はじめての企業価値評価 (日本経済新聞出版)

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企業価値評価の基本がわかる

本書は、企業価値評価の基本的な内容を解説した本です。前半では、企業価値評価の考え方から始まり、評価のポイント、価値評価の方法とその応用など企業価値評価の基礎が解説されています。後半は、クロスボーダー・バリュエーション、企業価値評価の実践方法、検証がテーマになっています。

砂川伸幸 (著) , 笠原真人 (著)
出版社 : 日経BP (2015/2/16) 、出典:出版社HP

まえがき

社会人MBAのファイナンスの講義では,最後のクラスで企業価値評価を教えます。財務分析,戦略立案,キャッシュフロー計画,資本コストの算出など,個別のテーマを合わせて数値化する作業が,まとめにふさわしいからです。
MBA経営戦略の講義では,最初のクラスで企業価値と企業価値評価について話します。企業価値の向上が経営戦略の判断基準になるからです。
この10年間で,企業価値評価に対する関心は驚くほど高まりました。以前は,「企業価値は測れるのですか」「DCF法とは何ですか,どのように使うのですか」という質問が多くありました。いまは違います。多くの方がDCF法を使っています。「今後,何らかの形でM&Aに関わると思いますか」と聞くと,多くの手があがります。企業価値の向上をベースに経営戦略を議論したり,M&Aの買収価格について分析したりする時間も増えました。企業価値評価は,ビジネスマンにとって,必須のリテラシーになりつつあります。
学部学生は,ビジネスの流れに敏感です。最近では,学部の講義でも,企業価値評価を教えるようになりました。今年の講義では,M&Aのシナジー効果の算定や負債コストを税引後にする理由などについて質問がありました。ずいぶん進歩したものです。
いま,企業価値評価はトレンディーです。以前は,企業価値評価を知っていることが強みになりました。今後は,企業価値評価を知らないことが弱みになるかもしれません。企業価値の向上が経営目標になっている時代です。ビジネスマンとして,企業価値評価を知らなければ,経営目標が分かっていないことになりかねません。学生は,企業価値評価を学ぶことで,企業に対する理解が深まります。
この本は,タイトルのとおり,企業価値評価の入門書です。企業価値評価をはじめて学ぶ人を想定して書きました。すでに知識がある人は,短時間でエッセンスと全体像を思い出すために利用してください。
改めて実感したのですが,企業価値評価は,簡単ではありません。専門的な用語が多く出てきます。また,実践を体験していただくために用意した数値が,多く出てきます。そのため,『はじめての企業価値評価』にしては,読み応えがあると思います。苦労されることもあるでしょう。それでも読む価値はあります。最後までお付き合いください。

本の構成を紹介します。第1章から第4章は基礎編です。第1章では,企業価値評価の考え方を紹介します。本書では,企業価値を数字で評価するアプローチをとります。とくに,理論的にしっかりしており,実務でも普及しているDCF法をコアにします。DCF法による事業や企業の価値評価を通じて,企業と投資家の関係がみえてきます。資本利益率やROEを高める必要性も理解できるでしょう。
第2章では,企業価値評価のキーワードであるフリー・キャッシュフロー(FCF)と資本コストについて説明します。FCFは,事業活動からフリーなキャッシュで投資家に配分できます。資本コストは,投資家の期待収益率で,企業価値評価における割引率になります。負債のコストと株式の資本コストから求める加重平均資本コスト(WACC)も大切な用語です。FCFやWACCは,グローバルスタンダードです。グローバル経営においても役に立ちます。
第3章は,エンタープライズDCF法の解説です。エンタープライズDCF法では,FCFをWACCで割り引くことで,企業価値を数値化します。企業はゴーイングコンサーンです。そのため,無限のFCFを取り扱うことが必要になります。定額モデルや定率成長モデルは,無限を有限に変えるツールです。しっかり理解してください。
第4章は,クロスボーダー・バリュエーションの入門です。国境を越えても,FCFをWACCで割り引くというエッセンスは同じです。ただし,金利水準が異なることと,為替レートの取り扱いには,注意が必要です。クロスボーダーのパリュエーションでは,金利と為替レートの整合性がポイントになります。カントリーリスクも出てきます。
第5章と第6章は,企業価値評価の実践編です。基礎編で学んだことをいかして,プロジェクトXというM&A案件に取り組みます。第5章では,経営分析を行い,客観的かつ現実的な前提がおかれたFCF計画を分析し,評価していきます。実際に手を動かしながら,読み進めてください。企業価値評価の実践では,膨大な数字をあつかいます。専門家でも,数字の海におぼれて,方向を見失うことがあるそうです。そんなときは,エッセンスと方針を確認するため,基礎編に戻ってください。
第6章のテーマは,企業価値評価の検証です。エンタープライズDCF法の結果を,修正純資産法や類似会社比準法で確認し,企業価値評価の精度を高めます。その後,サステイナブル成長モデルを用いて,企業価値評価のエッセンスについて再確認します。最後に,次のステップに進む方のために,ブックガイドを用意しました。ご参照ください。

この本を書き上げるにあたり,たくさんの方からサポートをいただきました。神戸大学経営学部の砂川ゼミの学生は,原稿を読み,読者の視点からアドバイスをくれました。株式会社エフエーエスの脇野信太さんからは,専門家としてのご指摘をいただきました。そして,日本経済新聞出版社の平井修一さんには,企画から出版までお世話になりました。ありがとうございます。
何事も基本が大切です。最初が肝心です。この本で,企業価値評価を正しく学び,きちんと使うための基礎にしてください。
2015年1月

