新版 日本政治ガイドブック 民主主義入門

【最新 – 日本政治について学ぶためのおすすめ本 – 幕末以降の政治史から現代の政治まで】も確認する

日本政治を概観できるガイドブックとして有効

本書は、日本政治を多様な視点から眺め、幅広く現代社会の理解にも役立つ一冊となっています。政治学の参考資料や図解がよく盛り込まれており、読者が容易に理解できる工夫がなされているほか、索引も多く、手引きとしても非常に優れています。

村上 弘 (著)
出版社 : 法律文化社; 新版 (2018/4/16) 、出典:出版社HP

はじめに

21世紀の日本の政治は変化に富み、さまざまな方向への転換が行われてきましたが、有権者は多様で、仕事や遊びに専念する「政治的無関心」、政治を利益追求の手段だと割り切る「利益政治」、ともかく強そうなリーダーを支持する「ポピュリズム」、強権的な政治を批判する「リベラル派」などが併存します。
こうしたなかで政治学は、細分化された専門研究の傍らで、社会や学生にどのように語るべきなのか。「民主主義を支えるために、有権者は関心を持ち参加するべきだ」が本筋ですが、「政治は面白いよ」という案内もたいせつです。実際、「誰がどんな作戦で勝つのか」と観戦しても、「なぜ変化するのか」と知的に分析しても、政治は興味深いものがあります。また「保守が日本を強くする」との期待と「右傾化」「一方的改憲」への不安が聞かれる現状では、バランスよく賢く考えるための情報が望まれます。
おそらく政治学は、意外に現実の役に立つのでしょう。外国では「マスコミ記者や議員になるために有利」という話も聞きますが、それは政治が、人々を助ける政策から独裁や戦争までを含む世界であり、政治学がそうした現実を見つめ、適用可能な(中範囲の)理論や価値観を提供する学問だからでしょう。そうした視野の広さ、社会の現実への関心、観察、思考の技術は、(他の専門の勉強と併せれば)、社会のさまざまな仕事・活動で役立ちます。

日本を中心とする政治や民主主義についての教科書を、僭越ながら「ガイドブック」と名づけたのは、基礎知識の分かりやすい説明に加えて、そこから政治学研究の世界へと案内し、また複数の枠組みや視点、賛否両論を情報提供して、自分でも考えていただく趣旨からです。
また、副題の「民主主義入門」は、「民主主義イコール多数決」と単純化する風潮のなかで、政治制度、歴史、理論、選挙の実際、憲法原理などを学んで理解する方がよいという勧めです。
政治に関する情報を見ると、あくまでも一般論ですが、政治家や評論家の子によるものは経験にもとづき分かりやすくても、「一刀両断」に陥り、根拠しなる資料や文献も示さないことがあります。
この本は、政治学の研究成果や資料・データを参考にしながら、かつ明快に読みやすく書きました。
ここで重要なのは、政治を勉強するとき、知識を暗記し、裏話やトリビアを楽しむだけでは足りないということです。何といっても意見や利害が分かれ対立する(それが意味のある)世界ですから、複数の立場や論理を知り、ときどき疑い、どちらが妥当かを考え、論じる力が求められます。
そこで、「ガイドブック」を目指す本書は、そうした自学やディベイト、知的探求を進めやすいように、いくつかのしくみを設けました。

◎各章末で、テーマに関する基本的な文献やウェブサイトを紹介した。
◎参考文献は、本文でカッコ内にページ数まで案内した。読者は効率よく、自分で研究・確認するための情報源にアクセスできる。……カッコの文献のタイトル等は、法律文化社HPの教科書関連情報『新版 日本政治ガイドブック』文献リストを参照していただきたい。
◎問題を多面的に考え、またディベイトにも活用できるように、賛否両論など複数の主張を紹介し、さらに、それをまとめた【議論の整理】の表を、重要な問題について置いている。……まずこの【議論の整理】を眺め、表の空欄に自分の意見を書いてから、本文を読むという順序もある。
◎図表6-1の略年表で、近現代の政治や社会の有名な場面をリアルに「体験」できる映画を紹介しているので、鑑賞していただきたい。

この本の構成について説明します(詳しくは、Ⅰ~Ⅳ部の初めの解説を参照)。
第Ⅰ部「政治学入門」は、広い政治学の全体を10のテーマに整理し、それぞれキーワードを理解しながら学びます。「35ページで学べる政治学入門」ですが、各種の文献・ウェブサイト案内や注で、さらに深められます。
第Ⅱ部「日本政治の基礎知識」は、日本政治のしくみの中核、つまり国会、政党、選挙、内閣・行政、地方自治、さらに政治的な座標軸(対立軸)や理念を説明し、「100ページで読める日本政治入門」になっています。
Ⅲ部とⅣ部は、重要な政治的テーマを掘り下げます。第Ⅲ部「民主主義とポピュリズム」は、民主主義の多面性、その特定の面だけを利用するポピュリズム、そして現代日本の選挙・政党間競争の研究です。第Ⅳ部「憲法と統治機構をめぐる議論」は、ニュースでもよく取り上げられる、憲法「改正」、首相公選、国会議員定数減、参議院改革、道州制をめぐる論争を解説します。
教科書がふつう、制度やアクターを順に章として並べるのに対して、この本のⅠ、Ⅱ部とⅢ、Ⅳ部は、「基礎と発展」の関係です。つまり、Ⅰ、Ⅱ部で触れた重要問題のいくつかに、Ⅲ、Ⅳ部が再び光を当て考察を深める構造になっています。つぎの図のようなイメージになるでしょう。

