発酵の技法 ―世界の発酵食品と発酵文化の探求 (Make:Japan Books)

【最新 – 発酵を深く知るためのおすすめ本 – 身近な食品から工業・医療での活用まで】も確認する

発酵食品の製法を解説

キムチ、ヨーグルト、ビールなど発酵食品は世界中で広く生産されています。本書は、世界中で伝えられてきた発酵食品の製法を、野菜、ミルク、穀物、豆類、肉、魚など食材別に解説しています。本書を読むことで、発酵食品の世界の魅力に気づき、発酵食品づくりのコミュニティに入り込むことができるでしょう。

Sandor Ellix Katz (著), 水原 文 (翻訳)
出版社 : オライリージャパン (2016/4/23)、出典:出版社HP

推薦の言葉 Praise for The Art of Fermentation

『発酵の技法』は、単なる料理本以上のものだ。……確かにこの本は発酵食品の作り方を教えてくれるが、さらに大事なその意味や、自分でザワークラウトを作るという平凡で実用的な行為が世界とのかかわりそのものを表現している理由も教えてくれる。そしてその「世界」は1つではなく、菌類やバクテリアの世界、あなたの生活しているコミュニティ、そしてわれわれの身体や大地の健康をむしばんでいる工業化された食産業システムなどが重層的に重なり合っていることもわかる。
たかがザワークラウトのかめにしては、ご大層な物言いだと思えるかもしれない。しかしこの本のSandor Katzの最大の功績は、読者にその真実を悟らせることにある。自分で食品を発酵させることは、現在まるで画一化された巨大な芝生のように地球上を覆い尽くそうとしている風味や食の経験の均質化に対し、五感を通して雄弁に異議を申し立てることだ。そしてそれは、唯々諾々と必需品を消費してほしいと我々全員に望む経済からの独立を宣言し、我々自身やその暮らしている土地を表現するユニークな産品の作り手となることでもある。
―Michael Pollan、本書「序文」より

『発酵の技法』は非凡な本であり、感銘深い情熱と学識の賜物でもあります。あらゆる種類の発酵食品作りの基本を説明しているため、誰でもこの本を読めばどんな発酵食品のレシピにも問題なく対応できる(そして発酵にまつわる心配事を解消できる)ようになるでしょう。私はとても感銘を受けましたし、すぐにでも作り始めようと思っています。Sandor Katz さん、ありがとう。
―Deborah Madison
『Vegetarian Cooking for Everyone』や『Local Flavors』の著者

Sandor Katz が発酵の王であることを自ら証明したこの新著は、非常に大部だが読みやすく、世界中の発酵の知恵やテクニックの集大成となっている。食品と栄養に興味を持つ人なら、ぜひ本棚に揃えておきたい一冊だ。
―Sally Fallon Morell
Weston A. Price財団代表

Sandor Katzは、これまでにもすでに20世紀の誰よりも多くの人を発酵食品の多様性と美味しさに目覚めさせてきた。いったん彼のような天才の新たな視点から世界を眺めれば、それまで住んでいた退屈な世界へ戻ることはできなくなる。『発酵の技法』は、豊富な知識と実践的な応用に満ち溢れた驚異的な本だ。この本は、今後千年の古典となるだろう。
―Gary Paul Nabhan
『Renewing America’s Food Traditions』や『Desert Terroir』の著者

『発酵の技法』は、Sandor Katzが発酵に関して抱き続けた驚くべき情熱を目覚ましい形で証明している。歴史や科学、そしてシンプルで実用的な知恵から織りなされるこの本は、発酵から生み出される飲食物の驚異的な多様性をめぐる、はるかな旅へと読者を連れ出してくれる。
―Charlie Bamforth教授
カリフォルニア大学デービス校食品科学技術学部教授、『Food, Fermentation and Micro-organisms』の著者

これはもうとにかく、発酵については最高の本だ。包括的であり、学術的であり、そして驚くほど深みがある。Sandor Katzはますます数を増しつつある発酵愛好者集団の導師であり、読者は善玉バクテリアのスリリングな世界が我々の周囲一面に広がっていることに気付かされるだろう。バクテリアはピクルスやチーズやパンやビールを作るだけでなく、我々自身の存在も支えてくれているのであり、敬意と共に尊重されるべきものだ。
―Ken Albala
食品歴史学者、『The Lost Arts of Hearth and Home: The Luddite’s Guide to Domestic Self-Sufficiency』の共著者

『発酵の技法』は我々個人の根本的な健康に訴えかける本であり、野生酵母や培養酵母、そしてまだよくわかっていない微生物の説明には、本当に興味がそそられる。理論や科学や実際の観察に基づいてSandor Katzがこの本のページに振りまいた数多くの点を、読者は自分自身の経験と興味に従って線で結んで行くことになる。彼はこの本に、すべての人にとって大事なことを書いている。我々が微生物と呼ぶこの小さな生き物と戦うにしても平和に共存するにしても、それが有機体とみなされるコミュニティのビルディングブロックであることは認めざるを得ない。読者はページをめくるごとに、この本当に魅力的な本に埋め込まれた自分自身の個人的な物語を発見して行くことになるだろう。
―Charlie Papazian
『The Complete Joy of Homebrewing』の著者

この新しい本でSandor Katzは、人類にとって最初のバイオテクノロジーであり地球上の最初のエネルギー源であった発酵の本質をとらえ、その科学的、歴史的、そして実用的な情報を豊富に提供している。果物やはちみつ、ミルク、あらゆる種類のデンプン質の穀物やイモ類や茎、さらには魚や肉に至るまで、自然発酵食品の神秘と感覚的な魅力が明らかにされ、また美食家とMakerの両方にとって役立つように生き生きと明快に描写されている。
―Patrick E. McGovern
ペンシルバニア大学博物館生体分子考古学研究所科学部長、『Ancient Wine』と『Uncorking the Past』の著者

