どんな災害でもイヌといっしょ (小学館 GREEN MOOK) 

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犬を飼う人は必読の1冊

ペットを飼っている人は、ペットがいることを踏まえた上で防災の知識を身につけることが必要です。その中でも、犬を飼っている方が普段からしておかなければいけないことや心構え、避難方法、そのような状況下で犬が起こしやすい症状とその対処法など、具体的に解説しています。

徳田 竜之介 (監修)
出版社 : 小学館 (2018/8/23)、出典:出版社HP

今、災害が起こったらあなたはどうしますか。

「ペットも家族の一員です。動物だから、人間だからではなく、「家族」だから、一緒にいるべきなのです。」
「動物たちは、不思議な力を持っています。そこにいてくれるだけでたくさんの笑顔を取り戻させてくれます。」
「非常時、不安な思いは人も動物も同じです。お互いが離れずにいることで、落ち着いて、行動ができます。」
「見えないところで。「支えている力」があるんだと知った時に、その存在に気づきます。その存在とは、私たちのあし元にいるペットなのです。」
「ペットと過ごす人たちへの理解がもっと広がることを願っています。理解されるための努力を惜しまず続けましょう。」

目次

災害を経験して考えたこと

1 「もしも」に備える
犬の防災「か・き・く・け・こ」
(か)飼い主のマナー・責任
(き)キャリーバッグ(クレート)
(く)薬・ごはん(備蓄品)
(け)健康管理
(こ)行動・しつけ
避難のシミュレーションをしよう

被災地からの声①

2 被災シミュレーション−発災から再建まで
あらゆる災害に備える
パニック犬の行動パターンとその対処法
発災時の状況別対応1 自宅で一緒に被災
発災時の状況別対応2 飼い主は外出先、犬は自宅
発災時の状況別対応3 外出先で一緒に被災
もしもはぐれてしまったら
災害時の応急処置
避難生活1 在宅避難
避難生活2 避難所
避難生活3 車中泊
避難生活4 テント泊
日常生活の再建に向けて
被災地支援―私たちにできること
公助としての行政の取り組み

被災地からの声②

3 熊本地震を経験して
竜之介動物病院(熊本市)の1か月
動物たちと歩んだ復興への道

うちのコ情報
チェックリスト

災害関連の知っておきたい主な用語

徳田 竜之介 (監修)
出版社 : 小学館 (2018/8/23)、出典:出版社HP

災害を経験して考えたこと

飼い主の「心の復興」のためにも、ペットと離ればなれになってはいけない。
竜之介動物病院(熊本市) 院長 德田竜之介

同行避難とは?報道ではわからない被災地の現実

いつやってくるかわからない、地震や津波、噴火や豪雨、土砂災害などの天災。この本の製作中の2018年6月に、震度6弱の地震が大阪北部に起こり、翌月の7月に、西日本地域に甚大な被害をもたらした「平成28年7月豪雨」が発生しました。亡くなった方や行方不明者の方々を思うと本当に胸がしめつけられる思いです。あの大水の中をどうやって動物たちと避難するのだろう。いちばん安全なはずの家の中で被災する恐怖は、何よりのトラウマになります。みなさんは災害時、愛犬とどうやって避難するか、避難した後はどうなるのか、考えたことがありますか?

環境省や各自治体では、これまでの大規模災害の経験から、災害時にペットと一緒に避難する「同行避難」を「原則」としています。でも、その先にはどんな避難生活が待ち受けているのでしょうか。「私がペットの防災や災害時の対応について深く考え、行動を起こすようになったのは、2011年に発生した東日本大震災の被災地への視察がきっかけでした。動物の状況を把握するために、獣医師仲間と訪れると、そこには報道などで見聞きして知ったつもり。になっていた内容とはまったく違う現実がありました。

「同行」できても愛犬とは一緒にいられない

当時から「同行避難」は原則とされていましたが、広く浸透していなかったため、「ペットは連れていけない」と家に残してきた人が大勢いました。そのため、せっかく生き残ったというのに、行き場をなくしたたくさんの犬や猫たちが街中をさまよっていました。がれきの下から愛犬を救い出して一緒に避難しても、犬は避難所の中に入ることを許されず、外につながれているのです。さらに、一時預かりのシェルターには、飼い主と一緒にいることがままならずに預けられ、不安そうにしている犬や猫たちの姿がありました。

家族同様のペットと離れたことで心の支えを失い、体調を崩した人もいると聞き、愕然としました。「大変な時だからこそ、ペットと飼い主は一緒にいなければいけない!この視察を通して、単なる「同行避難」ではなく、ペットと一緒に避難生活を送ることができる「同伴避難所」が必要だという思いを強くしました。

熊本地震で確信!同伴避難所は絶対に必要

被災地視察の後、私は熊本市内にある竜之介動物病院を「もしもの時」にペット同伴避難所として開放できるように、最大震度の地震にも耐えられる 頑丈な構造に建て替えました。大きな地震が少ない熊本でそこまでする必要があるのかと笑われても、強い信念を貫き、2013年9月に、水や食料、自家発電も備えた、竜之介医療センタービルを完成させました。そして、2016年4月1日と6日、震度7の大地震に見舞われたのです。後に前震と呼ばれた1度目の地震が発生した4時間後には、「竜之介動物病院はペット同伴避難所として開放します」というメッセージをSNS(ソーシャルネットワークシステム)で発信し、ペットと飼い主さんが一緒に過ごせるスペースを提供しました。

