WHY BLOCKCHAIN なぜ、ブロックチェーンなのか?

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ブロックチェーンとは何か

本書は、ブロックチェーンの仕組みと現状、そして将来性について一通り解説している本です。ブロックチェーンは社会に大きな影響を与えるポテンシャルがありますが、その性質の背景や、ブロックチェーンによって、社会が今後どのように発展する可能性があるのかを学べます。

坪井 大輔 (著)
出版社 : 翔泳社 (2019/7/12)、出典:出版社HP

CONTENTS

序章 ブロックチェーンのいま

第1章 ITの進化
企業から個人へ
PCと携帯電話、個人に近づくIT
3G通信の時代
ポスト携帯電話時代
4Gとポストスマートフォン
「人の機能」に近づくIT
データ収集装置としてのデバイス
人の機能×IoT
5Gは何を変えるか
「四種の神器」とは
レガシー産業に参入していくIT
Amazon GOやメルカリ
ものづくりは足かせ
既存産業とIT

第2章 ブロックチェーンの正体
ブロックチェーンの誕生と4つの技術
ブロックチェーンは「信用」をもたらす
ブロックチェーンの最大の運用例「ビットコイン」
ビットコインブームと「大馬鹿理論」
値上がりする設計
ビットコインは「通貨」になるか
犯人捜しはブロックチェーンの仕事ではない
バンドル/アンバンドル
パブリック/プライベートの違い
ブロックチェーンの認知拡大
「仮想通貨派」と「テクノロジー派」
ブロックチェーンは落ち込み知らず

第3章 普及を阻むもの
ブロックチェーンはビジネスになっていない
Whyブロックチェーン?
法律は超えられない
ブロックチェーンに向かないこと
経営幹部と現場のギャップ
リアルマネーの代替でよいか
既得権益の強さ
売りが「堅牢性」であること
トラブルゼロと言えるか

第4章 ブロックチェーンが拓く未来
ブロックチェーンが国家を消す?
自律分散型組織(DAO)とは
スマートコントラクト
RPAがあらわすもの
イメージ例としてのEU
組織はヒエラルキーからホラクラシーへ
DAOにおける「マネージャー役の人間」
トークン=仮想通貨ではない
トークンがつくる「社会」
なぜ「国づくり」をやるのか
コミュニティは「同好会」だけにあらず
SDGsとの親和性
超競争社会の可能性
都市と地方で社会制度を変える
第3レイヤーのエコノミー

第5章 実験例と想定ケース
ケース1 医薬品の在庫販売プラットフォーム
ケース2 (アイデア)テレビ視聴をネットワーク化する
ケース3 EV充電スタンドをネットワーク化する
EVと日本メーカー
クラウドファンディングとブロックチェーン
情報を仲介するブロックチェーン
台帳を見るビジネス

おわりに
ブロックチェーンは社会インフラ
地域で立ち上げた推進団体
「未来志向」に理解者は少ない

坪井 大輔 (著)
出版社 : 翔泳社 (2019/7/12)、出典:出版社HP

序章 ブロックチェーンのいま

ブロックチェーンの本質は、技術にはありません。その思想にあります。

今まで多くの方がブロックチェーンの技術を語ってきました。システム会社が最新のテクノロジーだと宣伝し、新しもの好きの人々はバズワードとしてのブロックチェーンを追いかけました。仮想通貨を入口に、金融システムの技術として注目する人が増え、一時はマスコミも競うように技術名ばかりを伝えました。でも、なかなか本質的な議論は聞こえてきません。この技術が結果的にもたらす、社会思想についての議論です。

結論を申し上げます。ブロックチェーンは人類に、管理者のいない社会をもたらします。それは、私たちがまだ見たことのない世界です。これまでのような、特定のボスを中心とした中央集権型1の組織が崩れ、個々の人間は自律した存在となります。

