宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ

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シリコンバレーが牽引する宇宙ビジネスの実際

本書は、現在大きな注目を集めている宇宙ビジネスについて紹介している本です。Googleやアマゾン、スペースXといった、シリコンバレーの各企業が積極的に宇宙ビジネスへの投資を行っている背景や将来的な生活への影響などについて説明されています。宇宙ビジネスのダイナミックさが理解できるでしょう。

大貫 美鈴 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/5/10)、出典:出版社HP

はじめに

なぜITの巨人は宇宙に巨額投資するのか?
「地球のビッグデータ」を狙うゴールドラッシュ到来

宇宙開発というと、国や政府がやっていることだと考える人が多いと思います。しかし民間による「宇宙ビジネス」が、この10年あまりで一気に加速しています。
例えば、電気自動車のテスラで有名なイーロン・マスクが、ロケットを宇宙に打ち上げている会社も経営していることは、日本ではあまり知られていません。
その会社スペースXは、すでに3回以上ロケットの打ち上げを行っているだけでなく、NASAに代わって地球の軌道上にある国際宇宙ステーション(ISS)への、アメリカの補給便サービスまで引き受けているのです。スペースXが手がけているのは、これまでNASAが打ち上げてきた大型ロケットの事業化です。
世界最大のオンライン・ショッピングサイト、アマゾン・ドット・コムの創業者、ジェフ・ベゾスも、ロケットを開発する会社ブルーオリジンを設立しています。

将来、宇宙に100万人の経済圏ができることを想定し、有人宇宙飛行を見据えて安価で安全なロケットが必要になると考え、宇宙旅行ができるサブオービタル(準軌道)機や大型ロケットの開発に取り組んでいるのです。すでに試験機による宇宙空間までの飛行実験に何度も成功しています。
しかも驚くべきことに、ブルーオリジンにはアマゾンから年間1000億円の投資を行う、とジェフ・ベゾスは発表しています。これは日本の宇宙開発予算の、実に3分の1もの規模になります。

アマゾンだけでなく、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、アップルを加えたIT企業のBIG5と言われる巨大企業、さらにはシリコンバレーの企業やベンチャーキャピタルも、宇宙ビジネスに熱い視線を送っています。
「ペイパル・マフィア」の異名を持つ、シリコンバレーで絶大な影響力を持つ投資家ピーター・ティールや、スカイプやホットメール、テスラへの投資家として世界的に有名なドレイパー・フィッシャー・ジャーベットソン、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ、そして日本のソフトバンクの孫正義氏もまた、宇宙ビジネスに巨額の投資をしています。実際にシリコンバレーでは近年、数多くの宇宙ベンチャーが生まれています。
IT関連の技術や資金が流れているのは、宇宙をインターネットの延長として見ているからです。宇宙にネットワークを張り巡らせることで、「地球のビッグデータ」が手に入る。これが、さまざまなビジネスを生み出すと期待されているのです。

例えば、小型といえども高性能になっている小型衛星の撮影機能を使えば、コンステレーション(複数の人工衛星を連携させる運用法)で連続的に周回して地球を捉えることで、一刻一刻その変化を見ることが可能になります。
あるショッピングモールの駐車場に停まっている車の数を、時系列で分析することができる。植えられた作物の生育状況を宇宙から把握することができる。牧畜では、牧羊犬に代わって牛を管理することができる。魚群探知機の精度を高めていくことができる……。

こうした情報は商品相場にも影響を与え、投資銀行やヘッジファンドなどの金融機関にとっても望まれるものです。大気のビッグデータを集めて天気予報の精度を高めたり、衛星写真を用いてゴルフ場やイベント場所など局所的な天気予報も可能になれば、どうなるでしょうか。
小型通信衛星によるコンステレーションで安定したネットワークをつくることができれば、今はまだインターネットがつながらないエリアもカバーできるようになります。地図情報と組み合わせることで、車の自動運転に結びつけることができる。バスの運行状況が適切なのか、どの時間帯が混むのかがわかれば、時刻表づくりも変わっていくでしょう。決済システムが導入され、eコマースが地球の隅々までいきわたれば、大きな経済発展がもたらされます。

