儲かるインバウンドビジネス10の鉄則 未来を読む「世界の国・地域分析」と「47都道府県別の稼ぎ方」

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ブーム後のインバウンドビジネスのために

インバウンド産業がブームとなっている時には、たいしたビジョンや戦略がなくてもただ表面的に周りの真似をしていればある程度の儲けや利益は手に入れられました。しかし、これからはそう簡単には成功できません。本書ではインバウンドビジネスで成果を見出す戦略・戦術を解説していきます。

まえがき

今回は、本のタイトルを『儲かるインバウンドビジネス10の鉄則』と、そしてそのサブタイトルを、未来を読む「世界の国・地域分析」と「不都道府県別の稼ぎ方」と題させていただいた。インバウンド市場の拡大とともに、ここ数年で、この分野に関する実に様々な本が出版されている。私自身、すでに5冊のインバウンドに関する本を書き、出版している(共著を除く)。今回の本で6冊目のインバウンド関連の著作となる。これまでにも、『接客現場の英会話もうかるイングリッシュ』(朝日出版社刊)という実用的な英会話のテキストは書いたが、インバウンドに関する実践的な儲け方の本は書いていない。今回が初めての試みとなる。ただし、今回においても、単なるハウツー本、テクニック集を書き下ろすつもりは毛頭なかった。

日本のインバウンド産業は黎明期を経て、ようやく発展期に入りつつある。一過性のブームや上げ潮のときには、たいしたビジョンや戦略がなくても、ただ表面的に周りの真似をしていれば、ノウハウだけを盗んであれこれ試していれば、誰もがある程度の儲け、すなわち売り上げや短期的な利益は手に入れられた。そして、この後の向こう数年間も、すなわち2020年の東京オリンピック・パラリンピックくらいまでは、それなりの追い風が吹くのかもしれない。しかし、その後は違う。優れた者のみが勝ち残り、凡庸な者・劣った者はふるいにかけられ落とされる時代が必ずやってくるだろう。まさに「優勝劣敗」の時代が到来するのだ。すなわち、今こそが真の勝利者になるための準備をしていく上で大チャンスの時期だと思う。

そもそも、「儲ける」の語源は、「設ける」と同源である。「設ける」とは、「事前に準備する」ことである。何も準備せずやみくもにやり散らかしても、その「儲け」(=成果)は小さく、長続きしない。実際私は、生半可な知識と浅い経験値のまま、安易にインバウンドビジネスに参入し、敗退していった人々をこの10年の間にたくさん見てきた。では、何を準備するのか。小手先の知識やノウハウなどは、状況の変化とともにあっという間に陳腐化するだろう。むしろ、基本的な視座(=鉄則[key rules]、戦略、フィロソフィー)を、しっかり学んで身につけ、日々急速に進化し続けるアジアをはじめとする世界の国際観光市場の変化に備えるべきなのではないだろうか。

ここで、この本を手にしていただいている読者の皆さんに、改めて注意を喚起しておきたいのは、本書のタイトルの冒頭の枕詞は『儲かる…』であって、『儲ける…』ではないという点だ。我が故郷佐賀県の大先輩の実業家である市村清さん(リコー三愛グループ創業者、1900~1968年)は数多くの名言を残した人として有名だが、「儲ける」と「儲かる」の違いについても次のような語録が知られている。

「儲けるのはどんなに上手くても限度があるが、儲かるということは無限だ。そして道にのっとってやるのが、この”儲かる”ことなのである」

そうなのだ。短期的に荒稼ぎしても意味はない。インバウンドビジネスは、このあと本文の第2章の「鉄則2」で述べる通り、中長期的な視点で取り組むべき領域である。「道にのっとって」とは、すなわちビジョンと理念と置き換えてもいいだろう。

ここで、本書の構成について簡単に説明しておきたい。まず第1章では、概論と現在のインバウンド市場のアウトラインを示し、第2章では、メインテーマであるインバウンドマーケティングにおける「10の鉄則」について述べる。そして、続く第3章では「海外主要市場の国・地域別分析」を、第4章では、「47都道府県別・稼ぎ方マニュアル」と題して、本書のサブタイトルでうたった通り、客観的な各種データを示しつつ、具体的なインバウンド戦略・戦術の進め方について述べていく。そして、終章である第5章では、「成果を生み出す7・5・3フィロソフィー」と題して、そうした鉄則や戦略・戦術の大本の基盤となる哲学について示す。

