イーロン・マスク 破壊者か創造神か

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イーロン・マスクの正体に迫る

本書は、天才的な起業家でもあり、異色の経営者でもあるイーロン・マスクの経歴や彼が持つビジョンについて解説している本です。電気自動車や宇宙ビジネスで、それまでの常識を覆し、産業を大きく変えた彼が、「人類を救うため」の型破りな言動で何を目指しているかが理解できます。

竹内一正 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2016/11/7)、出典:出版社HP

本書は二〇一三年十二月、小社より刊行されたものを全面改稿しました。

はじめに

「わが社が潰れても、構わない」
こんな変なことを言う社長がいる。
彼の名はイーロン・マスク。私財を投げ打って、宇宙ロケット、電気自動車、太陽光発電の3つの分野で革命を起こそうとしている。
「いずれ人類は地球以外の惑星に住まなくてはいけなくなる」。イーロンはそう確信し、人類を火星に移住させるための巨大ロケットを劇的に低いコストで開発しようと2002年に宇宙ロケットベンチャー「スペースX」を創業した。
ロケット工学を学んでもいないイーロン率いるスペースXは、わずか6年で宇宙ロケット「ファルコン1」の打ち上げに成功。さらに、ファルコン1の9倍以上の推進力を持つ 「ファルコン9」を開発し、宇宙船「ドラゴン」は地球軌道周回を成し遂げた。創業10年で、ドラゴンは国際宇宙ステーションへのドッキングを成功させ、世界中を驚かせた。
これらすべて、民間宇宙企業として史上初の快挙だった。
現在、スペースXはNASAからの委託を受け、国際宇宙ステーションへの物資輸送をファルコンロケットと宇宙船ドラゴンで行っている。
日本のモノづくりも凌駕する革新的な技術でスペースXが起こしたロケット革命は、これらの偉業をコストを劇的に安くして達成した点にある。NASAのロケットコストの約 1/10でファルコンを完成させていた。それは、ボーイングなど既存のロケットメーカーには破壊的な脅威となった。
そして、ロケットコストをもっと安くするには、ロケットの再利用が近道だ。打ち上げたロケットが再び地球に戻り、もう一度打ち上げることができれば、コストは半分になり、10回再利用できれば1/10になる。最終的にコストは1/100に出来る。誰でもわかることだが、誰もやろうとしなかった。
スペースXは、2015年2月に1段目ロケットの着陸に成功し、不可能だと言っていた専門家たちを驚嘆させた。
そして、イーロンはファルコン9の数倍の巨大ロケットを打ち上げ、2025年に人類を火星に降り立たせると宣言。NASAの目標が2030年代なのに対し、少なくとも5年以上前倒しの野心的な計画だ。しかも、火星旅行の費用を現在考えられている金額の 500万分の1に引き下げるという。

しかし、火星ロケットが完成するまでの間も、CO2が増え温暖化が加速していく。その流れにブレーキをかけるためガソリン車に代わり、電気自動車(EV)を普及させようと設立したのがテスラ・モーターズだった。
自動車メーカーで働いたこともないイーロンが指揮するテスラが生んだ高級スポーツカー「ロードスター」は、カッコいいデザインとポルシェを超える走行性能で世間の話題をかっさらった。
さらに、高速充電ができるスーパーチャージャー・ステーションを全米に展開。屋根に設置した太陽光パネルで発電し充電ができ、パネルの設置はイーロンが会長を務めるもう一つの会社ソーラーシティー社が手掛ける。これなら電力会社からの電気は不要で、電力会社の屋台骨を揺さぶりかねない。
テスラ第2弾の高級セダン「モデルS」は、抜群の走行性能と400km以上の航続距離を実現し、数々の賞を受賞。人気のモデルSの注文台数を出荷できるかは、リチウム電池の生産能力にかかっている。そこで、約10億ドル(約5千億円)を投入し、世界最大のリチウム電池工場「ギガファクトリー」で勝負に出た。
テスラの強みはノートPCに使うリチウム電池を約7千個も集約して一つの大きなバッテリーのように扱う独自技術にあり、数多くの特許を保有していた。
しかし2014年、特許を無償公開すると発表し、賛否両論を巻き起こした。
この男、テスラの株価を上げるために人生を賭けているのではない。たとえテスラ社が潰れても、EVが普及して地球温暖化の速度が少しでも遅くなれば構わないと公言する。 20世紀にはこんな経営者は存在しなかった。
そのテスラに、ITの巨人で皆が憧れるアップルから150人を超える優秀な人材が転職し全米の注目を集め、アップルCEOティム・クックを激怒させた。転職の最大の理由は、技術にこだわり、世界を変えるスゴイものを生み出そうとしたジョブズのカリスマ性を、イーロン・マスクに見出したからだという。
全財産を投げ打ち大きなリスクを取り、やることが桁違いにデカいイーロンだが、目的はカネ儲けではない。「人類と地球を救うため」だ。
ドン・キホーテのような彼の夢を当初人々は笑ったが、実績が積み上がってくるに従い、慌てだした連中が続出し、それ以上に喝采を送る人々が増えている。
億万長者にしてバツ2で独身、5人の男の子のパパであり、業界のルールを無視し、常識を打ち壊す異端の経営者イーロン・マスク。果たしてこの男、破壊者なのか、それとも、人類と地球を救う救世神となるのか。

