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EQ能力を鍛える
EQは、IQと対比される言葉で、「感情をうまく管理し、理解できる能力」「こころの知能指数」のことです。本書では、今求められるEQスキルを紹介し、その鍛え方について詳しく解説しています。EQについて知っている人もそうでない人も改めて読んで欲しい一冊です。
はじめに
「EQは、遺伝などの先天的な要素が少なく、教育や学習を通して高める(伸ばす)ことができる」(EQ理論提唱者ピーター・サロペイ、ジョン・メイヤー、1990年)
EQ理論の一節です。「EQの能力は高めることができる」。これは、私にとって衝撃的な出会いでした。1997年の彼らの初来日から20数年を経て、EQが開発可能な能力であることを日本で証明し、そのトレーニング方法をここに紹介できることをとても嬉しく思います。
ITの進化、AIの普及で社会は大きく変化し、会社を取り巻く環境も、働き方改革や健康経営はもとより、最近では世界レベルでESG経営(環境・社会・企業統治)への取り組みが求められています。その解決にEQは不可欠であり、世界ではますますEQに注目が集まっています。
日本においても、多くの企業でEQの導入が進み、EQを理解するレベルから、いかにEQを活用して課題を解決するか、そのためにEQをいかに開発するかという方向に向かっています。EQは学ぶ時代から実践のステージへと確実に変化しました。本書では、「いつでも、どこでも誰でもできるEQ開発方法が知りたい」というニーズにお答えするために、今日からできるEQトレーニングをご紹介しています。
しかしながら、本を読んで「なるほど」と学び、「やってみよう」と前向きな気持ちをつくっても、いざ「実行」となると大きなエネルギーが必要となります。
そこで、EQトレーニングの開始前、開始後の能力変化を確認するためのウェア診断テストを用意しました(無料)。5分程度の受検で、その場で結果も確認できます。EQトレーニング終了後(約2カ月後)、再度受検いただき、初回と2回目の診断結果を重ねた遷移チャートで開発の効果がすぐに確認できます。
「EQは人生の質を変える」
私たちは日々感情とともにあります。日々の感情をうまく使うこと(=EQ)は、心と体の健康に影響を与え、よりよい社会生活に寄与します。その日々の積み重ねが人生とすれば、EQは人生の質を変えるといっても過言ではありません。
本書を通してEQを高め、より良い人生の道標としてEQとともに充実した日々をお送りくださいませ。
2020年1月
高山 直
EQトレーニング 目次
第1章 ビジネスで求められるEQスキル
1 「2020年に必要なビジネススキル」トップ10にEQ
世界で根源的な陸力として認知されているEQ
EQ的色彩の強いビジネススキル
2016年のテーマは第四次産業革命
混乱を乗り越えるために必要な4つの知性を支えるEQ
2 ジャック・マーの信念
「大事なのは、あなた自身をどう変えていくかなのです」
変化を待ち伏せ、変化に適応する
3 「心理的安全性」の高い組織が成功する時代
知能(IQ)と性格によって成功の再現を競った20世紀
21世紀の組織では共感や心理的安全性が重要
高EQ組織は「こころを開いて喧嘩する(Open heart Battle)」
「Open heart Battle」ができる蹴場づくりに有効なEQ
Googleが発見した「心理的安全性」
生産性の秘密を採る「プロジェクト・アリストテレス」
第2章 EQの発展と今
1 EQが高い人がIQの高い人より成功している
ビジネスを成功に導く研究から発見されたEQ
人間と動物の感情表現を研究したダーウィン
失敗の原因は感情(怒り)にある
EIからEQにわった名称
EQブームと現在
2 EQ理論の4ブランチ
EQの定義は「感情をうまく使う能力」
EQ能力を構成する4つのプランチ
3 教育界が注目する「非認知能力」とEQ
非認知能力はEQと類似の概念
子どもは1日に400回笑うが、大人は15回
基礎的読解力の低下とEQ
PISA2018でも日本の子どもの読解力低下が報告されている
EQによって読解力を高める
感情回路を麻痺させている大人
4 健康経営・働き方改革とEQ
課題解決にEQを活用する
生産性向上とEQ
メンタルヘルス不調の原因は、職場の人間関係
日常を見ることで部下の状態を把理する
メンタルヘルス不調のサインを見抜く「教科書」と「ドリル」
Al with EQ