このうねりはブロックチェーンの登場と同時に始まりました。もう止まることはありません。

ここしばらく、ブロックチェーンのことを忘れかけていた方もたくさんいるでしょう。「ブロックチェーン? ビットコインブームが過ぎてからはあまり名前も聞かなくなっていたけど」――そんな声があちこちから聞こえてきそうです。

確かにブロックチェーンは、ビットコインという仮想通貨を実現させる基盤技術として世に出てきました。本書を手に取ってくださっている皆さんなら、2016年から7年末にかけての「バブル」をすぐ思い出せるのではないでしょうか。

もともとブロックチェーンもビットコインも、誕生から数年の間、エンジニアや技術ウォッチャーにしか知られていませんでした。それが少しずつ、ビットコイン価格の上昇が話題となり、一般の方々にも認知されるようになっていきました。

2016年後半あたりから徐々に投機的な動きが大きくなってきて、2017年2月には1ビットコイン=230万円を超える水準に急騰します。ところがそれから2カ月足らずで価格が3分の1に暴落。「おいしい儲け話」としてのビットコインに吸い寄せられ、そして失望した人びとは、あっという間に去っていきました。ブームが下火になるに従い、その基盤技術であるブロックチェーンも世の中から存在感を失っていったように感じている方も多いと思います。

でもちょっと待ってください。ブロックチェーンは、単に仮想通貨を運用するためだけの技術なのでしょうか。冒頭で述べたように、そうではありません。本書を通して詳しくご説明していきますが、社会の仕組みや国のあり方、人の生き方、いろいろなものを変える力を持った、流行では収まらないテクノロジーです。ビットコインブームが去ろうが、その潜在力はまったく変わっていません。それどころか、いよいよ上昇気流に乗り始めている。私はそれを確信しています。

ここで簡単に自己紹介をさせてください。私は、北海道札幌市に本社を置く「INDETAIL(インディテール)」という企業を経営しています。当社は、ブロックチェーン技術でこれまで世の中になかったビジネスや事業を生み出していく、全国的にも類のない企業です。さまざまな業界のさまざまなプレーヤーと手を結んで、誰も考えつかなかったような事業モデルの実証実験を次々とやり遂げ、この中のいくつかを大手企業さんなどに売却して利益を得るモデルです。(図0-1)

ゼロを1にすることに特化した企業ともいえます。私たち自身がベンチャー企業ですから、「ベンチャーを生み出すことを事業とするベンチャー」と言ってもいいかもしれません。

ここに至るまでにはもちろん企業としての歩みがあります。当社は2009年創業で、今年ちょうど10年を迎えました。当社のように地方を拠点とするIT企業に多いのは、地元の有力企業や団体からの受注、また、東京をはじめとする大都市圏のIT企業からの受託開発で経営を成り立たせるパターンで、私たちも最初はこの例に漏れませんでした。

存在感を強く出せるようになったのは、2011年に、北海道企業として初めて本格的にスマートフォンアプリ開発を始めたころからです。ちょうど全国的なスマホの普及とアプリ開発の市場拡大にタイミングを合わせることができ、業績を伸ばすことができました。

その後、スマートフォンでのeコマース2の拡大を見越して2013年夏にスマホ向けECモール事業を立ち上げ、成長したところで2017年に売却しました。

創業直後から続けてきたビジネスソリューション事業、2016年に立ち上げたゲーム事業も、順調な状態で友好企業に譲渡、イグジットしました。こうして会社の体制を一新し、この春、ブロックチェーンに特化した企業として再スタートを切りました。

経営者として数年先の世の中を予測し、成長しそうなビジネス分野で事業を組み立て、投資する。そして事業を軌道に乗せたら、これをより発展させてくれるパートナーに引き継いでいく。これが、私がこの10年やってきたことです。一言で表すなら「シリアルアントレプレナー3」、連続起業家と呼ばれるタイプの経営者だと自己分析しています。

私がブロックチェーンの潜在力を確信し、企業として本格的にこの分野に取り組むようになったのは2016年後半からです。3年近く全力でブロックチェーンと向き合ってきた中、先端のエンジニアやキーパーソンと話し合ったり、各地で一般の方々向けに講演をさせてもらったりする機会に恵まれました。