私の父Joe Katzへ。父のお気に入りの話題は家庭菜園で取れる野菜と、それを使って私の義理の母Pattieや父が作る料理のことだった。どんぐりは木から遠くには落ちないという。この本を父と、私の人生を導き示唆を与えてくれた大勢の先生、先達、そして先輩たちに捧げる。

Sandor Ellix Katz (著), 水原 文 (翻訳)
出版社 : オライリージャパン (2016/4/23)、出典:出版社HP

目次 Contents

推薦の言葉 (Michael Pollan)
序文
はじめに

1章 共進化力としての発酵
バクテリア:我々の祖先、そして共進化パートナー
発酵と文化
発酵と共進化
自然現象としての発酵
バクテリアとの戦い
生命愛意識の涵養

2章 発酵の現実的なメリット
発酵の保存効果とその限界
発酵食品の健康効果
省エネ戦略としての発酵
発酵の変わった風味

3章 基本的な概念と機材
培地と微生物群落
天然発酵と培養発酵
選択的環境
群落の発達と遷移
清潔と滅菌
クロスコンタミネーション


暗闇と日光
発酵容器
ジャーを使う方法
かめを使う方法
かめのふた
さまざまなかめのデザイン
金属容器
プラスチック容器
木製容器
カノア
発酵容器として使われるヒョウタンなどの果実
バスケット
穴埋め発酵
漬物器
野菜のスライサー
野菜叩き
アルコール作り用の容器とエアロック
サイフォンとラッキング
びんとびん詰め
比重計
温度計
シードルやブドウの圧搾機
穀物ミル(粉砕機)
蒸し器
保温箱(インキュベーションチャンバー)
熟成室
温度コントローラー
マスキングテープとマーカー

4章 糖を発酵させてアルコールを作る:ミード、ワイン、そしてシードル
酵母
シンプルなミード
植物を加えたミード:タッジとバルチェ
フルーツや花を加えたミード
シンプルな短期間発酵と、ドライでエージングしたもの
連続スターター法
ハーブエキスミード
ブドウからワインを作る
シードルとペリー
砂糖ベースのカントリーワイン
その他のシロップから作る
アルコール飲料
発酵フルーツサラダ
植物の樹液を発酵させる
発泡性のアルコール飲料
複数の原料を使う伝統
トラブルシューティング

5章 野菜(と一部の果物)を発酵させる
乳酸菌
ビタミンCと野菜発酵食品
発酵野菜食品(Kraut-Chi)の基本
刻む
塩:乾塩法と湿塩法
野菜を叩いたり絞ったりする(あるいは塩水に浸す)
詰め込む
発酵期間の長さ
表面のカビと酵母
どの野菜を発酵させるか
スパイス
ザワークラウト
キムチ
中国のピクルス
インドのピクルス
ホットソース、薬味、サルサ、チャツネなどの調味料を発酵させる
ヒマラヤのグンドゥルックとシンキ
塩を使わない発酵野菜について
湿塩法
サワーピクルス
キノコの塩漬け
オリーブの塩漬け
ディリービーンズ
フルーツの乳酸菌発酵
kawal
野菜発酵食品にスターターを加える
液状の野菜発酵食品: ビートクワスとレタスクワス、発酵キャベツジュース、kaanji,そしてŞalgam Suyu
漬物:日本のピクルス
発酵野菜を料理に使う
ラペソー(発酵させた茶葉)
トラブルシューティング

6章 発酵を利用して酸味のある強壮飲料を作る
発泡
ジンジャーバグを使ってジンジャービアを作る
クワス
テパチェとアルア
モービー
ウォーターケフィア(別名ティビコス)
ホエーをスターターとして使う
ルーツビア
プルー
スイートポテトフライ
独創的なソーダのフレーバー
smreka
ノニ
コンブチャ:万能薬、それとも危険?
コンブチャの作り方
コンブチャのキャンディー:ナタ
ジュン

シュラブ
トラブルシューティング

7章 ミルクを発酵させる
生乳の微生物学と政治学
シンプルな凝乳
ヨーグルト
ケフィア
ビーリ
その他の乳発酵食品
植物由来の乳発酵微生物
クレームフレーシュ、バター、そしてバターミルク
ホエー
チーズ
工場でのチーズ作りと農場でのチーズ作り
乳製品以外のミルク、ヨーグルト、
そしてチーズ
トラブルシューティング

8章 穀物とイモ類を発酵させる
刻み込まれたパターン
穀物を水に浸ける
発芽させる
リジュベラック
オートミールを発酵させる
グリッツ/ポレンタ
アトーレ・アグリオ
雑穀粉
ソルガム粥
米粥
古いパンの粥
ジャガイモの粥
ポイ
キャッサバ
南アメリカのキャッサバのパン
ジャガイモを発酵させる
サワー種のはじめ方とメンテナンス
フラットブレッド/パンケーキ
サワー種パン
酸っぱいライ麦のおかゆスープ(ジュル)
シエラライス
ホッパー/アッパム
キシュクとKeckek el Fougara
その他の食品と一緒に穀物を発酵させる
余った穀物(イモ類)を発酵させる
トラブルシューティング

9章
ビールなど穀物ベースのアルコール飲料を発酵させる
天然酵母ビール
tesgüino
ソルガムビール
メリッサ(スーダンの煎りソルガムビール)
アジアの米から作る酒
基本的なライスビール
サツマイモで作るマッコリ
雑穀から作るトンバ
日本酒
大麦のモルト処理
シンプルな不透明大麦ビール
キャッサバとジャガイモのビールホップを越えて:その他のハーブや植物材料を添加したビール
蒸留

10章 カビを培養する
カビを育てる保温箱(麹室)
テンペを作る
テンペを使った料理
テンペの胞子を植え継ぐ
麹を作る
甘酒
植物由来のカビ培養物
トラブルシューティング

