カラー版 ビールの科学 麦芽とホップが生み出す「旨さ」の秘密 (ブルーバックス)

【最新 – ビールについて知識を深めるためのおすすめ本 – ビールの歴史からおいしい飲み方まで】も確認する

飲み方でおいしさが変わる!

醸造のしくみから、副原料選び、食材とのマリアージュの探り方まで、読むほどに飲みたくなる「ビール学」の決定版です。酒類文化の啓蒙に注力されている著者(編者)の熱き想いが読者の心に響きます。カラー版になってしかも増頁、9年振りの全面改訂で、息の長い良書です。2026年10月迄の段階的酒税改定にも確りと言及されています。

本書は、2009年3月20日刊行のブルーバックス「ビールの科学」に、 最新の情報を盛り込んで増補・改訂し、フルカラー化したものです。
カバー装幀/芦澤泰偉・児崎雅淑
カバー写真/iStock/ゲッティーイメージズ
目次写真/iStock.com/kuppa_rock
章扉写真/iStock.com/kokoroyuki
本文デザイン・図版制作/鈴木知哉+あざみ野図案室

はじめに――ビールに訪れた「大変革の時代」

麦芽とホップが生み出す独特の香味と苦味が魅力のビールは、世界中で愛飲されている最もポ ピュラーなお酒の一つです。「とりあえずビール」という言葉が定着しているように、晩酌や酒 席の最初の一杯はビールから、という方も多いことでしょう。

ビールの発祥は、紀元前3000年以前の古代バビロニアにあるとされています。すなわち、 人類とビールの付き合いには、5000年以上におよぶ長い歴史があるわけですが、そのビール に「科学の目」が向けられたのは案外、最近のことです。

近代産業としてのビール造りが確立したのは19世紀の半ば以降ですが、科学としての醸造学が 誕生したのもこれとほぼ同時期で、発酵過程を担う「ビール酵母」が発見され、その役割が解明 されたのは同世紀末のことでした。はるか古代から造られ、親しまれてきたビールが科学的に理 解され始めてから、ようやく120年ほどが経過したばかりなのです。

そして近年、比較的若い、その「ビールの科学」が、新たな転換点を迎えつつあります。10 世紀に大きく伸展した科学・技術の進化は1世紀に入ってさらにその速度を上げ、農学や醸造学など古典的な従来の科学のみならず、生命科学や脳科学、あるいは行動経済学やマーケティング理論といった社会科学の領域における研究成果が、ビール造りに活かされるようになりました。 さらには、ICT(情報通信技術)、IoT(モノのインターネット化)、AI(人工知能)といった最先端のデジタル技術までもが、ビールのおいしさのさらなる追究・解明や、造り方・売り方の革新に影響を与えるようになってきています。

日本においては、2018年4月に酒税法が改正され、発泡酒や新ジャンルを含むビール類の 定義が大きく見直されることになりました。従来のビールは、麦芽比率が8%以上で、麦芽とホップ、水の他に使用できるのは、麦、米、とうもろこし等の政令で定める副原料に限られていました。今回の改正で、麦芽の使用比率は「8%以上」に引き下げられ、新たな副原料として果実や一定の香味料(コリアンダー、こしょう、シナモン、さんしょう、カモミールその他のハーブ、野菜、ごま、牡蠣、こんぶ、かつお節等)を一定量(麦芽の重量の5%以下)、用いてよいことになったのです。

特に、麦芽の使用比率があらためられたのは明治4年(1908年)以来ということもあり、 「110年ぶりにビールの定義が変わった!」とマスコミを賑わせたのは記憶に新しいところです。
ビール各社から早速、これら新しい副原料を用いた新商品が次々に発売された一方、今回の酒 税法改正は「消費者の嗜好を追求した商品開発、地域の特色を活かした商品開発、国際的にも評価される商品の開発が進み、地方創生や国際競争力の強化にもつながることが期待され」(「平成 23年度税制改正の解説」財務省)、2010年代に入ってブームを巻き起こしている地ビールや クラフトビールにとっても大きな追い風となるでしょう。

今回の酒税法改正では、今後2026年にかけて、3段階に分けてビール・発泡酒・新ジャン ルの酒税が一本化されていくことも決まっています(ビールの税率は下がります)。ビールをめぐる状況は、まさしく「大変革の時」を迎えているのです。

いわゆるノンアルコールビールの伸張も見逃すわけにはいきません。ビールに比べても遜色の ない味わいを安心して楽しめるノンアルコールビールは、ビール類の代替品として十分に満足で きる香味をもつ飲み物として、また、より健康志向の商品としても脚光を浴びており、従来のビール愛好家だけでなく、女性や若者を中心とした新たな需要層を生み出しつつあります。
かつてビールは、同じ銘柄を飲み継いでいく飲み方が一般的でした。しかし、クラフトビールに代表されるように、多彩で個性的なビールが数多く登場してきた現代では、その楽しみ方にも新たなスタイルが定着しつつあります。たとえば、ライトな味わいのビールから始めて徐々に濃い味へと移っていく、あるいは絶妙なマリアージュ、を求めて、食材やつまみの種類ごとに銘 柄を変えていく、これはというお気に入りの一杯をじっくり楽しむ、といった飲み方は、ビール の新しい魅力を発掘・探求する試みでもあります。

