USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門

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USJの経営から学ぶ

USJは「マーケティング」を重視するようになってから、集客率が劇的にアップした企業です。そんなUSJの経営を知ることで、マーケティングの基礎を学ぶことができます。本書を通して、個人・会社がビジネスを成功させるためのカギであるマーケティング思考が身につきます。

森岡 毅 (著)
出版社 : KADOKAWA/角川書店 (2016/4/23)、出典:出版社HP

プロローグ USJがTDLを超えた日

次々と押し寄せる笑顔、笑顔、笑顔……。連日押し寄せる笑顔の津波は、多い日には10 万人に及ぶこともありました。それはまるで1つの市の人口が丸ごとこのパークを飲み込むような光景でした。ユニバーサルシティ駅のプラットホームからどんどん押し寄せる笑顔の津波は、改札を越えてどんどん太く連なり、パーク前で幾重にも巨大なトグロを巻いてから入場ゲートを貫き、更に勢いを増して黄色い波音を立てながら魔法界のホグワーツ城へと押し寄せていきます。家族連れや、カップルや、若者のグループの、笑顔、笑顔、笑顔。この仕事をしていて、これほど報われる瞬間はありません。

テーマパーク、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)は、社運を賭した「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」の大勝負に勝ったのです!
2014年のハリー・ポッターのオープン後、USJは爆発的な快進撃を続けています。しかし現在のUSJの盛況は、ハリー・ポッター1つの大成功で作られたものではありま せん。最も集客が落ち込んだ2009年度に比べて、年間で600万人以上を増やしてい ますが、実はその半分以上はハリー・ポッター以外の効果で達成しています。ハリー・ポッターがオープンする3年前から、お金のない中で無数の新企画を当て続け、毎年値上 げをしながら100万人ずつ集客を増やすことに成功し、奇跡のV字回復を果たしてきた のです。

そしてハリー・ポッターをオープンした2014年度のUSJの年間集客は1270万人、ついに悲願だった開業年度の記録1100万人を大きく塗り替えました。更に、多くの人がさすがに落ちるだろうと思っていたハリー・ポッターオープン の翌年である2015年度も勢いは衰えません。様々な施策を当て続けたことで年間集客を100万人以上伸ばして1390万人(見込み)と、大幅な記録更新が続いています。2015年10 月には過去最高の月間175万人を集客し、USJの3倍の商圏人口に陣取る東京ディズニーランドをも超えて、単月ではありますがついに集客数日本一のテーマパークになることもできました。

2001年の開業こそ華々しかったとはいえ、すぐに経営危機に落ち込んだUSJ。あの苦しかった頃に、一体誰が、今日のような盛況を取り戻す日が来ると想像できたでしょうか。USJはなぜ復活し、大成功をおさめることができたのか?なぜ次から次へと新しいアイデアが出てきて、なぜやることなすこと上手くいくようになったのか?
その秘密は、たった1つのことに集約されます。
USJは、「マーケティング」を重視する企業になって、劇的に変わったのです。
かつては新規事業の成功率は30%程度でした。それが今や、90%! 「全弾命中」といっても過言ではありません。
人々の購買行動を決定的に変えてしまう恐るべき職能、それが「マーケティング」です。

私はその職能を専門にするプロの1人、「マーケター」です。USJではCMOを務めています。CMOを採用している会社は日本ではまだ少ないのでなじみが薄いかもしれません。「マーケティング最高責任者」という意味です。

「マーケティング? 知ってるよ。市場調査したり、プロモーションプランを作ったりする仕事でしょう?」

多くの方の認識は、まだその程度のものかもしれません。
しかしそれは間違っています。日本の多くの、いや、ほとんどの企業は、マーケティングの本当の意味を理解していません。マーケティングを正しく理解できれば、必ず成功できます。それはUSJの劇的なV字回復を見ていただければ一目瞭然だと思います。

私はできるだけ多くの人に「マーケティングの考え方はマーケターだけのものではない。学ばないともったいないですよ」と伝えることにしています。マーケティングの基本の考え方である「マーケティング思考」は、全ての仕事の成功確率をグンと上げるからです。 ビジネスで成功したい全ての人は、マーケティング思考を一度しっかりと学んでおくべき です。