目的や関心に応じて、いろいろな読み方ができます。
「初級コース」および「中級コース」については、図に示した通りです。
また、教養レベルの政治学入門としてはⅠ、Ⅲ部(関係する日本の事例についではⅡ部)が、専門レベルの日本政治論としては、Ⅱ部、Ⅳ部およびⅢ部7、8章が、それぞれ利用できます。

なお、論争的なテーマを扱う場合、一方の側に立つスタイルと、両論を併記するだけの「完全中立」スタイルがありますが、この本は中間を行きます。つまり、両論(と参考文献)を紹介するが、事実と論理から導き出された筆者の意見も述べ、深めるべき議論のポイントに触れています。
また、政治学の研究書としては、国際比較もしながら、日本政治における年点軸、自民党優位の復活(リベラル政党はなぜ弱いのか)、「市民」と「大衆」の政治意識、ポピュリズム(扇動政治)の定義と実証研究、扇動型住民投票、道州制の光と影、大阪都(大阪市廃止分割)構想、「一方的改憲」と「合意型改憲」などについて、比較的知られざる情報や新たな仮説を提示しようとしました。こうした—アメリカ政治学の理論に準拠しにくいためか—「日本で重要なのに実証研究が少ないテーマ」が、より研究されるきっかけになればと願います。
大学の教養科目(政治学入門、日本政治入門)の教科書、および専門科目(日本政治論など)の参考書として書きましたが、一般の方々、マスコミ関係者、さらに政治家の方々にも、読んでいただけるかもしれません。
この本が、単純化しても、神秘化しても、強者に委ねても、見捨ててもいけない日本政治や民主主義について、知識、複数の視点そして分析能力を身につけ、合理的な意見を持ち、投票・政治参加するための「ガイドブック」として多少とも役立てば、幸甚に存じます。

今回の新版発行に当たっては、全面的な改訂・追加を行いました。
・第Ⅰ部「政治学入門」を新設した。
・既存の各章も見直し、データや記述を更新した。
・とくに、7章(ポピュリズム)、8章(政党と選挙)、9章(改憲)については、2017年衆議院選挙までの現実政治の動向を反映させるなど、全面的に書き直した。

2017年秋
村上 弘

第2刷発行にあたって、8章末尾に2019年参議院選挙の概要を追加した。
2019年秋

村上 弘 (著)
出版社 : 法律文化社; 新版 (2018/4/16) 、出典:出版社HP

目次

はじめに
参考文献の表示について

第Ⅰ部 部政治学入門——キーワードと考え方

まず見てみたいウェブサイト
政治・政治学を学ぶための事典・辞典
政治ニュースの調べ方
1. 政治、政治学
1. 政治とは何だろう
2. 政治、経済、文化のメカニズムはどう違うか
3. 政治、政治学は何に役立つか

2. 権力、影響力、権威
1. 権力または影響力
2. 誰が、なぜ影響力を持つのか
3. 権威のいくつかの源泉

3. 国家の必要性とリスク
1. 国家とは何か
2. 国家の機能と必要性
3. 20世紀の独裁政治の教訓
4. 国家の暴走を防ぐしくみ

4. 立憲主義、政府機構
1. 憲法と立憲主義
2. 立法、行政、司法
3. 地方自治

5. 政治参加、政党、有権者
1. 政治参加にはどんな条件が必要か
2. 政党、利益団体の役割と問題点
3. 人々の政治意識と棄権
4. ポピュリズム(扇動政治)

6. 民主主義、保守とリベラル
1. 政治体制の古典的な分類
2. 民主主義の宣言、拡大、崩壊事例
3. 民主主義の多面的な定義へ
4. 多元性のための対抗軸——政治の「右と左」、保守とリベラル

7. 公共性、政治的リーダーシップ
1. 公共性と「既得権」
2. 公共性とは国家の利益か、社会の利益か
3. 政治的統合とリーダーシップ

8. 国際関係、国際政治
1. 多面的な国際関係
2. 国際政治史から学ぶ
3. 国際政治の複数のモデル
4. グローバリゼーション

9. 戦争と平和
1. 戦争の原因
2. 戦争の種類
3. 戦争をどう防ぐか

10. 安全保障と軍事力
1. さまざまな安全保障
2. 憲法9条と自衛隊
3. 日米安全保障条約と自衛隊

第Ⅱ部 日本政治の基礎知識

1章 政府と国会
政府の役割——経済システムを補い修正する
国や政府が問題を起こすこともある——政府の両義性
立憲主義と国民主権
権力分立
最高機関としての国会
国会の権限
二院制と衆議院の優越
明治憲法(大日本帝国憲法)
日本国憲法
日本国憲法のもとでの政治の展開
意思決定——変化と合理性

