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猫を飼う人は必読の1冊
ペットを飼っている人は、ペットがいることを踏まえた上で防災の知識を身につけることが必要です。その中でも、猫を飼っている方が普段からしておかなければいけないことや心構え、避難方法、そのような状況下で猫が起こしやすい症状とその対処法など、具体的に解説しています。
みなさんは、被災者になったことが ありますか。
“災害時、家族を置いて 避難できる人なんかいない一。”
”非常時、人間は守るべき家族(ペット)がいるからこそ、より懸命に強くなれるもの。”
“過去の自然災害は他人事ではない。近い将来、突然に来る。自分自身の問題として考えよう。”
“ペットだから、人間だからではなく、「家族だから」一緒にいるべきなのです。”
”来るであろう災害に備えて、ペットと過ごそう。”
目次
熊本地震からの提言
1 「もしも」に 備える
猫の防災「か・き・く・け・こ」
(か)飼い主のマナー・責任
(き)キャリーバッグ
(く)薬・ごはん (備蓄品)
(け)健康管理
(こ)行動・しつけ
避難のシミュレーションをしよう
地震を経験して①
2 被災シミュレーション−発災から再建まで
あらゆる災害に備える
パニック猫の行動パターンとその対処法
発災時の状況別対応1 自宅で一緒に被災
発災時の状況別対応2 飼い主は外出先、猫は自宅
発災時の状況別対応3 飼い主は自宅、猫は外
もしもはぐれてしまったら
災害時の応急処置
避難生活1 在宅避難
避難生活2 避難所
避難生活3 車中泊
避難生活4 テント泊
日常生活の再建に向けて
被災地支援―私たちにできること
公助としての行政の取り組み
地震を経験してる②
3 熊本地震を経験して
竜之介動物病院(熊本市)の1か月
復興へ向けて
うちのコ情報
チェックリスト
防災のために知っておきたい主な用語
自助・・・・・自分自身で、自分や家族を守ること。
共助・・・・・近隣などのコミュニティで助け合うこと。
公助・・・・・行政機関による救助や支援。
指定避難所・・・・各自治体が定めた避難所。
学校や公民館などの公共施設などが指定されている。
同行避難・・・・ペットと一緒に避難場所へ避難すること。
同伴避難・・・・避難所でペットと同じスペースで過ごすこと。
(ただし、環境省では「避難所でベットを飼養管理すること」を指し「同室での飼養管理」を意味するものではないとしている)
在宅避難・・・被災後、自宅の安全が確保されている場合、自宅で避難生活を送ること。
仮設住宅・・応急仮設住宅のこと。災害で住む場所を失った人に提供される簡単な住居
みなし仮設住宅・・・仮設住宅として利用する、民間の賃貸住宅。
前震・・・大地震が起こる前に、震源地近くで起きる地震。
本震・・・ある場所で、ある期間に起こった地震の中で、最も大きい地震。
余震・・・本震の後に起こる地震。
首都直下型地震・・・首都圏を直撃する地震。高確率で近年発生すると想定される。
ハザードマップ・・・自然災害による被害を予測し、危険な場所や避難の情報が示された地図。
熊本地震からの提言
ペットが一緒だから乗り越えられる。このコがいるから元気になれる!
竜之介動物病院(熊本市) 院長 德田竜之介
東日本大震災の 被災地を視察して
みなさんは災害時、愛猫とどうやって避難するか、避難した後はどうなるのか、考えたことがありますか?災害時のペットとの「同行避難」と いう言葉を聞いたことがあるかもしれません。阪神・淡路大震災や新潟県中越地震、そして東日本大震災など、これまでの大規模災害の経験から、環境省や各自治体では災害時にペットと一緒に逃げる「同行避難」を「原則」としています。でも、避難所に行った後は、どうでしょうか。私がペットの防災や災害時の対応について深く考え、行動を起こすようになったのは、2011年に発生した東日本大震災の被災地への視察がきっかけでした。動物の状況を把握するために、獣医師仲間と訪れると、そこには報道などを見て、知ったつもり”になっていた内容とはまったく違う、飼い主とペットの現実がありました。
ペットと飼い主は別々 同行避難の先の現実
当時から「同行避難」は原則とされていたものの、広く浸透していなかったため、「ペットは連れていけない」と家に残してきた人が大勢いました。そのため、せっかく生き残ったというのに、行き場をなくしたたくさんの犬や猫たちが街中をさまよっていました。そして、がれきの下からペットを救い出して一緒に避難しても、ペットは避難所の中に入ることを許されず、外につながれているのです。さらに、避難所から遠く離れた場所に作られた一時預かりのシェルターでは、飼い主と一緒にいることがままならずに預けられ、不安そうにしている犬猫たちの姿がありました。家族同然のペットと離れたことで心の支えを失い、体調を崩した人もいると聞き、愕然としました。大変な時だからこそ、ペットと飼い主は一緒にいなければいけない!