11章 豆類や種子、ナッツを発酵させる
種子やナッツを発酵させたチーズやパテ、そしてミルク
ドングリ
ココナッツオイル
カカオやコーヒー、そしてバニラの発酵
豆の自然発酵
イドリー/ドーサ/ドークラ/カマン
アカラジェ(アフロブラジリアンの、発酵させた黒目豆のフリッター)
大豆
みそ
みその使い方
しょうゆ
発酵黒豆:浜納豆と豆鼓
納豆
ダワダワとそれに関連する
西アフリカの発酵種子調味料
豆腐を発酵させる
トラブルシューティング

12章 肉、魚、卵を発酵させる
乾燥、塩蔵、燻煙、そして熟成
乾塩熟成法の基本
湿塩熟成法:コーンビーフと牛タン
粒塩熟成ソーセージ
魚醤
魚の塩漬け
魚を穀物と発酵させる
フィリピンのburong isda と balao-balao
日本の馴れずし
ホエー、ザワークラウト、キムチの中で魚や肉を発酵させる
卵を発酵させる
肝油
魚や肉の穴埋め発酵
ハイミート
肉と魚の倫理

13章 事業化を考えている人のために
一貫性
最初のステップ
規模拡大
条例、規制、ライセンス
異なるビジネスモデル:農場ベースの事業、多角化、そして専門化

14章 食品以外への発酵の応用
農業
バイオレメディエーション
廃棄物処理
遺体の処理
繊維や建築への利用
エネルギー生産
発酵の医療への応用
スキンケアやアロマテラピーへの発酵の利用
発酵アート

エピローグ:文化復興主義者のマニフェスト
参考資料
用語集
参考文献に関する注釈
引用書籍
原注
索引
訳者あとがき

Sandor Ellix Katz (著), 水原 文 (翻訳)
出版社 : オライリージャパン (2016/4/23)、出典:出版社HP

序文 Foreword

本書『発酵の技法(原題:The Art of Fermentation)』は、本当に示唆に富む本だ。この本を読んで私は今までまったくしなかったこと、おそらくこの本を読まなかったら絶対にしなかったであろうことをし始めた。実際Katzの本のせいで私のキッチンカウンターや地下室には、メイソンジャーや瀬戸物のかめ、ジャムびんやさまざまなびん、そしてこの世の物とも思えない色に光り輝く透明なカルボイなどが増える一方だ。Katzの発酵の教えを受け入れてからというもの、私は大きなかめでザワークラウトやキムチを、メイソンジャーでキュウリやニンジンやビートやカリフラワーやタマネギやパプリカやヒラタマネギのピクルスを、ジャムびんでヨーグルトやケフィアを、そして5ガロンのカルボイでビールやミードを作り始めた。これらはすべて生きていることに、私は定期的に気づかされている。夜、寝静まった家の中で、気持ちよさそうに発酵が進んでいるのが聞こえる。その音を聞くと、とても心が安らぐようになった。微生物たちが幸せであることを意味しているからだ。

私は今まで料理本を読むことはあっても、それに載っている料理を作ることはなかった。『発酵の技法』は、どこが違ったのだろうか。ひとつの理由として、Sandor Katzが情熱を込めて書いている発酵の変成パワーの説明があまりにも説得力があるので、どうなるか試してみたくなってしまうからだ。私が小学生のころ、酢と重曹を混ぜるとすごいことが起こるよ、と先生が教えてくれた時の気持ちに似ている。微生物による変成作用は実に驚くべきものだし、その結果として平凡な食材から我々人間ではなくバクテリアや菌類が作り出す、新たな風味や興味深い食感なども多くの場合、驚くべきものだ。

Katzの本が、今まで存在さえ知らなかったもの(クワス? シュラブ?)を作るレシピを試す気にさせてくれるもうひとつの理由は、彼が決して威圧的な態度を取らないことだ。それとは反対に、『発酵の技法』は背中を押してくれる料理本(そしてこれから説明するように、単なる料理本以上のもの)だ。この本はさまざまな微生物の神秘に通じているが、Katzにはそれをわかりやすく説明してくれる才能がある。ザワークラウトづくりは難しくない、こうすればだれでもできるんだよ、と彼は請合ってくれる。でも、もし失敗してしまったら?ザワークラウトに変なカビが生えてきたら?パニックになる必要はない。カビを取り除いて、その下のザワークラウトを賞味しょう。

しかしこの態度の中には、Sandor Katzがキッチンで見せる気楽な表情以上のものが隠されている。これは、政治運動でもあるのだ。『発酵の技法』は、単なる料理本にはとどまらない。あるいは、『弓と禅』が弓矢について説明しているように、この本は料理について説明しているのだとも言えるだろう。確かにこの本は発酵食品の作り方を教えてくれるが、さらに大事なその意味や、自分でザワークラウトを作るという平凡で実用的な行為が世界とのかかわりそのものを表現している理由も教えてくれる。そしてその「世界」はひとつではなく、菌類やバクテリアの世界、あなたの生活しているコミュニティ、そしてわれわれの身体や大地の健康をむしばんでいる工業化された食産業システムなどが重層的に重なり合っていることもわかる。

たかがザワークラウトのかめにしては、ご大層な物言いだと思えるかもしれない。しかしこの本のSandor Katzの最大の功績は、読者にその真実を悟らせることにある。自分で食品を発酵させることは、現在まるで画一化された巨大な芝生のように地球上を覆い尽くそうとしている風味や食の経験の均質化に対し、五感を通して雄弁に異議を申し立てることだ。そしてそれは、唯々諾々と必需品を消費してほしいと我々全員に望む経済からの独立を宣言し、我々自身やその暮らしている土地を表現するユニークな産品の作り手となることでもある。あなたの作るザワークラウトは、私や他の誰のものとも違っているからだ。

韓国・朝鮮の人々は発酵について深い知識を持っており、さまざまな食品の「舌の味」と「手の味」とを区別している。「舌の味」は分子と味蕾との単純な接触によるもので、食品科学者や食品会社にも作り出せる安っぽい単純な風味はこちらに含まれる。「手の味」は、それを作った人の気持ちや愛情までもが刻み込まれた、はるかに複雑な食品の経験だ。あなたが自分で作るザワークラウトには、「手の味」が込められていることだろう。

