競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略

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ファイブ・ウェイ・ポジショニングとは何か

本書は、マーケティング理論の一つであるファイブ・ウェイ・ポジショニングを解説している本です。このモデルでは、物やサービスのコモディティ化が進む現代で、マーケティングをどのように行うべきかが問われています。従来の理論をブラッシュアップするものでもあり、マーケティングに関係している方には参考になるでしょう。

フレッド・クロフォード (著), ライアン・マシューズ (著), 星野 佳路 (監修), 長澤 あかね (翻訳), 仲田 由美子 (翻訳)
出版社 : イースト・プレス (2013/10/6)、出典:出版社HP

監修者 まえがき

この本が私の教科書である2つの理由

マーケティングの神様、フィリップ・コトラーが2000年代前半に来日した際、こう発言した。
「マーケティングの4Pを実践していますと誇らしげに言う人がいたので、『あれはもう古くて使いものにならない』と伝えたんだ。マーケティングを取り巻く環境が大きく変化する中で、新しく興味深いポジショニング理論が沢山生まれている。ファイブ・ウェイ・ポジショニングも注目すべき理論の一つだ」

私は、すぐにその理論者を探し読んでみることにした。そしてそれは私に大きな影響を与えるものであった。

「コトラーが薦めた」
この言葉だけでも「一読に値する」と読者に思わせる十分な惹句になるのだが、本書に入る前のイントロダクションとしてファイブ・ウェイ・ポジショニングが実践的で良いといえる理由を2つ、本理論の実践者として説明したい。

第1は、コモディティ化という経営課題へのアプローチという側面だ。
かつては、商品やサービスの機能や質が他社より優れていれば競争に勝てた。しかし今、機能上の差別化がますます難しくなってきている。私は出張先でよくレンタカーを利用するが、どの車に乗っても素晴らしくよく走る。レストランでは、“美味しい”ということが競争力になっていたが、今は美味しくないレストランを探す方が難しくなった。スーパーの棚に並んでいる洗剤はどれも同じくらい素晴らしく汚れを落とすものだから、私たちは洗浄機能以外の要素で洗剤を選んでいる。
このように、商品やサービスにおいてメーカーごとの機能や質などの差が不明瞭化あるいは均質化することをコモディティ化といい、それはなぜ起こっているのだろうか。マイケル・E・ポーターが「生産性のフロンティア」という概念でこれを解説している。必要な経営ノウハウは今では誰にでも容易に手に入るようになり、どの会社もみな最適な生産性に達してしまう。これがコモディティ化を生み、かつては優位なポジションにいた誠実でまじめな経営者たちが「どうしていいのかわからない」と嘆く状況を生み出しているというのである。
脱コモディティ化を説き、その方法を提示する書籍は多数存在するが、コモディティ化という経営課題への対処法を論じているケースが多い。一方で本書は、コモディティ化にそもそも陥っていない、埋没していない企業の事例研究から、その経営戦略の中に法則性を見い出している点が興味深い。
分かりやすく言えば、風邪にかかった場合の対処療法を紹介するのが前者で、そもそも風邪にかからない健康体のつくり方を説くのが後者・本書であり、この点で本書が優れていると言えるのだ。

第2は、多くのケースで、使用可能な経営資源は限られているという現実があり、本理論は経営における“選択と集中”へのアプローチを紹介している点だ。
ファイブ・ウェイ・ポジショニングを説く本書では、経営に関わる要素として、価格・サービス・アクセス・経験価値・商品の5つをあげ、さらにそのポジションをレベルⅠ(業界水準)・レベルⅡ(差別化)・レベルⅢ(市場支配)と区分している。見い出した法則とは、コモディティ化に陥らない企業は、5つの要素全てでレベルを高めようとはしていない、むしろ意図的にそうしないことが大切だということだ。
消費者の要求に全て答えようとし、あらゆる面でレベルⅢにしようとする試みは、そもそも難しいしコストもかかり過ぎる。本書では、5つのうち1つでレベルⅢを、別の1つでレベルⅡを、残り3つで業界水準であるレベルⅠを維持することが最適と説いている。限られた資源で何を達成すれば持続可能な競争優位性を保てるのかを把握できるし、そのコンビネーションは数多く想定できるので、各企業の個性や強みを反映することが可能だ。
経営者であれば誰もが直面する“資源の有限性”という困難に、「5つのうち3つは業界水準でいい」というメッセージはとてもポジティブで勇気づけられるものだ。
2010年に刊行された『星野リゾートの教科書 サービスと利益両立の法則』[日経BP社]にて、私が経営をするうえで教科書としてきた書籍を30冊紹介した。その内、本書は邦訳が存在していなかった教科書であり、そういう意味で今回日本版が出版されることを大変嬉しく感じている。
読者の皆さんには、まずは第2章まで読み進めてほしい。本書の良さといえる理論とエッセンスが第2章目にまとまっているからだ。そして、そのエッセンスを理解したうえで、皆さん自身の教科書とするかどうかを決めてほしい。これは私の持論であるが、教科書になるかならないかは理論の内容とともに、今読者が抱えている経営課題の内容と深く関わっている。商品やサービスのコモディティ化という課題に直面した時、本理論は、教科書通りにやってみる価値が十分にあると私は考えている。

