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【最新 – デジタルマーケティングについて学ぶためのおすすめ本 – 入門から実務まで】も確認する
理論ではなく業務の体系を
デジタルマーケティングの理論や概念はわかるけど、実践の仕方がわからないという方におすすめの1冊です。どのように業務を設計していけば良いのか、具体的な手引きがよくわかります。初学者だけでなく、実務をある程度経験した方のブラッシュアップの手引書としてもおすすめです。
CONTENTS
デジタルマーケティングの実務ガイド
1章 はじめに
1.1 なぜ「実務ガイド」なのか
1.2 本書の使い方
1.3 デジタルマーケティングを定義する
2章 デジタルマーケティングのSOW (スコープオブワーク)を定義する
2.1 スコープの定義は、
デジタルマーケティング業務設計のはじめの一歩
2.2 SOWを定義する
章末コラム
マーケティングはもはや組織の一機能ではなく、一つの思想である
3章 年間計画を策定する
3.1 戦略の定義
3.2 チームを編成するエージェンシーを選定する
3.3 マーケティングツール投資の計画を立てる
3.4 オウンドメディアの企画・運用
章末コラム
あらゆる「メディア」が終焉を迎えるとき、企業コミュニケーションの形が変わる
4章 キャンペーン(プロジェクト)を企画・実行・レビューする
4.1 カスタマージャーニーの位置づけ
4.2 カスタマージャーニーを作成する
4.3 キャンペーンのKPI設定・予算配分
4.4 ブリーフィング資料を作成する
4.5 メディアプランの策定
4.5.1 なぜ広告主にメディアの知識が必要か?
4.5.2 デジタル広告の分類に共通認識を持つ
4.5.3 ブランドセーフティーについて共通認識を持つ
4.5.4 ビークル選定・運用方針
4.6 クリエイティブプランの作成
4.6.1 コンテクストの管理
4.6.2 クオリティーの管理
4.6.3 プロジェクトマネージメント
4.7 キャンペーンの効果測定
4.7.1 効果測定総論
4.7.2 効果測定各論
章末コラム
カスタマージャーニーよさらば
5章 人材管理・社内調整
5.1 採用・教育
5.2 社内調整
章末コラム
生産性が低い現場のミーティングで起きていること
おわりに
1章 はじめに
1.1 なぜ「実務ガイド」なのか
「マーケティングの4P」だったり「AIDMA/AISAS」だったり、マーケティングの教科書を開くと、マーケターは様々なフレームワークに出くわします。そういったフレームワークが「なるほどな」と腑に落ちたとして、それではその後皆さんの実際のマーケティング業務が具体的に変わったということは、これまであったでしょうか。否、ではないでしょうか。なぜか。それは、それらがあくまでマーケティング「理論」の体系であり、「業務」の体系ではないからです。どういうことでしょうか?例え話を使って説明します。
マーケターになるのにライセンスは不要ですが、医者になるには必要です。では、仮に、医者になるのにも免許は不要だったとします。皆さんが医学を志していると仮定して、近所には医学書が充実している図書館があるとします。さて、優れた医者になるために、皆さんはどんな勉強をするでしょうか。
まずは、医者たるもの、病気の発生メカニズムを把握する必要がありそうです。例えば、糖尿病というのは、膵臓のランゲルハンス島にあるB細胞で作られるインスリンというホルモンが、何らかの原因でうまく分泌されないことにより引き起こされるそうです。これは理論の体系である基礎医学の話です。
しかし、このような病気の発生メカニズムを把握していても、実際に糖尿病を罹患した人を治療することはできません。「うーん、これはランゲルハンス島のB細胞に問題がありますね」などと言われても、患者さんはただひたすら困惑するだけでしょう。
感には、病院のお医者さんは、症状や検査の結果から病名やその類型を伝説を立てた上で適切な治療法を選択します。「血液検査の結果が出ました。初期の2型糖尿病が疑われるので、食事療法と運動療法から始めすみましょう」などとなるわけです。これが実務の体系である臨床医学です。このように、医学には、基礎医学と臨床医学という2つの体系があります。
大図書館の医学書フロアーの糖尿病コーナーには、基礎医学(発生の仕組みなど理論の体系)の教科書があると同時に、臨床医学(どう診断し治療するか?という実務の体系)の教科書もあるのです。医者になるには、この2つの知識体系が必要です。
マーケティングやデジタルマーケティングの世界では、この2つが明確に区別されていません。その上で、大半の教科書・解説書は、ここでいう基礎医学的な「理論の体系」を主に扱っています。認知して、想起して、選択肢に入れ、購入して、リピートし、推奨する。これは消費行動のメカニズムです。それでは、そのメカニズムを、私たちマーケターは今日・明日の業務に実際どう活かしていけばいいのでしょうか。あるいは全世界、全業界を一般的に論じた抽象論を、特定の地域の特定のマーケットを相手どった自分の日々の業務に翻訳していくにはどうすればいいのでしょうか。大半の教科書・解説書には、例え初心者向けのものであっても、その答えは書いてありません。なぜなら、それらはやさしく噛み砕かれているとはいえ、マーケティング「理論」の体系だからです。