そしてあなたはきっと、それをたくさん作って人にあげることになる。自分で発酵食品を作る楽しさのひとつは、貨幣経済の枠組みを超えて人と分かち合うことだ。今でも私はビールやミードのびんを他の人と交換し、メイソンジャーの物々交換に定期的に参加している。メイソンジャーにザワークラウトが詰め込まれて自宅を出ると、他の人のキムチやピクルスが詰め込まれて戻ってくるわけだ。発酵食品の世界にのめりこむことは、発酵食品作りのコミュニティに入り込み、面白くてちょっと変わった気前の良い人たちと仲間になることでもある。

しかしもちろん、『発酵の技法』がパスポートやビザのように役立つコミュニティは他にもある。それは我々の周囲や体内のいたるところに存在する、菌類とバクテリアの目に見えないコミュニティだ。この本に隠されたテーマがあるとすれば(きっとあるはずだ)、それは生物学者リン・マーギュリス(Lynn Margulis)が「ミクロコスモス」と呼んだものと我々との関係を再認識させてくれることだ。1世紀以上前にルイ・パスツールが病気と微生物の関係を発見して以来、ほとんどの人はバクテリアとの臨戦態勢にあると感じている。我々は子どもに抗生物質を投与し、微生物となるべく距離を取り、そして環境を除菌しようと努めてきた。我々はPurell(除菌剤の商品名)の時代に生きている。だが生物学者たちは、バクテリアとの戦いは無益なだけ(バクテリアは我々より速く進化するので、必ず勝つ)でなく、非生産的でもあることを認めている。

抗生物質の乱用は、やっつけたバクテリアと同様に致死率の高い耐性菌を生み出している。これらの薬品が、バクテリアもその食物(別名、食物繊維)も存在しない加工食品主体の食生活と共に、深刻な形で我々の腸内微生物生態系へ変調を引き起こしてきたことは理解され始めたばかりだ。このことは、我々の健康上の問題の多くを説明してくれるかもしれない。バクテリアから保護されてきた子どもたちにアレルギーやぜんそくを引き起こす比率が高いことが分かってきた。我々の健康のカギのひとつは、我々の体を共有し我々とともに共進化してきた微生物フローラの健康であることも判明しつつある。そして微生物フローラは、ザワークラウトが本当に大好物のようなのだ。

微生物との戦いにおいて、Sandor Katzは頑固な平和主義者だ。しかし彼は単に戦いを傍観しているわけでもなければ、熱弁をふるうだけでもない。彼はその戦いを終わらそうとしているのだ。ポストパスツール主義者のKatzは我々に、ミクロコスモスとの関係の条件を再交渉するよう、促している。そして『発酵の技法』は、ザワークラウトのかめごとに、その取り扱いを正確に示してくれる雄弁で実用的な宣言なのだ。まさに活発な培養微生物のように、この本が数多くの新たな発酵食品愛好家を生み出すことを、私は確信している。いつ始めても、早すぎることはない。さあ、パーティーを楽しもう。

2011年12月22日
マイケル・ポーラン(Michael Pollan)

Sandor Ellix Katz (著), 水原 文 (翻訳)
出版社 : オライリージャパン (2016/4/23)、出典:出版社HP

はじめに Introduction

ピクルス好きのニューヨーク市の子どもだった私は、そのぱりぱりとした美味しいにんにく風味の酸っぱいピクルスが、私をこんな途方もない発見と探求の旅に連れて行ってくれることになるとは夢にも思わなかった。実際、ピクルスだけでなく、パン、チーズ、ヨーグルト、サワークリーム、サラミ、酢、しょうゆ、チョコレート、コーヒー、そしてビールやワインなどの発酵産物は私の家族の食生活で主要な地位を占めていた(ほとんどとは言えないかもしれないが、多くの人と同様に)のだが、そのことが会話に上ることはほとんどなかった。しかし私が人生でさまざまな栄養学的なアイデアや食生活の実験を試すようになると、発酵リビングフードに含まれる微生物が消化を助けることを学習し、健康を増進する微生物のパワーを実感するようになった。そして家庭菜園で取れた大量のキャベツやラディッシュをどうしようかと悩んでいた時、ザワークラウトが私を呼び寄せたのだ。その付き合いは今でも続いている。

私が最初にザワークラウト作りを教えたSequatchie Valley Instituteの1999年のワークショップで、食物を冷蔵せずに寝かせることに対して、ものすごい恐怖が我々の文化に存在することを知った。現代では大部分の人が、微生物は危険な敵であって冷蔵庫は家庭の必需品だ、と教えられて育ってきた。食物を冷蔵せずに置き微生物の成長を促すという考えは、危険や病気、さらには死といった恐怖心を呼び起こす。「正しい微生物が増えているかどうか、どうやったらわかるんですか?」というのはよく聞く質問だ。多くの人は微生物による変成作用を、安全に行うためには広範囲の知識とコントロールが必要な、したがって専門家に任せるべき特殊技能だと思い込んでいる。

大部分の食物や飲料の発酵プロセスは人類の歴史の黎明期から行われてきた古代の儀式だったが、今ではそのほとんどが工場での生産に委ねられている。発酵は、我々の家庭やコミュニティから、ほとんど姿を消してしまった。自然現象を観察し試行錯誤しながら条件を操作することにより、何千年にもわたってさまざまな人類文化で発展してきたテクニックは、今では隅っこへ押しやられ、絶滅の危機に瀕している。

