水泳選手のためのコンディショニングトレーニング 《下半身・応用編》

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水泳の下半身のトレーニング方法を学ぶ

水泳選手向けに特化したストレッチ・トレーニング本の、下半身・応用編です。本書は、骨・筋肉のメカニズムに基づいたストレッチ・トレーニングが掲載されています。巻末には目的別に組まれたトレーニングメニューも掲載されているので、自分で取り入れやすいです。基礎・上半身編との併読もおすすめです。

小泉 圭介 (著)
出版社 : ベースボール・マガジン社 (2019/9/19)、出典:出版社HP

はじめに

水泳選手の身体は泳ぎに順応していく
筆者がジュニア選手の担当だった10数年前、何人ものコーチが、「反張膝の選手は速くなる」といって、反張膝の選手を探して選手コースにスカウトしていた。また、反張膝になればキックが速くなるといって、膝をギューギューと反らせるように(もはやストレッチの域を超えて)押していたコーチもたくさんいたことを覚えている。そうしたシーンを見るにつけ、理学療法士として「泳速が速い選手の足首や膝は本当に柔らかいのか?」という疑問を持つようになり、連盟強化合宿での身体測定にて、競泳選手の身体特性の調査を行った。結果としては、小学生のトップ選手であっても特別に関節が柔らかい選手が多いわけではなく、反張膝や足首の柔らかさも大きな数値は示さなかった。
しかし数年後、同じ選手を対象にナショナル合宿で測定した数値を比較したところ、トップ選手の膝は小学生の頃よりもはるかに反張膝になり、足首も非常に柔らかくなっていた。性別の違いによる特性もあるので単純に結論づけられないが、現時点での仮説としては、泳速が速い選手は水を正確につかみ、足の甲でも水をしっかりとらえているため、水圧が毎日関節にかかり続けることから、足首や膝が柔らかく変化するのではないかと考えている。

水泳に特化することで生じるリスク
このような調査研究結果は他にも発表されており、いずれも『関節の柔軟性は成長とともに大きくなる』という同様の結果を示している。これらの結果から考えると、足や膝が『柔らかいから速い」というわけではなく、逆に『速いから柔らかくなる』といったほうが正しいのかもしれない。つまり、選手の身体のほうに、競技特性に順応していく能力があるということになる。
しかし、水中で行う泳動作にとっては好ましい変化が、必ずしも陸上での動作にも好影響を及ぼすわけではないというケースもある。泳ぐことに身体が特化していく過程で、徐々に走るのが苦手になる――という可能性もあるのだ。また、水泳におけるスタート動作とターン動作は、壁や台といった『支点』がある動きだ。これはむしろ、陸上動作といっていい。泳動作がうまくてもスタート・ターンはうまくない選手が多いのは、このような身体能力の違いに基づくのではないかとも考えられる。

人間の運動はバリエーションが重要
この下巻では、特に股関節の解説を多く取り上げている。もともと日本人の股関節筋力は弱いとされているが、重力の刺激が少ない水中環境では殿筋群が使われにくいことから、より股関節筋力が低下するリスクが高くなる。つまり、泳いでばかりいると、筋力のアンバランスからさまざまな股関節の不具合が生じる可能性がある。
こうした水中での不具合は、陸上トレーニングを継続することで予防することが可能になる。しっかり泳ぐためには、陸上での準備が不可欠なのだ。
体幹部のトレーニングでも、同様のことがいえる。『水泳選手は腹筋を鍛えることが重要』といわれて久しいが、腹筋の筋力によって泳いでいるわけではない。
泳ぐ推進力を生み出すのは、腕と脚の筋力だ。しかし、腹筋がしっかり働いて体幹が固定されないと、腕と脚の筋力が効率よく発揮されない。腹筋は泳ぐためのメインの筋力ではないが、腹筋がきちんと働かないと速く上手に泳げない。
このように、人間の動きにはさまざまなバリエーションがあり、多様性が特徴といえる。よって、ある特定の動きばかりを行うのは、望ましくない。
トレーニングも同様で、偏った内容や部位ばかりを行うと、逆に不具合が生じる可能性が高くなる。いろいろな動き、いろいろなトレーニングを行うことで、ようやく身体をスムーズに動かすことができる。
本書では、可能な限り多様なトレーニング例を取り上げている。すべてを行う必要はないが、なるべく苦手な種目ほど、根気強く継続して取り組んでほしい。不得意なことをしっかり行うことが、良いコンディショニングのために必要なことなのだから。