糖尿病の予防と改善× EQ
第3章 感情とは何か
1 喜怒哀楽だけではない感情
自覚することの少ない「感情」
感情は無視できるが、わたしたちの中に必ず存続する
感情×EQは人生の質を決める
性格と感情は違う
感情にフタをしない
感情は情報を持ってやってくる
感情と合理性
感情のプラスとマイナスを行き来するEQ能力
感情と理性
生存の危機に生まれる感情
感情と思考(IQ)を統合するEQ
感情と記憶
悲しみは120時間持続し、嫌悪や羞恥は30分で消える
災厄がもたらす深い喪失感の先に希望がある
2 感情にはルールがある
感情のルール
情動の円環モデル
「攻撃心」は「怒り」と「期待」の混合感情
「怒り」に「嫌悪」が混合するとパワハラになる
心理の移行曲線「人はすぐにはやる気にならない」
やる気になるために必要なネガティブな感情
営業でも有効な心理の移行曲線
死の5段階受容
3 自分理解と他者理解
自分の気持ちを感じないと、相手の気持ちも感じない
感情の共有と情報の伝達
第4章 EQのトレーニング
l EQトレーニングの考え方
2カ月間強制的に行動を変える
日常生活のルーティンを変える
EQは後天的に高めることができる
起点となるのは自分のEQ現在地
読者はEQ診断を無料で受検できる
EQ診断結果の読み方
2 EQ能力の12指標
EQ4ブランチを12指標に分類
EQ能力開発シートの使い方
低いEQ指標を自覚→高める→変化を確認する
EQトレーニングは「自転車に乗る練習」
失敗を恐れず、トライし続ける
EQトレーニングを支える「トライ&エラー」
第5章 さらに鍛えたい人へ―高山スペシャル
1 感情日記編
「感情MAP」
感情MAPで1週間の感情サイクルが分かる
感情MAPを2カ月続けると、「変えたい」という気持ちが生まれる
今の気持ちは?−自分の感情を1日3回感じる
今日の「得したなー」を書きだす
喜怒哀楽を入れた「1行日記」を書く
感情の因果関係を理解する
2 言葉編
遮断語はコミュニケーションを断ち切る
誉める、励ます−積極的な言葉の効用
明るくグチると、グチがグチではなくなる
3 行動編
握手で相手とのこころの距離を縮める
会うとき、別れるときに笑顔で手を振る
ハイタッチ−成功を共有し、仲間意識の醸成に役立つ
スキップ&ジャンプ
4 こころ編
こころの付く言葉を使う
言葉がこころのエネルギーを上げる
5 対人関係編
気軽に話しかけ、普段着の感情を知る
EQ力開発「高山スペシャル」
「できこの法則(で:出来事+き:気持ち+こ:行動)」でEQを開発する
1on1ミーティングにおける「で・き・こ」活用
「ちょっとの法則」→ちょっと肯定語=明るい否定
本音を聴きだす「ほんと? 4段活用」
EQ能力開発シート
装幀 next door design
第1章 ビジネスで求められるEQスキル
1 「2020年に必要なビジネススキル」トップ10にEQ
世界で根源的な能力として認知されているEQ
EQは1990年に米国で生まれ、世界に提唱された理論です。日本では1996年に『EQこころの知能指数』として出版された本で広まり、情動知能、感情能力として注目されました。わたし自身は1995年に米国でEQと出会い、その後、独自にEQを測定する検査を開発、その検査を携えて渡米し、EQ理を提唱したビーター・サロペイ博士とジョン・メイヤー博士にお目にかかりました。
お2人についてはEQを解説する部分で詳しくご紹介いたしますが、両博士を面会した目的は2つありました。一つはEQ検査の有効性について検証してもらうことであり、もう一つはEQ理論の論文に書かれていた「EQは開発可能な能力」を実現するEQトレーニング開発の協力を得ることです。
その際に両博士は「EQ理論をまとめる上でわたしたちは東洋の思想、考え、宗教に大きな影響を受けています。日本はEQの国であり、その日本でEQが必要とされるのは、とても嬉しいことです」と話され、研究開発顧問就任を快諾していただき、2つの目的を達成することができました。
翌1996年には2人とも来日され、わたしたち主催のEQシンポジウム「Mega Change21」に参加されました。ここからわたしは日本初となるEQ事業をスタートさせました。
そしてEQはかなりのブームになり、今では日本の1500社を超える企業でEQの考え方が導入されています。日本では人事に関する場面での導入が中心ですが、世界ではEQはもっと根源的な能力として認知されています。みなさんはダボス会議をご存じでしょうか?
