改訂版 企業・健保担当者必携!! 成果の上がる健康経営の進め方

【最新 – 健康経営について学ぶためのおすすめ本 – 基礎から実践まで】も確認する

健康経営の基本がよくわかる

健康経営について基本的な考え方と進め方をわかりやすく解説しています。企業内で既存の産業保健の取組みを活用して、どのように健康経営を推進するかを解説した初めての本格的な書籍です。日本を代表する産業医の先生が書かれており、非常にわかりやすく書かれています。

森 晃爾 (著)
出版社 : 労働調査会; 改訂版 (2019/1/25)、出典:出版社HP

はじめに

本書は、自社の従業員のために、ビジネスとして、そして行政施策としてなど、様々な立場で健康経営®に関わるすべての関係者のために書いたもので、健康経営の基本的考え方と進め方を私なりに整理した内容になっています。これまで健康経営に関しては、理念や行政施策を紹介する書籍は出版されていますが、企業内で既存の産業保健を活用して、どのように推進するかについて書かれた初めての本格的な書籍だと認識しています。

最近では、私が健康経営の専門家であるように受け取られ、このテーマを政策課題とする省庁、ビジネスにしようとする企業、健康経営を推進しようとする企業などから相談が来るようになりました。しかし、私は自らを健康経営の専門家として位置付けたことはありません。長年、産業医学または産業保健という分野を専門として、様々な実践および研究の経験を積んできましたが、そこに健康経営というキーワードが降ってきたにすぎないのです。それでも、2013年4月に産業医科大学産業生態科学研究所に産業保健経営学研究室が発足し、その初代教授に就任したことにより、本格的に産業保健を経営的側面から分析・検討することになりました。同じタイミングで、厚生労働省の政策研究である厚生労働科学研究で、「労働者の健康状態及び産業保健活動が労働生産性に及ぼす影響に関する研究」に研究代表者として取り組むことになりました。それ以降、産業保健経営学研究室では、産業保健活動が企業の生産性や経営上の成果に与える影響の分析、従業員の健康への投資における経営資源の適正配分の検討、企業グループ全体での産業保健の統括マネジメントのあり方などを主な研究テーマにしています。これらは、明らかに健康経営の推進に必要な主要テーマとなります。つまり私は、産業保健を経営的な側面から検討し、「企業トップがリーダーシップを取って展開する自律型産業保健活動」が我が国で推進されることを目標に研究を行っているわけですが、それに健康経営という名前が付けられたということになるわけです。

健康経営には、政策側面、研究側面、実践側面があります。私が、健康経営の政策側面に関わったのは、2013年に開始された次世代ヘルスケア産業協議会の委員に選ばれ、健康投資ワーキンググループの主査になったことによります。ある後輩の推薦でその話が来たのですが、健康経営推進の検討を行いながら、健康経営の定義や推進に関していくつもの課題を感じていました。そもそも健康投資ワーキンググループは、経済産業省が担当していることもあり、企業に従業員の健康についてどのように投資させるかといった政策側面の議論が中心です。2006年にNPO法人「健康経営研究会」が設立され“健康経営”が商標登録されていますが、研究側面について、健康経営が企業の経営に与える影響に関する研究結果は主に欧米のものであり、日本でのデータは不足しています。また、企業はどのように従業員の健康に投資するかといった実践側面の話はほとんど出てきません。すなわち政策側面が先行しているのです。

研究側面は引き続き研究を続けるとして、実践側面については早急に概念整理が必要と考えました。特に、健康経営の評価指標や公表資料では労働者の健康に関連した法令遵守やリスクマネジメントは当然のこととして、それ以上の取組みを健康経営として評価しようとしています。しかし、この当然のことこそがまず行うべきことであり、その達成には専門知識とかなりの努力が必要であり、十分なレベルに達成している企業は多くはないいという実態があります。そのような課題の中で、自律型産業保健活動である健康経営の実践論の具体化が早急に必要と感じました。

私はこれまで40冊以上の書籍の出版に関わってきましたが、単著での執筆はめったになく、本書は、私にとって2003年に出版した「マネジメントシステムによる産業保健活動」(労働調査会)以来の単著での書籍です。本書の執筆を思い立ったのは、健康経営の具体的実践論を表現したいということに加えて、2つの想いがありました。

