まちづくり解剖図鑑

【最新 – まちづくりについて学ぶためのおすすめ本 – 概念の理解から実践方法まで】も確認する

ある町の事例から「まちづくり」の本質をみる

本書は、山形県金山町のまちづくりの事例をもとに、「町の再生」に携わった技術者による事業の折り返し時点での振り返りをまとめたものとなっています。緻密な設計デザインやイラストが施されていたり、まちづくりのプロセスの重要性が記されていたりと、読みやすい構成となっています。

片山 和俊 (著), 林 寛治 (著), 住吉 洋二 (著)
出版社 : エクスナレッジ (2019/11/3) 、出典:出版社HP

はじめに

旅に似ているのではないだろうか――。

建築設計やまちづくりの仕事は、ある時にある特定の町や建物に関わり、終わると次の異なる場所やテーマに向かう。旅に出発と帰着があるように、今日がはじめてと最後という時がある。そして次に向かう仕事は、旅と同じで異なっている。最適解を求め実現する道程である計画や設計では、自分の持ち駒を総動員、駆使して進める。対象は特定なものだが、その間の頭の中は古今東西を駆け巡り、求める知恵はグローバルにわたる。

この本は、そういう設計者や計画者特有な思考回路をイメージして構成している。体系ももちろん大事だが、計画を進めながら思いつき、頼りにした内容の集積をイメージしてまとめている。学生時代に学んだ知識もあれば、他の建築家たちの仕事から受けた刺激や、旅行などで得た知見もある。今回集めた情報もあれば、今さらと思われる古い情報の混在もよしとしている。贔屓目に宝箱と言いたいが、何かしらのヒントが見つかる引出しであってくれたらと願っている。

第1~4章と第6章は、40年あまり関わってきた山形県金山町のまちづくり、その様々な場面から構成している。100年運動という町の方針を受けて、それを実現し継続するために実施してきた調査、計画や設計の数々である。空間的な側面では、町の全体から部分まで、分野的に言えば、都市計画から建築・土木設計まで、ソフトからハードまで関わった仕事を振り返ったものである。が、ここでは空間的な側面を主としており、景観法をはじめとした制度や助成のしくみなどは取り上げていない。そして第5章は、金山町まちづくりの空間的な側面を整備する時々に参考にしたランドスケープや外部空間の事例や手法、設計についての展開である。常識と思われることや、かなり個人的な興味に片寄った事例もある。世界各地の町やひろばなどは誌面の制約もあるが、我々が興味を惹かれた事例を優先して選択している。

ここで取り上げた金山町での40数年にわたるまちづくりの試みは、その時々町にとって必要と思われる計画を町に協力しながら進めてきた結果である。これをアーバンデザインの実践例と言ってよいか分からないが、建築・土木・都市計画分野を横断、一体的に捉え実行してきた成果であることは確かである。そして現在も試行錯誤しながら続いている。

この本は、特定な町を対象とした計画の積み重ねによる構成である。我々自身も見たことがない試みであるが、広くまちづくりやアーバンデザイン、建築への関心と刺激を高める一助となれば幸いである。

片山和俊
林 寛治
住吉洋二

片山 和俊 (著), 林 寛治 (著), 住吉 洋二 (著)
出版社 : エクスナレッジ (2019/11/3) 、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 まちのいいところの見つけ方
異国からの来訪者金山と出会う
不便さも悪くない
金山町はすべて山の中
出会いと別れ
地形のおかげ
小さな町は大きな住宅
煙は高いところに上る
やっぱり旧家は凄い
蔵はまちづくりの玉手箱
金山町の隠れた魅力を顕在化
昔と較べると今がよく分かる

第2章 まちづくりの手法と進め方
はじめが肝心かなめ
大工と町民が町をつくる
風景と調和した街並み景観条例をはじめる
具体的な景観形成基準を示す
景観条例は格好だけではない

第3章 まちの中心地区をよくする計画と設計
マスタープランをつくる
道路舗装をパッチワークにしない
街路拠点の整備後の姿を示す
中心地区の町並みを整える
旧家を守り活かす
裏からはじめる
八幡公園を整備する
旧家土蔵を商工会事務所・ホールに再構築
町並みの連続性を守り八幡公園へ繋ぐ
旧郵便局を外観保存、交流サロンに再構築
大堰公園で町中心部と小学校を繋ぐ
旧家土蔵の再構築と広場創出の試み
回廊と広場をつくる
東蔵を改修する
西蔵を改修する
郊外を繋げる木造屋根付き橋
金山杉と金山大工の技を見せる
水とみどりの小径の繋がりを伸ばす

第4章 魅力的な建物をデザインする
金山杉の山を背に建つ幼稚園をつくる
地域の幼児保育を担う旧保育園を増改築
北国の長い冬も明るく元気に学べる小学校舎
多目的町民ホールを備えた役場庁舎
地域医療を担う木造既存病院を増改築
金山杉を用いた長屋建て教職員住宅
金山小校庭に面した集団移転住宅群
町並みの形成と連続性に配慮した個人住宅
薬師山を背負い町が見渡せる住宅群
冬期も生き生きと活動できる学び舎
金山杉の森の懐に抱かれた告別の場

第5章 潜在力を引き出すランドスケープ
ランドスケープの捉え方
日本の地形と集落の捉え方
町の環境、空間の捉え方
ファサードの捉え方
外部空間の高さに注意
階段廻りは特に要注意!
坂の町、塔の町
魅力的な広場のある町
歴史的町並みの保存と都市改造
パッサージュで新旧の町を結ぶ
街区内部を活用し歩車分離も実現
木骨の街建築、緩やかな起伏の町
城壁に囲まれた威容を誇る町
宿場町における町並み保存事業
古い建物を再配置、外部空間を再構築
海と陸が一体の古の港湾都市
城と城下町は自然地形の申し子
回廊のもつ魅力
古都のシンボル、屋根付き木造橋
生活の場でもある屋根付き木橋
日本の橋が面白い
運河と路地による水上の迷宮都市
心引き付ける水辺のある環境
古都の家並みと路地の風情を保全
生活感溢れる路地の風景
寺社の参道は空間展開手法の宝庫
オープンスペースは大都会の憩いの場
大空と大地の広がりを感じる
現代都市の人と車の関係を探る
共存系のボンエルフ
小建築はキラッと光る渋い名脇役
時代に合った案内板・サイン
石垣・塀を探る
雪と暮らし1
雪と暮らし2
日本の伝統家屋の部材名称

第6章 小さなまちが存続するしくみを見つける
大美輪の大杉は金山町のシンボル
ドイツの小さな町訪問と研修を行う
小さな町の歴史的中心市街地整備
農村再生事業と農家の修復・活用
町とアートの出会い、東京藝大展を開催
大工研修・小川三夫棟梁との交流
まちづくりはゆっくりと着実に進めるのが肝心!

COLUMN
農家住宅
金山町情報公開発祥の地碑
町民製作水車を展示
金山町にある施設を紹介
廃校利用の交流拠点

おわりに
参考文献
著者紹介

Staff
デザイン 総山田デザイン事務所[米倉英弘] DTP TKクリエイト[竹下隆雄] 編集協力 近藤正
いんさつ 図書印刷

片山 和俊 (著), 林 寛治 (著), 住吉 洋二 (著)
出版社 : エクスナレッジ (2019/11/3) 、出典:出版社HP