イーロン・マスクの野望 未来を変える天才経営者

【最新 – イーロン・マスクについて知るためのおすすめ本 – 生い立ちから彼の目指す未来まで】も確認する

イーロン・マスクはどんな人物か

本書は、イーロン・マスクの生い立ち、半生を綴ったもので、彼がどんな人物でどんな業績を打ち立てたのかを知ることができます。彼は地球温暖化などといった地球規模の問題を解決しようと考えています。そのために何ができるか、この問いに対する彼の考え方や姿勢を学びたい方におすすめできます。

竹内一正 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2013/12/6)、出典:出版社HP

はじめに

自動車王のヘンリー・フォード、石油の世紀を築いたジョン・ロックフェラー、そしてパーソナルコンピュータで未来を創ったスティーブ・ジョブズなど、天才経営者や偉人は数々登場してきた。しかし、その誰をも凌駕する桁違いの発想と、比類なき行動力を持ち、アメリカ大統領以上に世界中がいま注目する人物がいる。それがイーロン・マスクだ。

宇宙ロケット、電気自動車、そして太陽光発電。この三つの先端産業で革命を起こそうと挑んでいる異色の経営者である。長身でハンサム、物腰は柔らかく、はにかみながら話す外見からは、こんな途方もない大事業に挑むなど想像が難しい。だが、イーロンが異色なのは外見ではない。彼が、金儲けのためではなく、人類を救い、地球を助けるために会社を興していった点であった。
イーロンは、1971年に南アフリカ共和国で生まれ、 2 歳の時すでにゲームソフトを作り、500ドルで販売していた。 7 歳で母国を旅立つと、カナダに、そしてアメリカに移り住み、未来への扉を探し始める。アメリカは「すごいことが可能になる国だ」と思ったからだった。

アメリカのペンシルベニア大学で物理学と経営学を学んだイーロンは、スタンフォード大学の大学院に進学したが、たった2日で辞めて、ソフト制作会社「Zip 2」を起業。
PC大手のコンパック社が約3億ドルで同社を買い取ると、イーロンはこれで得た2200万ドル(約 3 億円)の資金を元にインターネット決済サービス会社「Xドットコム」を立ち上げ、ペイパル社の母体を築く。2002年、ペイパル社をネットオークション大手のeBayが5 億ドルの巨額で買収し全米で話題となった。
ペイパル社売却で約1億7千万ドル(約170億円)を手にしたイーロンが、次に何をやるのか?シリコンバレーだけでなく全米が注目した。だが、彼が選んだのはインターネットのサイバー空間ではなく、何と「宇宙」だった。

宇宙ロケットベンチャー「スペースX社」を 3 歳で立ち上げ、NASA(アメリカ航空宇宙局)が支配していたロケット産業へ挑戦を始める。しかし、宇宙開発の専門家たちは、「ベンチャー企業ごときに、不可能だ」と見下した。
ところが、スペースX社はわずか6年で独自開発のロケット「ファルコン1」を見事に完成させ、打ち上げに成功する。さらに、その2年後、国際宇宙ステーションに、宇宙船「ドラゴン」を民間として初めてドッキングさせ、地球に無事帰還させるという離れ業をやってのけた。世界はスペースX社の偉業に驚き、興奮した。しかも、NASAの物まねでロケットを作ったのではない。家電やパソコンの「コモディティ (汎用品)化」のアイデアを果敢に取り入れ、従来の 10 分の1という激安な製造コストで作り上げたのだ。これだけでも驚くが、イーロン・マスクの視線は遥か彼方を目指している。
「人類を火星に移住させる」。これこそ彼の究極のゴールだ。
「火星?」と聞くと何だかホラ話に思えてくる。しかも、大きなことを言うヤツほど、現場の実態など知らないものだ。しかし、イーロンは違っていた。ロケットに使う材料や溶接方法に至るまで細部を知り尽くし、その上でロケット開発に挑んでいた。
それにしても、なぜ、彼は火星に人類を送り込むなんて途方もないことを考え付いたのだろうか?