第一は、産業保健スタッフに向けてのものです。最近の労働安全衛生法の改正や行政ガイドラインのテーマには、受動喫煙防止、ストレスチェック、化学物質リスクアセスメント、両立支援などがあります。これらを並列プログラムとして捉えると、産業保健がどんどん拡大していると感じ、産業保健スタッフの多くが振り回されてしまいます。私は、2013年に出版された『産業保健マニュアル改訂第6版』(南山堂)の総編集を務めました。416ページにわたって、細かい字で大量の情報が記述されており、おそらく産業保健に関するもっとも多くの情報が詰込まれたマニュアル本です。並列で考えれば、それだけの情報を理解して取り組まなければならないのが産業保健です。しかし、このようなたくさんの並列型プログラムで成り立っているというのは誤解であり、そこには基本的な枠組みとプロセスがあり、それを理解すれば、産業保健はそれほど複雑なものではありません。『産業保健マニュアル』も辞書的な目的で用いればよいのです。そこで本書では、そのような基本的な枠組みやプロセスを中心に記述して、テーマ別の活動プログラムの記述は例示に留めることにしました。

第二は、極めて個人的な理由です。1995年に30代で『企業医務部の挑戦、産業医奮闘す!』(日本経済新聞社)を単著で出版した際、40代、50代とその時点で自分自身が到達した産業保健体系を書籍として社会に提示しようと決意しました。40代は、ちょうど外資系石油会社の専属産業医から大学教員に異動する際、『マネジメントシステムによる産業保健活動』(労働調査会)を出版する機会を得ました。そして、今回、50代の書籍を出版する機会を得たのです。60代の書籍が書けるかどうか定かではありませんが、まだまだ駆け出しの産業医だったころの決意を現実化することができました。

長年温めた本書の執筆は、それほど苦労なく一度終えたのですが、健康経営と産業保健の基本から始まって、健康経営で展開される産業保健プログラムの内容、そしてその運用方法に及んだ内容は、健康経営に関わる多くの人に読んでいただきたいという想いに比べて、とても難解になってしまっていました。そこで、ドラネクスト社という架空の会社の担当者に登場してもらい、彼らの健康経営の推進を支援することを前提とした解説という形をとらせていただきました。また、コラム、イラスト、図表などで、可能な限り分かりやすく表現したつもりです。特にイラストは、産業保健を十分に理解している方にお願いしたいと考え、私の担当する産業医実務研修センターで専門的な修練を積んで産業医として活躍している簑原里奈先生と横山麻衣先生の二人にお願いしましました。読者の理解を進めるうえで、期待以上に素敵なイラストを描いてくれたと思います。それでも、まだ難しいというお叱りを受けると思いますが、ぜひ、お付き合いください。

最後に、解決していない課題について触れたいと思います。今回のストーリーは、ドラネクスト社の澤下社長からの大崎部長に対する健康経営導入の検討という指示から始まっています。しかし、健康経営の推進に興お味のない経営者に対して、健康経営の価値を理解していただき、投資の意思決定をしていただくための方略については見つかっていません。政策面でも、実践面でも、健康経営が広がるためにも大変重要な事柄です。ぜひ、皆さんも一緒に考えていただきたいと思います。

2016年11月森晃爾

森 晃爾 (著)
出版社 : 労働調査会; 改訂版 (2019/1/25)、出典:出版社HP

本書の初版本を出版して2年間が経ちました。この間、私たちの当初の予想をはるかに超えるスピードで健康経営の取組みは広がりました。私自身、企業や健康保険組合、その他の講演会で健康経営について話をするたくさんの機会をいただいており、参加される方の真剣度を肌で感じています。ただ、私のように長く職域における予防医学に関わってきたものからすると、今の動きが一過性のブームで終わるのではないかと少し不安です。これからの数年は、健康経営が日本社会により深く浸透するとともに、社会の課題解決に貢献できるような成果を出していく勝負の期間です。読者の皆さんをはじめ、多くの方々と取り組んでいきたいと思います。
2018年10月森晃爾

「健康経営®」は、特定非営利活動法人・健康経営研究会の登録商標です。

目次

はじめに
プロローグ

第1日 健康経営と産業保健の背景
1. 産業保健とその目的
2. なぜ企業は、産業保健体制を構築し、活動を行わないといけないのか
3. 企業の視点での産業保健と労働者の視点での産業保健
4. 健康経営の経緯と政策側面
5. 健康経営が企業経営に及ぼす効果
6. 産業保健と健康経営の統合

第2日 健康経営・産業保健活動の考え方
1. 健康経営の目的と社会的価値
2. 自律型産業保健活動における法令遵守と自己規律達成の関係
3. リスクマネジメントの基本的考え方
4. 安全配慮義務と知る権利
5. 法令遵守のための取組み
6. 健康増進活動の勧めと働き方改革
7. 健康経営と人材マネジメント