なぜならばマーケティングこそがビジネスを成功させるための方法論だからです。マーケティングの考え方は会社業績を上げるための道しるべとなります。マーケティングの根本にある戦略的な考え方は、仕事内容に関係なく、あなたが周囲から期待される成果を大きく上回っていくための必勝法なのです。
本書のテーマは「マーケティング思考」と「キャリアの成功」です。ビジネスで成功したい人は、必ず読むべきです。私が実体験から学んだ成功の秘訣をお教えします。「マーケティング思考」は、全てのビジネスに通用します。私は日用品を売る会社からテーマパークに転職しましたが、基本的にやっていることは同じです。考え方を変えれば、全てが変わるのです。

マーケティング思考の一番大切な根幹部分は、実は誰にでも理解できるのです。しかも学ぶタイミングに遅すぎるということはありません。もちろん早いに越したことはないですが、いつ学んでもその日から必ず役にたちます。あらゆる仕事における「業務効率」と「良い結果が出る確率」が上がるのです。全く消費者を相手にしない仕事をする人でも、マーケティングの考え方を知っていると、成功の確率が劇的に上がります。ターゲット消費者を「上司」や「恋人」などに置き換えて考えるだけで、人生が拓けていくのです。

私はマーケティング思考を知ったおかげで、人生の主役が自分自身であることを実感できるようになりました。会社業績の向上に貢献するだけでなく、残業せずに毎日家族と夕食をとることもできていますし、ヴァイオリンのレッスンに通ったり、魚釣りに行ったり、 趣味も楽しんでいます。
私はマーケティングの恐るべき力を実感しながら、20年間の社会人生活の全てをマーケティング最前線のドンパチに費やしてきました。そして国の発展を願っている1人の日本人でもあります。そんな私がいつも焦燥感をもっていたのは「日本には強力なマーケターが足りない」ということです。

そしてある日、私は気付いてしまいました。大学受験が近づいている長女から矢継ぎ早に質問をされたときのことです。
娘「お父さん、人がビジネスで成功するために学んでおくべきことって何?」
私「人も、会社も、ビジネスで成功する近道は『マーケティング』を知っておくことだよ」
娘「マーケティングって何?どんなことをするの? なんでそれを知ってると成功できるの? 教えて、教えてー」
社会人2年目で授かったこの子がもう進路を考えるような年齢に達していることに少なからず驚きました。しかし長女にとって大学選びや学部選びは、大学の先にある社会人キャリアにもつながる大事な選択です。

そこで私は「うーん、大事な質問だからちゃんと答えたいな。わかりやすい本を探しておくから、ちょっと待ってて」と答えました。
そしてワクワクしながら本探し。マーケティングについて書かれた本……。本屋さんにはたくさんあります。いろいろと目を通してみました。が、しかし……。いわゆるマーケター向けの「ガチンコ」の本はそれなりにあります。偉い学者先生が書いたアカデミックな本や、実務者がその業界や領域について書いたマニアックな本はいくつもあるのです。
しかし、「マーケティングを知らない人に向けて書かれた、マーケティングの根本を理解してもらうためのわかりやすい本がない」のです。
マーケティングについてわかりやすく書かれた本が不足していることは、非常に好ましくないと思いました。これはまさしく、マーケティング業界として Point of Market Entry(ある商品カテゴリーを認識する最初のタイミングで消費者の心に入り込もうとするマーケティング手法)に、大きな穴があいている状態ではないのかと。こんなことでは日本の企業の競争力はどんどん失われていくのではないかと。

マーケティングの考え方や魅力をわかりやすく伝える本があれば、日本にも傑出したマーケターがたくさん出てきて、遠からず日本社会をもっと活性化させるだろうと思います。マーケターでなくても、マーケティングの考え方を理解できる人が増えれば、それだけで多くの企業は変わるはずです。マーケターではない圧倒的多数の社会人や若者こそ、マーケティングの考え方を知ることが重要だと思うのです。

本書執筆のきっかけはそれです。マーケターでない人が読んでもわかる本を、ビジネスで成功したい全ての人に向けてわかりやすく書きます。ビジネスで成功したいと思っている社会人の皆さん、近い将来に就職活動をする学生の皆さん、これからのキャリアを考えている社会人の皆さん、最も大切な基本を再確認したいマーケティング実務者の皆さん、大げさに言えば、これからの日本を背負っていく全ての皆さんに役立つものを書きたいと思います。

