国立西洋美術館 名画の見かた

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西洋美術の作品鑑賞に参考になる

本書は、西洋美術の歴史の流れを説明しながら、学芸員としての視点から解説を加えて、西洋美術の作品の背景が学べる本です。西洋美術の鑑賞の手引きを目指して書かれただけあり、西洋美術史のポイントをおさえながら、作品の背景にある要素や意義を知ることができます。

渡辺 晋輔 (著), 陳岡 めぐみ (著)
出版社 : 集英社 (2020/1/24)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 西洋美術の「窓」
なぜ美術史にとってルネサンスは重要なのか?
「絵画=架空の世界に開いた窓」という認識
遠近法的空間と実際に認識する空間の違い

第2章 人物の表現
画家の試行錯誤の痕跡は人物表現にみられる
平面としての美と立体感を同時に与えるジレンマ
安定感と不安定さによってモデルが生きているように見える
名画には芸術家の天才的な創意がある
ティツィアーノの色彩は触覚や嗅覚まで刺激する
なぜ西洋美術にはヌードが多く描かれているのか?
肖像画における理想の基準とは?
新しい表現、新しい芸術家が社会の激変に伴って出現
人の実在感を絵のなかで表現する方法の模索
本質を探究する——ロダンの彫刻

第3章 宗教画
イコンにみられる意味の描き分け
聖書の教えのための絵画。記号的な表現から、新しい表現へ
意味を描き分ける工夫
地上からキリスト、聖霊、神に至る三位一体の構造
さまざまなヴァリエーションを見せる祭壇画
頭蓋骨と骨が描かれている意味とは?
信仰をかき立てるようなリアルでわかりやすい宗教画
人物たちの視線と身ぶりが視線を導く
別ジャンルとオーバーラップする宗教画

第4章 物語画
舞台の役者たちがドラマを演じているかのような物語表現
空間の描き方の変化が物語の伝え方の変化にもなる
ルネサンスにおける物語画の重要性とは?
物語画の模範解答としてのラファエロ作品
情念の定型表現、モティーフや構図の借用
19世紀、ジャンルの意味が失われてゆく
画家の個性が強く出た新しいかたち

第5章 風景画
日本美術では花鳥風月が主題。西洋美術では?
風景に対するまなざしの進展
アルプス以北の地域で発展した風景描写
17世紀のオランダで風景画はジャンルとして確立
古代世界を彷彿させるイタリアの理想風景
19世紀、画家自身の心情を投影させた作品が描かれる
フランスでは風景画が時代を主導するジャンルとなる
印象派の画家たちは、光をあるがままに表現しようと試みた
セザンヌによる遠近法空間からの解放
「描くこと=生きること」。ゴッホは絵画と自己を同一化した
風景画は美術のあらゆる方向性を試す実験場

第6章 静物画
静物は象徴や物語性をもたらす便利な道具
静物画とは現実空間との関係が強い絵画の形式
19世紀以降、画家の造形への探究手段として重要になる

第7章 風俗画
中世以後の風俗画的な絵画の流れ
カラヴァッジョの影響と、17世紀オランダの風俗画
フランスではロココ美術が花開く
重要なのは絵画に現れる画家のまなざし
画家たちは新しい感性によって世界を眺め直す
風俗を題材にして「いかに描くか」を重視する

ギャラリー・トーク
美術館と建築
「帰属作」と「工房作」
マスメディアとしての肖像
美術史と画商
額縁の意味
古代彫刻と修復
描かれた楽器
芸術家伝説
オリジナルとコピー
展示会の誕生と変遷
描かれたものを読み解く
美術品の収集と公開
参考文献

本書の執筆
前半(はじめに、第1章〜第7章)渡辺晋輔
後半(ギャラリー・トーク)陳岡めぐみ 渡辺晋輔

撮影 亀井重郎
デザイン ナッティワークス(本橋健)
校正協力 中江花菜(国立新美術館)

