デジタルマーケティングの教科書

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ビジネスパーソン必読の教科書

「デジタルマーケティングとは何か」。その本質やフレームワーク、そして活用法まで理解することができます。従来型のマーケティングのそれぞれの領域をどう進化させていくか、というアプローチで進んでいくのでデジタルマーケティングの全体像がよくわかる1冊です。

牧田 幸裕 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2017/9/15)、出典:出版社HP

はじめに

インド発祥のジャイナ教の伝承に「暗闇の中の男たち、象を評す」の寓話がある。6人の暗闇の中の男たちが、象に触れ、王に「それが何だと思うか?」と問われる。足を触った男は、「柱のようです」と答えた。尾を触った男は、「綱のようです」と答えた。鼻を触った男は、「木の枝のようです」と答えた。耳を触った男は、「扇のようです」と答えた。腹を触った男は「壁のようです」と答えた。牙を触った男は、「パイプのようです」と答えた。それを聞いた王はこう答えた。「お前たちは全員正しい。しかし、お前たちの話は、それぞれ食い違っている。それは、お前たちが象の違う部分を触っているからだ。象は、お前たちの言う特徴を、すべて備えている」と。

現在のデジタルマーケティングは、まさに「暗闇の中の男たち、象を評す」の状態である。
誰かに「デジタルマーケティングとは何か?」と問うてみるとしよう。ある人は、「電子メディアを通して製品やブランドのプロモーションを行うことだ」という。またある人は、「お客様の行動をデータとして蓄積・活用することでマーケティング業務をさらに高度化させることだ」という。ある記事には、「顧客とつながりを持つためにデジタルチャネルを利用するマーケティング戦略のことを指す」と書いてある。どの説明も間違ってはいない。しかし、これらの説明は、それぞれ食い違っている。それは、彼らがデジタルマーケティングの違う部分を見ているからだ。デジタルマーケティングは、彼らの言う特徴をすべて備えている。

でも、これらの説明では、まだ「象」が見えない。デジタルマーケティングの全体像が見えない。だから、デジタルマーケティングが何なのか、ピンとこない。腑に落ちない。様々な企業で今、「わが社もデジタルマーケティングに取り組んでみよう!」という動きが盛んになっている。しかし、マーケティング担当者の多くは、そこで迷う。「デジタルマーケティングに取り組むべきだということはわかったが、具体的に何をすればよいのか?何から手をつけたらいいのか?そもそもデジタルマーケティングって何なんだ?」と。|デジタルマーケティングは、大きく2つに分解できる。「データドリブン」と「オムニチャネル」である。「データドリブン」とは、消費者理解と消費者へのアプローチを、「勘」や「経験」ではなく、データに基づいて行うということだ。「オムニチャネル」とは、消費者と企業の接点であるECチャネルとリアル店舗をシームレスに統合し、消費者へ購買の場を提供し、一方で、消費者購買行動データ取得の場とすることである。

そして、企業が消費者との関係性を深め、最終的に消費者のエージェント(代理人)になることを目標とする。消費者が何かを購入する場合、「あの人(企業)に頼もう!」とすぐに想起できる存在になり、消費者との絆を深めることがゴールである。
本書の目的は、このデジタルマーケティングの全体像をお見せすることだ。デジタルマーケティングは、サプライチェーンやロジスティクスといった他のビジネスターム(ビジネス専門用語)と比較すると、最近登場した新しいビジネスタームである。だから、未だ定義もバラバラで、「人によって、内容の捉え方も異なる。そんな状態で、「デジタルマーケティングを学びましょう」といっても、どこから手をつけていけばよいのかわからないだろう。本書を手に取っていただきたいのは、以下のような方々だ。

1.デジタルマーケティングを推進することになったが、そもそも何をすればよいのかよくわからないマーケティング担当者
2.デジタルマーケティングと今までのマーケティングの違いがわからず、何をすべきか指示できないマーケティング担当役員、担当部長
3.雑誌などでデジタルマーケティングの記事を見ることが多くなり、興味を持っているが、そもそもデジタルマーケティングとは何なのかよくわかっていないマーケティングに興味のあるビジネスパーソン、大学
4.デジタルマーケティングを現場で実践しているが、デジタルマーケティングの全体像を説明しようとすると言葉に詰まる広告代理店のデジタルマーケティング担当者、データマイニング企業のデジタルマーケティング担当者