教科書・解説書のもう1つの類型は、事例の紹介です。事例は好まれがちですが、実際に他社の事例を学んでそれを自らの業務に活用できたことは、これまでどれくらいあったでしょうか。事例は実務の話ではありますが、それゆえ、基礎医学的な理論に辟易した読者には好まれるのでしょうが、そこに体系はなく、多くは個別具体的な状況においてのみ意味を持つものです。「私は糖尿病を乾布摩擦で治した」という事例を聞いて真似をしても、それが自分のケースにもあてはまるという保証は全くありません。
マーケティング実務家にとって今日、明日の業務を行う上で本当に必要なのは、この「理論の体系」「体系のない事例」のいずれでもなく、「実務の体系、なのです。これこそまさに本書で紹介していくものです。実務の体系と理論の体系は全く別のものというわけではなく、実務の体系は理論の体系を下敷きにしています。例えば、本書で紹介する知識の1つに、「コンテクスト管理シート」というものがあります。ウェブページなどを作成する際に、「どこから来た」「誰に」「何をしてもらうか」というコンテクスト(文脈)を整理することで、的外れなものを作ってしまわないようにする手法です。この「誰に」を決める際、「認知しているけど想起してくれない人」などと定義しますが、ここに理論の体系である「消費行動のメカニズム」が活用されています(本件はあとで詳しく説明しますので、ここでは「理論」と「業務」のイメージの違いだけをおさえてください)。
本書で紹介していくのは、まさにこういった実践的なツールです。デジタルマーケティングに関して、担当者として、あるいは責任者として、具体的にどのように業務を設計し進めて行けば良いのか。その手引きとなるべき知識です。本書を活用すればこれらを体系的に理解することができます。つまり、1つ1つの業務を相互に関連するものとして、全体の中での位置づけを明確にしながら把握することができます。マーケティング理論については深入りは避けますが、あまり一般的ではない用語・概念には、本書の内容を理解するのに必要な範囲で解説を加えています。その他の難解なビジネス用語や、デザイン・ウェブ開発・統計などの専門用語とあわせて、初掲の際に下線をつけた上で巻末の用語集で解説していますので適宜参照してください。
本書は、企業のデジタルマーケティング責任者はもちろん、その責任者の下につく担当者、あるいは責任者を管理する立場の上級マネージャーを主な読者として想定していますが、それらの人に提案する立場のエージェンシーの皆さんにもぜひ活用してもらいたいです。業務プロセスの設計まで提案することができれば最強のパートナーになれるでしょうし、本書を通じてクライアント業務の「裏側」を垣間見ることで提案の精度もさらに向上します。
最後に、「読者」と書きましたが、本書は「読む」ものではなく「使う」のです。本書のサブタイトルに「ハンドブック」という言葉を入れたのもこのためです。一読したあとは常にデスクの上に置いて、折に触れ参照しなながら実務を設計してもらうことを想定しています。本書を皆さんの仕事の友として、毎日書き込み顧みる手帳のように使い潰してもらえれば、筆者としては存外の喜びです。
1.2本書の使い方
本書では、2章「デジタルマーケティングのSOW(スコープオブワーク)を定義する」で「そもそもデジタルマーケティングとは何であるか」という大前提を整理し、3章「年間計画を策定する」で前年度末までに整理するべき年間計画の策定方法を論じ、4章「キャンペーン(プロジェクト)を企画・実行・レビューする」で具体的なキャンペーンの企画・実行方法を解説していきます。最後に5章「人材管理・社内調整」では、年間計画よりさらに息の長いテーマを取り扱っています。日常のマーケティング業務に明確な「始まり」も「終わり」も「順番」もないように、本書はどこから読み始めても問題ありません。それ以前に説明された内容には必ず索引をつけているので、理解できていないことがあればその項目のみを参照してから、また読んでいた章に戻って先を読み進めることができます。特に、3章「年間計画を策定する」は、実際に作業を遂行するタイミングは年度末に近いタイミングになり、今すぐに実行できない、あるいはする必要がないということもあるでしょう。その場合は、章ごとスキップして4章以降を読み進めてください。同じことは各チャプター(この章でいうと「なぜ『実務ガイド』なのか」「本書の使い方」などの小項目を、本書ではチャプターと呼んでいます)にも当てはまります。例えば4章「キャンペーン(プロジェクト)を企画・実行・レビューする」の「メディアプランの策定」「クリエイティブプランの作成」「キャンペーンの効果測定」などの各チャプターは、それだけ個別に読み進めても実践できる内容になっているので、特に困っていることがあればそこから読み始めることもできますし、一通り通読したあとで業務上の課題に応じて個々のチャプターを再度ピンポイントで参照することも可能です。
