量子コンピュータ 超並列計算のからくり (ブルーバックス)

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量子コンピューターのからくりがわかる

「なぜ量子ビットを使うと超並列計算ができるのか?」「莫大な計算結果の重ね合わせから答えが1つに決まるのはなぜか?」本書では量子コンピュータにおけるそのような疑問を洗い出すことができます。現在のスパコンをはるかに凌ぐ力を発揮する量子コンピュータの基礎と仕組みをよく理解できる1冊です。

竹内 繁樹 (著)
出版社 : 講談社 (2005/2/18)、出典:出版社HP

プロローグ

量子コンピュータとは、量子力学の原理を用いた、まったく新しいしくみによるコンピュータです。
これまでのコンピュータでは数百億年やそれ以上といった莫大な計算時間を必要とするようなある種の問題を、量子コンピュータを用いると、わずか数時間で解ける可能性のあることが、1994年にショア博士によって理論的に示されました。それ以来、コンピュータサイエンス、物理学、数学、材料科学をはじめとしたさまざまな分野で大きな関心を集めています。
本書の目的は、一人でも多くの方に、量子コンピュータの原理・しくみ、最新の研究状況について知っていただくことです。

量子コンピュータが、ある種の問題について現在のコンピュータよりも圧倒的に優れた能力を持つことは、いうまでもなく「量子力学の原理」に負っています。ただ、量子力学はかなり専門性が強く、またそこに現れる「重ね合わせ」や「もつれ合い(非局所性)」といった概念も、日常では経験することのない理解しにくいものです。そういう部分に、これまで敷居の高さを感じていた方も多いかもしれません。または、量子力学に知識をお持ちであっても、コンピュータへの応用に違和感をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
そのような方々に量子コンピュータに触れていただくのが、この本の大きな目的の1つです。この本を読む際には、量子力学、コンピュータの基礎的な知識は必要ありません。
量子力学については、必要となる基礎知識を章2つを割いて十分に解説しました。また、現在のコンピュータのしくみについて十分に解説したうえで、量子コンピュータの基礎の説明を行いました。さらに、本質となる概念を具体的な例とともに取り上げ、できるだけ数式や専門用語の使用は避けました。高校生の読者にも、80パーセント以上を理解してもらえるようにしたつもりです。

わかりやすさを実現すると同時に、できるだけ掘り下げた解説も試みました。たとえば、ショア博士によって理論的に示された計算方法(因数分解アルゴリズム)についても、徹底的に解説を行っています。量子ビットやそれに対する基本ゲートなどの基本的な考え方、これまで知られているほかの計算アルゴリズムや、量子誤り訂正符号など、量子コンピュータの先端的な課題についても、たっぷり解説しています。
私が解説記事などを執筆する際には、紙数の都合でどうしても「わかった気にさせる」書き方をせざるを得ない場合があります。この本では、「わかったような気になる」のではなく、もっと堅い手応えとともに「わかる」ことができると思います。

現在、まだ大規模な量子コンピュータはこの世に存在しませんが、その実現に向けて、さまざまな研究が進められています。その最先端の研究状況についても、1章を割いて紹介しました。その中で、私が行っている、光子を用いた量子コンピュータや量子情報通信処理の実現を目指す研究にも触れました。また関連するテーマとして、量子暗号についても最後の章で触れています。

私自身、子供の頃からブルーバックスシリーズには大変お世話になり、育てていただきました。この本によって、私が日頃感じている量子コンピュータについてのおもしろさを共有していただければと願いながら執筆しました。もし、この本をきっかけに量子コンピュータやそれを取り巻く量子情報に関する研究に興味をもっていただければ、これにまさる喜びはありません。

竹内 繁樹 (著)
出版社 : 講談社 (2005/2/18)、出典:出版社HP

CONTENTS

プロローグ

第1章 量子計算でできること
1.1 コンピュータに解ける問題、解けない問題
最近のコンピュータの計算能力/コンピュータに「計算不可能な」問題とは?/旅行の荷造りは「解けない」問題?/ほかにもある「解けない問題」
1.2 スーパーコンピュータにも解けない因数分解
因数分解は難しい?/秘密の鍵を伝える
1.3 量子の力で超高速計算
因数分解は量子コンピュータで簡単に解ける
量子コンピュータには得意な問題がある

第2章 「量子」とはなにか
2.1 量子計算はなぜ「量子」計算?
2.2 光は粒?それとも波?
光とは何か/光の粒子説/波の性質
波と位相/光の波動説/光はほんとうに波?
2.3 アインシュタインの光量子
光電効果の発見/アインシュタインと光量子仮説
光のエネルギーには最小の単位がある/光量子で光電効果もすっきり説明
2.4 結局、光とは?
光のエネルギーには基本単位がある/光子に気がつかなかった理由
2.5 波の性質を持つ粒子
水素原子のなぞ/電子波と電子顕微鏡/物質も波の性質を持つ?/再び「量子」とは