ほぼ20年にわたって、私は発酵の王国を探検し続けてきた。微生物学や食品科学を学んだ経験はない。私は単に食品を愛する「大地へ帰れ」主義の何でも屋であり、発酵に取り付かれ、旺盛な食欲と、食物を無駄にしたくないという思いと、そして健康を保ちたいという痛切な願いに突き動かされてきた。私は幅広く実験し、この話題に関して実に多くの人々と話し、またそれに関してたくさん読書をした。実験をすればするほど、そして学べば学ぶほど、私は自分に知識がないことを思い知らされる。伝統的な発酵が日常的に行われていた家庭で育った人々は、はるかに深い知識を身に付けている。また、均質で採算の取れる製品を製造し市場へ送り出すために、商業的な製造業者となって技術を極める人たちもいる。そのような人たちの中には、ビールの醸造、チーズ作り、パン作り、サラミの熟成、あるいは日本酒の醸造について、私よりもはるかに多くの知識を持つ人は数え切れないほどいる。微生物学者や、遺伝や代謝、運動学、群衆動態など、発酵のメカニズムの特定の分野について研究している科学者たちは、私がかろうじて理解しているに過ぎない分野について、あらゆる知識を持っている。

また私には、発酵について百科事典的な知識があるわけでもない。すべての大陸で人々が発酵させて食べているさまざまな食品には無限のバリエーションがあり、漠然としていてどんな人でも十分に理解することはできない。しかし私には、たくさんの素晴らしい物語を聞き、数多くの家庭や職人によって作られた発酵食品を味わってきたという強みがある。私の本の読者やウェブサイトへの訪問者、そしてワークショップの参加者の多くが、自分たちの祖父母の発酵のやり方について話してくれる。移民の人たちは、故国の発酵食品(その多くは、彼らが移住によって失ってしまったものだ)について、熱を込めて語ってくれる。旅人たちは、自分が遭遇した発酵食品について報告してくれる。自分の家族の風変わりな秘伝を漏らしてくれた人もいる。そして、私のような実験好きの人たちは、自分の経験を共有してくれる。また、私は数多くのトラブルシューティングの質問に対処する中で、家庭での発酵に起こりがちな問題について、さまざまな角度から研究し考えさせられることになった。

この本は、私が収集した発酵の知恵を集大成したものだ。あちこちに、たくさんの人の声が反映されている。完全なものにしようと努力はしたが、この本は百科事典には及びもつかないものだ。私の意図は、パターンを明らかにし概念を伝えることによって、読者が発酵を探求し自分の生活に発酵を取り戻すことができるように読者の背中を押すとともに、そのためのツールを提供することにある。私の使命は、この重要な技能に関連したスキルや知恵や情報を共有することであり、また文化的慣習に埋め込まれたこの長年にわたる共進化の関係を途絶えさせずに拡散し、影響を与え合い、そして適応させて行くことが私の願いだ。

発酵に関する私の探求や思考には、ひとつの単語が繰り返し表れる。それがculture(文化あるいは培養)だ。発酵は、さまざまな数多くの形でcultureと関係している。その関係は、微生物学の文脈における文字通りの具体的な意味からはるかに広い言外の意味まで、この重要な単語に埋め込まれた多層的な意味と対応している。ヨーグルトを作るためにミルクに加える(あるいは一般的に発酵を始めるためのスターターは、culture(培養微生物)と呼ばれる。同時に、cultureとは全人類が世代から世代へと引き継いで行くもの、例えば言語、音楽、美術、文学、科学知識、そして信念体系、さらには農業や料理(この両方で発酵は中心的な地位を占めている)テクニックに至るまで、それら全体を指す言葉でもある。

実際、cultureという単語はラテン語のculturaに由来し、これは「耕す、栽培する」という意味の動詞colereの変化形だ。我々は土地を耕し、植物や動物、菌類やバクテリアといった生き物を育てているが、これがcultureの本質だ。我々が食物と栽培への参加を取り戻すことは、culture再興の手段であり、消費者(ユーザー)として飼い慣らされた従属的な役割の束縛を打ち破るために行動し、生産者・創造者となることによって尊厳と力を取り戻すことだ。

これは発酵だけではなく(食物に及ぼす生物学的な作用として発酵は必然的なものだが)、より広く食物一般にかかわることだ。この地球上に存在する生き物は、その食物を通して環境と密接に対話している。しかし、技術の発展した現代社会に生きる人類の場合、この結び付きはほとんど絶たれてしまい、破滅的な結果をもたらしている。裕福な人々は過去には誰も想像できなかったほど多くの食物を選ぶことができ、1人の労働はかつてなかったほど多くの食料を作り出すことができるが、このような現象を生み出した大規模な商業的手法とシステムは、我々の地球を破壊し、我々の健康を破壊し、そして我々の尊厳を奪っている。大半の人々が自分が生存するための食物を、脆弱でグローバルなモノカルチャー、合成化学物質、バイオテクノロジー、そして輸送手段のインフラストラクチャーに完全に依存している。

より調和のとれた生活と高い回復力を獲得するためには、我々自身の積極的な関与が必要だ。つまり、我々の周りに存在し食品に含まれる生命(植物や動物、微生物や菌類)と、我々が依存している水、燃料、素材、ツール、そして輸送手段などの資源を、よりよく理解し、関わって行く方法を見つけ出すことだ。また、文字どおりの意味でも比喩的な意味でも、我々の排泄物について責任を持つことでもある。我々は、よりよい世界を作り出し、よりよく持続可能性のある食物を選択し、資源をより意識し、そして分かち合いに基づいたコミュニティを作り出すことができるはずだ。強靭で回復力のある文化を作り出すためには、スキルや情報や価値が尊重され発信される創造的な領域として行かなくてはならない。文化の繁栄は、消費者の楽園やスポーツ観戦には起こり得ない。日常生活には常に参加型アクションのチャンスが転がっている。それをつかむのだ。