2章 政党・選挙と政治参加
政党の定義、役割、分類
政党システム(政党制)
日本の政党システム
選挙制度の種類と長所・短所
衆議院選挙の並立制
18歳選挙権と政治学(主権者)教育
政治参加
投票行動はどのように決まるか
政治的無関心、棄権
無党派層と政党衰退論
棄権の政治的「効果」
デモ、内閣支持率、「日本会議」
市民社会と大衆社会
政治的情報の流れ
マスコミとインターネット
政府のマスコミへの関与利益团体

3章 内閣と行政
行政の活動と組織
内閣と議院内閣制
政府と行政の規模——赤字財政の原因は?
公務員・官僚の膨張、待遇への批判
行政の権力の源泉——官僚制の理論
行政の2つの仕事
政策の執行——行政の裁量をどう統制するか
政策の立案・決定——官僚優位から政治主導へ
首相・与党と官僚の関係
官邸主導
首相のリーダーシップ——2000年代
首相のリーダーシップ——2010年代
アクターの協力、ガバナンス
行政改革——有効性、民主性と説明責任
行政改革——効率性と小さな政府

4章 地方自治
地方自治の定義と役割
日本での略史
自治体の種類と2層制
市町村合併、道州制、大阪「都」構想
団体自治——法的な中央地方関係
団体自治——財政的な中央地方関係
住民自治——長、議会とその選挙
地方議会の改革
住民自治——市民の多様な政治参加
住民投票における熟議と扇動
NPO、足による投票

5章 政治の理念と座標軸
政治を理解するための座標軸
政治的立場の左派と右派
現代日本政治の座標軸——保守とリベラル
論点(1)——大きな政府か小さな政府か論点
論点(2)——多元主義か権威主義か
2つの軸の相互関係
保守とリベラルの社会的基盤
「改革か、既得権か」
「変化か、現状か」
「強いか、弱いか」または「タカ派、ハト派」
ナショナリズム
昭和の戦争をめぐる議論

第Ⅲ部 民主主義とポピュリズム

6章 民主主義——なぜ、多数決だけではダメなのか
近代民主主義の展開——18~19世紀
近代民主主義の展開——20世紀
民主主義の4つの構成要素・理念
民主主義の要素(1)——多数者による支配
要素(2)——多元主義、自由主義
要素(3)——参加型民主主義
要素(4)——熟議民主主義
4つの要素の関連、民主主義の類型化
日本は多元的な民主主義を維持できるか
民主主義の存立条件と評価

7章 ポピュリズム——なぜ、単純化と攻撃性で集票できるのか
2つの日本語訳——「迎合」か「扇動」か
おもな構成要素にもとづく定義——構造、アピール、支持
日本での事例(1)——小泉首相、ポピュリズム型首長
日本での事例(2)——橋下大阪市長と「維新」
欧米の事例
実証的研究(1)——単純化(ウソ)と攻撃性
実証的研究(2)——支持者とその意識の台頭の背景
ポピュリズムと民主主義の関係
ポピュリズムへの擁護と批判
対抗策は?

8章 日本の選挙と政党システム——なぜ、リベラルは保守より弱いのか
「1955年体制」とその変動
自民党の1党優位制とその原因
衆議院への小選挙区制の導入
小選挙区制の政党システムに対する影響
比例代表制の政党システムに対する影響
政党得票率による分析
小泉政権と「強い首相」
政権交代——民主党政権の失敗と成果
2012年衆議院選挙——自民党が政権奪還
2013年参議院選挙——自民の「1強多弱」へ
2014年衆議院選挙——超早期解散の真意と妥当性は?
2016年参議院選挙——自民・維新・公明の「改憲派」が両院で3分の2に
2017年衆議院選挙——リベラル政党への解体作戦
投票行動モデルの精緻化を
政党システムの国際比較
自民党1党優位制の復活か?
望ましい政党システムとは?
日本のリベラル勢力の展望
自民党——安倍政権の統治・宣伝の技術
公明党、維新——自民への直接および間接協力と独自性
民進党(民主党)——党運営の課題
共産党、社民党——中道左派の存続と役割
野党の存在理由
教育とマスコミの責任

第IV部 憲法と統治機構をめぐる議論

9章 改憲(憲法改正) ——争点と政治過程
日本国憲法の制定過程
制定過程の解釈
改憲論の実質的な目的——集団的自衛権、基本的人権の制限など
改憲の手続き——国際比較では「硬性憲法」が多い
96条改正論
「一方的改憲」はなぜ悪いのか
「合意型改憲」のための対抗策

【資料A】首相公選、議員定数、二院制
【資料B】道州制

あとがき
新版あとがき
索引

村上 弘 (著)
出版社 : 法律文化社; 新版 (2018/4/16) 、出典:出版社HP