第3日 健康経営のための体制づくり
1. 健康経営に必要な社内体制
2. 経営トップのリーダーシップの重要性
3. 産業保健を担う専門人材の活用と専門職の価値
4. 産業保健マネジメントの仕組みと産業保健チームの構成
5. 管理監督者の役割
6. 健康保険組合との連携、コラボヘルス
7. 産業保健サービスの質の管理と外部委託

第4日 リスクマネジメント型産業保健プログラム
1. リスクマネジメント型産業保健プログラムの基本
2. 職場環境や作業に存在するリスク対策
3. 仕事と個人の適応性に存在するリスク対策
4. 健康障害要因による健康影響の評価
5. 生活習慣病等の個人に存在するリスク対策
6. クライシスマネジメント

第5日 支援・増進型産業保健プログラム
1. 支援・増進型産業保健プログラム
2. 治療と仕事の両立支援というアプローチ
3. プレゼンティーイズム対策
4. 高年齢労働者、女性労働者等の従業員の特性に合った健康支援
5. ポジティブヘルスアプローチ
6. 働き方や職場環境へのアプローチ
7. 健康情報の管理と活用

第6日 産業保健マーケティング
1. 産業保健マーケティング
2. 職場の理解とニーズ把握
3. 産業保健プログラムの優先順位
4. 健康経営・産業保健活動の評価指標
5. 健康経営・産業保健プログラムの企画

第7日 産業保健マネジメント
1. マネジメントシステムの基本
2. 基本方針・要求事項・目標
3. マネジメントシステムを用いたプログラム展開
4. 監査と継続的改善
5. 目的別プログラムとマネジメントシステム
6. 健康経営の取組み開示と健康会計

第8日 健康経営の実践
1. 健康経営の導入
2. 健康経営の展開
3. 健康経営の定着
4. グループ経営への展開とグローバルマネジメント
5. 中小企業における健康経営
6. 経営施策とHealth Impact Assessment
7. 社会的課題に対する健康経営の貢献

エピローグ
おわりに

森 晃爾 (著)
出版社 : 労働調査会; 改訂版 (2019/1/25)、出典:出版社HP

プロローグ

ある日、知人の紹介で、自動車部品会社のドラネクスト株式会社から大 崎人事部長が、部下の山上人事課長を伴い、私の研究室にやってこられま した。ドラネクスト社でも健康経営を展開することになったとのこと、相 談に乗ってほしいというのが、来訪の目的でした。
経緯をお聞きすると、5ヵ月ほど前に、同社の澤下社長が出席していた 業界団体の会合で、同業の企業が取り組む健康経営が話題となったようで、 会合から戻った澤下社長に呼ばれた大崎部長に、ドラネクスト社に合った 健康経営の取組みについて検討するように指示があったということでした。
大崎部長は、人事課で健康経営の検討を担当するように山上課長に指示 するとともに、その後、雑誌の記事や行政機関、経団連等の民間団体が主 催するいくつかの関連シンポジウムに参加して、自分なりに健康経営の目 的や取組みのイメージを大よそ掴むことができたようです。しかし、多く が枠組みの話であったり、うまく行った事例であったりで、その中から具 体的な自社に合った健康経営を考えあぐねていたようです。
私は、ドラネクスト社という名前を知っていましたが、学会でもこの会 社の産業医や保健師に会ったことがなく、どのような特徴のある会社か、 これまでどのような産業保健活動が行われているのか、まったく情報があ りませんでした。そこで、少し会社のことを聞いてみることにしました。

ドラネクストは、大手自動車会社の日田自動車の系列部品会社で、従業員数約 6,500人、国内外の子会社を含めると従業員数37,000人の規模である。主に、 自動車のエンジンや電装品等の部品を製造しており、最近では日田自動車以外の自 動車会社にも製品を供給している。主な事業所は、本社の外、国内に4工場、海外 に10工場(アメリカ2工場、メキシコ、ブラジル、オーストラリア、中国2工場、 タイ、イギリス、ベルギー)、日本、アメリカ、ドイツに研究開発拠点を持っている。

この会社の健康経営を考えるにあたって、その基盤となる産業保健につ いて、人事部ではメンタルヘルス対策には関与していたようですが、多く を環境安全室に任せていたので十分に知識を持っていないようでした。ま た、会社の産業医も産業保健が専門ではないとのことでしたので、まずは、 産業保健の基本的なことから話を始めることにしました。
※本書に出てくる社名、登場人物、場面設定は、すべてフィクションです。

●登場人物紹介●
大崎 人事部長
山上 人事課長
森田 常務理事
堀川 保健師
橋口 環境安全部長

森 晃爾 (著)
出版社 : 労働調査会; 改訂版 (2019/1/25)、出典:出版社HP