微生物のculture(培養微生物)がコミュニティとしてのみ存在し得るように、より広い意味での人類のculture(文化)にも同じことが言える。食物は、コミュニティを作り出すための最も強力な道具だ。食物は人が座ってしばらく滞在したいという気持ちにさせ、また家族を呼び集める役割をする。新しい隣人や疲れた旅人、そして懐かしい旧友を歓迎する。また、食物を生産するには村落が必要だ。人手が多ければ仕事は楽になり、また食物の生産によって分業や交易が促進されることも多い。そして食物全般よりも、発酵食品(特に飲み物)はコミュニティを作り出すうえで重要な役割を果たす。多くの祭りや儀式、お祝い事には発酵産物(パンやワインなど)が付き物だが、それだけではなく発酵は生の農産物の価値と日持ちを向上させるために古くから存在する重要な食品技術であり、すべてのコミュニティの経済的土台として必須のものでもある。どんな穀物ベースの経済でも、醸造所やパン屋は中心的な役割を担っている。そしてワインは、傷みやすいブドウを保存性の高い誰もが欲しがる品物に変換し、チーズは同様にミルクを変換する。

食物を取り戻すことは、コミュニティを取り戻して労働の専門化と分業化の経済的な結び付きに参加することを意味するが、人類のスケールでは、資源と地域的交換の意識を涵養することになる。地球規模での商品輸送は膨大な量の資源を必要とし、環境に大打撃を与える。エキゾチックな食品はスリリングなごちそうだが、それを中心として生活を組み立てることは不適切であり有害でもある。大部分のグローバル化された食物商品は、森林や多様な自給自足作物を犠牲として、広大なモノカルチャーで栽培される。そしてグローバル貿易のインフラストラクチャーに完全に依存してしまっているため、我々は自然災害(洪水、地震、津波)や資源の枯渇(石油価格の高騰)から政治的混乱(戦争、テロ、組織的犯罪)に至るまで、さまざまな原因による物流の途絶に対して非常に脆弱だ。

発酵は、経済再生の切り札ともなり得る。食物を再び地域化することは、農業の再生を意味するだけでなく、パンやチーズやビールなどの発酵食品をはじめとした日常の飲食物へ農産物を加工し保存するプロセスを再生することでもある。農業に限らず、地域の食物生産に参加することによって、最も基本的な生活の必要を満たすために必要とされる重要な資源を実際に作り出すことができる。この地域的な食物の復興を支援することによって、お金は自分たちのコミュニティへリサイクルされ、生産的な企てに携わる人々を支援し、人々が重要なスキルを獲得するインセンティブを作り出し、燃料消費と汚染の少ない、より新鮮で健康的な食物を供給するために繰り返し使われる。コミュニティの自給率が向上し、それによって力と威厳を取り戻すにつれて、グローバルな交易の脆弱なインフラストラクチャーへの依存を全体として減らすことにもなる。文化の再生は、経済の再生を意味するのだ。

私はどこへ行っても、この復興の文化へ参加しようとしている人々に出会う。これを最も良く示す例は、農業に携わることを選択する若者が増えてきていることだろう。20世紀後半、米国や他の多くの国々で、地域的な食物の自給自足の伝統は消滅しかかっていた。現在ではその伝統は復興しつつある。我々もそれを支援し、参加しようではないか。生産的な地域的食品システムが、グローバル化した食品よりも優れている理由はたくさんある。より新鮮で栄養に富む食品が得られること。地域の勤め口と生産性。燃料やインフラストラクチャーへの依存が減らせること。そして、食品安全の向上だ。我々は、食物を通して大地との結び付きを強め、そして農業のきつい肉体労働をいとわないようにしなくてはならない。そのような仕事を尊重し、報酬を支払い、そして自分でも参加しよう。

復興の文化が目新しいものだというつもりはない。新しい技術に抵抗する頑固者はいつの時代にも存在した。例えば、化学肥料を絶対に使わなかったり、代々受け継いできた伝統的な品種を作り続けたり、トラクターの代わりに今でも馬を使っている際夫。発酵の手法を絶やさずに受け継いできた家族もいる。昔のやり方を守ろうとする人、あるいは近代文化の「利便性」を受け入れようとしない人はいつの時代にもいた。文化は常に変化しながら思いがけない方法で復活を繰り返すものではあるが、文化とは継続性でもある。常にルーツが存在するのだ。

もちろん文化の復興には、都市や郊外を放棄して人里離れた田園の理想郷を目指す必要はない。人々が生活しインフラストラクチャーが存在する場所で、より調和のとれた生活様式を作り出すべきなのであり、それは主に都市や郊外ということになる。「持続可能性」や「回復力」は、それを完全に実現するためにはどこかへ引っ越さなければならないような、遠大な理想ではない。自分ができるやり方で、そして自分が今住んでいる場所で、生活に取り込むことが可能な、そして取り込むべき倫理なのだ。

20年ほど前、私はそれまでずっと住んでいたマンハッタンから、テネシー州の電気もない田園の生活共同体へ引っ越した。そのようにして、とても良かったと思っている。時には劇的な変化が必要なこともあるのだ。私は当時30歳、HIV陽性という検査結果が出たばかりで、想像もできないような大きな変化を求めていた。その時の偶然の出会いが、森の中にあるクィアたちの自営農場生活共同体に私を導いてくれた。個人的には、田園への再定住は実りある選択肢になり得ると誓って言える。しかし田園での生活は、都市での生活よりも本質的に良いものではないし、持続可能でもない。実際、田園生活では出かけるたびに車を使わざるを得ない(私を含めてほとんどの人がそうしているように)。私が生まれ育った都市では、大部分の人は車を持たずに大量輸送機関を利用している。

都市は大部分の人々が居住する場所であり、また都市部やその郊外では驚くべき創造的な活動が数多く行われている。都市農業や自営農場の人気は高まっており、放棄された土地の広がる都市で特に盛んだ。職人による発酵事業の復興は都市を中心として行われている。生産がどこで行われようとも、大きな市場は都市にあるためだ。

