デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法(MarkeZine BOOKS)

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“売りたい”を“買いたい”に変える

マーケターの売りたい気持ちを、消費者の買いたい気持ちにどう変換すれば良いのか。顧客へのアプローチが変わる10のメソッドがわかります。本書は、デジタルマーケティングにおける基本的な考え方や数字の見方、やるべき施策の優先度がわかる超実践的な入門書です。

西井 敏恭 (著)
出版社 : 翔泳社 (2017/10/23)、出典:出版社HP

はじめに〜この10年で世界はどう変わったか~

この本を手に取っていただき、ありがとうございます。

私はデジタルマーケターとして様々な仕事をしており、特に自社でECサイトを運営する企業の仕事に多く関わってきました。私にとってはじめてのマーケティング書となる本書では、主にECで得た知見をもとに、デジタルマーケターが知っておくべき考え方やノウハウを、わかりやすく紹介したいと思います。

皆さんご存知のとおり、デジタルマーケティングの一分野であるECでは、アマゾンをはじめとする先進企業が最先端のテクノロジーを投入し、激しく競い合っています。ネットを通じて企業が顧客と直接コミュニケーションし、購買に至る過程を可視化できるようになった今、私が学び、実践してきたノウハウは、EC業界だけでなく、これからデジタルマーケティングに携わる人、もう一度自社での取り組みを考えてみたいという人にも参考になるのではないでしょうか。

最初に自己紹介もかねて、私がデジタルマーケティングの世界に入ることになった経緯を簡単に説明したいと思います。

実は私がこの世界に入るきっかけになったのは「世界一周旅行」です。もともと旅行が好きで、大学を卒業した後、2001年に小さなノートPCとギターを持って、2年半かけて世界一周の旅に出ました。まだブログもない時代、アフリカや南米からその日に起きたことを発信していたサイトが思いがけず多くの人たちの目に留まり、帰国後にそのサイトを見ていたネット通販会社の方から「よかったらうちの会社に来ませんか」と声をかけていただいて、最初の会社に入社しました。

入社した2003年頃は、グーグルアドワーズが日本に入ってきて、アフィリエイトサービスがいくつかスタートし、ウェブマーケティングと言われるものが始まったばかりでした。私は小売業者として商品を仕入れるだけでなく、自分で管理画面を見ながら広告の入札をしたり、アフィリエイターと提携の交渉をしたり、SEOのためにHTMLコードを書くようになっていました。3~4年、そういうかたちで仕事をしながら、ウェブでモノを売る仕組みがわかってくると、商品で差別化できない小売とは違う立場で仕事をしたいと思うようになりました。そのとき、ちょうどウェブマーケティングの担当者を探していたドクターシーラボという化粧品会社に転職し、約6年間、メーカーECに取り組みました。2010年頃にはSNSやスマートフォンを利用する人が増え、ウェブだけでなく位置情報や各種データを使ったデジタルマーケティングへと広がっていきます。私が入ったとき、ECの売上は約20億でしたが、5~6年で100億くらいまで成長させることができました。

その後、2013年にドクターシーラボを辞めて、再び世界一周に出かけます。最初の旅から0年以上たってから出かけたこの旅行で、私は「世界は大きく変わったな」と実感することになりました。2000年代前半の旅では事前に宿を予約などせず、泊まる場所が見つからなければ野宿(笑)。旅先で日本語のガイドブックは手に入らなかったため、旅行のための情報源は写真がない英語の旅行ガイド『ロンリープラネット』だけ。それを見ながら当てずっぽうにフラフラと旅行をしていました。PCを持ち歩いている人はほとんどいなかったし、Wi-Fiもないのでネットを使いたかったらインターネットカフェに行くしかありませんでした。街を歩こうにも方向がわからないので、太陽を見て、こっちが南だからこっちへ行くかみたいな。そんな感じだったので非常に時間がかかる、ゆっくりした旅でした。

2014年の旅行でそれがどう変わったかというと、スマートフォンを持ち歩くのも、宿にWi-Fiがあるのも当たり前。グーグルマップを使えば道にも迷わないし、事前にネットで宿を押さえられる。象徴的だったのは南米の奥地に行ったときのこと。目的地に着いて宿を探そうとぶらぶらしていたら、日本人がたくさんいる安宿がありました。なぜこんな奥地の宿に日本人がいるのかと思って話を聞いてみたら、旅行者の間で人気のあるブログを見てそこに来ていると言うんです。食ベログで評価が高い店に人が集まるみたいなことが、南米の奥地でも起きていたのです。

