「もしも」に備える食 災害時でも、いつもの食事を

【最新 – 防災・災害時の食について学ぶためのおすすめ本 – 普段の備えから被災時の調理まで】も確認する

いざという時に使える料理の知恵

本書は、東日本大震災で被災した方々の体験談を交えながら、災害時の食の大切さが述べられており、備蓄に対して抱く心理的な壁を打ち壊してくれる。それと同時に、災害食レシピが約40種類掲載されているため、災害時以外でも使える知識を得ることができる。

石川 伸一 (著), 今泉 マユ子 (著)
出版社 : 清流出版 (2015/2/13)、出典:出版社HP

はじめに

「災害に対して、備蓄をしていますか?」という質問を投げかけられたら、イエスと答えるでしょうか、ノーと答えるでしょうか。
いろいろな備蓄に関するアンケートを見ますと、災害に備えて食料品を備蓄していると答える人の割合は決して多くはありません。災害直後の防災意識が高まったときは上昇しますが、平常時は三~五割程度にとどまります。阪神・淡路大震災があった神戸市のあるアンケートでさえ、現在、備蓄している人は約三二%と少数派でした。
しかし、「今、家にある食料でどの程度生き延びることができますか?」とたずねれば、「数日」とか、「水とカセットコンロがあれば一週間」などのように具体的に答える方も多いのではないかと思います。

質問で「備蓄食」や「非常食」と訊かれると、日頃私たちが食べているものと違う、何か特別な食事のように感じる方も多いかもしれません。
しかし、私が暮らす宮城県仙台市で、3・11の東日本大震災によって被災し、強く感じたことは、非常時だからといって急に特別なものが食べたくなったり、必要になったりするのではないということです。むしろ非常時だからこそ、当たり前の食事を強く求めるということを、身にしみて感じました。
私たちの中で、地震は非常時のこと、日常生活とは違うことと考えがちです。しかし、長い年月のスパンで考えれば、私たちの住む日本では、どこかで地震や災害は絶えず起こり続けています。日本に住む以上、地震と縁を切ることは難しいのです。
そのため、地震や非常食を特別視したり、日常生活から切り離せば切り離すほど、私たちが生き抜くうえで、むしろ大きな障害になると感じます。つまり、地震は滅多に来ないものなのだからと思えば、わざわざ地震に対して準備することがおっくうにもなるし、備蓄食が普段食べないようなものになってしまうでしょう。

先のアンケートの結果からは、備蓄をしていない人から、「備蓄のことまで気がまわらない」という声が聞かれます。さらに、備蓄するのが面倒、うちに備蓄するスペースなどない、備蓄にまわすためのお金がないといった意見もあります。
しかし、私が社会の中の「備蓄しないこと」の背景に感じるのは、備蓄に対する人の「心理的な負担」です。
備蓄について考えるということは、その先の「地震」のことを想像しなければなりません。「地震なんて、来ないでほしい」と思うからこそ、備蓄について考えることが先延ばしになってしまうのではないでしょうか。平常時にわざわざ怖い地震のことなど考えたくないというのが、普通の人間の当たり前の心理です。

震災後、講演などで災害時の食について一般の方にお話する機会が何度かありました。その際、「備蓄してください」とアドバイスし過ぎると、それがむしろ心理的なプレッシャーになる場合があると肌で感じ取っています。
心理的な“壁”が存在する備蓄について、なぜ備蓄しなければならないのか、備蓄の必要性・重要性を感じてもらうことはとても難しいことです。災害時の食の大切さを意識してもらうためには、被災した人の個人的な体験談が有効であると感じています。

あの大震災時に、いかに「食」が身体と心の両面を支えていたかという、体験した人だからこそ語れるリアリティが、「備蓄したがらない壁」を壊す“ハンマー”になるのではないかと思います。
東日本大震災から時間が過ぎ、いい意味でも悪い意味でも、その記憶が失われつつあります。風化してはいけない大切な教訓を含んだ記憶については、今後も語り継がれていくべきでしょう。
災害時はまさに、極度に制限された世界です。食料、水だけでなく電気、ガスなどのライフラインも制限されます。また、それだけでなく、「考え方」も制限されます。難しい、まどろっこしい考え方をしていたら、災害時の状況に対応できなくなってしまうので、考え方も行動もシンプルになっていきます。