そうした地球を観察することで手に入るビッグデータや通信環境は、今後、IoTやAIの進化と結びついて、製造、サービス、流通、医療、金融、娯楽、教育、農業、漁業、防災などのあり方を激変させ、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めています。このデータは、第4次産業革命を駆動させる大きなピースとなるのです。そして、この通信環境は5G時代にシームレスなコネクティビティーを実現します。事実、現在打ち上げが計画されている小型衛星の数は、地球観測衛星で約1000機、通信衛星では2万機を超えるほどの規模になります。
宇宙はもはや、特別な場所ではありません。それはビジネスチャンスを大きく拡大する場所です。デジタル化が急速に進む中で、宇宙は再びイノベーションのフロントとして期待されているのです。
無重力空間を使って、地球では行えない創薬開発のための実験や高品質材料の製造をする。月の氷を資源として利用する。資源がたくさんありそうな小惑星を分析し採掘を目指す。国際宇宙ステーションに旅行”として滞在する……。こんなことも、もはや夢物語ではありません。

実際、ラスベガスのホテル王であるロバート・ビゲローは、宇宙でもホテル王になることを目指して、これまでに300億円以上の投資を行っています。月も、もはや目指すものではなく、これから「経済活動」をする場所だという認識で、月を舞台にした民間主導のコンペティション(技術開発レース)もグーグルをスポンサーにして行われています。

火星への飛行も真剣に検討されています。イーロン・マスクは火星飛行が可能な大型宇宙船を発表し、人類が火星に居住することを目指した取り組みを進めています。
火星の資源の活用や、自給自足のための植物生産などの研究も進んでいます。アラブ首長国連邦では、100年後に現地にミニシティーを建設すると発表し、国をあげて火星への取り組みを進めています。
こうした宇宙開発の商業化とも言うべき大きな流れが起きたのは、2005年のアメリカ政府による政策変更でした。スペースシャトルの後継機の開発は民間に任せて、NASAは一顧客として民間から打ち上げサービスを購入するという大転換があったのです。

2010年にオバマ大統領が出した「新国家宇宙政策」では、そうした民間企業の技術やサービスの購入、競争に通じる起業の促進、インフラの商業利用、輸出の促進などがはっきりと示されており、官民連携で宇宙開発の商業化が推進されてきました。
実際、2005年に17兆円だった宇宙ビジネスの世界市場「スペース・エコノミー」は、2016年には実に33兆円にまで拡大しています。このうち各国の宇宙予算、いわゆる公的なマーケットというのはもはや25%に満たなくなっています。すなわち、民間の商業によるサービスやプロダクトが大きく伸びてきたのです。しかも。数年でほぼ2倍という市場スケールになっています。

これにともなって、投資も急激に拡大しています。世界の宇宙関連ペンチャーへの投資は2015年、前年の約500億円から、5倍の約2500億円へと大きく膨れあがりました。2016年には約3000億円に、2017年は約500億円減って約2500億円ですが、2000億円を超える高い水準で推移しており、特にベンチャーキャピタルの関心が高いことがわかります。宇宙は今や、期待値の高い優良投資先という認識が広がり、ビジネスの場になったのです。私は宇宙ビジネスコンサルタントとして、こうしたステージの大きな変化を問近に見てきました。

私は大学卒業後、大手建設会社の清水建設に入社しました。建設会社といえば、ビルを建てたり、施設をつくったりするのが中心の事業ですが、私が配属されたのは新設の「宇宙開発室」でした。
少し前まで普通の女子大生だった私は、慌てて書店に走って宇宙の本を買い漁り、勉強したのを覚えています。そして、宇宙開発室の企画・調査研究・広報などを担当しました。
この宇宙開発事業の一環として関わったのが、「国際宇宙大学」でした。世界数十か国から100名を超える参加者が集まり、宇宙に関することを夏季に集中して学ぶ宇宙専門の大学院大学でしたが、この日本側の窓口を担当することになったのです。