南米を1年かけて旅行していた人が、今は3か月しか旅行しない。ここがいいと言われているところにピンポイントで移動してしまう。旅行先として人気のところといえば、インスタ受けするところ。さらに誤解を恐れずに言えば、「旅行に行くこと」がゴールではなく、「写真を撮ってインスタグラムにアップして共有すること」がゴールになったりしているのです。以前の私の旅行は、よくわからないけどとりあえず行ってみる、バスが来る時間はわからないけどバス停で待ってみようという感じだったのですが、今はそういう無駄が一切カットされている。本当はそこに面白さがあったりするのですが。こういう変化はあらゆるところで起きていて、消費者行動の変化にどう対応するかがビジネスにおいて大事なポイントとなっています。

2回目の世界一周から戻った私自身にも変化がありました。食品ECのオイシックス(現・オイシックスドット大地)にCMOとして参画しながら、シンクロという自分の会社を立ち上げ、現在では、年商100億くらいのECのコンサルティングをはじめ、モール系や商品点数100万規模の会社のCRM、アプリのマーケティングなど幅広く手掛けるようになりました。最近ではスポーツやカルチャーといった物販とは異なるデジタル事業の支援も行っています。都内でひっそりとやっていた鰻屋さんが食ベログの人気で予約困難なお店になったり、SNS映えする南米奥地の塩湖に多くの若者たちが訪れるように、これまでデジタルマーケティングと縁遠かった組織や会社にもチャンスがある。今後も、様々な分野にチャレンジしていきたいと考えています。

デジタルマーケティングは、とかくテクノロジーやツールの話になりがちですが、本当に大切なのはビジネスのロジック。自社の売上構造を分析し、どんな顧客から売上が上がっているのかを理解するところから始まり、顧客の層を積み上げていくことで、どうしても超えられなかった売上の壁を超えることができるのです。

本書では私自身のビジネスの経験を踏まえて、多くの方が気づいていないデジタルマーケティングの本当に大切な考え方を解説していきたいと思います。

西井敏恭

西井 敏恭 (著)
出版社 : 翔泳社 (2017/10/23)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 デジタルでマーケティングはどう変わったか
そもそも「マーケティング」とは?
マーケティングファネルに足りないもの
マーケティングには順番がある
デジタルで何が変わったのか?
デジタルの3つの特性
売上の土台を作る
デジタルマーケティングの全体像

第2章 売上を「新規」と「継続」に分解する
新規顧客と継続顧客
顧客構造と売上の関係
「継続率」が上がると売上も伸びる
新規に依存したビジネスは厳しい
なぜ継続率が大事なのか
顧客の状態で翌年の売上も予測できる

第3章 「F2」の壁を超えるには
おすすめのラーメン屋さんの話
「F2転換」とは
その「F2」は本当にリピートなのか?
F2の高い壁
大切なのは「タイミング・商品・コミュニケーション」
タイミングで反応が変わる
F2に効く商品は?
コミュニケーションは熱いうちに引

第4章 CRMは心理学である
CRMを恋愛にたとえると
「お客様がどう考えているか」だけに集中する
お客様に直接話を聞いてみる
商品の見せ方を考える
離れられない仕組みを作る
マーケティングオートメーションを活用する

第5章 「広告費は売上の10%」は正しいか
「広告」はお客様との最初の接点
広告費はどのくらいかければいい??
初回購入のハードルを下げる
体験のハードルを少し上げる
設計がうまくいかないときの選択肢
入口体験の改善ポイント
コンテンツは安上がり?

第6章 優先度の高い広告をやり切る
いよいよ広告の話をします
最低限やるべき広告は何か
事業を拡大するときに使う広告
お客様の目線で広告を使い分ける
スマホ時代に急成長したSNS広告
なんとなく広告をやっていませんか?
SEOとSEMに対する考え方
SEOの2つの役割
SEMとキーワード
リマーケティング広告
ショッピング広告
アフィリエイトの考え方
SNS広告①フェイスブック
SNS広告②ツイッター
SNS広告③LINE
進化するディスプレイ広告
広告は気持ちづくりが大切
自分たちでできるところからやっていこう
こんなとき、どの広告を使う?

第7章 サイト改善とKPI
ページビューに一喜一憂する前に
サイト改修はゴールが大切
カートの改善は必ずやること
スマホ中心で考える
見るべきサイトのKPI
ノイズを減らす方法
数字の見方を変える

第8章 選ばれるブランドになるには
ブランドは何からできているのか
ブランドとカスタマージャーニー
アマゾンにどう向き合えばいい?

第9章 社内調整とチームづくり
2か月前に書かれたメルマガ、読みたいですか?
デジタル部門は組織横断型のチームに
社長がデジタルを理解していない会社
人材不足はチャンス
ECの部署にはどんな人が向いている?
専門家も必要です

第10章 〔まとめ〕デジタルマーケティング10のメソッド
あとがき

西井 敏恭 (著)
出版社 : 翔泳社 (2017/10/23)、出典:出版社HP