地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門

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地方のリアルと成功のコツがわかる

ストーリーを通して、地方衰退の構造とビジネスでの変革手法について学べます。全国各地における約400名以上の未経験者が、地方創生のために実践したノウハウが紹介されています。地域再生のためには、一人一人の意識を変えることが大切です。全ての人に手に取ってほしい1冊です。

木下 斉 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/11/15)、出典:出版社HP

はじめに:凡人だからこそ、地域を変えられる

高校一年生のときに商店街の活性化を通じて「まちづくり」の世界に足を踏み入れてから、早20年が経過しました。地域で様々な仕事を経験する中で、なかなか表には出てこない「リアル」な現場も、数多く体験してきたように思います。

当初は盛り上がっていたイベントが、最終的に当事者が疲弊し切って打ち切りとなるケース。
人間関係の縺れや将来に向けた不安からチームが崩壊してしまうケース。
成功例としてメディアに取り上げられたがゆえに弱気なことを言えず、実態よりも大きく物事を語り、現場のメンバーとの乖離が生まれたり、罪悪感に襲われるケース。
どの地域にも、人と人とが向き合う仕事だからこその失敗や挫折があり、その浮き沈みの中でも折れずに前をやってきた人たちだけが、いまも事業を続けられているにすぎません。それが、まちづくりのリアルです。

では、どうやったら、そんな中で成功することができるのか。逆説的に聞こえるかもしれませんが、私はいつも、人と人の仕事だからこそ「ロジック」が大切だ、と発信してきました。
メディアはいつも「地方に移住した若者が奮闘するサクセスストーリー」や「老人たちが手と手を取り合い支え合う心温まる物語」など、地方を綺麗に切り取ろうとします。しかし実際には新たな取り組みを潰そうとする地元の権力者、他人の成功を妬む住民、補助金情報だけで生活する名ばかりコンサル、手柄を横取りしようとすり寄る役人など、様々な欲望が渦巻いています。そんな環境でも、いやそんな環境だからこそ、ブレずに経営のロジックを貫けた者だけが生き残るということを、私はこの20年間肌で感じてきました。そしてその「ロジック」を各地の仲間に伝えるべく、これまで何冊かの本も書いてきました。

しかし、まだ伝えられていない大事なことがあります。特に地域でのビジネスで重要となる「エモーション」、情への理解についてです。
ロジカルに書く経営書からは、当事者同士の感情の衝突や経営面でのプレッシャー、そして何よりそれらにめげず前に進んでいく者たちの「粘り」が、どうしてもこぼれおちてしまいます。そのため、今回は、ロジックと工モーションという両輪をともに伝えるべく、小説形式で地方での事業のリアルを書くことにしました。
よく言われることですが、成功のあり方は様々でも、失敗には共通する「落とし穴」があります。今回は、ふだん伝えきれない「落とし穴」についてかなり細かく描写したので、ぜひ他山の石として参考にしてもらえることを願っています。

先に示すのは野暮かもしれませんが、この本から感じ取ってもらいたいことはふたつあります。

ひとつは「いつまで待っても地元にスーパーマンは来ない」ということです。
成功しているように見える地域のリーダーは、ときにスーパーマンに見えます。「うちのまちにもああいうすごいリーダーがいればなぁ」なんて言う声もよく聞きますが、それは単なる勘違いです。
成功している事業のリーダー像はあくまで表の姿。裏では事業や私生活で様々なトラブルに巻き込まれ、ときに事業なんて放り出して逃げ出したいと思うことさえある、ちっぽけな生身の弱い人間です。今ではたくましく見える人であっても、若い頃に様々な失敗をしていたり、普通の人なら立ち直れないような経験をしています。なんでもできるスーパーマンが一人で成果を挙げてまちを変えてくれるなんてことは、あなたのまちでも、そして他のまちでも起こりえません。
何より、そもそも地域にスーパーマンは必要ないのです。それぞれの役割を果たす「よき仲間」を見つけ、地味であっても事業を継続していけば、成果は着実に積み上がっていきます。最初は二、三人のチームで十分です。その中核となる仲間と共に取り組みを続けていけば、気づかぬうちに地元を超え、全国、海外に仲間ができるようになり、人生は豊かになり、そしてその地域も新たな活力を持つようになっていきます。

