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経営におけるサブスクリプションとは
本書は、サブスクリプションをビジネスとして成功させるためのポイントを解説している本です。そのため、実務に応用するためのポイントや成功に近づけるための手法などが多く紹介されています。これから、ビジネスにサブスクリプションを導入するためのハウツー本と言えるでしょう。
はじめに
ブームから1年、本当に定着したのか
2018年11月に開催されたズオラ(Zuora)社のサブスクライブドトーキョー2018(Subscribed Tokyo 2018)をきっかけとして、日本においてサブスクリプション・ビジネス(継続課金ビジネス)が話題になり、1年以上が経過しました。ITサービスにとどまらず、電化製品やその消耗品提供サービス、飲食店における定額サービス、ネット販売における定額サービスなど、多岐にわたるサービスが展開されています。
このようなブームをきっかけに、製品・サービスを提供した際の単発の売上計上から、将来継続的に売上が見込める本ビジネスの検討を開始した企業も多数あったと思われ、筆者においてもさまざまな業種の方々からお声をかけていただきました。そのような1年間の活動を経ての感想としては、「まだまだサブスクリプション・ビジネスでの企業の売上維持・拡大は難しい」というものです。
「なぜ、そのような感想を持つに至ったのか?」「それを払拭するには、どのようなことを実施すればいいのか?」「成功に少しでも近づくために何を変えなければいけないのか?」こうした疑問について、本書では答えていきます。
繰り返される「失敗」の原因
ここで、2018年度以降の、日本企業におけるサブスクリプション・ビジネスの定着度を考えてみましょう。2019年、「モノ売り」の会社がこぞって「サブスク始めます」もしくは「リカーリングビジネス始めます」などの事業方針を唱え、本格的な展開がマーケットでも期待されました。
しかし、実状としては、各企業で担当事業部や商品企画部門に「新サービスを考えろ」と指示が出ただけ、というケースが多く見られました。新サービスを企画しても、サブスクリプション・ビジネスにとって重要である顧客接点の分析は、表計算ソフトで作業するだけというお粗末な対応がみられ、それにより、次なる顧客体験を引き出せず、徐々に活動が縮小されていきました。結局、提供する「モノ」を「サービス」に変化させただけで、そのマネジメントの方法や情報分析に基づいた意思決定プロセス、各部門の役割を変革させていなかったのです。
このようなことは日本企業にとって、初めてのことではありません。以前、データサイエンティストの活用が唱えられ、「データドリブン経営」という言葉がはやりましたが、その際もデータを活用せよと命じた経営陣が、「このデータでは使えない」といった結論を性急に出してしまい、結果、データを活用した意思決定ではなく、旧来の勘と経験と度胸のマネジメントスタイルに戻ってしまった、ということがありました。心当たりのある企業も多いのではないでしょうか。
失敗の原因は、各領域でのデータ可視化のシステム構築のみに力を入れ、本来実施すべき、データ発生元部門の責任や権限、そしてデータ加工や意思決定に至るプロセスの見直し、そしてデータを活用した意思決定への意識改革などについて、その労力を怠ったことにありました。
通常、新規事業を起業する際と同様に、サブスクリプション・ビジネスの実現においても、ビジネスモデル、組織の役割や業務プロセス、それをマネジメントする経営管理指標、そして、業務を支えるシステムについて、変革すべき必須事項が数多くあります。
サービス企画、マーケティング、データ分析部門では、分析頻度を上げるとともに、部門間連携を密にして、顧客の声を即座に新サービスの企画につなげる必要があります。また、「モノ」の提供を含んでいる場合、流通部門やチャネルという顧客接点の一部を担っている部門は、今まで以上に顧客の声を吸い上げる必要が出てくるでしょう。さらには、経営管理部門も定常的にあがる売上を、次のサービス提供の投資に活用するという考え方で各部門の指標を設定し、管理する必要が出てきます。
システムにおいては、BOCビジネスを実現するための申し込みウェブサイトや決済方法の充実、会計や受注出荷を扱う既存基幹システムとの連携、そして、迅速なデータ分析のための分析基盤は必須です。また、サブスクリプション・ビジネスのサービスは多くの場合、スマートフォンやタブレットなどのデバイスで提供されることを想定すると、顧客の声に応じたサービスを迅速に開発できるアプリケーション開発基盤も必要になり、さらには、その開発基盤上でアジャイル(Agile:迅速)にアプリケーションを開発できる人材や組織が欠かせません。
サブスクリプション・ビジネスを検討している企業の多くが、現在の単発売上ビジネスの将来性を危惧しています。その場合には、自社のみのビジネスを検討するだけでなく、他社のサービスを組み合わせて、顧客を拡大することを検討すべきでしょう。もちろん、その際に必要になるサービス、業務の連携、さらには、他社のシステムと容易に連携することができるシステム基盤も必要になってきます。
これらのことを考慮せずに、サブスクリプション・ビジネスを単に「良いサービス企画を一度実現すれば売上が向上するビジネスである」と考えていたら、また日本企業は失敗事例を増やすだけになってしまいかねません。本書で解説するポイントを押さえて実行していただくことで、少しでも読者のみなさんのビジネスが成功に近づけたとすれば、筆者としてこれ以上の喜びはありません。
2020年1月
根岸弘光・亀割一徳
目次
はじめに
第1章 サブスクリプションが注目される理由
1 広がるサブスクリプション
2 GAFAの戦略!成長を目指すビジネスモデル
3 GAFAの戦略2他社を支援する取り組み
4 サブスクリプションの形態
第2章 各業界への広がり
1 脱「モノ売り」の動きが広がる
2 消耗品/コモディティ化した製品でも成功できる
3 データ活用で差をつける外食産業
4 進化するメディア/ソフト業界
5 成熟度の三つの段階
6 撤退事例も続出
第3章 変革成功のためのポイント
1 日本企業が陥りがちな失敗
2 変革その1 マーケティングとサービス企画
3 変革その2 管理部門
4 変革その3「モノ」のサブスクリプション
5 変革その4 代理店・販売店管理プロセス
6 変革その5 ビジネスを支えるIT組織の変革
7 変革その6 ビジネスを支える経営指標
第4章 サブスクリプション・ビジネスを支えるIT基盤
1 契約・請求管理基盤は既存システムでは対応困難
2 顧客の自由度を最大化するサービス提供基盤の実現
3 顧客に素早くサービスを提供し続けるサービス開発基盤
4 APIマネジメントの導入
5 レガシーシステムのモダナイゼーション
第5章 変革プロジェクトの推進手順
1 典型的な二つのケース
2 新規事業構想を策定する
3 サービスの仕様を考え、市場性を検討する
4 実現可能性を判断し、事業計画としてまとめる
5 すでに立ち上げたビジネスの見直し
6 変革プロジェクトが難しい理由
第6章 日本企業が成功するために
1 日本の市場で今後何が起きるか
2 本書のまとめ―変革を実行できた企業だけが生き残れる
本文デザイン 野田 明果
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