量子コンピュータが人工知能を加速する

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人工知能は量子コンピュータで進化する

本書は、量子コンピュータが持つ可能性と人工知能への影響を解説している本です。量子コンピュータの計算速度は、これまでの技術的な限界を打ち破るものですが、それがどのような応用ができるか、未来をどう変えるかが説明されています。テーマが幅広く、量子コンピュータの立ち位置を知りたい方には参考となるでしょう。

西森 秀稔 (著), 大関 真之 (著)
出版社 : 日経BP (2016/12/9)、出典:出版社HP

量子コンピュータと人工知能の新時代が始まった

本書を手に取った方は、「量子コンピュータ」に興味があるのだろうか、それとも「人工知能」に興味があるのだろうか、もしくは両方だろうか?

量子コンピュータという言葉は、1990年代ごろから一般にも知られるようになってきた。従来型のコンピュータと比べて非常に高速なマシンとして期待されているが、その実用化にはまだあと数十年はかかるのではないかと見られていた。一方、人工知能はここ数年で大きな盛り上がりを見せていて、将棋や囲碁では人間のチャンピオンを打ち負かし、産業のさまざまな分野で活用が始まっている。
その量子コンピュータと人工知能がいったい何の関係があるのかと思うかもしれない。実は、まだ先だと思われていた「量子コンピュータ」が突然完成し、それどころか商用販売されていて、まったく別の分野だと思われていた人工知能への応用が進められようとしているのである。
商用化された量子コンピュータは、これまで開発が進められてきたものとはまったく発想が違う「量子アニーリング方式」で動いている。この量子アニーリング方式のマシンは、現時点では従来型コンピュータのように汎用的に使えるわけではないのだが、人工知能をはじめ物流や金融など広い範囲に応用できるものだ。商用化したのはカナダのペンチャー企業で、ほかにもグーグルやアメリカ政府が同じ量子アニーリング方式のマシンの開発に莫大な投資をするなど、北米で大きなうねりが生じている。

本書では、新しい方式の量子コンピュータがどのようにして動き、どんな計算を行っているのか、そしてどうやって人工知能に応用できるのかについて、専門知識がない人でもなるべく理解しやすいように解説する。また、北米で大きな盛り上がりを見せている量子アニーリングだが、実はその原理を提唱したのも基本的な要素技術を開発したのも日本の研究者だ。そこで、日本の研究者がどのような貢献をしてきて、これから世界的にもどう活躍できるのかという点にも光を当てていく。

本の構成について、簡単にまとめておこう。
第1章は、グーグルとNASAが新しい量子コンピュータについて「従来型コンピュータよりも1億倍高速」という記者発表を行ったところから話を始める。この量子コンピュータがどのようにして計算を行い、どんな風に社会に役立つのか、どんな人たちが開発したのかについて概観する。
第2章は、量子コンピュータを開発したカナダのベンチャー企業について取り上げる。理論物理を学んでいた創業者が、どのようにしてイノベーションを起こしたのか、さらに性能を出すためには何が課題かなどをまとめる。
第3章は、量子コンピュータで計算を行う原理と、それがどのようにして人工知能の開発に応用できるのかについて紹介する。量子コンピュータでは「量子ビット」を使って問題を表現する。しかも、従来型コンピュータで解くと時間がかかる「組み合わせ最適化問題」を、効率よく処理できる可能性を持っている。それが、人工知能の基盤技術となる「機械学習」、とりわけ注目を集める「ディープラーニング」で力を発揮する仕組みについて述べる。
第4章は、量子アニーリング方式の量子コンピュータが実際に利用されることで、社会がどのように変わっていくかについての展望をまとめる。量子アニーリングマシンの利用がすでに始まっている分野もいくつかある。そんな現状を紹介したのちに、人工知能に応用されて社会が大きく変わるかもしれない未来について考えてみよう。
第5章は、量子コンピュータをより理解するための「量子力学」の基礎知識や、要素技術の開発の歴史などを振り返る。量子力学の世界は、物質が「粒子」と「波」の両方の性質を持っていたり、「0」と「1」が同時に重ね合わされた状態が成立したりと、我々の日常生活の常識からかけ離れている。その一端に触れてもらいたい。
第6章は、量子アニーリング方式の量子コンピュータを実現した、基礎研究から実用化へのジャンプについて深掘りし、そこから日本が進むべき道について考えてみたい。

量子コンピュータと人工知能というと、いずれも「難解なもの」という印象を抱く人が多いだろう。だが本書を読むと、その「2つの重ね合わせ」に大きなフロンティアが広がっていることが実感できるはずだ。一歩踏み出して、読み進めていってもらいたい。

西森 秀稔 (著), 大関 真之 (著)
出版社 : 日経BP (2016/12/9)、出典:出版社HP

量子コンピュータが人工知能を加速する 目次

量子コンピュータと人工知能の新時代が始まった

第1章 「1億倍速い」コンピュータ
グーグルとNASAの発表
組み合わせ最適化問題を解く量子コンピュータ
人工知能をはじめ多様な分野で応用が可能
コンピュータではなく「実験装置」
「量子アニーリング」とは何か
カナダのベンチャーによる挑戦
量子ビットに「横磁場」をかける
「量子トンネル効果」が答えを導く

第2章 量子アニーリングマシンの誕生
D-Waveとは何者か
ファインマンの構想
超伝導で量子ビットを実現
商用機開発に向けて
量子人工知能研究所の誕生
「キメラグラフ」がボトルネックに
北米の活況、日本はどうする?

第3章 最適化問題の解き方と人工知能への応用
巡回セールスマン問題をどう解く?
「焼きなまし」とは何か
エネルギーの山をすり抜ける
4色問題への応用
機械学習とディープラーニング
量子アニーリングによる「クラスタリング」
D-Waveマシンによる「サンプリング」

第4章 量子コンピュータがつくる未来
北米での熱気が研究者を引きつける
低消費電力で環境問題にも貢献
人工知能を加速する
医療、スポーツなどで期待
法律や考古学でも応用が可能
センサーを活用して人間に寄り添うAIを
シンギュラリティはくるのか

第5章 量子の不思議な世界を見る
「量子力学」とは何か
「重ね合わせ」のパラドックス
不確定性原理
量子トンネル効果と超えるべきエネルギー
チューリングマシンと量子回路
日本で開発された量子ビット
さまざまな量子コンピュータ

第6章 日本が世界をリードする日はくるか
基礎研究は意外な形で花開く
「緻密さ」だけでなく「大胆さ」も
垣根を超えてベンチャー精神を
ソフト面にもフロンティアがある
ムーアの法則を超えて
研究者の意識の変化が新しい社会を作る
日本が世界をリードする日はくるか

あとがき

西森 秀稔 (著), 大関 真之 (著)
出版社 : 日経BP (2016/12/9)、出典:出版社HP