では、どうやってデジタルマーケティングの全体像をお見せするのか。本書では、我々が国内外のMBAで学んできたマーケティングを活用し、デジタルマーケティングの全体像をお見せする。
MBAの多くではフィリップ・コトラーの「マーケティング・マネジメント」をベースにした講義が行われている。本書では、これを「従来マーケティング」と定義する。本文で詳細に説明するが、デジタルマーケティングと従来型マーケティングは別々のものではない。相反するものでもない。デジタルマーケティングは従来型マーケティングを進化させたもの、言い換えれば、包含して上書きしたものである。だから、すでに全体像が見えている従来型マーケティングを活用し、デジタルマーケティングは、従来型マーケティングをどう進化させているのかというアプローチで、デジタルマーケティングの全体像をお見せする。これが、本書の目的だ。
この目的を達成するために、本書は以下のような構成で検討を進めていく。

序章では、デジタルマーケティングが実現する近未来をご紹介する。現在進行形で進むテクノロジーの進化、それに伴いデジタルマーケティングで何を消費者に提供できるようになってきているのかという現在の状況を検討する。そのうえで、現在のテクノロジーではまだ実現できないが、複数のテクノロジーを組み合わせたり、現在のテクノロジーが進化したりすることで、実現できるようになるデジタルマーケティングの提供価値を予測する。そして、消費者にどのような購買体験を提供でき、その結果、消費者がどのような購買行動をとるのかということを大胆に予測する。

第1章では、「デジタルマーケティングとは何か」、本書における定義を詳述する。2017年現在、デジタルマーケティングの定義は、企業により、人により、異なっている。まさに「暗闇の中の男たち、象を評す」の状態だ。この収拾のつかない状態を類型化し、そのうえで、バラバラにしたり、組み合わせたりして、デジタルマーケティングの定義とは何なのかということを問い直したい。
第2章では、「従来型マーケティングの戦略策定プロセス」を確認する。もしかしたら、従来型マーケティングを十分に理解することなく、いきなりデジタルマーケティングの担当となった方もいらっしゃるかもしれない。心配する必要はない。従来型マーケティングの理解が十分ではないと思われる読者は、第2章を何度も読み返し、十分に理解してから、デジタルマーケティングの世界へ進んでほしい。なぜならば、従来型マーケティングは、デジタルマーケティングの基礎であり、土台だからだ。

第3章は、本書の核である。中心である。重心である。「デジタルマーアーティングの5つの進化とフレームワーク」として、デジタルマーケティングが、従来型マーケティングのどの領域を、どう進化させるのか、一つひとつ検討していく。その領域は「環境分析」「消費者理解」「セグメンテーション」「チャネル」「プロモーション」と多岐にわたる。デジタルマーケティングの全体像を捉えるためにも重要な章なので、頑張って読み進めていただきたい。

第4章では、マーケティングのキープレイヤーの変遷について検討する。市場成長期のマス広告が重要だった時代、市場成熟期の顧客理解が重要だった時代、デジタル化により顧客理解が飛躍的に進化する時代、顧客理解のためにビッグデータを所有する時代、それぞれの時代でマーケティングのキープレイヤーは異なってくる。それぞれの時代で、どのようなキープレイヤーがどういう役割を果たしてきて、現在果たしており、これから果たしていくのかということを理解しよう。

第5章では、デジタルマーケティングを実践するマーケティング部門、「リーダー、担当者がどう変わるべきか、ということを検討する。デジタルマーケティングを実践するためには、今までのマーケティングスキルだけではまったく足りない。一方で、今までのマーケティングスキルがないのに、いきなりデジタルマーケティングを実践することはできない。では、マーケティング部門、リーダー、担当者は、それぞれをどう(自し)変革しなければならないのか。求められる要件と、変革手法についてキャリア形成も含めながら検討していく。

本書の執筆において、今まで同様、東洋経済新報社出版局の藤安美奈チさんに、企画段階から編集までお世話になった。藤安さんには、実践門ビジネストレーニング誌「Think」連載時から、「フレームワークを使いこなすための50問』『ラーメン二郎にまなぶ経営学』『ポーターの『競争の戦略』を使いこなすための23問』『得点力を鍛える』(いずれも東洋経済新報社)でもご担当いただいた。

本書の執筆は、今までとは一味違うエキサイティングな取り組みだった。とにかくテクノロジーの進化と、それに伴うデジタルマーケティングの進化が速い。だから、未来予測がどんどん実現し、私の執筆スピードを追い越していく。デジタルマーケティングの進化に応じて原稿の書き直しも多く、予定以上に執筆に時間を要した。しかし、藤安さんには、ディスカッションパートナーとして議論を深めていただき、様々なアイデアを出すことができ、本書を完成させることができた。改めて感謝を申し上げたい。