私は事務局スタッフとして参加しましたが、世界中から宇宙の専門家が講師としてやってくる環境は、私にとって大きな転機とビジネスのトップたちも、今思えばその大学に学びに来ていたのです。
私は2002年に清水建設を退職。夫の留学に同行してアメリカに渡りました。このとき宇宙についての調査の仕事を請け負う機会があり、ワシントンDCで宇宙関連の公聴会をレポートしたりしましたが、同時に垣間見ることになったのが、アメリカ各地で「宇宙ビジネス」が勃興していく姿でした。
宇宙ビジネスのことをもっと知りたいと考え、帰国後はJAXA(宇宙航空研究開発機構)に入社しました。広報部の教育グループに所属、宇宙のことを世の中に広める活動をしていました。アメリカ政府の政策変更によって、まさに商業の宇宙開発のステージが大きく変わるタイミングでした。
その後、独立して宇宙ビジネスコンサルタントになり、事業開発、市場開拓、調査、コンサルティングの事業をスタートさせました。海外と日本の宇宙ビジネスのプリッジ役として、商業宇宙の世界を日本でもっともっと広げたいと考えたからです。アメリカで進行していた宇宙商業化は、世界に広がると確信していました。

宇宙ビジネスは今、世界規模で急激に拡大しています。その勢いは一攫千金を狙い、金の採掘のために多くの人が殺到した19世紀アメリカの「ゴールドラッシュ」にたとえられるほどです。
宇宙に浮かぶ小惑星には、実際に燃料やレアメタルなどの貴重な資源が豊富にあることが確認されていますが、その採掘という意味だけでなく、未開拓の空間に広がる無限のビジネスチャンスをつかもうと、多くの企業や投資家たちが殺到しているのです。
その先陣を切っているのが、世界を動かすIT企業のBIG5やイーロン・マスクのスペースXです。彼らは一体どんな未来を見ているのか。宇宙にどんな可能性を感じているのか。その狙いを本書を通して、多くの方に知っていただきたいと思います。
本書は、これまで宇宙とは無縁だった人でもわかりやすいように、次の分野に分けて解説していきます。

第1章 IT企業が引き起こしたパラダイムシフトと「21世紀の黄金」
第2章 宇宙ビジネスが変える「今後の産業と私たちの生活」
第3章 シリコンバレーが切り拓く「宇宙ビジネスの最前線」
第4章 圧倒的なコストダウンで実現間近の「宇宙旅行」
第5章 もはやSFではない「月と火星への移住計画」
第6章 ベンチャーの参入が増え続ける「宇宙産業の事例」

この10年あまりの宇宙の商業化で、宇宙ピジネスは急激に拡大してきました。そしてそれは今も、世界規模に広がっています。
これからさらに成長が加速していく宇宙ビジネスには、大きなポテンシャルが潜んでいます。その「今」と「これから」をお伝えすることができれば幸いです。

大貫 美鈴 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/5/10)、出典:出版社HP

目次

宇宙ビジネスの衝撃

はじめに
なぜITの巨人は宇宙に巨額投資するのか?

目次
第1章 グーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフト、アップル……
なぜ、IT企業の巨人は宇宙を目指すのか?
BIG5が狙う「21世紀の黄金」

イーロン・マスクが宇宙を「市場」に変えた
火星移住はもはや構想ではなく「計画」である
極秘で進められていたジェフ・ベゾスの宇宙計画
「秘密企業」は何を虎視眈々と狙っているのか?
なぜベンチャー企業が宇宙に向かい始めたのか?
ビリオネアたちが気づいた宇宙の巨大な投資価値
世界のIT企業が見ているインターネットの先
グーグルが500億円で買った理由
22億円を賭けて競い合う「月面無人探査レース」
フェイスブックが狙う40億人市場のポテンシャル
地球の周回軌道は8000機の衛星で過密状態
マイクロソフト、アップルもいよいよ動き出す!

