Newton別冊『虚数がよくわかる 改訂第2版』 (ニュートン別冊)

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虚数の世界を完全網羅

本書は2018年に刊行したニュートン別冊『虚数がよくわかる』の改訂版です。
数学や科学において重要な役割を果たしている虚数について、人類が虚数に至るまでの数拡張の歴史や虚数の性質、そしてその重要性をやさしく紹介しています。

筆者
出版社 : ニュートンプレス; 改訂第2版 (2020/3/16) 、出典:出版社HP

はじめに

かつて,フランスの数学者デカルトがその存在を認めず「想像上の数」とよんだ奇妙な数があります。それが,わたしたちが高校の数学で教わる「虚数」です。虚数の何が奇妙なのでしょうか?プラスの数もマイナスの数も,2乗する(2回かける)と必ずプラスになります。ところが虚数は,「2乗するとマイナスになる」のです。そのような数は,どこにも見当たらないように思えます。

では,なぜ高校では虚数を教わるのでしょうか。それは,数学において,虚数がきわめて重要な役割を果たしているからです。実は,虚数がなければ,数の世界は不完全なままになってしまうのです。

また,ミクロの世界を解き明かす「量子力学」においても,虚数はなくてはならない存在です。虚数がなければ,電子1個のふるまいすら,正しく知ることができないのです。

本書は2018年に刊行し好評いただいたニュートン別冊『虚数がよくわかる』の改訂版です。新たな特集記事を加えて大改訂を行い,より楽しく読みやすい内容に生まれ変わりました。人類が虚数に至るまでの数拡張の歴史や,虚数の性質,そして数学や物理学で虚数がどのように役立てられているかを,やさしく紹介しています。虚数の不思議な世界を,お楽しみください。

2020年3月

筆者
出版社 : ニュートンプレス; 改訂第2版 (2020/3/16) 、出典:出版社HP

目次

イントロダクション
人類は数の世界を拡張してきた
虚数をめぐる数学者・物理学者の歴史

1.虚数誕生への道のり
協力 織田和美 協力・監修 木村俊一
自然数
ゼロ
負の数
負の数のかけ算
有理数①〜②
無理数
実数
Column1 小数の表記法が生まれたのは16世紀
Column2 ピタゴラスは有理数が数のすべてであると信じた
Column3 古代メソポタミアの粘土板に刻まれた。
Column4 古代人はこうやって平方根を作図した
Column5 √2が無理数であることの証明
Column6 √2を分数であらわす方法連分数
Column7 方程式とは何か?
Topics 実数の完成と無限の概念

2.虚数とは何か
協力 織田和美/木村俊一
歳数とは
とけない問題
虚数誕生①〜②
市民権を得た虚数
Column8 「2次方程式」には,実数では答えが出せないものがある
Column9 4000年の歴史をもつ「2次方程式」
Column10 2次方程式の「解の公式」でカルダノの問題を解く方法
Column11 虚数誕生のきっかけは16世紀の「数学勝負」
Column12 ギャンブル好きで確率論の発展にも寄与したカルダノ
Q&A1 複素平面はなぜ「ガウス平面」とよばれる?
Q&A2 虚数に大小はある?

3.虚数と複素数
協力 織田和美 協力・執筆 木村俊一 執筆 小谷善行
複素数のあらわし方
複素数の足し算
複素数のかけ算①〜②
虚数で解く不思議なパズル①〜②
ガウスと複素数①〜②
数拡張の終着駅
Column13 「カルダノの問題」を複素平面で確かめてみよう
Column14 「マイナス×マイナス=マイナス」の世界とは?
Column15 複素数の「極形式」とは?
Column16 複素平面を幾何学に応用してみよう
Column17 複素平面の反転と無限遠点
Q&A3 -1の4乗根,8乗根,16乗根は?
Column18 「代数学の基本定理」の証明
Column19 フラクタルと複素数
Column20 複素数ニュートン法によるフラクタル
Topics 黄金比と複素数で正五角形を作図してみよう

4.人類の至宝オイラーの公式
協力 織田和美/木村俊一
三角関数
テイラー展開①〜②
虚数乗
オイラーの二つの式
πとiとe
オイラーの公式をながめる
オイラーの公式はなぜ重要か
Column21 三角関数って何?
Column22 自然対数の底「e」とは?
Column23 円周率「π」とは?
Column24 近代数学の基礎を築いた天才数学者オイラー

5.虚数と物理学
協力・執筆 和田純夫
光・天体と虚数
4次元時空と虚数①〜②
未知の粒子と虚数
量子力学と虚数①〜③
Q&A4 実在しない虚数が,なぜ自然界に関わる?
Topics 量子力学では,なぜ複素数が登場するのか?
Topics 「小林・益川理論」でも虚数が活躍する

筆者
出版社 : ニュートンプレス; 改訂第2版 (2020/3/16) 、出典:出版社HP

イントロダクション①

「答えのない問題」に出会うたび,人々は新しい数をこしらえた

古来人々は,「答えのない問題」に出会うたびに,新しい数の概念をひねりだしてきました。
数の中で,最も起源が古いのは,1,2.3,…という「自然数」です。自然数は,リンゴが1個,牛が2頭,日数が3日…というぐあいに,物の個数を数えるために生まれたものと考えられます。
その後,1と2の間の数や,3と4の間の数をあらわす言葉も必要になりました。「2倍すると3になる数」つまり3/2や,「1を10等分したもの」つまり0.1=1/10のような数はそうした中で生みだされたのでしょう。分数であらわすことができる数,つまり「有理数」の発明です。有理数を使うことで,ものの個数だけでなく,長さや重さ,体積などの「量」を数であらわすことができるようになりました。
その後,分数ではあらわせない数(有理数でない数)が発見されます。2の平方根(√2)や,黄金比(1+√5/2)=1.618…などの「無理数」です。今では円周率πや自然対数の底eなども無理数になることがわかっています。無理数を小数であらわすと,小数点以下の数字が決して循環することなくつづきます。
人類はさらに「ゼロ」や「負の数(マイナスの数)」までも数の仲間に含めます。そして,正負の数とゼロを含めて,有理数と無理数を合わせた数全体のことを「実数」としました。これによって,数をあらわす「数直線」はすべて埋めつくされたことになります。
ところが,人類は数直線の外にある数まで発見してしまいました。本書のテーマ「虚数」です。虚数とは,2乗するとマイナスになる数のことです。そんな常識はずれの数が,埋めつくされたはずの数直線を含む平面に広がっていたのです。実数と虚数を足してあらわされる数のことを「複素数」とよびます。こうして,次々と数の拡張をつづけてきた人類は,複素数にたどりついたのです。

人類は数の世界を拡張してきた
ここでは数の拡張を5段階で示しました。最も起源の古い数は,1,2,3,…という「自然数」です。次に,分母と分子が自然数の分数としてあらわせる(正の)「有理数」が,数の仲間入りを果たしました。その後,自然数の分数ではあらわせない(正の)「無理数」,さらに「ゼロ」や「負の数」が加わり,「実数」ができあがりました。今の日本の学校では,先に負の数,あとで無理数を習う順番になっていますが,人類の歴史の中では負の数の方が認められるのに時間がかかりました。そしてついに,本書のテーマである「虚数」が数の仲間入りを果たします。

イントロダクション②

虚数をめぐる数学者・物理学者の歴史年表

筆者
出版社 : ニュートンプレス; 改訂第2版 (2020/3/16) 、出典:出版社HP