章を追って、最初から読み進めていただくのもいいし、いきなり実践編である第3章・第4章の戦略と戦術編・データ編から入っていただいてもいいと思う。ただし、どこから読み始めていただくにせよ、ぜひとも本書の全項を読み通していただき、我が国の観光立国を実現していく上でのビジョン、考え方の全体観を皆さんと共有できたらと願っている。

また、今回の本においては、私の著者名の肩書を、あえて「一般社団法人 日本インバウンド連合会(JIF)」の理事長と表記させていただいた。約6年間の構想準備期間を経て、2017年4月、私は有志の皆さんと共に、この社団法人を立ち上げた。当会は、日本のインバウンド産業に関わる政官民学・市民にわたるすべてのステークホルダー(利害関係者)をつなぐ、プラットフォームを提供する組織、人々にインバウンドに関する気づきと学びの場を提供する機構である。

そもそも、私がなぜこのJIFの設立を創唱したのか。その遠い原点は、2011年3月11日に起こった東日本大震災後、日本のインバウンド業界の壊滅的な状況の中で、個々のプレーヤーが個々にバラバラな活動をしていても限界があると痛感したことにある。そして、日本全体のインバウンドのプレーヤーをつなぎ、人々の諸力を結集する、業界を超えた、官民の垣根を超えたオールジャパンの機構が必要だという直観を得たことの中にあった。

私は、もちろん同時に今なおドン・キホーテグループ「株式会社ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)」の代表取締役社長を務め、日々インバウンドビジネスの民間の一プレーヤーとしても活動している。本書は、JIFという機構の代表者として日本のインバウンドを俯瞰する視点と、日々売上と利潤を最大化して我がJISの全従業員の生活を守るべくあくせく奮闘している一ビジネスマンとしての視点の、両方に基づいて著述しているつもりである。

それ故、私は日夜インバウンドビジネスの最前線で活躍されているビジネスパーソンの皆さんにとどまらず、政府や地方自治体またDMO/DMCその他各種公的団体の関係者の皆さん、中央や地方の首長・議員の皆さん、そして日本の観光立国を本気で目指しているすべての人々に、本書をぜひ手に取って読んでいただきたいと強く願っている。

他方、私はいくつかの大学・大学院の客員教授も務めている。日進月歩のインバウンド産業において過去の情報はほとんど役に立たない。インバウンド論の教科書として活用できる本もまだまだ少ない。それ故、本書はインバウンド分野に関わる専門学校・大学・大学院のテキストとして活用していただけるように、教育者の視点でも書いているつもりである。教育関係者の皆さんには、教科書・参考書としてもご活用いただければ幸いである。

なお、各章には、本文とは別に、日本を代表するツーリズムビジネス専門誌である『週刊トラベルジャーナル』の巻頭コーナーである「視座」に、私が毎月連載しているコラムを同誌編集長のご快諾の下、収録させていただいている。本文と併せて読んでいただければと思う(なお、この1年余のうちに同誌に掲載したコラムのうちの幾本かは、直接転載することをせず、可能な限り本文の中に組み込んでいる。また、転載されているコラムの内容は、特に注記することなく、直近の数値やファクトに照らして加筆修正している)。

この本を書き上げる上では、実に多くの方々のご支援と協力と激励をいただいた。とりわけ、日経BP社の日経BP総研 未来研究所の皆さまには第3章・第4章のデータ作成において、多大なご尽力をいただいた。この場を借りて、すべての関係者の皆さまに心より御礼を申し上げる。

2017年11月吉日

目次

第1章 世界の観光立国と日本
「インバウンド」の再定義
世界の現状と、日本の現実
世界の国際観光市場の動向
日本のインバウンド最新状況
国際観光市場が増えている理由
日本が生き残る道は唯一インバウンドのみ
観光競争力・世界4位の衝撃
見えてきた課題と、真の実力を築くカギ
日本の課題と、今後の可能性
もっとパスポートを取得しよう
地方分散を強みに多産業化を図ろう
日帰り客を宿泊客・長期滞在客にしよう
通年型でリピーターを獲得しよう