星野リゾート社長 星野佳路

フレッド・クロフォード (著), ライアン・マシューズ (著), 星野 佳路 (監修), 長澤 あかね (翻訳), 仲田 由美子 (翻訳)
出版社 : イースト・プレス (2013/10/6)、出典:出版社HP

CONTENTS

監修者まえがき
序文

CHAPTER1 今、消費者が企業に求めているものとは?
消費者が望んでいるのは、割引じゃない
一流にこだわるのは、的外れ
消費者は、満たされていない
消費者は、価値観を求めている
新たな消費者像と、そのニーズに応えるには?
消費者の立場で、自社をながめる

CHAPTER2 ファイブ・ウェイ・ポジショニングという新たなビジネスモデル
消費者からも、仕入れ業者からも好かれる小売店
5つの要素の新たな意味合い
消費者が期待する、企業の姿勢とは?
消費者が判断するのは、企業の「総合点」
5要素の適切なバランスとは?
| ケーススタディ | ウォルマート :理論を実践に

CHAPTER3 価格で市場を支配する
企業は激安価格を過大評価している
価格の上げ下げは、消費者に不信感をうえつける
1ドルショップの売りは、激安だけではない
価格で戦うには?
| ケーススタディ | ダラー・ジェネラル : 「1ドルに見合う価値を」

CHAPTER4 サービスで市場を支配する
サービスは人がすべて
優れたサービスは、優れた社員から生まれる
消費者が求めていないサービスは、サービスではない
サービスの低下が当たり前の時代
消費者が本当にほしいサービスとは?
サービスと経験価値の関係性
サービスで戦うには?
ケーススタディ | スーパークイン :サービスに次ぐサービス

CHAPTER5 アクセスで市場を支配する
アクセスは立地がすべて、ではない
消費者は、「さっと買える」を求めている
心理的なアクセスとはなにか?
アクセスの悪さは、長期的な成長戦略にふさわしいか?
アクセスで戦うには?
規模の大きさは、アクセスにプラスかマイナスか?
立地がモノを言う場合とは
| ケーススタディ | サークルズ : アクセスこそが商品

CHAPTER6 商品で市場を支配する
消費者は、最高級品を求めていない
ブランドが問われない時代のビジネス
「そこそこの品」でなぜ十分なのか?
消費者に合わせた商品の選定
「商品」の可能性の拡張
商品で戦うには?
ケーススタディ | レコードタイム :ファイブ・ウェイ・ポジショニングのビートに合わせて

CHAPTER7 経験価値で市場を支配する
「楽しませさえすればいい」という誤解
消費者は、企業からの敬意を求めている
顧客の気分で利益が変わる
経験価値で戦うには?
消費者から信頼される企業の実態
ケーススタディ1 | キャンベル・ビューリー・グループ : 本物のアイルランドを体験できる
ケーススタディ2 | グルメ・ガレージ :ロックンロールなスーパーマーケット

CHAPTER8 ファイブ・ウェイ・ポジショニングを実践するには?
企業の今とこれからを指し示すツール
見解のズレを生み出す原因
居心地の悪い企業になる原因
経営戦略の変更についての注意点
ファイブ・ウェイ・ポジショニングにおける人材
リーダーの役割とは?

