理論と実証から学ぶ 新しい国際経済学

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国際経済学の理論と実証をつなげる

本書は、国際貿易で用いられる理論について解説しています。従来の貿易理論に加えて、新しい理論を盛り込み、さらに実証分析も学ぶことができます。簡単な例から理論のモデルについて理解していくことができるため、理論と実務のつながりを学びつつ、段階的に応用的な理論の理解へと進んでいくことができます。

友原章典 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2018/3/10)、出典:出版社HP

はじめに

国際経済学では、自由貿易のメリットや貿易による所得分配というトピックスが、ずっと議論されてきました。近年メディアで話題にもなっている保護貿易への回帰や所得格差等の時事問題とも関係があり、国際経済学におけるもっとも基本的でかつ永遠のテーマといってよいかもしれません。国際貿易論では、保護貿易の弊害を指摘し、自由貿易を肯定する見解が一般的です。一方で、保護貿易を正当化する理論もあります。また、最近の研究では、貿易のメリットを数値化するとそれほど大きくないという指摘もあります。本書では、そうした問題を考えるための分析道具をご紹介しながら、最近の研究結果についてご紹介していきます。

・本書の目的
本書の目的は、国際貿易の問題を議論するために、初級の教科書と上級の教科書や論文の橋渡しをすることです。例えば、国際経済学の初歩的な学習は済んで少し進んだ勉強をしたいと思った時には、大学院などで使われている上級の教科書を読む機会があるでしょう。また、みなさんが自分で論文を書かれる時に、多くの英語論文を読む必要が出てくるかもしれません。こうした場合に、結構数式が多くて難しいと感じられるかも知れませんが、そのギャップを埋めるために役立つよう書かれたのが本書です。

そのため、簡単な例題(数値例)を使ってモデルの意味を直感的に学ぶことから始め、その後、そうした考えがどういった形で一般化(数式化)されるのかということを、段階的に学ぶスタイルをとっています。初級レベルの問題を通じて大体の考え方が頭に入っていれば、難しそうな数式を見ても驚かなくなります。数式の意味するところが、何となく分かってくるからです。そのために、モデルの大事なポイントを理解できるように執筆されています。

・本書の読み方
本書は、読者のバックグラウンドに応じて様々な使い方ができます。入門レベルの教科書を読み終えて、国際経済学のイメージをつかまれた方が、簡単な例題を解きながら理解を深めたい場合には、各章の前半部分を読まれるとよいでしょう。各章の前半部分は、大学の1~2年生を対象にした講義内容の簡単な復習と、大学の3~4年生を対象にした講義で使用されている数値例を載せています。また、資格試験の準備のために本書を利用される方も、各章の前半部分が参考になると思います。

一方、大学院での学習と合わせて本書を利用される場合には、各章の後半を読まれるとよいでしょう。例えば、少し時間をかけて解くような計算問題を使用して、項目の説明をしています。これらの例題は、国際経済学への応用問題なのですが、中級レベルのミクロ・マクロ経済学の基礎学習にも使用できます。というのも、第1章は一般均衡、第2章はディクシット・スティグリッツ型効用関数の独占的競争モデル、第5章はゲーム理論というように、国際貿易だけではなく、ミクロ経済学や産業組織論でも使用される基礎的なモデルの例題を使用しているからです。また、ディクシット・スティグリッツ型効用関数は貿易だけではなく、マクロ経済学モデルでもよく使用されています。

最後に、理論的な学習を終えられて、これから実証研究を行って論文作成を行う大学院生や実務家の方々などは、第3章や第4章を重占的に読まれるとよいでしょう。国際経済学や国際金融でよく使う実証研究の手法について記述しています。大学の講義だけではすべてのトピックスをカバーすることはできないので、論文などを執筆するようになると、ある程度独学する姿勢が必要になります。こうした際の手助けになればと思っています。また、独学で学習する初心者に配慮し、大事な部分や基礎問題の理解においては、できるだけ数式の解き方を段階的に記述しています。通常の教科ですと、紙面の都合から、途中の計算を示しておらず、自分で解いてみると意外とわからない場合もあったりします。また、解き方だけでなく、宿題を解いたりや期末試験を受けるときに、どのように解答を書けばよいかという解答の書き方の参考にもしていただければと思います。

本書の内容の一部は、動画教材としてhttp://www.dailymotion.com/int_econにアップロードされています。こちらも併せてご活用いただくと、本書の内容の理解が一層深まるかもしれません。また、本書内の数式番号に関しては、各節ごとに通番で付して、各節内で完結するようにしています。但し、同節内に幾つかの例題が含まれる場合には、例題ごとに通番で付しています。

・本書の特色
本書を読まれると、従来の国際経済学の書籍とは(いろいろな意味で)かなり違うことに気が付かれると思います。まず、スタイルに関しては、問題提起と解説を交互に行うという形式をとっています。これは、漫然と読み進めるのではなく、問題意識を持っていただいてから解説を行うことにより、問題点を意識でき、重要な議論が頭に入りやすくなるからです。内容に関する本書の特徴として、古典的な貿易理論は第1章で触れる程度にとどめています。これまでにも優れた国際経済学の教科書がかなりのページを割いて説明しているので、そちらを参考にしていただければと思っています。