第2章 インバウンド・マーケティング10の鉄則
[鉄則1]「タビビト目線」を徹底せよ――プロモーションとおもてなし
最初から世界を考えよう
人類は永遠のタビビト
旅人と同じ目線でおもてなし
[鉄則2]「中・長期計画」を立てよ
2020年の先を見据えた戦略を
[鉄則3]「花仕事」から入れ―「米仕事」はその後
「自分たちも共に楽しむ」というボランティア
ボランティアからスタートアップへ
花仕事には無限の可能性がある
[鉄則4]「連携」して前に進め
もはや「昭和型」では生き残れない
スポーク思考からハブ思考へ
さらに広域の連携で「ゲートウェイ」へ
[鉄則5]「すでに起こった未来」を見つけ、学び、取り入れよ
人口動態から「未来」を予測する
我流で突き進むのは時間の無駄
[鉄則6]世界に飛び出せ―すべての答えは「ソース・マーケット」にある
1年前のトレンドはもはや手遅れ
訪日客とのギャップをまず埋めよ
[鉄則7]「すでに手の中にあるリソース」を最大限に生かせ
親族・友人という見逃せない需要
地域に眠るリソースを発掘せよ
市民のインバウンド支持率を高めよ
[鉄則8]プレミアム戦略を立て実行せよ
プレミアムとは単に値段が高いことではない
付加価値こそがさらなる付加価値を創出する唯一の原資
[鉄則9]ナイトマーケット(夜の市場)を攻めよ
昼の財布と夜の財布は桁が違う!
IR(カジノ)の可能性と課題
[鉄則10]ダイバーシティーこそがサステナブルな成功の礎
宗教文化におけるダイバーシティー
食文化のダイバーシティー
セクシャリティーにおけるダイバーシティー

第3章 海外主要市場の国・地域別分析
北東アジア~カギは滞在日数の長期化、アクティビティーの開発を
韓国
中国
台湾
香港
南・東南アジア~現在ではなく、「未来に向けて」手を打つべし
タイ
シンガポール
マレーシア
インドネシア
フィリピン
ベトナム
インド
オーストラリア
北・中南米~伸びしろは十分にある。日本独自のコト情報を発信せよ
米国
カナダ
欧州・ロシア~国民性や文化的背景を理解し、「日本独自」をアピール
英国
フランス
ドイツ
ロシア
イタリア
スペイン
中東・アフリカ~訪日ニーズが高まる中東、アフリカは旧宗主国がカギ

第4章 都道府県別・稼ぎ方マニュアル
北海道~眠れる資産を活用して欧米客を呼び込め
北海道
東北~ポテンシャルは高い、広域連携が市場拡大のカギ
宮城県
山形県
岩手県
秋田県
青森県
福島県
新潟県
関東広域~宿泊機能の弱点を克服し、首都東京ではなく世界を見よ
栃木県
茨城県
群馬県
埼玉県
千葉県
神奈川県
山梨県
東京都
昇龍道~産業ツーリズムや遊休資産を活用し、広域連携を成功に導け
愛知県
三重県
静岡県
長野県
岐阜県
石川県
富山県
福井県
滋賀県
関西~日本のインバウンドけん引、民泊活用で主要観光地以外の集客を
京都府
大阪府
奈良県
兵庫県
和歌山県
山陰山陽・四国~高いポテンシャル、横と縦の広域観光周遊ルートでさらなる成長を
鳥取県
島根具
岡山県
広島県
山口県
高知県
愛媛県
香川県
徳島県
九州~北部と南部で異なる取るべき戦略、欧米系訪日客を獲得せよ
福岡県
佐賀県
長崎県
大分県
熊本県
鹿児島県
宮崎県
沖縄~「沖縄らしさ」と「日本らしさ」の両立がカギ
沖縄県

第5章 成果を生み出す7・5・3フィロソフィー
成功へと導く「7つの力」
①考える力
②示す力
③巻き込む力
④醸す力
⑤貫く力
⑥売る力
⑦育てる力
社会を変革する「5つの”き”」
①意識(いしき)
②知識(ちしき)
③勇気(ゆうき)
④元気(げんき)
⑤景色(けしき)
踏み出すための「3つの無」~三無主義
(1)無条件
(2)無前提
(3)無根拠

コラム視座
[その1]明治維新と観光立国
[その2]FIT時代の旅人目線
[その3]お祭りツーリズムの可能性
[その4]ダイバーシティーとムスリムツーリズム
[その5]深化するアジア、足踏みする日本
[その6]訪日産業観光成功の条件
[その7]観光列車の窓から見えたもの
[その8]九州復興へのチャレンジ

観光立国のその向こうへ~あとがきに代えて
参考文献