まちづくり×インバウンド 成功する「7つの力」

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インバウンドをまちづくりに活かすには

これから日本は人口減少が加速していきます。人口が少なくなるということは、経済規模も縮小してしまうでしょう。そうならないために注目されているのがインバウンドビジネスです。本書では、観光立国と地方創生実現のために必要なことは何なのかを紹介しています。日本が滅んでいかない未来を作りたいという人に読んで欲しい一冊です。

はじめに

オリンピックが2016年8月5日から8月1日までの7日間、パラリンピックは9月7日~9月8日の2日間、あわせて29日間、ブラジルのリオデジャネイロで開催され、日本中が、そして世界中が熱戦に沸き、ブラジルに、そしてリオに注目しました。

私自身も、会期中はテレビ観戦のため寝不足にもなりました。閉会式の安倍晋三総理がマリオの姿で登場した印象的な演出も、記憶に鮮明に残りました。獲得したメダル数も史上最高でした。しかし、あれだけ世界中が熱狂した五輪大会も、宴が終わってしまうと、とたんに世界中の人々の関心は、南米のリオから離れつつあります。そして、今度は2020年の日本の東京に、世界中からの視線が集まってきます。そう、明日はわが身なのです。

オリンピック開催に向けて、これからの4年間、かつてなかったほど世界中が日本に、東京に注目することでしょう。しかし、2020年8月の東京大会終了後、その関心は当然、またその次の2024年の開催国・都市に移っていくものとなることでしょう。

私は、わが国のインバウンド3.0の時代(本書第2章を参照)を、この2020年7月の東京五輪とともに起動させるべきことを論じています。東京五輪はあくまでもそのスタート、すなわち“起点”なのです。決してゴールなどではありません。これからの4年間、日本には世界中からの視線が集まり、わが国は国中が五輪特需に沸き、浮かれることでしょう。景気も伸び、訪日観光客も年々伸び続けていくことでしょう。日本国政府が掲げている「2020年までに訪日外国人4000万人、訪日客消費額8兆円の達成」という高い目標も、簡単といえないまでも、不可能な数字だとは思っていません。

また、一部の悲観論者が唱えているような「2020年がインバウンドのピークだ。2020年をピークに、その後の日本の訪日市場は下り坂だ」というような暗い未来に賛成しようとも思いません。(本文で私が述べているようなビジョンを国民の多くの皆さんが共有し、優れたインバウンド・リーダーが育っていけばという前提ではありますが)わが国には(そして世界には)、インバウンドの実績が、2020年を超えて、さらにすくすくと伸びていくだけのポテンシャルがあると思っています。

しかし同時に、2020年以降の日本に立ちはだかってくるのは、人口減少という過酷な難題です。2020年からは47全ての都道府県で人口が減っていきます。五輪開催とも相まって東京都の人口規模は、2020年に過去最大の1335万人となり、ピークに達すると予測されています。ただし逆を言えば、その翌年からはこの東京でさえ、人口減少が始まっていくわけです。2014年に年間約5万人減り、2015年に約30万人減った日本の総人口は、五輪開催後、やがて毎年3万人以上減り始めるようになります。これは、毎年ひとつずつ小ぶりな県が消滅していくようなものです。

インバウンドは人口減少対策のための特効薬ではありません。しかし、観光立国革命への挑戦は、この国の社会の在り方、これまでのモノづくり中心の、規格大量生産社会、右肩上がりを前提にした国づくりの方向を転換させるだけの、そして国民の鎖国意識を変え、この国の真の“心の開国”を実現していく上での、そして縦社会の垂直的な社会構造を変えていく上での、大きなインパクトを持っていると思っています。薬ではなく、むしろサプリメント(栄養補給食品)のように、じわじわと、この国の人々のマインドの体質改善に寄与していくことと期待しているのです。

2020年以降の訪日外客4000万人時代には、外客のほとんどがリピーターとなっていることでしょう。そしてそれにともない、今まで以上に、訪日客の皆さんを飽きさせない、おもてなしの進化と、より深い地域連携が必要とされてくることでしょう。2017年春には、民泊解禁、通訳案内士の業務独占廃止、酒蔵での消費稅に加えて酒税の免稅制度など、新たな法制の整備も予定されています。シェアリングエコノミーや、ICT、SNSの進化は、さらに加速化することでしょう。世界の国際観光市場はますます拡大していくことでしょう。日本の抱える課題は大きいけれども、同時に、われわれが手にしているチャンスもまた、まさに無限大なのです。