CHAPTER9 供給プロセスの現実
メーカーの狙いは、消費者まで届くのか?
消費者のニーズをとらえたメーカー
多角化戦略の整理のために
取引先と同じビジョンを描けているか?
チャネル戦略の重要性
インターネットがメーカーに与えた影響

CHAPTER10 ファイブ・ウェイ・ポジショニングは未来にも通用するのか?
未来は予想できるか?
未来の状況とファイブ・ウェイ・ポジショニング
現時点で未来について断言できること
バーチャルな世界へ: オンラインでのファイブ・ウェイ・ポジショニング
ビジネスの未来予想図
消費者の声が力を持つ時代へ

監修者あとがき

フレッド・クロフォード (著), ライアン・マシューズ (著), 星野 佳路 (監修), 長澤 あかね (翻訳), 仲田 由美子 (翻訳)
出版社 : イースト・プレス (2013/10/6)、出典:出版社HP

序文

“It’s not what you don’t know that hurts you, it’s what you know that ain’t so!
Mark Twain
知らなかったことのせいで、
痛い目に遭うのではない。
君を痛い目に遭わせるのは、知っているという
思い込みだ。
マーク・トウェイン

マーク・トウェインの言葉が、これほど当てはまる時代があっただろうか。とくに、現代のビジネス戦略と実践に、ぴったりな一言だ。私たちは、3年間かけて実施した調査のおかげで、ビジネスの本質についての独りよがりな思い込みから抜け出ることができた。それまではビジネスについて知っているつもりだったせいで、刻々と変化する商売の現実からずっと目をそらしていたのだ。
私たちはビジネスの本質をがっちり掴んでいると信じていたし、顧客が企業に求めているものもよく知っていると思っていた。何が商売を動かすかについて、よそよりも心得ていると自負していた。そう思えるだけの根拠が山ほどあった。だから、顧客に価格の話を振れば、当然「安ければ安いほどいい」という答えが返ってくると思い込んでいたが、実際はそうではなかった。
それに顧客は、選べるならば間違いなく、「最高品質の商品がほしい」と答えるものだと思っていたが、それも違っていた。さらに、おそらくこれが一番大きな間違いだったと思うのだが、すべての企業は、あらゆる面で「ベスト」になることを目指すべきだ、と私たちは信じていた。正直なところ、これ以上の勘違いもなかったわけで、私たちの経験がみなさんへの警鐘になればと願っている。

私たちが気づいたのは、世界中のあらゆる業界において、企業は何十億ドルも費やして、的外れな、場合によっては不快なメッセージを顧客に送り、損を積み重ねている、ということ。顧客が理解できて、意味深いと感じる言葉で語りかける代わりに、ほとんどの企業が顧客に対して敬意を持っていず、本当は顧客がどんな人間なのか知らないのだ。それは、広告、マーケティング、マーチャンダイジング、商品の選択や品ぞろえ、取引の条件、サービスのレベル、といったビジネスに関わるすべての面で起こっているのだ。
「英国とアメリカは、使う言語こそ同じだが、まるで別物だ」と言ったのは、英国の劇作家、ジョージ・バーナード・ショーだった。それをもじって言うなら、「企業と顧客は、使う言語こそ同じだが、ますます溝を深めている」。どちらも同じ言葉を使っているのに、意味がまるで違っている。
大企業も中小企業も、顧客にあらゆるものを提供しているのに、顧客が心底求めているものだけは差し出せていない。何千という企業が、日々グループインタビューや調査、コールセンターの報告書の分析に、何百億ドルも費やしているが、それほど効果を生んでいない。ほぼすべての業界で、大手を含むあらゆる企業が、思わぬライバルにいつ出し抜かれてもおかしくない状況で営業している。

考えてみてほしい。スーパーやスポーツ用品店から宝石店、金物店に至るまで、どれほど多くの地元企業が長年にわたって胸を張っていたことだろう。顧客のことも、顧客が重視しているものも心得ていると。日々どれほど能天気に、うちは安泰だと油断していたか。それが、顧客と顧客ニーズを真に理解した、ウォルマートが町に進出してきた途端、こぞって廃業に追い込まれてしまった。
あるいは、IBMや、ゼロックスでさえ「コンピューター・ユーザーのニーズなら把握しているさ」とどれほど自信たっぷりだったか、考えてみてほしい。それが、マイクロソフトやデル、ゲートウェイ、アップルといった「新興企業」にさっさと市場を奪われてしまった。そして、アップル自身も同じ罠にはまったことにも、思いをはせてほしい。
つまり、グローバル企業も、あなたの企業だって、知らず知らずのうちに、そして避けようもなくこういった深刻な事態に向かっているのだ。