一方で、できるだけ最近の動向を反映させた内容を盛り込もうと努めています。例えば、「自由貿易のメリット」を数値的に試算するとどうなるかといった議論です。こうした議論に対応するため、理論と実証を橋渡しするような内容を入れています。本書の内容は、これまで筆者がジョンズホプキンス大学ピッツバーグ大学院、ニューヨーク市立大学並びに青山学院大学などで講義した内容等を、大幅に加筆・修正してまとめたものです。筆者の知る限り、日本語による国際経済学の教科書では説明されていませんが、海外の大学院などでは一般的である内容をできるだけ掲載していると思います。そうした意味で、本書は他の日本語の教科書の補完的な存在として意義のあるものだと思っています。

さらに、いろいろな内容を網羅的に掲載するのではなく、現実問題ともリンクさせることを意識しています。このため、グローバル化によって幸せになるのかという観点から、特に、「自由貿易のメリット」に焦点を当てながら執筆を行いました。特に、一般的な教科書の解説ではわからない読者(特に初学者や独学者)のために、教科書の行間を埋めるような説明も心がけました。例えば、議論の前提となっていることや、モデルの意味などは、なるべく直感的に日本語で説明しています。その過程で、経済学の説明が若干ラフになっているところもありますが、現実の問題を考える端緒となればと思い、あえて大胆なアプローチをとっています。この意味で、本書は、標準的な教科書の取扱説明書にもなっています。

モデルの問題点についても記載しています。例えば、独占的競争モデルは頻繁に使用されていますが、こうしたアプローチが現実をうまく説明していると思っているエコノミストは多くなく、単に使い勝手が良いことから重宝されていることなどです。さまざまなモデルにおける問題点を意識されると、教科書で学習するような理論が示唆する含意通りに、現実が機能していないことにも納得がいかれるかもしれません。こうした疑問は、これまでの講義や講演で、学生や聴衆のみなさんから寄せられた質問にもおおくみられるものであり、本書における説明においてちりばめられています。残念ながら、試験問題のように1つの正解があるわけではありません。数式を駆使して精緻に見える議論も、モデルの前提条件を吟味することなしに、いつでも当てはまるものではないことに留意が必要でしょう。国際経済学自体が、未だ発展途上にあるのです。問題点を理解したうえで、政策分析のための道具を使用することにより、現実問題を有意義に議論できるようになると思っています。

本書の内容を丁寧にチェックしてコメントを頂いたミネルヴァ書房の水の安奈さん、執筆に際してアシスタントとしてご協力いただいた金科さん、洪靖鎧さん並びに肖宇青さんにも深謝致します。また、すべての方々のお名前を載せることはしませんが、椎野幸平さんを含め様々な質問等をいただいた過去の履修生にも御礼を申し上げます。なお、本書の出版は青山学院大学国際政治経済学会からの出版助成を受けています。合わせて感謝の意を表します。繰り返し校正を行いましたが、数式を多く含む性質上、もし、誤植が含まれていたとすれば筆者の責任です。また、ご利用の際にお気付きになられた点がございましたら、ご意見を賜れればと存じます。例えば、もっと簡単な解法があったり、この部分をもっと詳しく説明してほしい等を含め、今後の参考にさせていただきます。

最後に、本書が少しでもみなさんの学習のお役にたてれば幸いです。

2018年2月
友原章典

友原章典 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2018/3/10)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 これまでの貿易理論
1標準的な教科書で学ぶモデル
1.1自由貿易の提唱
1.2閉鎖経済と開放経済

2貿易と所得分配
2.1所得格差とストルパー・サミュエルソン定理
2.2国家格差と要素価格均等化定理

3どの財を輸出すればよいか
3.1レオンチェフ・パラドックス
3.2伝統的モデルへの評価

4ヘクシャー・オリーンモデルの応用例
4.1ヘクシャー・オリーンモデル(1)―ストルパー・サミュエルソン定理
4.2ヘクシャー・オリーンモデル(2)―要素価格均等化定理

第2章 新しい貿易理論とは何か
1規模の経済
1.1大量生産の利益
1.2閉鎖経済と開放経済

2独占的競争
2.1製品の差別化
2.2同質的な企業

3多様な財の消費
3.1消費者の効用最大化
3.2ディクシット・スティグリッツ型効用関数

第3章 実証分析の理論について学ぼう
1実証分析の基礎
1.1モデルのフィット
1.2回帰分析の考え方

2重力モデルとは何か
2.1伝統的な重力式
2.2従来の推定の問題点
2.3理論的根拠を伴う重力モデル

3重力モデルと経済理論
3.1需要―CESモデル
3.2アーミントンモデル―完全競争とCES需要関数
3.3独占的競争―同質的企業とCES需要関数

第4章 自由貿易のメリットをみてみよう
1アーミントンモデル
1.1貿易メリットの計測
1.2貿易抵抗の影響

2モデルの拡張
2.1類似点や相違点
2.2アーミントンモデル
2.3さまざまなモデル

3社会厚生の数値化
3.11部門モデル
3.2多部門モデル
3.3中間財貿易
3.4複数の生産要素
3.5その他の拡張モデル

第5章 保護貿易のメリットをみてみよう
1戦略的貿易論
1.1ペイオフ・マトリックスナッシュ均衡
1.2反応曲線―ナッシュ均衡
1.3クールノー・ナッシュ均衡

2関税の考え方
2.1輸入関税
2.2クールノー寡占モデル

3輸出補助金
3.11政府による補助金
3.2政府間補助金競争―2段階ゲーム
3.3費用等変数の一般化

4異なる市場での競争
4.1地域市場での競合
4.2第三国市場における競争

5保護貿易の政治経済学
5.1ロビー活動の弊害
5.2実証分析

主要参考文献
索引

友原章典 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2018/3/10)、出典:出版社HP