第3章 量子の不思議
3.1 量子力学は難しい?
MIB(メン・イン・ブラック)と量子力
どうしても必要な量子力
3.2 不確定な関係
光の偏光と偏光フィルタ/光の偏光を区別する「偏光ビームスプリッタ」/光子の偏光
3.3 光と干渉
光を分ける半透鏡/干渉計の出力/経路の長さが等しいとき/干渉計と位相差
3.4 光子・確率波・重ね合わせ状態
半透鏡は光子を弾くのだろうか?/光子を干渉計に入射すると?/光子と確率波/重ね合わせ状態/重ね合わせ状態を「壊す」/光を当てずにものを見る?
3.5 まとめ

第4章 「量子」を使った計算機
4.1 量子コンピュータの誕生
量子コンピュータの生みの親ドイチュ/計算機も物理法則にしたがう/ファインマンと量子コンピュータ/重ね合わせ状態を用いた超並列処理
4.2 現在のコンピュータのしくみ:ビットと論理回路
ビットとは?/進法とビット/モールス符号とデジタルカメラ/ビットと演算/コンピュータの構成/2倍する具体的な手順/プログラム言語/論理ゲート/論理回路の例
4.3 量子ビットと量子コンピュータ
量子ビット/3次元で表される量子ビット/量子ビットの数式による表記方法/量子コンピュータの構成
4.4 量子ゲートと量子論理回路
量子ゲート/回転ゲート/アダマールゲート/制御ノットゲート/量子もつれ合い/可逆と不可逆/足し算用の量子回路/重ね合わせの計算結果を生かすには?

第5章 量子アルゴリズム
5.1 アルゴリズムと量子コンピュータ
アルゴリズム、プログラム、論理回路/量子コンピュータにプログラム言語はまだない/量子コンピュータのアルゴリズム
5.2 ドイチュ-ジョサのアルゴリズム
ドイチュ-ジョサの問題/ふつうのコンピュータで解こうとすると……/ドイチュ-ジョサの量子アルゴリズム/ドイチュ-ジョサのアルゴリズムの中身
5.3 データベース検索のアルゴリズム
データ検索には時間がかかる/グローバーのアルゴリズム/グローバーの量子回路の中身
5.4 ショアのアルゴリズム
量子コンピュータで難所を突破!/準備1 ユークリッドの互除法/準備2 因数分解の手順/「rを求める方法」を求めて/フーリエ変換/量子フーリエ変換/ショアのアルゴリズムの中身
5.5 量子アルゴリズムと今後の展開

第6章 実現にむけた挑戦
6.1 量子コンピュータを作るには?
ビットとその担い手/量子ビットと担い手/量子コンピュータ実現の必要条件
6.2 光の粒で量子計算
光子の特徴/回転ゲートは半透鏡で/光子に対する制御ノットは究極の光デバイス/カリフォルニア工科大学の実験/私たちの挑戦1——ミクロな球を用いた量子位相ゲート/私たちの挑戦2——半透鏡も量子位相ゲートに/光子を用いた量子アルゴリズム実験
6.3 分子中の核スピンを用いた量子計算
スピン/スピンと量子化/スピンと量子ビット/核スピン/核スピンを用いた量子コンピュータ
6.4 固体・集積化への路
量子集積回路を目指して/シリコン量子コンピュータ/超伝導量子ビット
6.5 デコヒーレンス
「重ね合わせ状態の破壊」あるいは「デコヒーレンス」/2つの状態間の位相差/原因は、追跡不可能な位相差のゆらぎ/量子計算に立ちはだかる壁、デコヒーレンス
6.6 デコヒーレンスに立ち向かう:量子誤り訂正符号
古典誤り訂正符号/量子誤り訂正符号

第7章 量子コンピュータの周辺に広がる世界と量子暗号
7.1 情報化社会と秘密通信
くらしに関わるセキュリティ/通信と盗聴/乱数列を用いた絶対安全な暗号化/光子を用いて乱数列を共有する
7.2 量子暗号と量子鍵配布
発明のきっかけ/量子鍵配布のしくみ1 送信者/量子鍵配布のしくみ2 受信者/量子鍵配布のしくみ3 鍵の共有/秘密鍵を使った絶対安全な通信
7.3 全知全能?の盗聴者vs.量子暗号
盗聴者ができること/最適な盗聴方法と、ビット反転/盗聴者を検出する!/量子暗号システムと現状
7.4 量子情報科学の今後
量子暗号の現状と今後/理論面での展開と量子情報科学

エピローグ
参考図書
さくいん

竹内 繁樹 (著)
出版社 : 講談社 (2005/2/18)、出典:出版社HP