現代の著名な都市学者Jane Jacobsが、農業は田園の居留地ではなく都市で発展し広がって行った、という興味深い説を唱えている。著書『都市の経済学』(TBSブリタニカ)の中で彼女は、「都市は田園の経済を基礎として建設された」という通説を退け、これを「農業優越のドグマ」と呼んでいる。そうではなく、都市生活に特有の創造性がイノベーションをはぐくみ、農業を生み出した(そして継続的に再創造し続けている)のだと、彼女は論じている。「新たな種子や動物は、まず都市から都市へと伝播した……。そしてまた植物や動物の栽培も、これまでのところ、都市だけの活動である」。彼女の基本的なアイデアは、さまざまな地域から移り住んできた人々の交差点である交易集落が、偶然による種子の交配や選抜育種のダイナミックな環境を提供し、専門化とテクニックの開発や普及を促す機会をもたらしたというものだ。

Jacobsの理論が正しいとすれば、発酵の習慣もまた都市にルーツがあるはずだ。田園居住者は、種子や文化やノウハウなど、受け継がれた伝統を守ることは多かったかもしれない。しかし、農産物直売所の開設や、地域密着型農業(CSA)として知られるコミュニティによる支援の大部分を提供し、需要を作り出すことによって田園地帯の農業に変革を起こしているのは主に都市の住民だ。都市居住者も、田園居住者と同じように菜園を育てたり、発酵食品を作ったりできる。また、都市に存在する創造力の深い底流や、そこで必然的に発生する相互交流を利用して、変革を生み出すこともできる。その変革には、イノベーションを引き起こす可能性と共に、消滅の危機にある古代の知恵が取り込まれるかもしれない。いずれにせよ、文化の復興は田園の専売特許ではなく、田園を主体として行われるものでもないのだ。

20世紀の発酵の文献の多くは、衛生や安全、栄養そして効率の向上を理由として、小規模なコミュニティベースの家内工業から工場へと生産を移行し、また世代から世代へと受け継がれてきた伝統的なスターター培養微生物を実験室で育成された改良済みの系統に置き換えることを推奨している。「ビールやコカ・コーラ、その他のソフトドリンクなど、西洋の飲み物をバンシー族の人々に紹介しようと試みたところ、彼らはそれを拒絶した」と、1977年に米国農務省発酵研究所のClifford W. HesseltineとHwa L. Wandは報告している。「そのため、バンシー族の村落で行われているビールの醸造法が調査された。現地の醸造法が理解され、醸造に利用される酵母とバクテリアが分離されると、近代的な麦芽製造と醸造機器を用いた工業的な発酵醸造法が開発された。この近代的な発酵プラントで製造されたバンツービールは、すんなりと受け入れられた……衛生的な条件で製造されたこの製品は、均一な品質であり、低価格で販売された」。衛生的な条件で大量生産された安価で均一な製品は、村落で行われていた習慣の文化的・経済的重要性とは関係なく、伝統的な村落で製造された製品よりも明らかに優れたものとして受け取られた。一方で、南アフリカ出身のPaul Barkerは以下のように書いている。「伝統的な発酵食品は、その他多くの習慣と共に、我々アフリカ人の文化から消え去ろうとしている。KFCやコカ・コーラ、そしてリーバイスなどの前に敗北する前に、記録される必要がある」。

私がこの本で目標としたのは、食品とそれに伴う幅広いつながりを取り戻す手段として、我々の家庭やコミュニティに発酵食品を取り戻すことだ。ブドウや大麦や大豆だけではなく、ドングリやカブやソルガム、あるいは手に入ったり作ったりした食品の余りを何でも発酵させてみよう。大規模でグローバルなモノカルチャー発酵食品は実に偉大なものだが、例えばドングリのように自生するものや、テネシーの菜園でのカブやラディッシュなど最小限の世話だけで勝手に育ってくれるものを最大限に活用する方法を学ぶためには、実用的な地域主義を推し進めることも必要だ。

この本は発酵食品の種類と、その具体的な作り方によって章立てしてある。最初の3章は一般的な概論で、進化や実用的な利益、そして基本的な作業の概念の観点から発酵の背景知識を説明している。それ以降の大部分は培地(発酵させる食材)と、主な成分としてアルコールを含むかどうかによって分けてある。最後の3章は、発酵の情熱を生かして企業化しようと考えている人のための情報、食品以外への発酵の応用、そして最後に文化復興主義者のマニフェストとなっている。

プロセスに重点を置いたこの本の中心部では、レシピのフォーマットを取っていない(他の人から提供された一部のコラムを除く)。具体的なレシピよりも、幅広く応用できる概念を伝えたかったからだ。示したのは一般的な比率(または比率の範囲)と、プロセスのパラメータ、そして時には風味付けの提案も含まれている。発酵食品のそれぞれについて、何をすべきかに加えて、その理由を説明しようと試みた。発酵は、我々と他の生物との共同作業なので、料理よりもダイナミックで気まぐれなものになる。このような、時には複雑な関係の場合、その手法と理由のほうが、材料の具体的な量や組み合わせ(レシピや伝統によって必然的に異なる)よりも大事になってくる。私は、読者の皆さんが発酵の手法と理由を理解する手伝いをしたいのだ。それを理解すれば、いたるところにレシピは見つかるし、創造力を発揮してレシピを探求することもできるだろう。

謝辞

私はこの本の唯一の著者であり、また誤りや事実と異なる解釈や見落としなどがあったとすればそれはひとえに私の責任だが、この本を書くプロセスはさまざまな意味で積極的な共同作業であった。発酵に関する私の知識は経験を通して得たものであり、師と仰ぐ特定の人物は存在しないが、インターネット上や実際に会って行われた無数の会話を通して教えられ、導かれた、高度に対話的なものであった。私がこの本を書こうと思い立つに至る知識をもたらしてくれたのは、家庭のレシピや微生物学者の知見や興味深い記事を教えてくれた人々だけではなく、私に質問を投げかけることによって私にさらなる実験や研究や熟考を促してくれた人々でもある。そのおかげで私は発酵についてより深く理解することができ、またよりよく説明できるようになった。私には先生はいないと思っていたが、文字通りこの本を読んでくれている何千人もの読者が私の先生だったのだ。ありがとう。