竹内一正 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2016/11/7)、出典:出版社HP

目次

はじめに

1章 新たな旅立ち
ロケット大爆発
暗闇が怖かった少年
1歳でカナダへ
運命の女性との出会い
スタンフォード大学院を2日で辞める
Zip2を売却して
合併はしたものの
CEOを追放される
ペイパルと eBayの騙し合い
NASAがやらなきゃ、オレがやる
原理に立ち返る
テスラ・モーターズの起源
投資家の剛腕

2章 素人集団の戦い
ファルコン1を打ち上げろ
宇宙は遠い、
ついにファルコン1が飛んだ。だが……
高まるテスラ社への期待
ロードスター開発現場の混乱
現場に口出す経営者
失敗しても、前を向け
イーロンの度量と先見
誰かテスラのCEOをやってくれ
テスラ倒産?
結婚、そして長男の急死 仕事か、家庭か、
2度あることは3度ある
銀行にキャッシュがない
絶対に諦めない男

3章 新世紀のクルマをつくれ
ロードスターの衝撃
未来を駆けるモデルS
点火しないで走るクルマ
落下物を巻き込んで火災発生
カモメのようなモデルX
ドアが出荷を妨げた
オートパイロットの登場
ハンドルに触れず大陸横断を敢行
オートパイロットで死者が。原因は……
オートパイロットが命を救った
大衆車モデル3への期待と不安
ギガファクトリーで世界を変える
目指すは垂直統合型エネルギー企業
先進国は、発電ではなく蓄電に着目
テスラは自動車メーカーではない

4章 偉業達成への飛翔
ベンチャー企業がロケットを打ち上げる
竜に乗って夢を追え
再利用できるロケットを作る
理系の頭と文系の交渉力
NASAのデッカイ金庫
5千億円を引き出す才能
コスト意識がない困った業界
世界初、国際宇宙ステーションとドッキング
量産でロケットコストを下げる
ロケットエンジンが1基止まったが
ドラゴンの神通力

5章 巨大な敵に打ち勝て
トヨタ、揺らぐ信頼
テスラに3億円を出資
最悪の時に立ち上げる新工場
コア技術は社内で生産する

未来のアメリカの工場
BBCの厳しい批判
テスラに第2の危機が
ニューヨーク・タイムズが足を引っ張る
言論の操縦方法
カーディーラーとの激烈な戦い
テスラ車を締め出す法案可決
ノースカロライナの迷走
ライバル企業もEVに本気に
SECの元委員長のイーロン批判
バッテリーの革命を起こせ
200のギガファクトリーが必要
無償でテスラ特許を公開する
ガソリン車の販売を禁止しようとする国が登場

6章 不可能だから挑む
NASAを超えるスペースXの挑戦
ホバーリングするロケット
絶望の中で、未来の布石を打つ才能
海に船を浮かべて、そこへ
不都合な事実への向き合い方
最悪の誕生日
ジェフ・ベゾスの目指す宇宙
ついに1段目口ケットの着陸に成功
1千回の帰還に耐えるシールド
聖人君主ではない嫌な上司 着陸は海上か、それとも陸上か
スペースXの社長は女性
進化するファルコン9
ドラゴンの飛翔
ロケット特許は出さない
中国の病巣と限界
フラットな組織で
コストダウンに ~革命的”はない クレイジーだ!と思ったが
イーロンの光速学習方法
日本のJAXAがスペースXに勝てない理由

7章 未来を切り拓け
安く太陽光発電を手に入れる
ソーラーファクトリーで太陽をつかめ
電気を貯める事業の展開
官僚的な巨大宇宙企業の闇 米空軍の入札に成功
NASAのお墨付き
スペースXが欲しがる人材
ロケットが炎上したら
3Dプリンターで作った世界初のエンジン
未来世紀のコックピット

8章 イーロンが描く未来
自動運転の今と未来
ラクをしたがる人間
8版をなぜ出荷したのか
実走行で精度を上げる
一気にレベル4を狙うグーグル
クルマを支配するのは誰か
自動運転の競争激化 保険会社がつぶれる日
燃料電池車はクソだ
燃料電池車ミライ、1兆円の開発費
電気自動車 S燃料電池車、一体どっちがエコなの?
トヨタ「ミライ」の成功のカギ
欧米企業は再生エネルギーにシフト
仏政府が原発に代わりテスラ工場の誘致を
10年後のテスラ社はこうなる
自動運転にはEVが向いている
「所有」から「共有」の時代
走行距離も販売する
完全自動運転でクルマが売れなくなる時
産業構造の大転換はすでに始まっている
大衆車「モデル3」成功のカギを握るもの
火星に人類を送り込む
資産4兆円の男の遺言
宇宙を行く巨大なノアの箱船

カバー装幀
細山田デザイン事務所(細山田光宣+天池聖)

カバー写真
Getty Images

竹内一正 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2016/11/7)、出典:出版社HP