この視察を通して、単なる「同行避難」ではなく、ペットと一緒に避難生活を送ることができる「同伴避難所」が必要だという想いを強くしました。
ペットと一緒に来てください! 熊本地震で同伴避難所を開設
その後、私は熊本市内にある竜之介動物病院を「もしもの時」にペット同伴避難所として開放できるように、マグニチュード9の地震にも耐えられる頑丈な構造に建て替えました。大きな地震が少ない熊本でそこまでする必要があるのかと笑われても、「同伴避難所は絶対に必要」という強い信念を貫き、2013年9月に、水や食料の備蓄、自家発電も備えた、竜之介医療センタービルを完成させました。そして、2016年4月11日と16日に、2度にわたる、震度7の大地震に見舞われたのです。のちに前震と呼ばれた1度目の地震が発生した4時間後には、「竜之介動物病院はペット同伴避難所として開放します」というメッセージをフェイスブックなどのSNSで発信し、ペットと飼い主さんが一緒 に過ごせるスペースを提供しました。
熊本でも、ペットがいるから避難所に行けないと考えた人はたくさんいたようです。また、指定避難所にペットを連れていっても、ペットは屋外だったり肩身の狭い思いをしたりして、当院の避難所に移ってくる方もいました。SNSの情報や口コミにより、発災から避難所を閉鎖する1か月間で延べ1500人の飼い主さんとペットを受け入れました。
被災しても笑顔があるペット同行避難所
私は被災した飼い主さんとペットの 健康状態を診るために、市内の避難所も回りましたが、避難している人たちの表情の違いを目のあたりにしました。一般の避難所では知らない人同士が隣り合わせで会話も少なく、横になって休んでいる人が多く見られました。けれども、当院で避難生活を送っている人たちは、同じ被災者なのに表情は明るく、活気にあふれていたのです。ペットがそばにいると、初対面でも、犬や猫という共通の話題があるから会話も弾みますし、動物たちの何気ないしぐさに場が和みます。
何より、ペットの世話は自分でしなければいけませんから、やることがいっぱい。「このコは自分が守らなければ」と、落ち込んでばかりはいられません。避難生活では、役割を持つことで自立へのモチベーションが高まります。炊き出しを手伝ったり、救援物資の仕分けをしたり、助けられるだけでなく、誰かを助けている人のほうが元気になるものです。ありがたいことに救援物資もたくさん届きました。当院は指定避難所ではないので、公的な救援物資はすぐには届きません。そこでインターネットなどで不足しているものの情報を発信したところ、全国から物資を送っていただきました。しかも、人のものよりも動物用のもののほうが早く届くのです。
ペットがいるから元気になれる、やる気が出る。ペットには人を動かす力があることを感じた瞬間でした。
同行避難の先にあるのは 同伴のための住み分け
災害時は人が優先、ペットのためにそこまでできないという声があります。けれども、同伴避難所はペットの救済場所ではなく、家族の一員であるペットの存在を必要としている「人」を支援する場所だと私は考えています。世の中にはペットが苦手な人も動物アレルギーの人もいます。今のように、みんなが集まる避難所にペット同伴スペースを作り、100%受け入れてもらおうとしても、トラブルのもとになりかねませんし、かなり厳しいと私も思います。ペット同伴避難の実現で重要なのは、避難所でのペット同伴者とそうでない人との住み分けです。そこで、別の場所に飼育スペースを作るというのがこれまでの解決方法でした。でも、冷暖房完備の立派なシェルターを建てるよりも、10のうち1つでもいいから、ペット同伴避難所を開設することのほうが、本当に求められている支援だと私は確信しています。
家族の一員から社会の一員となるために
もちろん、ペットを受け入れてもらうためには、同伴避難所の設置を訴えるだけでなく、飼い主さんも普段から災害に対して、しっかりとした心構えで備えておかなければなりません。「備え」とは「非常持ち出し袋」の準備だけでなく、しつけをはじめとする日頃の愛猫との生活全般に関わってきます。日本でペットと暮らしている世帯率は、2割程度に過ぎません。残りの8割がすべて動物嫌いというわけではありませんが、よい感情を持っていない人もそれだけ多いということも理解しておくべきです。
ペットは飼い主にとっては「家族の一員」ですが、人間社会で幸せに暮らしていくためには「社会の一員」にならなければいけません。そのためには、ルールやマナーを守り、迷惑をかけない暮らし方をすることが大切です。災害時のためにも、日頃から猫の飼い主さんに備えておいてもらいたい心得を、私はいつも「猫の防災『か・き・ く・け・こ」としてお話ししています。その詳細は本書でも紹介していますので、ぜひ実践してください。
今こそペットの防災の 在り方を真剣に考える時
私は熊本地震を通じて、災害時のペットの存在の大きさを確信し、「ペット同伴避難所」開設の必要性を訴える署名活動を行いました。全国から3万4000人の賛同者を集めて国会に提出しました。環境省や自治体からもヒアリングに来てくださり、一歩前進できたのではないかと思います。
熊本県内ではすべての仮設住宅でのペット飼育が認められるなど、熊本地震が災害動物の在り方を考える大きなきっかけになっているのは確かです。熊本地震を踏まえて、環境省はそれまでのガイドラインを見直し、2018年2月に「人とペットの災害対策ガイドライン」を策定しました。その中では私が推奨する「ペット同伴避難」の徹底には至っていませんが、私はこれからも声を上げ続けていきます。「災害は起きないに越したことはありませんが、南海トラフ地震や首都直下型地震など、日本では近い将来、大規模な地震災害がかなり高い確率で起こると考えられています。大都市で広域災害が発生すれば、被害はさらに拡大することでしょう。
ひとたび災害が起これば、ペットの問題は良くも悪くも注目されます。ペットは「家族の一員」から「社会の一員」として認識を転換し、熊本地震の経験を活かした災害時の動物に対する支援が重要です。今こそ、ペットの防災について真剣に考えてみませんか?