大勢の人が、自分の得た発酵の知識を私に教えてくれた。一部の人は名前を挙げてこの本に引用させてもらったが、そうできなかった人のほうがはるかに多かった。以下のリストに漏れがあれば、あらかじめお詫びしておきたい。私に情報やアイデア、記事、書籍、画像、そして物語を伝えてくれた、以下の人々に感謝する。 Ken Albala, Dominic Anfiteatro, Nathan Arnold t Padgett Arnold, Erik Augustijins, David Bailey、Eva Bakkeslett、Sam Bett、Aron Boros、Jay Bost、Joost Brand、Brooke Budner、Justin Bullard、Jose Caraballo、Astrid Richard Cook、Crazy Crow、Ed Curran、 Pamela Day、Razzle F. Dazzle、Michelle Dick、Lawrence Diggs、Vinson Doyle、 Fuchsia Dunlap、Betsey Dexter Dyer、Orese Fahey、Ove Fossa、Brooke Gillon、Favero Greenforest、Alexandra Grigorieva、Brett Guadagnino、Eric Haas、Christy Hall、Annie Hauck-Lawson、Lisa Heldke、Sybil Heldke、Kim Hendrickson、Vic Hernandez、Julian Hockings、Bill Keener、Linda Kim、Joel Kimmons、Qilo Kinetichore、David LeBauer、 Jessica Lee、Jessieca Leo、Maggie Levinger、Liz Lipski、Raphael Lyon、Lynn Margulis、 E. Shig Matsukawa、Sarick Matzen、Patrick McGovern、April McGreger、Trae Moore、 Jennifer Moragoda、Sally Fallon Morell、Merril Mushroom、Alan Muskat、Keith Nicholson、Lady Free Now、Sushe Nori、Rick Otten、Caroline Paquita、Jessica Porter、 Elizabeth Povinelli、Lou Preston、Thea Prince、Nathan Pujol と Emily Pujol、Milo Pyne, Lynn Razaitis, Luke Regalbuto, Anthony Richter, Jimmy Rose, Bill Shurtleff, Josh Smotherman、Sterling、Betty Stechmeyer、Aylin Oney Tan、Mary Morgaine Thames、Turtle T. Turlington、Alwyn de Wally、Pamela Warren、Rebekah Wilce、Marc Williams、そして Valencia Wombone。「熟成、発酵、そして燻製」と題する2010年の カンファレンスに私を招待し、論文を発表させてくれたOxford Symposium on Food and Cookeryに、そして会場でさまざまな視点と刺激を与えてくれた他の発表者と参加者に感謝する。

実験や研究や情報の整理に当たっては、素晴らしい協力者の方々に手伝っていただいた。Caleb Grey、Spiky、MaxZine Weinstein、そしてMalory Fosterには特に感謝している。遠くから貴重な研究協力をいただいたことについて、Char Boothと私の生涯の友、Laura Harringtonに感謝したい。この本の執筆初期にじっくり考える時間を与えてくれたことについて、Layard Thompson、Rya Kleinpeter、そしてBenjy Russellに感謝する。私の作成途中の手書き原稿を読んでフィードバックを与えてくれたことについて、Spiky、Silverfang、MaxZine Weinstein、Betty Stechmeyer、Merril Mushroom、そしてHelga Thompsonに感謝したい。Michael Pollanには、この本に序文を寄せてくれたことに感謝する。Chelsea Green Publishingの善良な人々すべて、特に私の素晴らしい編集者、Makenna Goodmanに感謝する。私の代理人、Valerie Borchardtに感謝する。

私が食べること、実験すること、そして書くことを楽しんでいる食物を作り出してくれた、植物、動物、そしてそれらを世話する人々に感謝する。特に、ミルクについてはSimmerとKristaに、卵についてはBranch、Sylvan、Daniel、Junebug、そしてDashboardに、肉についてはNeal AppelbaumとBill Keener(Sequatche Cove Farm)に、ハチミツについてはHushとBoxerに、ブルーベリーについてはHector BlackとBrinnaに、そして野菜についてはDaz1とSpikyらShort Mountainの菜園の妖精たち、MaxZineと変幻自在のIDA菜園スタッフ、Little Short Mountain FarmのBilly Kaufman、Stoney、John Whittemore, Jimmy Rose, L Woofers, Mike Bondy Rob Parker, Daniel, Jeff Poppen (Long Hungry Creek Farmの裸足の農夫)、そしてその他大勢の気前のよい友人たちをはじめ、多くの人々に感謝する。Angie OttとDaz’lには我々の多くにさまざまな健康なスターターを提供してくれていることについて、MerrilとDaz’lには彼らが取っておいた種子をいつも分けてくれることについて、感謝したい。このような食物の生産と交換のネットワークに加入することは、非常に刺激となり、また価値のあることだ。

ずっと私の発酵への熱中を許し、励ましてくれた私の素晴らしい友人たちと家族には、最大の感謝をささげたい。私の生まれ育った家庭に感謝する。私を常に支えてくれた、大好きな家族を持って私はとても幸せに思う。この本を書いている途中で、私は17年間住み続けた共同体を離れて自分の道を切り開いて行くという難しい決断をすることになった。新しい生活にも慣れ、すべてはうまく行っている。Short Mountain SanctuaryとIDAや周辺のコミュニティに住むすべての人々には、彼らの愛情と情熱、そして私が持って行く実験的な発酵食品を味見してくれることについて感謝したい。このグループの人々と常連さんたちは、私の最も親愛なる友人であり親友だ。みな自分のことをわかっていて、私がどれだけ彼らを愛しているかを知っているのだ。

Sandor Ellix Katz (著), 水原 文 (翻訳)
出版社 : オライリージャパン (2016/4/23)、出典:出版社HP