次世代郊外まちづくり 産学公民によるまちのデザイン (Business Books)

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「次世代郊外まちづくり」の目指す郊外の行く先

本書は、まちづくりや地域再生に興味がある方向けに、「次世代郊外まちづくり」という一つの事例を深く知るための資料として非常に参考となる一冊となっています。まちづくりには、地域住民の積極性や地域への愛着が必要であるということが、具体的な事例をもとに読み取れます。

東京急行電鉄 (著), 宣伝会議 (著)
出版社 : 宣伝会議 (2018/4/12) 、出典:出版社HP

■はじめに

2012年4月、私たち東急電鉄が横浜市と一緒に始めた取り組み「次世代郊外まちづくり」は、国内外からたくさんの注目を集めました。民間事業者である私たちですが、横浜市と包括協定を締結し、産学公民の連携で郊外住宅地における課題に挑み、新しいまちづくりに取り組んでいます。従来のデベロッパーとは異なる動きに、これまで多くの視察やヒアリング・取材のご依頼をいただきました。
従来のまちづくりでは、デベロッパーは住宅を開発分譲すると共に、居住者向けに生活利便機能としての商業施設を開発し、運営の目処がつくと、まちを立ち去るのが一般的です。
しかし私たちは、開発から半世紀以上経つ郊外住宅地において、持続可能なまちづくりを行うため、建物の整備を進めるだけでなく、住民主体の活動のサポートや、地域コミュニティの形成、産学公民の連携強化といった活動にも注力しています。これが「次世代郊外まちづくり」の大きな特徴です。

郊外住宅地が開発された当初に移り住んだ方々は、まちの歴史と共に年齢を重ねますから、そのまま放置していれば高齢化していきます。また時代の移り変わりと共に、ライフスタイルや住宅に対する意識が多様化すれば、若い世代の郊外離れも起きます。地域の人口が減少し、税収が減れば行政サービスは行き届きにくくなり、地域インフラの整備は後手に回るもの。こうした状況は、「次世代郊外まちづくり」の第1号モデル地区である、東急田園都市線たまプラーザ駅北側地区(横浜市青葉区美しが丘1・2・3丁目)に限ったことではなく、日本の郊外全体が抱える課題です。高度経済成長期に「ベッドタウン」として住機能に特化して発達してきた郊外は、多様な人生設計が可能な、多機能な場への変換が求められているのです。

なぜ私たちがこうした課題に向きあい、土地開発にとどまらない活動を行っているのか。それは、東急グループが創業当時から大切にしてきた、まちづくりに対する思いがあるからです。理想のまちを目指し、交通インフラの整備と同時に、土地所有者の方々と共に住宅地の開発を行い、さらには百貨店やスーパーマーケット、ケーブルテレビのネットワーク、ホームセキュリティ、カルチャースクールの運営など、生活サービス事業も絶え間なく行ってきました。土地の区画整理や住宅地の販売だけでは終わらないトータルなまちづくりを推進するために、できる限りその地に根を下ろし、住民の方々の暮らしをサポートしていきたいと考えています。

「次世代郊外まちづくり」がスタートした当時は、すべてが初めての取り組みで、「横浜市と協定を締結したはいいけれど一体何が始まるんだ?」、「東急は何を企んでいるんだ?」と好奇の目で見られることも多くありました。私たちも、「次世代郊外まちづくり」を進めるにあたり、こうありたいという理想はありましたが、全国を見渡しても類似する事例がなかったことから、将来像を具体的に提示することが難しく、走りながら考え、試行錯誤を続けてきました。
横浜市との包括協定の締結から5年の月日が経った2017年4月には協定を更新。さらに「次世代郊外まちづくり」の情報発信拠点である「WISE Living Lab(ワイズ リビングラボ)」を開設し、私たちが目指すまちと住まいのコンセプトを具現化する、地域利便施設を備えた集合分譲住宅「ドレッセWISEたまプラーザ」の開発を進め、「次世代郊外まちづくり」が何を目指しているのか、より多くの方に実像として見ていただけるようになりました。

本書を通じて私たちの取り組みをお伝えすることで、郊外住宅地のまちづくりについて一石を投じるとともに、同じような課題を抱えていらっしゃる方の参考になればと考えています。包括協定の締結から5年間の活動を「次世代郊外まちづくり」の第1フェーズと捉え、第1章・第2章ではその歩みをレポートしています。第3章・第4章では、協定を更新し第2フェーズに突入した「次世代郊外まちづくり」で見えてきた課題や今後についてまとめています。なお、活動に関する記述は、客観的な視点でお伝えできるよう宣伝会議との共著としました。

「次世代郊外まちづくり」を進めるにあたっては、美しが丘1・2・3丁目の住民の方々、包括協定の締結から共に歩んできた横浜市、専門家・有識者の方々、そしてプロジェクトに一緒に取り組んできた企業の皆様と、多くの方にご協力をいただきました。この場を借りてお礼を申し上げるとともに、感謝の気持ちと、今後も共に歩んで参りたいという想いを込めて、本書をお届けしたいと思います。

東京急行電鉄株式会社

東京急行電鉄 (著), 宣伝会議 (著)
出版社 : 宣伝会議 (2018/4/12) 、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 郊外が抱える課題と「次世代郊外まちづくり」への道すじ
郊外住宅地の誕生
東急電鉄とまちづくり
郊外住宅地が抱える課題
横浜市との連携が始動
郊外住宅地とコミュニティのあり方研究会
協定を締結
モデル地区の選出
キックオフフォーラムの開催
まちづくりワークショップ・たまプラ大学の実施
住民参加の社会実験
基本構想の策定

第2章 「次世代郊外まちづくり」第1フェーズの取り組み
住民創発プロジェクト
(1) 意欲的な住民を巻き込む
(2) 住民からの相談を受け入れサポートする体制
(3) 事業につなげる
まちぐるみの保育・子育てネットワーク
次世代のまちづくりを担う人材育成の推進
暮らしを豊かにする部会の推進協
(1) 医療・介護問題
(2) エネルギー・情報インフラ・環境問題
(3) 住まいや住宅地再生への指針づくり

第3章 「コミュニティ・リビング」実現に向けた取り組み
第2フェーズにおける活動方針と2017年度の取り組み
共創と実験の場「WISE Living Lab」
美しが丘1丁目計画「ドレッセWISEたまプラーザ」
行政との連携によるまちづくりの広がり

第4章 郊外におけるまちづくりのこれから
価値創造型のエリアマネジメントへの挑戦
まちを下支えする条件をデザインするのが企業の役割
コラム 働ける、郊外住宅地へ
【特別寄稿】プレイヤーの一人として、まちを経営する企業でありたい
東京急行電鉄株式会社 取締役会長 野本弘文
東急多摩田園都市と東急電鉄の流れ
次世代郊外まちづくり年表

おわりに

東京急行電鉄 (著), 宣伝会議 (著)
出版社 : 宣伝会議 (2018/4/12) 、出典:出版社HP