渡辺 晋輔 (著), 陳岡 めぐみ (著)
出版社 : 集英社 (2020/1/24)、出典:出版社HP

はじめに

この本は、西洋美術の鑑賞の手引きとなるようにつくられました。本の前半(第1章〜第7章)はおもにジャンルごとに美術の流れを解説し、後半(ギャラリー・トーク)はもろもろのトピックについて短いエッセイのようなかたちで記述しています。
西洋美術史の概説書は巷にあふれています。本当に多種多様なので、美術史に詳しくない方はどれを手にとればよいか悩まれることと思います。そこでこの本が類書と異なる点を、最初に述べておきましょう。それは、現役の国立西洋美術館の学芸員が、おもに所蔵品を使って美術史の流れを説明し(前半)、また自分の仕事と絡め、学芸員ならではの視点で美術史のさまざまな側面について説明している(後半)、ということです。
学芸員は展覧会の企画をする一方で、購入や寄贈受け入れによって館のコレクションを拡充し、管理・研究する仕事をしています。ちなみに正確には国立美術館では「研究員」と呼びますが、仕事の内容はほぼ同じです。また学芸員の英訳はキュレーターとなります。最近では美術館や博物館とは関係のない仕事をする人でもキュレーターという肩書をもつことが増えたようですが、本来は美術館や博物館で所蔵品の研究・管理・展示等をする人のことをさす言葉です。
それはともかく、私たちは日常業務として作品に向き合っています。購入や寄贈によって作品をコレクションに加え、その美術史上の位置や来歴、保存状態などを調査して保管し、調査の結果を踏まえて展示します。ときにはコレクションについて一般の皆さんの前で話をする機会もありますし、大学で講義をする際にも、コレクションにある作品をスライドとして使います。当たり前のことではありますが、自分の美術館にある作品というものはいちばん愛着があるものですし、学芸員はそれについて語る最も適任の人物ということができるでしょう。
国立西洋美術館はもともと「松方コレクション」を収蔵する施設として建設されたものですが、その後、松方コレクションになかったオールドマスター(18世紀以前の芸術家)の作品も積極的に収蔵し、現在では所蔵品によって15世紀以降、つまりおおよそルネサンス以降20世紀初頭までの美術を概観できるまでに成長しました。西洋美術史のアウトラインを理解できるようにすることがコレクション形成の目的でしたから、コツコツと収集を続けた結果、ようやくその目的を果たせるような存在となったわけです。
この国立西洋美術館のコレクションに軸足を置きつつ、西洋美術史の大きな流れをわかりやすく解説し、鑑賞の仕方を示すこと。同時に別の切り口によってもそれを行うこと。そして読者の皆さんに国立西洋美術館のコレクションや、ひいては西洋美術史について身近に感じていただくこと。これが、この本の目的です。美術ファンはむろんのこと、日頃美術とは縁遠い学生や社会人の皆さんにも、面白く読めてかつ教養の深まるような内容をめざしました。上記のとおり、皆さんが国立西洋美術館に来て展示室を回るとき、目に入るのはルネサンス直前から1920年くらいまでに描かれた作品がほとんどです。そのため、本書ではルネサンス以降20世紀初頭までの美術の流れを中心に論じます。
もっとも、国立西洋美術館では多くの作品に説明パネルがついていますし、ベンチには『国立西洋美術館名作選』という本が置いてあって(私たちも執筆者に名を連ねています)、個々の作品に関する知識を仕入れたければそれらを読めばことたりるでしょう。なので、本書の前半ではなるべく広い視野に立った記述をすることにしました。とくにルネサンス(とその直前の時代)についての記述が多いのですが、それはこのときに起こった表現の変化が画期的なもので、しかも現代まで大きな影響を及ぼしていると考えたからです。また、個々の作品の記述にあたっては、なぜその作品が面白いのか、といういわば鑑賞のツボのようなものの記述に紙幅を割くことを心がけました。本書の後半では、さまざまなトピックを選んで、学芸員ならではの切り口で解説しました。
とくに前半では、大きな流れをわかっていただくため、絵画に描かれる空間にやや注目しています。その結果、本書にはよくある「西洋美術史入門」なら当然含まれるはずの芸術家の作品が含まれていないこともありますし、美術史上重要な運動についても省いたものがあります。ときに芸術家や作品の選択がやや恣意的に見えるかもしれません。しかし、西洋美術史の大きな流れや作品を見るうえで必要不可欠なことは十分に身につくはずです。本書を読んだら、自分の目で作品を見、ほかの良書も手にとってみてください。本書が国立西洋美術館の作品や、ひいては西洋美術史全般に皆さんの目を向けるきっかけとなれば幸いです。

渡辺 晋輔 (著), 陳岡 めぐみ (著)
出版社 : 集英社 (2020/1/24)、出典:出版社HP