1つよくないお知らせをしよう。今日、あらゆる業界の大手企業は、危険にさらされている。世の中は今や、顧客による革命が起こるかどうかの瀬戸際なのだ。革命軍の要求が、今ほど明確に口にされたこともなかった。「私たちを1人の人間として認め、敬意を払いなさい。今後は私たちが求めるやり方でビジネスをやるように」
では、よいお知らせもしておこう。私たちが学び、これから伝える教訓に耳を傾ける企業は、この危機を防げるだけでなく、空前の成長のチャンスに活かすこともできる。
たしかに、新たなビジネスのやり方を求められた企業の多くは、じりじりと危機へ追い込まれている。だが、商品の品質も、提供する商品やサービスもますます似通ったものになり、サービスのレベルも標準化され、価格設定もある程度正常化された世の中で、顧客心理を解読し、従来のやり方を手放せる企業は、ライバルより相当優位に立つことができる。

本書の使命は、どんな要素があなたの会社を脅かしているのかを説明し、あなたの会社の今後の成功に向けて、計画を練ることだ。
経済がどれほど好調でも不調でも、売上や利益がどれほど増えても減っても、企業の成功は、砂上の楼閣のように危ういものだ。顧客は企業とのやり取りにかなり憤慨し、不満を抱いているからだ。史上初めて、企業は商売以外のことをするよう、求められている。人生の経験にフラストレーションを募らせている顧客は、企業に商品価値だけでなく、人間的な価値を補ってくれることも求めている。取引の条件は変化した。新たな条件で営業するすべを見出せない企業は、破綻してしまうだろう。
顧客が望んでいるものも、それに応える一番の方法も取り違えた結果、世界有数の企業でさえ、「一流の神話」と私たちが呼んでいるものを、信じ込んでいる。それは、企業はすべてにおいて一流を目指さなくてはいけない、という思い込みだ。問題が何なのかを見あやまれば、ほぼ確実に、誤った解決策を選んでしまうのだ。
企業は、長きにわたる関係を育んだり、取引に関わる顧客の価値観に気をもむよりも、商品やサービス自体の価値を上げることで頭をいっぱいにしている。そのため、取引のあらゆる要素で一流を目指す戦略を、何も考えずに選んでしまっている。その結果、何を重視しているかわからない企業になって、結果的に顧客を混乱させ、遠ざけてしまうのだ。

私たちは、何十人もの世界的なビジネスリーダーにインタビューをした結果、繰り返し同じ言葉を耳にすることになった。
「うちの会社は、最低価格で最高品質の商品をお客さまにお届けしています」
「楽しさと最高のサービスにあふれた売り場への、とびきり簡単なアクセスを提供しています」
彼らは、顧客から「聞いた」話を元に、文字通り莫大な金をつぎ込んで、商品やサービスを改良していた。だが、彼らはいつだって、顧客が本当は何と言っているかを聞けてはいない。私たちが聞いてみると、顧客はまったく違う話をしてくれる。
CEOが「うちはターゲット市場に合わせて、商品もサービスも改良しました」と得意げに語るのを何度も耳にしたが、結局、その後何カ月にもわたって、売上を落としていく姿を目にすることになるのだ。本書のリサーチの一環として、インタビューした企業の中には、最終原稿ができ上がる前に、倒産してしまったところもある。繰り返し目にしたのは、一見利益が出そうなら、何にでも散財してしまう企業の姿だった。彼らの失敗が、本書の土台を成している。ビジネスは、ギリシャ悲劇ではない。他者の過ちから学ぶことが、きっと運命を変える力になってくれる。

分析をする都合上、私たちは、すべての取引を5つの要素——価格、サービス、アクセス、商品、経験価値——に分類している。この5つの要素を選んだのは、対消費者ビジネスでも、企業間ビジネスでも、取引をする際には必ず、これらの要素が関わってくるからだ。私たちは、企業の5つの要素に点数をつけていった。ある要素で市場を支配しているなら5点、ある要素で差別化に成功しているなら4点、ある要素で市場競争に首尾よく参加できてはいるが、ライバルをしのげていない場合は3点を与えた。
顧客の目からビジネスを見て、顧客1人ひとりが意義を見出せるような条件でビジネスを行い、さらに利益につなげる戦略を、私たちはファイブ・ウェイ・ポジショニングと呼んでいる。
ファイブ・ウェイ・ポジショニングのレンズを通して世の中を見ると、とびきり優れた企業が、どんな戦略を取っているかが見えてくる。彼らは、価格、サービス、アクセス、商品、経験価値の5つの要素のうち1つで「市場を支配」し(世界で通用するレベルに達している)、もう1つの要素で「差別化」に成功し、残り3つの要素で「業界の標準」(平均)レベルを保っている。5段階評価で言えば、5点が世界レベル、4点が差別化レベル、3点が業界標準レベル、そして1点は受け入れがたいレベルだ。理想的なスコアは、5、4、3、3、3である。