「また、本書では、サービスやメディアなどの固有名詞を極力記載しないようにしています。1つには、サービス選定・メディア選定において読者にバイアスがかからないようにするため。また常にアップデートされ続けているメディアやサービスの詳細と記載内容に食い違い=読者の誤解が生じないようにするためです。例えば、「プライベートDMP」を説明する際に、本書では具体的なプライベートDMPのサービス名を列挙するようなことも、特定のサービスを取り上げてそのスペックを解説するようなこともしていません。具体的にどのようなサービスがあるのかを確認したい場合は、本書に記載されている用語で検索すれば主要なベンダーが一覧できますし、多くの場合、サービスを比較した記事やブログも複数参照できます。もちろん馴染みのエージェンシーに問い合わせることも可能ですが、その場合は、当該エージェンシーが資本関係や提携関係を持つサービス・メディアがあれば、必ずその旨明示してもらうように注意しましょう。動画プラットフォームのYouTubeなど、カテゴリーのうちいくつかの固有のサービス、という状況で、具体的な説明をするためには固有名詞に言及せざるを得なかったケースもいくつかあります。そのようなケースでは特に、またその他具体的なサービス名・メディア名には言及していない場合でも、本書に記載されている情報は出版時現在のものであることに留意し、実際に皆さんが利用を検討しているメディアやサービスに固有の最新情報は、必ず各社に確認するようにしてください。
本書は「臨床マーケティング」の本ですが、各章末には「基礎理論マーケティング」を論じた章末コラムを収録しています。章末コラムは、AdverTimesで筆者が連載しているコラムの中から、各章で論じた内容と関連の深いものをピックアップした上で一部加筆・修正したものです。手元の業務ばかりに目線を合わせていたのでは時に考えが行き詰まってしまいますし、そうなると本書の理解も進みません。章末コラムは、そういう意味で視点を切り替え、頭をリフレッシュするという意識でお楽しみください。
1.3デジタルマーケティングを定義する
「デジタルマーケティングなるものは存在しない。デジタルとそれ以外のマーケティングを分けるのは、デジタルがあらゆるタッチポイントや業務領域と不可分に接続した今日、もはや無意味である」最近ではそういった議論も盛んですが、現実的には、デジタルマーケティング某というタイトルで仕事をしている人はたくさんいます。デジタルマーケティングを冠するチーム、部署、会社も枚挙に暇がありません。この本を手にとっているということは、皆さんもそんな中の一人、そんなチームや部署や会社で日々汗を流している一人である可能性が高いわけで、理想はともあれ「デジタルマーケテイングだけを論じることは無意味だ」と切り捨ててしまっては何も始まりません。皆さんの現実は何も変わらないのです。
突然ですが、中学校の社会科で「三権分立」というのを習ったと思います。国家権力というのはとても強大なので、立法、司法、行政の3つに分断して、それぞれを別の機関に担わせることで、国家の暴走にブレーキをかけようというコンセプトです。立法とはすなわち国会で、その役割は法律を作ることです。司法は裁判所で、国会が作った法律を政府や国民、あるいは国会自体がしっかりと守っているかどうかを監視する機能です。それでは行政は?
この行政の定義というのが意外と難しく、現在行政学の世界で通説的な考え方になっているのが、「国家機能のうち司法と立法を除いたその他全部」というものです。なんだか投げやりなようですが、「控除説」などという立派な名前もついたれっきとした学説です。そして、くどいようですが、これが通説なのです。
デジタルマーケティングの定義について、本書はこの「控除説」を採っています。デジタルマーケティングとは、「マーケティング活動のうち、明らデジタルではないものを除いたその他全部」です。一見とても投げやりですが、それ以外には定義のしようがありません。
「例えば、新聞広告は明らかにデジタルではありません。テレビ、雑誌、ラジオ広告も然りでしょう。では、ソーシャルメディアやウェブ上の企画と連動させたテレビ広告は?スマホのARアプリで見るインタラクティブ(双方向の)な雑誌広告は?これらには、ぜひともデジタルマーケティング担当の関与が必要です。デジタルマーケティング担当が主導していても不自然ではないでしょう。ゆえにこれらは一義的にはデジタルマーケティングの範疇に含めて考えるべきです。
控除説を採ると、デジタルマーケティングの守備範囲は広大になります。機能別、ブランド別、あるいはブランド別と機能別のマトリックス、どのようにマーケティング組織を切っても、デジタルマーケティングは全てのチームを横断する機能になります。次の章では、まずこのようなものとしてデジタルマーケティングを理解した上で、「では、この会社におけるデジタルマーケティングとは、具体的に何と何を担当し、何と何は担当しないのか」と、デジタルマーケティングチームのSOWを明確にしていきます。このSOWの定義こそ、まさにデジタルマーケティング業務設計のはじめの一歩です。これが明確でないと、誰も幸福にならない他部署とのコンフリクトが定常的に発生するばかりか、戦略もKPI(キー・パフォーマンスインディケーター)も年間計画も設定できません。