第2章 製造、サービス、流通、医療、農業、漁業、防災……
宇宙ビジネスは、私たちの生活をどう変えるのか?
「地球ビッグデータ」が産業革命を引き起こす

マーケットは約2倍の33兆円に
中国はアメリカと並ぶ世界屈指の宇宙大国
宇宙は「低軌道」「静止軌道」「深宇宙」の3つ
ビッグデータは産業をどう変えるのか?
正確な気象データは生産管理を根本から変える
丸見えの「地球観測データ」は経済活動を変える
無重力環境での研究が医療・製造業を変える
3Dプリンターで「宇宙製造革命」
宇宙に行くコストはロケット再利用で大幅ダウン
衛星の再利用サービスも続々登場
グーグルも投資する「小惑星捕獲ミッション」とは
1年滞在も始まった国際宇宙ステーション

第3章 小型衛星、宇宙旅行、月面探査、小惑星資源利用……
シリコンバレーが狙う新時代の金脈
開拓精神を受け継ぐベンチャー起業家たちの夢

シリコンバレーが夢見るITプラットフォーム
NASAの宇宙飛行士はシリコンバレーへ向かう
ロケット野郎たちが持ち込んだアジャイル開発
失敗にめげないイーロン・マスクのポジティブさ
アメリカの開拓精神に資金の出し手が結びついた
資金のハードルが下がり、リスクが低くなった
なぜビリオネアは宇宙に巨額投資するのか?
賞金目指してベンチャー企業がしのぎを削る
宇宙ビジネスを変える、その他の国・地域

第4章 オービタル旅行、サブオービタル旅行、訓練、保険、宇宙服、宇宙食……
宇宙旅行はいつ実現するのか?
圧倒的なコストダウンで実現間近の新経済圏

なぜ宇宙ステーションはリング状なのか?
民間人でも宇宙に行けるという衝撃
サブオービタル旅行は100分の1の費用
いよいよ「宇宙旅行」は実現間近!
宇宙旅行の申込者は1000人を超えている
宇宙旅行には多くのビジネスチャンスがある
オービタル旅行の訓練はどこまで短くなるか?
民間の力で商業宇宙ステーションをつくる
宇宙でどれだけ快適に過ごせるか?
「宇宙服」という新しい市場の誕生
「商業スペースポート」がもたらす新しい経済発展
宇宙旅行は新しい観光産業へと成長する

第5章 月面基地計画、月資源開発、有人火星探査、100万人経済圏……
月と火星に人類は本当に住めるのか?
もはやSFではない「火星移住計画」の実現性

2030年代、火星に人類が降り立つ!?
月の市場規模は2020年には3000億円
月は探査や「経済活動」の場所へ
日本の「かぐや」が探り当てた「巨大な地下空洞」
「月の土地」は誰のものか?なぜ売れるのか?
なぜ世界中の人が「火星」を目指すのか?
人類で最も「火星に近い男」
宇宙を漂う「5兆円の価値」を持つ小惑星

第6章 大手からベンチャーまで続々参入
宇宙という「未来産業」の幕開け
デジタル化、IoT、AIへとつながる新市場の誕生

日本の宇宙ビジネスにもいよいよビッグバン到来
アクセルスペース 地球のモニタリング情報を提供
インターステラテクノロジズ 量産型で目指すロケットの価格破壊
アストロスケール 深刻化する宇宙デブリ問題を解決
アイスペース 月開発を引っぱる宇宙ベンチャー
エール 宇宙から人工流れ星を生み出す
輸送が激変する宇宙エレベーター構想
「宇宙」という未来産業の幕開け

おわりに

大貫 美鈴 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/5/10)、出典:出版社HP