森岡 毅 (著)
出版社 : KADOKAWA/角川書店 (2016/4/23)、出典:出版社HP

本書の目的

この本の目的は、実戦経験者の視点で、次の2つのニーズにできるだけわかりやすく答えることです。高校生の娘にもわかるように書きます。

●個人も会社もビジネスで成功するためのカギである「マーケティング思考」を伝えること。
●私が体得してきた「キャリア・アップの秘訣」を伝えること。

私はマーケティング・カンパニーとして世界で最も伝統と定評のあるP&Gという会社でマーケティングを学びました。また日常のヘアケアビジネスを伸ばす業務に加えて、P&Gの社内教育機関「P&Gマーケティング大学」で長年 Principal (校長先生)を務め、若手社員を対象にマーケティングを徹底的に教える責任者もしておりました。現在のUSJでもマーケティングの講義をいくつも持ち、社内育成に力を入れている現役トレーナーでもあります。
今回は「私のマーケティングを教えるノウハウ」を総動員して、汎用性の高いマーケティングの考え方を紹介していこうと思います。ただしマーケティングの理論に関しては、いくつものやり方が存在します。私自身、P&Gを卒業した後も、USJで得られた新しい知見など、独自の練り込みを加えて進化させ続けています。
本書では最も大切な基本を中心に、私のやり方を紹介します。それは、さまざまなビジネスの局面において、成功するビジネス戦略や戦術を導き出す強力な武器となる「マーケティング・フレームワーク」です。これを理解することで、ビジネスもキャリアも成功の確率が段違いに好転すると私は確信しています。
本書を読めば、我々が暮らしている毎日の中で、今まで何も気がつかずに使っていたもの、聞いていたものや感じていたものが、実はマーケター達が意図的に仕掛けていたことだと気づくようになります。多くの方々にとってマーケティングがもっと身近に感じられるようになることを願っています。
そしてキャリアの成功のために重要だと私が信じていることも、全力で書きたいと思います。わかりにくくて考えにくい「キャリア」という漠然としたイメージに、「きっかけ」と「とっかかり」を得られるように念じて書きます。どう考えればキャリアの成功確率が高まるのか、次に行動すべき焦点は何なのか、それらの指針が明瞭になっていけば幸いです。
皆様の成功を祈って。

2015年2月 著者

森岡 毅 (著)
出版社 : KADOKAWA/角川書店 (2016/4/23)、出典:出版社HP

目次

プロローグ USJがTDLを超えた日

第1章 USJの成功の秘密はマーケティングにあり
V字回復の着眼点とマーケティングの役割
変えたのは1つだけ
なぜ「消費者視点」は簡単にできないのか?

第2章 日本のほとんどの企業はマーケティングができていない
多くの日本企業は「技術志向」に陥っている
TVCMから日本のマーケティングの現状を考える
マーケティングはもともと日本にはなかった学問
マーケティングが日本で発達してこなかった理由
「技術」と「マーケティング」の両方を手に入れた企業が勝つ

第3章 マーケティングの本質とは何か?
マーケターって誰のこと?
マーケティングって何?
マーケティングの本質

第4章 「戦略」を学ぼう
戦略って何?
戦略的に考えるってどういうこと?
良い戦略と悪い戦略をどう見分けるのか?

第5章 マーケティング・フレームワークを学ぼう
マーケティング・フレームワークの全体像
1. 戦況分析(Assessing The Landscape)
2. 目的の設定(OBJECTIVE)
3. WHO(誰に売るのか?)
4. WHAT(何を売るのか?)
5. HOW(どうやって売るのか?)
WHO・WHAT・HOWが全てうまくいくとビジネスは爆発する!

第6章 マーケティングが日本を救う!
日本って素晴らしい
日本人の戦術的な強み
合理的に準備して、精神的に戦う
マーケティングが日本を救う

第7章 私はどうやってマーケターになったのか?
会社と結婚してはいけない
「実戦経験」の積み重ねでしかマーケターは育たない
人を育てる伝統
成長できる環境で貪欲に泳ぐ

第8章 マーケターに向いている人、いない人
マーケターに向いている4つの適性
「スペシャリスト」か「ゼネラリスト」か?
マーケターに向いていない人

第9章 キャリアはどうやって作るのか?
うどん屋の大将の年収は決まっている
玉数を知った上で、必ず好きな台に座ること
会社ではなく「職能」を選ぶ
強みを伸ばして成功する
なかなか変われないのはなぜか?
自分の強みを知るにはどうするか?
常に前向きに、目的を持つ

エピローグ 未来のマーケターの皆さんへ

森岡 毅 (著)
出版社 : KADOKAWA/角川書店 (2016/4/23)、出典:出版社HP