地球の人口はすでに70 億人を突破し、今世紀半ばには100億人にも届くだろう。しかし、二酸化炭素は増加し温暖化は進み、異常気象は頻発し、水不足や食糧危機が叫ばれている地球に本当にそれだけの人間が住めるのだろうか。イーロン・マスクは、「いずれ人類は地球以外の惑星で住まなくてはいけなくなる」との考えに至った。地球以外の惑星、つまり火星に人類は移住すべきだと確信し、火星への飛行可能なロケット開発という
遥かな、しかし現実的であると疑わないゴールに向かって挑んでいく。
その一方で、火星ロケットはすぐに作り出せるわけではなく、時間が必要なことも事実だ。そこで、二酸化炭素による地球環境の悪化を少しでも食い止め、地球の延命を図るために、排気ガスをまき散らすガソリン車ではなく、電気自動車の本格的な普及を決断した。

イーロンはスペースX社の経営と並行して、2004年に電気自動車ベンチャー「テスラ・モーターズ社」に出資し、会長となる。そして、 1 万ドルもする魅力的なデザインの高級スポーツカー「ロードスター」を発表。レオナルド・ディカプリオやハリウッドの有名人たちがこぞって欲しがり、話題沸騰となった。ロードスターはポルシェより速く、一回の充電で約400 mの長距離走破が可能で、ファンは熱狂した。さらに独創的なのは、ノートPCに使うリチウムイオン電池、約7千個を車体に積んで電源とし、抜群の走行性能を実現したことだ。
イーロンの打ち出したEVカー(電気自動車)戦略は、GMなど他の自動車メーカーと大きく違っていた。他社が、ズングリしたデザインなのに対し、ロードスターはとにかくカッコいい。みんなが憧れ、乗ってみたいと切望するEVカーを世に出し、マスコミの注目を集める。その後、ピラミッドのすそ野を広げるように5万ドル台のセダン、2万ドル台の大衆車へと展開していくという戦略だ。テスラ社は、創業から7年目の2010年、株式上場に成功した。新規自動車会社の上場はフォード社以来 5 年ぶりの快挙だった。

イーロンの卓越した能力の一つは、成功を単なる〝点〟ではなく、〝線〟で捉えることにある。どれだけ高性能なEVカーを作ったとしても、必要な時に充電できなければ〝点〟で終わる。〝線〟にするには充電ステーションの拡充がカギとなる。
そこでイーロンは、全米に高速充電が可能な「スーパー・チャージャー・ステーション」の設置を開始した。これでロサンゼルスなど西海岸からニューヨークのある東海岸まで長距離ドライブが可能となる。
しかも、充電ステーションは、地域の電力会社から電気を供給してもらうのではない。太陽光パネルを各充電ステーションに設置し、電気は自家発電してEVカーに充電できる仕組みを構築。そして、太陽光パネルの設置事業は、ソーラーシティ社が行っている。これはイーロンの従兄弟が経営する会社で、イーロンがアイデアと資金を提供し、会長も務めている。2012年には上場を果たし、全米が熱い視線を送っているクリーンエネルギー企業だ。
電気自動車に太陽光発電、そして宇宙ロケットと、どれ一つとっても、一つの国家でさえ手を焼く大事業だ。しかしそれを、イーロン・マスクはひとりでやろうとしている。