牧田 幸裕 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2017/9/15)、出典:出版社HP

目次

はじめに

序章 20XX年のマーケティング―デジタルテクノロジーが実現する近未来
1 デジタルマーケティングが実現する近未来の消費者の購買行動
2 レジでの決済なしで買い物ができるAmazonGo
コラム◎20XX年のコンビニエンスストア
3 オムニ施策で先行する「マルイウェブチャネル」
コラム◎20XX年のアパレルショップ
4 顔認証と表情認識がもたらすデジタルマーケティングの近未来
コラム◎20XX年のデジタルサイネージ
5 Google、Amazon、Appleが想定する自動運転の進化
コラム◎完全自動運転がもたらす20XX年のマーケティング

第1章 デジタルマーケティングとは何か
1 本書で定義するデジタルマーケティング
データドリブン: ビッグデータ分析で消費者を理解し、消費者へのアプローチを決定する
オムニチャネル: ECチャネルでもリアル店舗でも同様の購買体験を享受できる
2 混沌とするデジタルマーケティングの定義
インターネットプロモーション、Webプロモーションとほとんど変わらない定義
データマイニング、ビッグデータ分析に偏った定義
格好良いのだが、中身のない意味不明な定義
3 現在の定義は対象範囲をカバーできていない
4 従来型マーケティングとデジタルマーケティングの関係

第2章 従来型マーケティングの戦略策定プロセス
1 マーケティング環境分析――PEST分析とSWOT分析
2 マーケティング戦略立案——STPからマーケティング・ミックスが決まる
セグメンテーション
ターゲティング
ポジショニング
マーケティング・ミックス
3 マーケティング戦略実行―まずは仮説を検証する
4 マーケティング戦略管理——市場導入後も検証は継続される

第3章 デジタルマーケティングの5つの進化とフレームワーク
進化1 環境分析——FOAで未来を定義する
過去から予測するPEST分析、SWOT分析の限界
未来を定義することから因果関係を考えるFOA
進化2 消費者理解——AISAS、ZMOTで消費者購買行動を理解する
従来型のAIDMAでは消費者購買行動を説明できなくなってきた
SNS時代の消費者行動はAISASとZMOTで説明できる
購買意思決定プロセスに関するフレームワークの進化
従来型マーケティングは消費者の「心理」と「行動」をどう理解してきたのか
デジタルマーケティングは消費者の「行動」と「心理」をどう理解していくのか
進化3 セグメンテーション——「全体から細分化」ではなく「個からの形成」で考える
進化4 チャネル——シングルチャネルからオムニチャネルへ
必須条件はオムニチャネル化
シングルチャネル
マルチチャネル
クロスチャネル
オムニチャネル
オムニチャネルを成功させる5つのカギ
ユーザーIDの統合と顧客理解
シームレスな購買体験の提供
シームレスな物流網の整備
決済情報の取得
売上計上の工夫
オムニチャネル導入のポイントと事例
製造企業のオムニチャネル導入——サントリー、森永製菓の事例
流通企業のオムニチャネル導入——メルクマールとなるのはアマゾン
製造流通企業(SPA)のオムニチャネル導入——メルクマールとなるのはユニクロ
進化5 プロモーション——「マス」から「OnetoOne」へ
デジタルで可能になるOnetoOneマーケティング
プロモーションのフレームワーク
ターゲット消費者絞り込みの進化
従来型マーケティングのターゲット消費者絞り込み
デジタルマーケティングのターゲット消費者絞り込み
製品やサービスの認知促進の進化
従来型マーケティングの認知促進
デジタルマーケティングの認知促進
興味、関心、欲求醸成の進化
従来型マーケティングの興味、関心、欲求醸成の進化
デジタルマーケティングの興味、関心、欲求醸成の進化

第4章 マーケティングのキープレイヤーはどう変遷するか
1 総合広告代理店:需要過多(もの不足)の時代のキープレイヤー
2 外資系戦略コンサルティング会社
供給過多(もの余り)の時代のキープレイヤー
3 デジタルコンサルティング会社: デジタルマーケティング変革期のキープレイヤー
4 消費者行動データ所有企業: デジタルマーケティング確立期のキープレイヤー

第5章 デジタルマーケティング実践に求められる能力
1 デジタルマーケティング部門リーダーに求められる役割
誰がデジタルマーケティング部門リーダーになるべきか
CEOのバックアップが必要となる
CMTという新たなCXO
デジタルマーケティング部門の組織図
2 リーダーに求められる「連携力」「統合力」「構想力」
「複数部門を束ねる「連携力」
ベクトルを合致させる「統合力」
未来を語る「構想力」
3 担当者に求められる従来型マーケティングを超える実践力
未来を予想し、環境変化を考える力
消費者理解を主導できる「仮説検証力」
サプライチェーンやロジスティクスを理解できるカ
プロモーションを融合し、デザインできる力
プロトコルを合わせるコミュニケーションカ
4 見えない未来を予想し、検証する

《付録》
デジタルマーケティングの勉強法
おわりに

牧田 幸裕 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2017/9/15)、出典:出版社HP