ここに、さらに2つの「ルール」を適用した。1つは、5つの要素を通して、企業は、業界標準レベルからすべり落ちてはいけない。もう1つは、2つ以上の要素で5点や4点を目指してはいけない、ということ。
5つの要素のどれか1つでも業界の標準を下回っていると、長くは生き残れない。消費者が、その企業の提案する価値を、いずれ拒絶することになるからだ。一方、2つ以上の要素で5点や4点を獲得している企業は、無用な差別化をして金を失っている。

取引のコンテンツ(商品やサービスの価値)とコンテクスト(ビジネスにまつわる価値観)のギャップは、広がる一方だ。私たちは、的外れな企業を次から次へと目にしてきた。彼らは、商品価値が価値観の代わりを務めてくれると信じていたし、商売が成立すれば、顧客が求めている関係をつくったことになる、と思い込んでいた。
すべてにおいて一流を目指している企業が、こうした勘違いに陥ると、商品やサービスの価値が、知らず知らずのうちに大きく損なわれていく。いまいちな企業の場合は、そんな勘違いをきっかけに、最悪の事態へ向かっている。

顧客は企業に、1人の人間としてより深いレベルで認めてほしい、価値観をはっきりと打ち出してほしい、と求めているが、彼らの訴えは、ほとんど無視されている。企業が消費者と関わるコンテクストは重要度を増し、今や商品やサービスといったコンテンツをしのぐほどになった。ほとんどの企業は、創業以来、商品やサービスの向上に努めているが、コンテクストについては、つけ足しのような扱いだ。ひたすら差別化を目指して突っ走る際の必要悪、といったところだ。今や現代ビジネスの通貨は、商品価値ではなく、人としての価値観だというのに。

では、ウォルマートについて、具体的な話をしよう。ウォルマートは、価格設定のリーダーとして知られているが、同社の価格が常に、業界一安いわけではない。そんなウォルマートが価格で市場を支配(5点を獲得)しているのは、消費者がこう信じているからだ。ウォルマートの「エブリデー・ロー・プライス」の哲学が、ひそかな策略などなしに、あらゆる商品カテゴリーで、妥当な価格を提示してくれる、と。
ウォルマートの公正さと、消費者が評価しているものへの真の理解が、同社の価値観や顧客への対応に反映されている。ウォルマートは、商品で差別化に成功(4点を獲得)しているので、商品の品質は高いが、主要なライバルであるターゲットほど高くはない。そして、サービス、アクセス、経験価値の3要素については、業界の標準レベルを保っている(3点を獲得)。

どの企業も同じだなんて、私たちは思っていない。むしろ、同じ企業は2つとない、と信じている。だが私たちは、近所の理髪店からマイクロソフトに至るまで、ありとあらゆる企業が自己診断するにあたって、活用しカスタマイズ可能な手法を発見した。
その手法とは、まず、その企業の利害関係者全員が、企業をどう見ているかを図にマッピングする。次に、競合他社の分析に移る。そして最後に、自社の未来を詳細に計画する、というものだ。さらに、自社の現状を把握しさえすれば、市場には大きなチャンスがあることも、説明していきたいと思う。それは、経費を削減し、さらに売上と利益を最大限に伸ばすチャンスなのだ。

本書を読むべき理由はほかにもある。ビジネスとは、企業と顧客の相互的な関係で、ビル・ゲイツから英国女王に至るまで、みんなが誰かの顧客だ。本書は、取引する両者に理解力をもたらすだろう。企業は顧客の目で、顧客は企業の目で、ビジネスを見ることがきっとできるようになる。

フレッド・クロフォード (著), ライアン・マシューズ (著), 星野 佳路 (監修), 長澤 あかね (翻訳), 仲田 由美子 (翻訳)
出版社 : イースト・プレス (2013/10/6)、出典:出版社HP