス・パーソンの能力を高めるビジネス・コーチング
ビジネスにコーチングが不可欠な理由
組織の目標達成を通して自己実現をする
ティーチングとはどこが違うか
コーチングの三段構造
コーチング上達の基本サイクル
思考と感情に目を向けること
コラム ラグビーのコーチとビジネスのコーチ
Part2 信頼感を築くEQコーチング
相手の信頼を獲得すればコーチングは機能する
コーチングに生きる「EQ」四つの働き
EQの高いコーチとは
EQの低いコーチとは
EQを働かせ信頼を獲得する
好意をもって接すれば擬似的信頼が生まれる
明るくいきいきした表情をつくれば擬似的信頼が生まれる
プロであることが理解されれば擬似的信頼が生まれる
お互いが約束を守り本物の信頼関係をつくる
ポジティブな感情をもち続け本物の信頼関係をつくる
コラム 『ロード・オブ・ザ・リング』に見るコーチング
Par 3 EQコーチングを実践する
[EOからのアプローチ]
自分の感情を正直に受け入れる
行き詰ったときは開放的な感情をつくる
感情への影響を考慮しながら言葉を使う
相手をサポートし続けるための感情をつくり続ける
コーチングが好きという感情をもち続ける
とにかくコーチはリラックスする
感情を調整し集中して聴く
自分の能力を信じる前向きな感情をもつ
自分のおそれに目を向け冷静な感情を維持する
悪の感情に目を向け真摯にコーチングを行う
性善説に立ってコーチングを行う
相手の可能性を本気で信じているか
まずは自分の可能性を信じる
「動かそう」とすると信頼を失う
コーチとクライアントは対等である
コーチが聴かないから相手が話さない
うまくいかない原因が自分にあると考えてみる
コーチの感情は必ず相手に伝わっている
相手を大切に思う気持ちから傾聴・質問が生まれる
とにかく興味・関心・好奇心をもつ
「as if~」の視点をもつ
つらくても相手の本音を聴く
話を聴かないことは最大の侮辱
答えを先にもって聞いてはいけない
一方通行ではなく共につくり上げる関係を築く
「間違い」ではなく「違う」だけであることを理解する
問題の解決に役立つ感情の使い方をする
相手の素晴らしさを感じて承認をする
重要だと感じればコーチングの時間は生まれる
相手への感謝の気持ちをもつ
相手への尊敬の念をもつ
信頼を回復するには誠実に謝罪をする
オープンな関係が信頼を生む
ゴールを明確にする
数字に意味をもたせれば目標になる
組織の目標とメンバーの目標とに関連性をもたせる
コーチの「やり方」ではなく「あり方」が大事
「理想の自分」から「現実の自分」を見ることから始める
スキルではなくパラダイムを大切にする
コラム 最高のコーチ
Part4 組織にEQコーチングを導入する
[EOからのアプローチ]
EQの高い組織をつくる
組織の人間関係を築く
組織のコミュニケーションの質を高める
リーダーのEQを高める
EQコーチを育成する
ゴール・ビジョンを具体的に設定する
リーダーシップのある推進者を選ぶ
プロジェクト・チームへのサポートをする
研修者を継続的にフォローする
満足度だけではない成果を測定する
社内コーチの意欲を大切にする
研修が目的ではないことを確認する
すべてコーチ任せにしない
「見えないもの」こそ大切にする
コラム 環境と「思考・行動・感情」
Part5 信頼感を生むマネジメント
株式会社パソナグループ
代表取締役グループ代表南部靖之代表に聞く
おわりに