虚数はなぜ人を惑わせるのか? (朝日新書)

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日常に隠れた虚数の世界を学ぶ

コンピュータや宇宙まで虚数の世界を完全に網羅した一冊です。難しい数式を避け、文系や数学が苦手な人にもわかりやすく解説されています。虚数がどこで、何に使われているのか、なぜ必要なのか、簡潔に学ぶことができます。

竹内 薫 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2019/8/9) 、出典:出版社HP

プロローグ

おいらの名前はシュレ猫。虚数の世界に棲む幻想的なお猫様だ。え?チェシャ猫の親戚かって?ああ、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に出てくるあいつのことか。まあ、似てるっちゃあ似てるのかもしれないが、知らねえなあ。少なくとも親戚じゃないことだけはたしかだ。なにしろ、おいらは半分生きてて、半分死んでる、時空を超越した特別な猫なんだから。おいらみたいなのが、そこらへんにうようよいたら、大変じゃねぇか。

そもそもこの本を手に取ってくれているということは、アナタは虚数が大好きか、逆に不信の念を抱いているはず。虚数が大好きな読者には、説明は不要なので、いきなり第1章に突入していただいて結構だ。でも、虚数に首を傾げている読者は、このままプロローグを読み進めてくだせい。

おいらも猫の学校で虚数を初めて教わったときはびっくらこいた。なにしろ、2個あるおやつを2乗したら4個で、4個を2乗したら6個になるのはあたりまえなのに、いきなりカオにゃん先生に騙されたんだからな。
先生は黒板に「おやつ2!」と書いた。
「おいシュレ猫、先生とのジャンケン勝負に負けなかったら、この数の2乗のおやつをおまえにやる」

おいらはすぐにこの取引に乗った。ジャンケンポーン。ふ、いったい先生様、なに考えてやがんだ。猫のジャンケンは常にあいこに決まってるじゃんか。なにしろ、前肢の構造上、チョキは出せないし、グーもきちんとできない。つまりは肉球を見せながらのパーしか出せないわけでおあいこ。ふふふ、これでおやつ4個いただき!
だが、先生はため息をついてこう言った。
「残念だったな。おあいこだ。シュレ猫、先生におやつを4個くれ」
はぁ?何言ってんの?逆だろ、逆。おいらが4個もらう方だろうが。
「先生、なに言ってるにゃ。2個の2乗は4個で、おいらは負けなかったんだから先生から4個もらうんで~す~よ」
「2個じゃないぞ。黒板には2iって書いてあるだろう。このiは虚数といってな、2乗すると-1になる数なんだよ。つまり、2iを2乗すると-4。だから、おまえが先生に4個おやつをくれなくちゃいけない。こんなの宇宙の常識だろうが。なあクラスのみんな、虚数って知ってるだろう?」
すると、教室の猫どもの半分くらいが手……前肢をあげた。うん?たしかに黒板をよくよく見ると「!」じゃなくて「i」だった。でも、おいらはiなんて知らないから、頭の中で勝手にビックリマークに修正してしまっていたらしい。

「先生、これ詐欺じゃないすか!仮に!がiだったとしても、2乗したらマイナスになるなんてインチキにゃ!」
先生はにやりと笑った。
「ほほう、ということは、シュレ猫君。iがインチキなら、キミの存在そのものがインチキということになるが、それでもいいのか?」
は?おいらの存在そのものがインチキ?まったくもって意味不明。すると、優等生のおニャニャが髭をピンと立たせてこうのたまった。
「シュレ猫く~ん、数学の授業ではまだ教わっていないけれど、虚数がなくなったら、われわれのような特別な猫は消滅してしまうって、社会科の時間に何度も教わったじゃない?先生はこれから、その数学的な意味を説明してくれようとしてるのよ。わからないの?」
うーん、そういえば、かすかに記憶の片隅に残っている。世の中には虚の数があると言われているけれど、その数がなくなったら、われわれ一族だけでなく、宇宙そのものが消滅してしまうって話。でも、そんなバカなことがあるかって感じたから、あまりよく話を聞いていなかったんだよな。
「カオにゃん先生、でも、クラスの半分くらいも『2乗したらマイナスになる数なんて知らない』っていってるじゃないすか」
先生はふたたびニヤリと笑った。
「だから、これからその不思議な数について数学の立場からじっくり解説しようとしてるんじゃないか。シュレ猫、この本のおわりで虚数の正体がつかめたら、-4をもう1回2乗して、先生がクラスの全猫におやつを配ってやる。それでいいか?」
「わかったにゃん」
う、いきなりかわいい返事をしてしまったが、この本は、おいらみたいに「虚数ってなんだかわかった気がしない」という、もやもや感をぬぐいきれない読者のための、カオにゃん先生特別授業だと思ってもらいたい。
にゃにゃ!前口上はこれくらいにして、それではいざ、摩訶不思議な虚数世界へGOi

竹内 薫 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2019/8/9) 、出典:出版社HP

虚数はなぜ人を惑わせるのか 目次

プロローグ

第1章 虚数はどこに存在するのか?
日常に隠れている虚数
iの不思議
虚数との出会い
シュレ猫コラム① いろ~んな数
虚数がなければパソコンもスマホもない
測定装置では虚数を検出できない
相対性理論とピタゴラスの定理
アインシュタインが気づいた4次元の世界
日常の常識にこだわると間違える

第2章 人類の想像を超え発展した数学
人間は数を数える動物
ピタゴラスがしようとしたこと
すべてはインドで始まっていた
0と虚数
シュレ猫コラム② 無限の発見と探究
シュレ猫コラム③ なぜ欧米人は7に線を入れるのか

第3章 ネコでもわかる虚数の性質となりたち
複素数と虚数の歴史
虚数は目に見える
マイナスとマイナスをかけるとプラスになる意味
シュレ猫コラム④ 世界一簡単にわかる虚数の計算方法
虚数にも大小はある?
虚数は行列だった?

第4章 数学を合理的に再構成する
数の発展とはなんだろう?
筆算という高度な計算
なぜ使わないデシリットルを教えるのか
シュレ猫コラム⑤ ややこしいナントカ進法
かけ算、そして1000
シュレ猫コラム⑥ 格子の方法
小数より分数、はしたの数が先
最後は割り算、そして……
シュレ猫コラム⑦ 分数で割るときは「逆さにしてかける」?
xやyが入ってくると一気に世界が変わる

第5章 読んだらハマる関数の世界
式さえあればコンピュータに計算させられる
労働時間に比例しない給与体系
関数と方程式
2次方程式の解はどこへ行った?
関数は自動販売機
コンピュータグラフィックスと虚数

第6章 もっとも美しい数式・オイラーの等式と虚数
オイラーの等式に魅せられた人々
シュレ猫コラム⑧ オイラーWHO?
利子に利子がつくということ
シュレ猫コラム⑨ 指数関数と三角関数の深い関係
とうとう虚数金利を採用する銀行が登場した
「世界一美しい等式」は世界一コワイ?
シュレ猫コラム⑩ なぜオイラーの等式が美しいのか

第7章 ホーキングの時間の宇宙
時間と空間は相対的なもの
シュレ猫コラム⑪ 重さと質量の違い
宇宙は計算機である
虚時間だとなぜ宇宙の始まりが丸くなるのか
虚時間のその後

エピローグ

図版 谷口正孝一
イラスト 平田利之

竹内 薫 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2019/8/9) 、出典:出版社HP