砂川伸幸
笠原真人

砂川伸幸 (著) , 笠原真人 (著)
出版社 : 日経BP (2015/2/16) 、出典:出版社HP

はじめての企業価値評―[目次]

第1章 企業価値評価の考え方
1 企業価値の向上
2 企業価値評価
3 企業と投資家
(1) 企業とステークホルダー
(2) 投資家からみた企業価値
(3) コーポレート・ファイナンス入門
(4) 企業と投資家
(5) リスク回避と資本コスト
4 企業価値と成長戦略
(1) サステイナブル成長
(2) 定率成長モデルと定額モデル
(3) 成長戦略の評価
(4) 成長戦略の注意点
5 資本利益率と資本コスト
(1) 経営指標と資本利益率
(2) 競争優位と資本利益率
(3) 資本利益率と経営戦略
(4) 転地と資本利益率
(5) ビジネスリスクと資本コスト
6 リスクと現在価値
(1) リスクマネジメントとDCF法
(2) 現在と将来
(3) リスクと現在価値
(4) 短期と長期
7 M&Aと企業価値評価
(1) M&Aと事業構造
(2) 事業投資としてのM&A
(3) シナジー効果
(4) M&Aバリュエーションの重要性

第2章 企業価値評価のキーワード
1 フリー・キャッシュフロー
(1) フリー・キャッシュフローの4項目
(2) フリー・キャッシュフローと事業資産
(3) フリー・キャッシュフローと事業資産(続)
2 固定資産と運転資本
(1) 設備投資と減価償却費
(2) 運転資本
(3) 正味運転資本
(4) キャッシュコンバージョン・サイクル
3 資本コスト
(1) 3つの資本コスト
(2) リスクフリー・レート
(3) 負債コスト
(4) 株式資本コストとCAPM
(5) 株式資本コストの算出
(6) WACC
(7) WACCの算出
4 レバレッジと資本コスト
(1) 無関連命題
(2) よくある間違い
(3) 正解
(4) レバレッジとマルチプル
(5) エンタープライズとレバレッジ

第3章 企業価値評価の基礎
1 エンタープライズDCF法
2 エンタープライズDCF法のイメージ
3 ターミナルバリュー
(1) ターミナルバリューとは
(2) ターミナルバリューの現在価値
4 フリー・キャッシュフロー計画
5 エンタープライズDCF法による企業価値評価
(1) フリー・キャッシュフロー計画の立案
(2) コンプスのWACCとマルチプル
(3) エンタープライズDCF法による企業価値評価
(4) マルチプル法による検証
(5) 感度分析とレンジ
6 エンタープライズDCF法の応用
(1) シナジー効果とFCF
(2) シナジー効果の評価
(3) 経営戦略の評価
(4) 成長とリスク
(5) 事業と財務

第4章 クロスボーダー・バリュエーションの基礎
1 金利平価と購買力平価
(1) 金利平価と為替先物
(2) 金利平価と購買力平価
2 クロスボーダーの投資評価
(1) フリー・キャッシュフローの変換
(2) 資本コストの変換
3 クロスボーダーの企業価値評価
(1) 資本コストの変換
(2) フリー・キャッシュフローの変換
4 クロスボーダーのリスク
(1) カントリーリスク
(2) ソブリンスプレッド
(3) ソブリンスプレッドの算出
(4) 相対ボラティリティ
(5) その他の注意点
(6) 新興国の資本コスト

第5章 企業価値評価の実践
1 極秘プロジェクトX
(1) 現状と目標
(2) 強みと弱みの分析
(3) 機会と脅威の分析
(4) SWOT分析と経営方針
(5) プロジェクトX
2 企業の分析
(1) 貸借対照表の分析
(2) 含み損益の分析
3 フリー・キャッシュフロー計画
(1) 損益計算書
(2) シナジー効果
(3) 投資計画とFCF計画の策定
4 資本コストの算出
(1) 資産ベータ
(2) 資産ベータと株式ベータ
(3) 株式ベータの算出
(4) 株式資本コストとWACCの算出
5 DCF法による企業価値評価の実践
(1) 事業価値分析
(2) 企業価値分析
(3) 企業価値と株式価値

第6章 企業価値評価の検証
1 企業価値の検証
(1) 企業価値評価の本質
(2) 企業価値の検証アプローチ
2 ネットアセット・アプローチとしての修正純資産法
(1) ネットアセット・アプローチ
(2) ネットアセット・アプローチの類型
(3) ネットアセット・アプローチにおける含み損益と税効果
(4) ネットアセット・アプローチによるX社の価値分析
(5) ネットアセット・アプローチの位置づけ
(6) 修正純資産法と超過利益
3 超過利益法と競争優位
(1) 超過利益法の考え方
(2) 超過利益法にみる競争優位
(3) X社の超過利益分析
(4) 超過利益法によるX社の事業価値
4 マーケットアプローチとしてのマルチプル法
(1) マルチプル法による企業価値評価
(2) マルチプルの対応関係
(3) マルチプル法によるX社の分析
(4) マルチプル法の特徴
5 まとめ

ブックガイド

カバーイラスト
©︎carmen2011/shutterstock.com

砂川伸幸 (著) , 笠原真人 (著)
出版社 : 日経BP (2015/2/16) 、出典:出版社HP