裁判官が答える 裁判のギモン (岩波ブックレット)

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裁判について、Q&Aでよくわかる

現役裁判官とOBで作られたユニークで熱い組織である「日本裁判官ネットワーク」が、裁判の基本を徹底解説しています。基本用語や裁判に対する疑問、離婚や相続などで当事者になった場合の考え方など、Q&A方式で幅広く回答しています。ケースがとても具体的で、初学者にも最適の1冊です。

日本裁判官ネットワーク (著)
出版社 : 岩波書店 (2019/4/6)、出典:出版社HP

目次

はじめに
Q1 裁判所にはどんな種類があって、何回チャレンジできる?
——裁判所の種類と三審制

刑事事件編
Q2 悪いことをした人に、なぜ黙秘権や弁護士を付ける制度があるの?
——黙秘権、国選弁護人制度
Q3 痴漢を疑われたら、逃げた方がいい?
——逮捕・勾留制度
コラム1 「有罪慣れ」は怖いですね
Q4 交通事故を目撃し警察で証言しましたが、裁判所には呼ばれないですね?
——伝聞証拠の意味
Q5 被害者の側に弁護士が付かないのは納得できないのですが?
——被害者参加制度
Q6 裁判員になりたくない、どうすればいい?
——裁判員裁判

民事事件編
Q7 民事裁判の傍聴で内容がさっぱりわからないのですが?
——傍聴人にもわかりやすい民事裁判
コラム2 裁判官も人の子——甘い物にはつい手が伸びて
Q8 裁判官は医者でもないのに、医療過誤を正しく判断できるの?
——専門訴訟
Q9 昔の借金を請求され、時効と思うが、裁判所に行く必要はある?
——当事者主義
Q10 インターネット上での訴訟が実現する?
——民事訴訟のIT化
Q11 裁判で使われる言葉が難しすぎないか?
——裁判用語の難しさ
Q12 裁判に勝ったのにお金が回収できないのはなぜ?
——訴訟と執行の関係

家事事件編
Q13 離婚調停の場に出てきた「調停委員」の身分は?
——家事調停制度
コラム3 当事者からいただいた唯一の記念品
Q14 浮気の慰謝料の相場は?
——離婚の際の慰謝料請求
Q15 離婚に際し子どもの親権を得るには?
——親権の帰属
Q16 認知症の親に代わり、自分が代理人になっても構わない?
——成年後見制度
Q17 親の遺言状が2通、どちらが有効?
——複数の遺言の効力

少年事件編
Q18 少年の悪事に対して、処分が軽いのでは?
——少年事件における保護主義
コラム4 法律用語の不思議(その1) 善意? 悪意?
Q19 少年事件の裁判が見られないのはどうして?
——少年審判の原則非公開

裁判一般編
Q20 担当の裁判官を替えられますか?
——裁判の公平の確保と事件の割り振り
Q21 裁判で宣誓する意味は?
——宣誓の趣旨
コラム5 傍聴人は帽子を脱ぐべき?
Q22 神様でもない裁判官が、真と偽をなぜ判断できるの?
——証明責任
Q23 裁判官は3人で結論を出しているの?
——合議の実情

裁判官編
Q24 裁判官の多忙ぶりはどんなもの?
——裁判官のワークライフバランス
コラム6 法律用語の不思議(その2)「原告と被告とを離婚する」?
Q25 裁判官は転勤を拒否できますか?
——裁判官の身分保障
Q26 裁判官はSNSを使って発信していいの?
——裁判官の市民的自由
Q27 意見が異なる場合、判決は「上」の判断?
——裁判官の独立

まとめ編
Q28 裁判は良くなってきているのですか?
——【座談会】裁判の変化について
おわりに

日本裁判官ネットワーク (著)
出版社 : 岩波書店 (2019/4/6)、出典:出版社HP

はじめに

「悪いことをした人に、なぜ黙秘権があって、国の費用で弁護士を付けられるの?」

この質問(本書のQ2)に、「そうそう」と思われる方は結構多いと思います。裁判官で構成し、元裁判官がサポーターを務める私たち「日本裁判官ネットワーク」は、市民の皆さんとの交流を行う中で、そうした疑問の数々に接してきました。インターネット等を通じて情報が氾濫している世の中ですが、裁判についての正確な基礎知識は、まだまだ広がってはいないのではないでしょうか。そのうえ、裁判には難しくて堅苦しく、近寄りがたいイメージがあるため、すすんで正確な知識を得ようという思いも生じにくいのではないかと感じます。

プレーを理解するためには

裁判には、刑事裁判の有罪・無罪、民事裁判の請求認容・棄却をはじめとして、「勝敗」があります。誤解を恐れずに言いますと、裁判と同様に勝敗のあるスポーツや囲碁・将棋等は、ある程度ルールや仕組み、例えばサッカーのオフサイド等を理解していないと、試合を十分楽しむことはできないでしょう。逆に、それらを正確に理解していれば、試合を楽しめるだけでなく、巧みなプレーにもっと感動し、それを行うプレーヤーを応援したくなるのではないでしょうか。そして、そこでの審判の役割が実はとても大きいことも理解できるでしょう。

極刑(死刑)も制度化されている裁判の場合は、スポーツ等とは異なる厳粛な面がありますが、似た面があることも否定できません。ですので、市民の皆さんに、裁判を十分に理解していただき、裁判のプレーヤーや審判を務める法律家の行動を時には称賛し、時にはたしなめていただくためには、裁判のルールや仕組みを正確に理解していただくことが重要だと思います。また、裁判について目の肥えた市民が増えることは、裁判の質を上げていくことにもつながるでしょう。もちろんプロスポーツ等とは異なり、裁判の場合は、どなたでも、例えば交通事故や相続争い等で、裁判の当事者になる可能性があります。激烈な言動が横行する現代においては、冷静に立証と理を尽くして結論を出していく裁判手続は、皆さんの権利保障や紛争解決のために特に重要です。裁判についての正確な基礎知識を持っていただくことは、裁判をより使いやすく、より身近なものにするでしょう。

そんなことを考えて、私たち日本裁判官ネットワークは、市民の皆さんが素朴に抱く裁判の「ギモン」に率直に答えて、裁判の基礎知識をお伝えすべく、このブックレットを編みました。現役裁判官の執筆のほか、老練な元裁判官にもサポーターとして執筆協力をしてもらっています。

ぜひ司法に希望を持って下さい

私たちは、一九九九(平成一一)年に始まった司法制度改革の意義を正しく評価し、同法に希望があることを、若い法律家や学生等に伝えるため、二〇一六(平成二八)年一一月に『希望の裁判所』(LABO刊)という本を出版しました。このブックレットには、その市民版という性格もあります。本書によって同法を少しでも理解していただき、裁判が司法制度改革等を通して変化してきていることを知っていただき、同法に希望が持てると思っていただければ幸いです。

日本裁判官ネットワーク (著)
出版社 : 岩波書店 (2019/4/6)、出典:出版社HP