小泉 圭介 (著)
出版社 : ベースボール・マガジン社 (2019/9/19)、出典:出版社HP

目次

はじめに
本書の使い方

第1章 下半身のメカニズム(泳動作)
01 股関節の仕組みと働き
02 大殿筋の働き
03 キック動作と腹筋の関係
04 縫工筋のストレッチ
05 腸腰筋のエクササイズ
06 ドルフィン・バサロ解説
Column① ローカル筋で骨盤を安定させる重要性

第2章 下半身トレーニング 基礎編(股関節・体幹)
07 大殿筋トレーニング①
08 大殿筋トレーニング②
09 バックブリッジ① 両脚
10 バックブリッジ② 片脚
11 サイドブリッジ (外側)
12 サイドブリッジ (内側)
13 フロントブリッジ (肘一足背)
14 ダンゴ虫エクササイズ
15 バーチカルトランク・バーチカルレッグ
16 サスペンショントレーニング① 内側ブリッジ
17 サスペンショントレーニング② 内側ブリッジ前後スイング
18 サスペンショントレーニング③ バックブリッジ上下スイング
19 サスペンショントレーニング④ バックブリッジ左右スイング
20 サスペンショントレーニング⑤ フロントブリッジ上下スイング
21 サスペンショントレーニング⑥ フロントブリッジ内外スイング
22 逆立ちバタ足
Column② 単関節筋と多関節筋・近位抵抗と遠位抵抗

第3章 身体のメカニズム (スタート・ターン)
23 スタート動作と股関節の関係
24 スタート動作のポイントとトレーニング
25 ターン動作 (クイックターン・タッチターン)
26 背中の連動 (アウターユニット後斜系)
Column③ 内転優位と外転優位 股関節トレーニングの考え方

第4章 下半身トレーニング応用編(荷重系)
27 ワイドスクワット (棒サポート)
28 ワイドスクワット
29 内転筋ストレッチ
30 ワイドスクワット&ツイスト
31 スクワット
32 オーバーヘッドスクワット
33 オーバーヘッドスクワット (サスペンション)
34 スプリットスクワット
35 レッグランジ
36 ランジツイスト
37 サイドステップ
38 片脚デッドリフト
39 壁プッシュ
40 バランスボールプッシュ
41 前転→ストリームラインジャンプ
42 雑巾ダッシュー
Column④ 発達とトレーニング

第5章 全身トレーニング 応用編(腕・脚と体幹の連動)
43 全身の連動と協調性トレーニングの理解
44 アンバランス (ストレッチポール)
45 サイドアーク① 膝立ち
46 サイドアーク② 立位
17 サイドアーク③ レッグランジ
48 V字腹筋
49 ハンギングニーアップ・ハンギングレッグレイズ
50 キャタピラー
51 ローリング
52 四股踏み
53 キャッチポジションでのスタビトレーニング① 前後スライド
54 キャッチポジションでのスタビトレーニング② 立位前後
55 しゃくとり虫
56 爬虫類の動きと赤ちゃんのずりばいのメカニズム
57 ほふく前進
58 ワニ歩き
59 入水前の体操メニュー

(付録)目的別トレーニング構成例
1. ストリームライン姿勢を滑らかにしたい
2. キャッチで水をしっかりつかみたい
3. ブレストキックをしっかり打ち込みたい
4. スタートを改善したい
5. ターン動作を速く
6. ボディーポジションを高くしたい

おわりに
著者紹介

撮影協力:株式会社 Perform Better Japan

小泉 圭介 (著)
出版社 : ベースボール・マガジン社 (2019/9/19)、出典:出版社HP

本書の使い方

本書では、水泳の競技力を向上させるためのストレッチやトレーニングの方法を、実演写真やイラストを用いてわかりやすく説明している。また単に方法を紹介するだけでなく、身体の構造や動き方の特徴、水泳で必要な要素も合わせて解説しており、競技における動作をイメージしながらメニューを理解することができる。なお、第1章では身体の仕組みに関する概論、第2章と第3章では主にストレッチをテーマに取り上げ、第4章と第5章ではトレーニング解説というように、段階的にステップアップしていく構成になっている。

写真解説
ストレッチ、トレーニングの姿勢や動きを、写真で丁寧に解説。さまざまな角度からポイントや注意点が示されており、説明文と合わせてイメージすることで、実際に行う時の正しいやり方やNG例を理解できる。

タイトルおよびテーマ
メニューの内容とテーマが一目でわかる

アドバイス
項目ごとに注意点や狙い、重視すべき点をまとめたアドバイスを掲載。取り組む際の参 考になる。

矢印および注意書き
→赤の矢印および新学=正しいやり方のポイント
→青の矢印および青字=間違ったやり方のポイント
— 点線=骨格を示すライン
> スイングを示す矢印
ねじれを示す矢印

小泉 圭介 (著)
出版社 : ベースボール・マガジン社 (2019/9/19)、出典:出版社HP