講演は2017年後半あたりから声をかけていただくことが増え、現在に至るまで毎月2、3回程度のペースでやらせてもらっています。お訪ねする先はIT系ばかりでなく、金融、会計、証券、医療、宇宙開発、新聞、行政、中小企業団体など実にさまざまです。特段IT投資に積極的と思われている業界ではなくても、それぞれの課題の解決方法としてブロックチェーンが注目されています。多くの分野の専門家とブロックチェーンについて意見交換させていただいた経験に関しては、誰にも引けをとらないつもりです。

さて話を戻します。ブロックチェーンはビットコインブームとともに忘れられつつあるのでしょうか。

札幌市内で2019年3月、ブロックチェーンの未来を語るイベント「ブロックチェーンフェスティバル2019」が開かれました。詳しくは後の章でご説明しますが、これは「ブロックチェーン北海道イノベーションプログラム」(BHIP)という、私たちインディテールを含め40を超える企業・団体が名を連ねる組織が主催したものです。(図0-2)

実は私たちはこの約1年前にも、同様のイベントを開いています。そのときも当初予定の100席では足りなくなって、急きょ50席増やしたほどだったのですが、今回は、あらかじめ200席用意したのに参加募集の締切を待たずして登録で満席となりました。

1年前は、ブロックチェーンとはそもそも何か、という入門的な要素をかなり意識した内容でしたが、2019年はブロックチェーンを地域でどう活用するかという、やや応用編のテーマを中心に据えました。それでも参加者は増えたのです。

当日、前年以上の熱気が会場に溢れていたのはいうまでもありません。都合で来場できなかった方々のためにネット生中継も実施し、これも多くの方にご覧いただきました。このイベント後も、講演の依頼などをたくさんいただいています。

ビットコイン価格が低迷しているのとは対照的に、実際には、世の中のブロックチェーンへの関心はまったく弱まっていない、私はそう実感しています。
昨今、IT大手企業に人々の情報が集約されていることに対して、問題意識が高まってきています。いわゆるGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)にがっちりと管理されたネットワークの中で私たちが生活しているという、その事実に対する違和感=危機感です。

一方でブロックチェーンは、「誰も管理していないのに自律的に機能するネットワーク」を実現します。GAFAのあり方を中央集権型のネットワークとすれば、ブロックチェーンは分散型、または非中央集権型のネットワークであり、大きく異なる世界観です。ブロックチェーンは本質的に、GAFAのような大プレーヤーによる支配の構造を崩していく作用を持っているのです。

GAFAの良しあしをここで論じるつもりはありません。ただ、歴史というものは振り子のように、時代がある方向に動いたらその次にはまた違う方向へ、ときとしてまったく逆方向へと向かう力が働くものです。
私が申し上げたいことは極めてシンプルです。大きなプレーヤーが中央集権型のネットワークをつくってきた時代が今で、これから世界は分散型、非中央集権型へと動こうとしている。この人類史的な変化のきっかけとなっているのが、現時点では単なる仮想通貨技術と見られることの多いブロックチェーン、ということです。ここから先、会社組織もビジネスのあり方も、強固な管理主体が存在しない、自律分散的な姿が増えていきます。

私は時代の変化を感じています。ブロックチェーンがその扉を開け、世の中の感度の高い人たちがこれに気付き始めているのではないでしょうか。

ブロックチェーンの潜在力は、万人がすぐに感じ取れるものではありません。この一因は、これまでブロックチェーンがあまりにも金融の文脈でばかり語られてきたからです。

繰り返しますが、ブロックチェーンが誕生したのは仮想通貨のプラットフォームとしてでした。ですから、少なくとも始まりの時点で、世間的な見え方のことだけをいえば、ブロックチェーンと仮想通貨はイコールでした。このため、技術者コミュニティ以外で最初にブロックチェーンに反応したのは金融業界やその周辺の方々でした。流れとしては当然ともいえるでしょう。