ダボス会議でEQはとても重要なテーマとして議論されています。
わたしがダボス会議に強い関心を持ったのは2016年のアニュアルレポートを知ってからです。レポートには「2020年に必要なビジネススキル トップ10」が発表されており、その6位に「情緒的知性(Emotional Intelligence)が挙げられていました。Emotional IntelligenceはEQを指しています(図表1-1)。
EQ的色彩の強いビジネススキル
取り上げられていたビジネススキルは、日本でもよく知られている概念であり、複雑な問題解決力、クリティカルシンキング、創造力、マネジメント力、人間関係調整力、そして情緒的知性が6番目に取り上げられています。これらは別のスキルとして取り上げられていますが、相互が隣接・関連しており、EQビジネスに20年間携わってきたわたしにはEQ的色彩を強く感じます。
たとえば柔軟な頭で批判的に思考するから、問題を解決し新しい価値を創造できます。創造力は、今ないものをつくるので「ビジョン」と言ってもいいでしょう。このビジョンを見る能力はEQに近しいものです。
人間関係調整力とは、他者との人間関係のバランスをとる能力です。インターネットが普及した1990年代後半以降、「Win-Win」という言葉がよく使われるようになりましたが、じっさいのビジネスでは相手(こちら)が勝つとこちら(相手)が負ける「Win-Lose」、貸し借りの繰り返しで人間関係がつくられていきます。部下との接し方も同じ原理です。このバランスをとるのがEQです。
決断力もEQから生まれます。似ている言葉に「判断」がありますが、これはIQ的な認識法。状況を積み上げ確率的に把握するのが判断です。「決断」は判断とは別のもので「覚悟」という意味合いもあると思います。
サービスディレクション力は、消費者の気持ちになって考える「ホスピタリティー」という言葉に置換可能です。もちろんこれにもEQが深く関わっています。
交渉力は、論理で相手を説得する1Q的なスキルと考えられがちです。しかし国家間の外交を見れば分かるよう、1Qとともに様々な感情を駆使している場面を目にします。
2016年のテーマは第四次産業革命
ダボス会議は、毎年1月にスイスのダボスで開催される世界経済フォーラムの年次総会です。大辞林の「ダボス会議」の項目には「世界各国の政財界のリーダーや学者らが参加し、賢人会議ともいわれる」と記載されています。
この世界経済フォーラムは1971年にスイスの経済学者クラウス・シュワブ氏(現・会長)が設立した国際機関です。ダボス会議では約2500名の国際的リーダーが一堂に会し、世界が直面する重大な問題を議論してその成果を発表します。
議論するテーマは毎年決められており、2016年は「第四次産業革命をマスターする(Mastering the Fourth Industrial Revolution)」が論じられました。その内容はシュワブ氏自身がまとめており、日本でも『第四次産業革命 ダボス会議が予測する未来』(日本経済新聞出版社)が出版されています。
この本は四六判236ページで、付録の解説をのぞくと本論は150ページほどなので読み通すのは容易です。しかし内容はハードで、第四次産業革命によって変わる未来を予測しています。
混乱を乗り越えるために必要な4つの知性を支えるEQ
シュワブ氏は本書でEQの重要性を強調しています。人類は第四次産業革命がもたらす混乱を乗り越えることができるとシュワプ氏は考えていますが、そのために必要なのが「4つの知性」です。
その知性は、①状況把握の知性(精神)、②感情的知性(心)、③啓示的知性(魂)、④物理的知性(肉体)の4つです。『第四次産業革命』では②は「感情的知性」と訳されていますが、原著の「Fourth Industrial Revolution」では「The Emotional Intelligence」と書かれており、EQを意味しています。
シュワブ氏は4つの知性を独立した知性として取り扱っていますが、いずれの知性も他の知性との関係なしでは成立しません。
①の状況把握の知性のキーワードは、「ネットワーク」や「人脈」、「パートナーシップ」や「チーム」です。③の啓示的知性のキーワードは、「共通の運命感」、「集団的意識」、「信頼」、「エンゲージメント」、「チームワーク」、「協調的イノベーション」です。
④の物理的知性は、「個人の連康や幸福の維持、追求に関する知性」と定義され、「健康な体」と「プレッシャーの下でも動じない心」がキーワードになります。
そして感情的知性は、「自己認識」、「自己統制」、「モチベーション」、「共感、ソーシャルスキル」の基盤として定義されており、「組織の階層をフラットにしたり、多くの新アイデア創出を促す環境を構築したりするなどのデジタル的思考様式は、感情的知性に深く依存している」と書かれています。
つまり状況把握の知性、啓示的知性、物理的知性のいずれにもEQが関わっています。それらはまさにEQの得意とするところであり、本書を読み進んでいただければ理解していただけると思います。
2 ジャック・マーの信念
「大事なのは、あなた自身をどう変えていくかなのです」
2018年のダボス会議では、阿里巴巴集団(アリババ)会長だったジャック・マー(馬雲)氏がEQに言及したスピーチを行っています。ジャック・マー氏は1999年にアリババを設立し、瞬く間に世界有数のIT企業に育て上げた人物です。そして創業から20年経った2019年に「教育や慈善事業に専念したい」として会長を退任し、大きな話題になりました。
マー氏はダボス会議でのスピーチでテクノロジーの負の部分に触れ、産業革命によって第一次世界大戦、第二次世界大戦が起き、今も技術の進化による革命が起きていると語ります。マー氏の発言を紹介しましょう。
「人工知能(AI)、ロボット、コンビュータ、データ、プライバシーやセキュリティで人々は不安になります。みんな不安になり始めるのです。しかし、どんなに不安でいても、革命は起きます。不安でいなくても、起きるのです。そこで大事なのは、あなた自身をどう変えていくかなのです」。
この発言をわたしは次のように解釈します。「技術は進化し、いくら不安であっても革命は現実となる。AIやロボットで代替できる仕事はなくなり、テクノロジーは進化し続け、SNSはさらに広がり、個人のプライバシーやセキュリティが守られる保証もない。革命は確実に起こる」。