振り返ると、大学生時代のイーロンはたびたび、「人類の将来にとって最も大きな影響を与える問題は一体何か」と考えていた。そして、辿り着いた結論が、「インターネット、持続可能なエネルギー、宇宙開発の三つ」だった。なるほど、ここまでなら、よくある学生の〝妄想〟で片付く話だ。だが、イーロンが違うのは、この三つを実行に移していったことだ。
シリコンバレーで成功して得た資金の多くを、宇宙ロケット、電気自動車、太陽光発電の三つの事業にイーロンは惜しみなく投入してきた。だが、どの事業も困難に行く手を阻まれ、途中で投げ出したくなるような苦境に何度も陥ってきた。
たとえば、テスラ社はロードスター開発で迷走し、会社の資金が底をついてしまう。マスコミ連中がこぞって「テスラ社は倒産する」と騒ぎ出した時、イーロンは「もし、すべての投資家が見捨てても、私がテスラ社を支える!」と果敢に言い放ち、個人資産を投入して危機を乗り越えていく。
また、スペースX社はロケット「ファルコン1」の打ち上げに幾度も失敗した。それどころか、打ち上げの前段階でロケット本体に不具合が見付かり、発射台から降ろさざるを得ない屈辱も体験している。しかし、いずれの時も諦めることなく、イーロン・マスクは前を向いて全力で突き進んだ。その姿は感動的でさえあった。

イーロンの資産は、今や約 30 億ドル(約8千億円)と言われる。そして、2010年公開の映画「アイアンマン 2」で、主人公トニー・スタークのヒントになった人物こそ、このイーロン・マスクだった。天才発明家にして大富豪の主人公が、アイアンマン・スーツを身にまとい、悪をやっつけるこのシリーズは世界中で大ヒットした。
アイアンマンは強敵と戦い苦戦しながらも、最後には思い通りの結末を迎える。しかし、イーロン・マスクの戦いは、思い通りにならない厳しい現実世界で繰り広げられていく。
本書は、イーロン・マスクの壮大なスケールの奮闘と、人類の未来を変える冒険をわかりやすく紹介していく。
彼の野望が、野望のまま終わるか、人類の歴史を変えるのか、それはまだわからない。 しかし、我々は彼と同時代に生き、見守ることができる。どうか、身のまわりのいろんな悩み事からしばし離れ、破天荒なイーロンの挑戦を楽しんでほしい。
まずは、イーロン・マスクの幼年期から話を始めよう。

竹内一正 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2013/12/6)、出典:出版社HP

目次

はじめに

1章 降臨-南アフリカから来た男
暗闇が怖かった少年
スタンフォードを2日で辞める
現代版わらしべ長者
チェルノブイリ原発事故を逃れた家族
イーロン・マスク追放される
ペイパルの「関ヶ原の戦い」
NASAがやらなきゃ、オレがやる
原理に立ち返る
電気自動車に取りつかれた男たち
投資家の剛腕
二つのクラッシュの違い

2章 難航 人生最悪の時
日本人が知らない南アフリカ
ファルコン1を打ち上げろ
いきなりの失敗
宇宙は遠い
ついにファルコン1が飛んだ……だが、
高まるテスラ社への期待
ロードスター開発現場の混乱
失敗しても、前を向け
イーロンの度量と先見
誰かテスラのCEOをやってくれ
テスラ倒産?
二度あることは三度ある 妻との出会い、そして
仕事か、家庭か
銀行にキャッシュがない
絶対に諦めない男

3章 前進 未来を見る
ロードスターの衝撃
ポルシェより速い
日本のお家芸「電池」
効率はガソリン車の2倍
破格量のバッテリー搭載
ジェットコースターのような乗り心地
鳥のさえずりが聞こえる
暗黒の2008年を越えて
バッテリー切れの高級車
未来を手にする方法

4章 信念 宇宙への道
インターネットの外へ
ベンチャー企業がロケットを打ち上げる
竜に乗って夢を追え
米ソ冷戦とロケット競争
ケネディからブッシュへ
理系の頭と文系の交渉力
NASAのデッカイ金庫
コスト意識がない業界
官僚的な巨大宇宙企業たち
インターネットから飛び出そう

5章 独創 PCの電池で車を走らせる
モデルSの誕生
空気抵抗を減らせ
騒音にも種類がある
ジョブズも欲しかった車
トヨタと提携
カネは上手に使う
未来のアメリカの工場
赤字でも株式上場

6章 異端 ロケット作りの革命
世界初、国際宇宙ステーションとドッキング
毎月、ロケットを打ち上げる
特許は出さない
設計はシンプルに
フラットな組織で

竹内一正 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2013/12/6)、出典:出版社HP