その流れが今どこに行き着いているか。ブロックチェーン本を探すと、ネットの書籍販売でも、リアルな本屋さんでも、大半が金融系であることに気がつくでしょう。一時の仮想通貨ブームに便乗するような本も少なからず見られます。

ただ、ビットコインバブルがはじけて1年以上が過ぎ、金融分野での論議はもう落ち着きました。今こそ、より大局に目を向けて、ブロックチェーンがもたらす非中央集権型社会、分散型社会について考えるときです。こうした文脈の中で、一つの思想をお示ししたい。それが、私がこの本を書こうと考えた最大の動機です。

私がこれから書くことは、必ずしも、今の一般的な会社組織や社会のあり方にフィットする考え方ではないかもしれません。むしろ否定されたり、机上の空論として一蹴されたりするものかもしれません。

ただ、私のような起業家、またベンチャー企業というものは、これまでの秩序を壊すというところに本質的な役割があります。

こうあるべき社会の姿、こうありたい社会の姿を示し、それを実現させない現行の利害関係に挑戦していく役目です。その手段として、ITというテクノロジー、もしくは事業のビジョンがあります。そうして既得権益を壊したところに、イノベーションと呼ばれる状況が生じる。ブロックチェーンはこの破壊に大いにリンクするテクノロジーなのです。

本書は仮想通貨取引で大儲けするための本でも、金融業界の再編を論じる本でもありません。極論ですが、この本を読んだ半年後にあなたの資産が増えることはないと思ってください。目先のお金の話ではなく、ブロックチェーンが私たちに何をもたらすのかを考える思想の本です。

もちろんブロックチェーンはまだ新しい技術であり、今もその進化を止めていません。世界中の技術者たちが現在進行形で改良・改善を重ねている結果として、バリエーションが急速に増え続け、時間を追うごとに簡潔な解説が難しくなっています。エンジニア向けの最新技術情報に一つ一つ触れていくとキリがありません。

ですから本書では、主に前半部分を使って、ブロックチェーンを理解するための必要最低限の知識を整理していきます。基本に立ち返り、難しそうな専門用語や数式をできるだけ避け、わかりやすく解説するつもりです。

そして本の後半で、今の社会におけるブロックチェーン、そして未来の社会、組織について述べていきます。最後に、社会でこんなふうに応用できるというアイデアや事例をご紹介します。

今、人類史的な大変化が始まったところです。私たちは偶然、そのスタートラインにあたる時期を生きています。ビジネスパーソンはこの変化をいち早く感じ取って仕事をしていかなければ、早晩、時代の動きに振り落とされることになります。未来に勝つために、ブロックチェーンの本質を一緒に見ていきましょう。

本書を執筆するにあたり、関係する各方面からのご指導・ご支援を頂戴しました。お力添えをくださった方々、また、公私を問わずこれまで私を支えていただいた多くの方々に、心から感謝を申し上げます。

令和元年 初夏 坪井大輔

1 中央集権型情報や権限や責任が一カ所に集まっている状態。国家公務員における東京・霞ヶ関の本省や、全国に支社を持つ大企業の本社をイメージするとわかりやすい。小さな企業でも、社長や役員などに権限・情報が集中している場合も当てはまる。すべてが集まる中心部にいるのが管理者で、それ以外の部分は管理者に従属する立場となる。

2 eコマース/EC
electronic commerceの略。インターネット上で商品を売買すること。

3 シリアルアントレブレナー
新規事業立ち上げを繰り返すタイプの起業家。連続起業家と訳される。従来、経営者というと、自ら始めた事業を育てていく、または誰かから引き継いだ事業を運営していくイメージが多い。シリアルアントレプレナーは、新事業をスタートさせ、軌道に乗りそうな段階まで育てると大企業などに売却し、別の新事業を立ち上げていく。

坪井 大輔 (著)
出版社 : 翔泳社 (2019/7/12)、出典:出版社HP