本書は、長い歴史を有しながら、今なお進化を続けるビールを主役に据え、科学が明らかにしてきたその性質や醸造の原理、麦芽やホップ、酵母など原料のはたらきから、コクやキレ、のど 越しの秘密、「最高においしく飲む」ための科学まで、あらゆる角度から光を当てる「ビール 学」の集大成として書いたつもりです。著者らが実際に現地を訪れて試飲してきた世界各地のビールの魅力や、試行錯誤しながらレシピをアレンジした「ビールを使った料理」も紹介していま す。今後のビール造りや楽しみ方がどのように変わっていくのか、来るべき「ビールの未来」に も目を向けた、現時点での決定版と自負しています。

なお、本書の原型となったのは、2009年3月に刊行したブルーバックス『ビールの科学」 です。幸いにも多くの読者の支持を得て第10刷まで版を重ねた同書も、10年弱の時間を経て時代 状況をフォローできていない記述が多々出てきました。最新情報を盛り込みながら全面的に加 筆・修正を施し、図版・写真をフルカラー化したのが本書です。新しい読者にはもちろん、旧版 の読者にも楽しんでいただけるよう、工夫して書いてあります。

ビールの科学を知れば、よりおいしくビールを楽しめるようになります。本書が、ビール愛好 家の喜びを増やし、ひいてはビール文化のさらなる発展につながることを願ってやみません。

渡淳

もくじ

はじめに―ビールに訪れた「大変革の時代」

第1章 「とりあえずビール」のその前に―いくつ知っていますか? ビール「基本の20題」
1-1 数字で見るビール像
1-2Q&A「ビール学」事始め

第2章 ビールはなぜ「おいしい」のか――コク、キレ、のど越しを科学する
2-1 「ビールらしさ」とはなんだろう?
2 – 2 「コク」と「キレ」はどこから来るのか
2 – 3 「のど越し」の科学

第3章 「おいしいビール」はどう生まれるのか――醸造の科学と技術
3 -1 「ビールらしさ」を生み出すプロセスとは?
3 – 2 おいしさは「原料づくり」から
3 – 3ビールはどう造られるのか――その工程を概観する
3-4クラフトビールの楽しみ方
3-5ノンアルコールビールはどう造られる?

第4章 明日もおいしく楽しもう! 「ビールの科学」最前線
4-1 「ビールの泡」を科学する
4-2 ビールの噴き対策
4-3ビールだって老化する――どう防ぐ?
4-4 「香り」と「臭い」をとらえる微量分析
4-5 大麦・ホップの育種開発
4-6 ビール酵母を極める先端技術

第5章 人類とビールの5000年史―人はどのようにビールを造り、飲んできたか
5-1 ビールの誕生―人はビールとどう出会ったか
5-2醸造技術はどのように進化したか
5-3 世界の個性派ビールたち
5-4 日本のビールの歴史

第 6 章 ビールはどう進化するか――変わっていくもの、変わらないもの
6-1 ビールの定義と酒税法
6-2 さらなる「新しいおいしさ」を目指して
6 – 3 「ビールの未来」を考える

第7章 科学的ビール堪能法――おいしく飲むための三つの影」
7-1 ビールをおいしく飲むには
7-2 これが「ビールの注ぎ方」の決定版!
7-3「ビールの鮮度」をどう保つか

第 8 章 健康的にビールを楽しむ|長く楽しく、正しく付き合う
8-1 「ビールと健康」の今昔物語
8 – 2 「ビールの機能性」を科学する
8 – 3 アルコールが及ぼす健康への影響とは?
8 – 4 適正飲酒で長く楽しい付き合いを

第9章 これぞマリアージュ! ビールと料理のハーモニーを楽しむ
9-1 ビールは料理に合う!
9-2本場ドイツの料理とビール
9-3 日本のビールに合う料理は?
9-4 深化するビールと料理の「マリアージュ」
9-5 ビール料理をつくってみよう
9-6ビアライゼという愉楽―――ご当地ビール文化を訪ねて歩く

おわりに
さくいん巻末

column
コク・キレセンサー
のど越しセンサー
ビールの嗜好と情報科学
ビール好きと造り手の新たな関係
人間の鼻と先端分析装置のコラボレーション
ビールグラスについて
おいしさを保つ品質シート
活性酸素はビールも老化させる
「ビールのリフレッシュ効果」を測定する