熊本でも、犬がいると迷惑がかかるので避難所には行けないと考え、多くの飼い主さんが愛犬との車中泊を選択していました。また、指定避難所に連れていったものの、犬は屋外だったり肩身の狭い思いをしたりして、当院の避難所に移ってくる方もいました。SNSの情報や口コミにより、発災から避難所を閉鎖するまでの1か月間で延べ1500人の飼い主さんとペットを受け入れました。

被災地に必要なのは涙ではなく明るい笑顔

私は被災したペットの健康状態を診るために、市内の避難所も回りましたが、避難している人たちの表情の違いを目のあたりにしました。一般の避難所では知らない人同士が隣り合わせで会話も少なく、横になって休んでいる人が多く見られました。けれども、当院で避難生活を送っている人たちは、同じ被災者でも表情は明るく、活気にあふれていたのです。それは、自分のペットを不安にさせないために、飼い主さんが意図的に笑顔を作っていたということもあります。さらに、犬や猫という共通の話題があるから、初対面でも会話が弾みますし、動物たちの何気ないしぐさに場が和みます。

何より、ペットの世話は自分でしなければいけませんから、やることがいっぱいで、落ち込んでばかりはいられません。犬の飼い主さんは毎日の散歩もあるので、特に元気。避難生活では、役割を持つことで自立へのモチベーションが高まります。炊き出しを手伝ったり、救援物資の仕分けをしたり、助けられるだけでなく、誰かを助けている人のほうが元気になるものです。ペットがいるから元気になれる、やる気が出る。ペットには人を動かす力 があることを感じた瞬間でした。

ペット同伴避難を実現するには 「すみ分け」が大事

災害時は人が優先、ペットのためにそこまでできないという声があります。けれども、同伴避難所はペットの救済場所ではなく、家族の一員であるペットの存在を必要としている「人」を支援する場所だと私は考えています。世の中には動物が苦手な人もアレルギーがある人もいます。今のように、みんなが集まる避難所にペット同伴スペースを作り、100%受け入れてもらおうとしても、トラブルのもとになりかねませんし、かなり厳しいと私も思います。ペット同伴避難の実現で重要なのは、避難所でのペット同伴者とそうでない人のすみ分けです。これまでは「飼い主」と「ペット」をすみ分けさせるために、別に飼育スペースを作るというのが解決策でした。でも、冷暖房完備の立派なペットの収容施設を建てるより、10のうち1つでもいいから、ペット同伴避難所を開設するほうが、本当に求められている支援だと私は確信しています。

犬をしつけ、マナーを守ることは何より大事な犬の防災対策

そして、災害時に愛犬を受け入れてもらうためには、飼い主さんが普段から犬の防災をしっかり考え、備えておく必要があります。「備え」とは、「非常持ち出し袋」の準備だけでなく、しつけをはじめとする日頃の生活全般に関わってきます。現在、日本でペットと暮らしている世帯率は、2割程度に過ぎません。残りの8割がすべて動物嫌いというわけではありませんが、よい感情を持っていない人もいるということも自覚しておくべきです。周囲に迷惑をかけないために、そして、愛犬の命を守るためにも、しつけは欠かせません。さらに飼い主さんは責任ある行動を取ることが大切です。

ペットを一緒に助けることが本当の被災者支援になる

私は熊本地震を通じて、災害時のペットの存在の大きさを確信し、「ペット同伴避難所」開設の必要性を訴える署名活動を行いました。全国から3万4000人の賛同者を集めて国会に提出しました。環境省や自治体からもヒアリングに来てくださり、一歩前進できたのではないかと思います。「熊本県内ではすべての仮設住宅でのペット飼育が認められるなど、熊本地震が被害動物の在り方を考える大きなきっかけになっているのは確かです。

環境省は熊本地震を踏まえて、それまでのガイドラインを見直し、2018年2月に「人とペットの災害対策ガイドライン」を策定しました。その中では、私が推奨する、ペットと一緒にいられる「同伴避難」の徹底には至っていません。しかし、このたびの西日本豪雨の避難所は、ペットと同伴できる施設が数か所作られたようで、徐々に理解が広まってきているのを感じています。

日本では近い将来、南海トラフ地震 や首都直下型地震など、大規模な地震災害がかなり高い確率で起こると予測されています。大都市で広域災害が発生すれば、被害は計り知れません。ひとたび災害が起これば、ペットの問題は良くも悪くも注目されます。ペットは「家族の一員」から「社会の一員」へと認識を転換し、災害支援が行われることが重要です。私も、災害を経験した獣医師として、災害時の人とペットの在り方について伝えていく責任があると強く感じています。

徳田 竜之介 (監修)
出版社 : 小学館 (2018/8/23)、出典:出版社HP