制限され、シンプル思考になっているときだからこそ、その限定された空間で生きるための工夫が生まれやすく、本質をとらえた発明や考え方が生まれる可能性があります。
災害時のことを考えるのは誰しも気が進みませんが、災害時に何が必要か、どんな心構えが必要かを考えておくことは、私たちの普段の生活でも何が大切なのかを考えさせ、食の大切さを示してくれるのだと、今、身にしみて感じています。

二〇一五年二月、もうすぐ東日本大震災から四年の仙台にて
石川伸一

石川 伸一 (著), 今泉 マユ子 (著)
出版社 : 清流出版 (2015/2/13)、出典:出版社HP

目次

はじめに・石川伸一

1章なぜ、食を備えなければならないか
地震を予測することの大切さ
自治体の防災対策を知っておこう
被災時の食は、命をつなぐもの
震災を経験しなかった人も、記憶の更新を
家族みんなで食の備えを
行列をしても品物を手に入れたいという心理
電気のない暮らしは予行演習ができない
こだわりすぎず、臨機応変に対処する
食の備えは行政に頼らず自助で
【コラム】何はなくとも水のストックを!・トイレ対策はとても重要

2章脳を満足させる食事で、非常時を乗り切る
同じものを食べ続けていると飽きる
食べ慣れたもの、温かいものは、ほっとする
満足感があれば、生きる気力がわいてくる
おいしい記憶を溜めるトレーニングを

3章何をどう備えればよいのか
市販の非常食(防災食)をチェックしておく
缶詰、乾物は「備える食」の代表格
乾物の実力を見直す野菜は買い置きできるものを常備して
震災時も、栄養バランスを考えたい
「食事バランスガイド」に沿って備蓄食を考える
備蓄食は「トコロテン保存」で新陳代謝をはかる
家族の一人ひとりに合わせた食品を用意

【料理編】
安全確保の次は、何をどう食べるか。冷蔵庫内の食材チェックと始末法を考える
熱源と最小限の調理道具は必需品
備えておきたい食品

火を使わない
コーンとわかめの和えもの
切り干し大根とささみのマヨサラダ
切り干し大根とにんじんの中華サラダ
さばマリネ
ひよこ豆の梅マヨあえ
桜えびのカリカリふりかけ
ホワイトアスパラのとろろ昆布

乾物を使う
高野豆腐ステーキ
ひじきと大豆の煮もの
お麩きなこラスク
車麩の角煮風
きくらげの佃煮
春雨の牛肉大和煮風味
高野豆腐ドライカレー

乾めんを使う
カルボナーラ風パスタ
ボンゴレトマトスパゲッティ
タイカレービーフン
焼きうどん
にゅうめん
◆そろえておきたい便利調味料・だし味アップに役立つ乾物

ごはんもの
焼き鳥丼
ひじき入りいか飯
カレーピラフ
かんぴょう入りいわし丼

いも・玉ねぎ・にんじんで作る
常備野菜とツナのコーンクリーム煮
さつまいものりんごジュース煮
じゃがいもとコンビーフのガレット
お麩じゃが
クラムチャウダー
ミックスビーンズと野菜のトマトスープ
さつまいもと鶏そぼろの煮込み
◆洗い物を減らす工夫

粉もので作る
ミルクくずもち
さばみそ入りすいとん
桜えびのお好み焼き
フルーツとナッツ入りホットケーキ
白玉フルーツあんこのせ

防災食を使う
もちラザニア
アルファ米のかぼちゃがゆ
乾燥野菜人りレトルトがゆ

おわりに・今泉マユ子

石川 伸一 (著), 今泉 マユ子 (著)
出版社 : 清流出版 (2015/2/13)、出典:出版社HP