私は、一人でも多くの志のある人々に、そして本気でこの国の未来を憂い、日本の未来、ひいてはアジアの未来、世界中の未来を切り拓きたいと望んでいる人々に、この本を手に取っていただきたいと思っています。そして、ともに観光立国革命の同志として立ち上がっていただきたいと熱望しています。また、この本がそのチャレンジの際の小さなヒント・小さなガイドブックになれればと、ひそかに願っています。

なお、各章の章末には、日本を代表するツーリズムビジネス専門誌である『週刊トラベルジャーナル』に毎月連載させていただいている「視座」というコーナーのコラムを、同誌編集長のご快諾のもと、収録させていただいております。本文と合わせて、読んでいただければと思います。(なお、この一年間のうちに書いたいくつかの号の「視座」の内容については、直接転載することなく、可能な限り各章の本文の中に組み込みました)

また、限られた時間の中で、この本を書き上げる上で、実に多くの方々のご支援と励ましとご協力をいただきました。この場を借りて、すべての関係者の皆さまに心より御礼を申し上げます。

2016年9月吉日

地方創生を可能にする まちづくりメインバウンド 成功する「7つの力」 目次

はじめに

序章 インバウンド・バブルは弾けたのか
“爆買い”の反動「勝ち残るインバウンド」と「負けるインバウンド」
インバウンド・バブル崩壊の真実
本格的成長は、むしろこれから
Column 1 ガイドという職業の奥深さ

第1章 亡国のインバウンド ―ニッポンの現実
国内市場をおろそかにしては成り立たない
「儲けられるうちに儲けよう」という発想
補助金依存のインバウンドのリスク
バブル時の外客売上はどこへ
FIT(個人旅行)の流れに乗り遅れるな
「来てください!来てください!」だけのワンウェイ・インバウンドのリスク
Column 2 民泊解禁、その課題と波及効果

第2章 インバウンドの進化が、地方を元気にする!
インバウンドの時代区分
【インバウンド1.0時代】2003年4月~2014年9月
【インバウンド2.0時代】2014年10月1日~2020年7月21日
【インバウンド3.0時代】2020年7月22日~
【インバウンド4.0時代】2030年までに!
「地方創生」はインバウンド振興から
【戦術1】観光資源の発見、地域のアイデンティティー獲得
【戦術2】「地域運営組織CMO」と「日本版DMO」の一体的運用
【戦術3】一世帯当たり、プラス年間10万円の現金収入
【戦術4】英語の通じる地域づくり~英語保育・イングリッシュタウン
【戦術5】縦社会からフラットな人間関係へ
Column 3 サミットのレガシーとMICEの可能性

第3章 最新事例から学ぶ、先進的な取り組み

“受信者”責任型社会と「おもてなし」
年間200日超の出張で見聞した、インバウンドの最新事例
【事例1】岐阜県飛騨高山~キーワードは「普通であること」
【事例2】兵庫県城崎温泉~「花仕事」と「米仕事」を実践
【事例3】京都府かやぶきの里~共同体が支える景観
【事例4】佐賀県白石町~磨けば光る、眠れるポテンシャル
【事例5】東京都品川区~OJTで学ぶ「英語少し通じます商店街」プロジェクト
【事例6】三重県松坂地区~サミットの遺産を創造する
Column 4 街道ツーリズムの可能性

第4章 インバウンドを成功させるための「7つの力」
【条件1】考える力―インバウンドと公共哲学
【条件2】示す力―地域の「未来予想図」を明確に示す
【条件3】巻き込むカ力―「従う力」を持ったお節介
【条件4】醸す力―利害を超えて地域を統合する
【条件5】貫く力―ぶれることなく愚直に戦略を実践し続ける
【条件6】売る力―価値ある「思い」を抱き、他者に与える
【条件7】育てる力―次世代の若いリーダーにバトンを渡す
Column 5 白船来航!その課題と可能性

終章 2020年に向けた「7つの目標」
【目標1】日本の重要観光資源をすべて見て回る
【目標2】公武合体の実現
【目標3】会員制インバウンド塾の全国展開
【目標4】2020年までに1718の全市町村と連携し、地域の6次産業化に寄与する
【目標5】日本に集客し、おもてなしするための体系的なメディア群をつくる
【目標6】世界の観光大国の最前線を網羅的に見て回る
【目標7】観光立国政策研究大学院大学の創設

おわりに