「うちのまちにも、観光資源があったらなぁ」「うちのまちも、もっと交通の便がよかったらなぁ」などの声も、他力本願という点では同じです。あなたのまちにはスーパーマンは来ないし、突然名湯が湧いて出ることもなければ、埋蔵金が見つかることもない。ヒトなし・モノなし・カネなし、という困難な状況でもめげずに足を一歩前に出し進んできた「凡人」がいるかどうかが、各地域の明暗を分けるだけなのです。さらに言えば、いまは衰退しているまちも、長い歴史の中で誰かが栄えさせてきたはずです。自分たちで何もせずに文句だけ言う人ばかりがいる地域が栄えた例は、歴史上ありません。

もうひとつは「どの地域だって“始めること”はすぐにできる」ということです。
成功ばかり積み重ねてきた地域なんてありません。というよりは幾重にも失敗しつつ、諦めずに取り組みそのものが破綻しない程度になんとか失敗を食い止め、ダイナミックにやり方を変えながら取り組むことこそが事業の成功なのです。メディアは、わかりやすいところを切り出すので、外からは一貫してうまくいっているように見えるだけです。

だからこそ大切なのは、「失敗せずに成功できるか」という発想そのものを捨てること。まずは一歩を踏み出してみることです。
どこかの組織から予算をもらうのではなく、自分たちの出せる手持ち資金を出し合い、自分たちがこれが正しいと思うことに挑戦していく(人のお金を使いながら自分たちのやりたいように挑戦するなんて都合のいい話はありません)。自分たちの責任だからこそ、間違っていたらすぐに修正をかけながら、とにもかくにも前に進んでいくのです。
最悪なのは、人の予算を活用して、いつまでも勉強会をやるだけ、ワークショップをやるだけで、自ら事業にまったく取り組まない人たちです。何をやったら成功するか、どうやったら成功するか、誰がやったら成功するかなんて、いつまで議論していても、わかるはずはありません。自転車に乗らない人は永遠に自転車に乗れないのです。
まずは、自分たちがやりたいと思うことを、自分たちの手でやり始めること。始めることは、どんなに追い詰められた地域だってできます。そして、多少の失敗も勉強と捉え、まずは始めた地域だけが、最終的な成功を手にすることができます。

私は建前が好きではないので、「いつか誰かが助けてくれます」「時間をかけて考えれば必ずうまくいきます」「頑張れば成果が必ず出ます」などと綺麗事は言いません。だから、ここまで読んで「そこまでして成し遂げる覚悟はない」「やはり自分にはできないのでは」と不安になる人もいるでしょう。でも、僕自身、もともと地域活性化には興味が一切ありませんでしたし、そもそも小学生低学年の頃は、友達の家に訪ねていくことも、クラスで手を上げて発言することも、初対面の大人には話すことすらできないほどの極度の人見知りでした。その後、成長と共に自分なりの主張はできるようになったものの、高校の時に商店街の取り組みに関わり、そこで会社経営までやることになったのもはっきり言ってしまえば「偶然」です。
最初は慣れない仕事にストレスで10円ハゲができたり、未熟さから株主総会で株主にブチ切れ社長を退任することになったり、投資した事業で関係者が夜逃げをしたり、地方に必要だという志から事業を立ち上げたものの代金を踏み倒されたり、「こんな若造に何ができる」とアイデアだけを取られプロジェクトから外されたり、数えきれない失敗や困難を重ねてきました。
だからこそ、この主人公の物語も、あえて「都市部で会社に言われたことをやるだけの弱気なサラリーマン」という設定にしています。実際、今地域で「ヒーロー」として注目される人の中にも、失敗を重ねて成長するまではあまり目立つ存在ではなかったケースはたくさんあります。つまり明日のヒーローは、今日の「凡人」なのです。

衰退する地域を変えることは、決して簡単ではありません。しかし、簡単ではないからといって、限られた誰かにしかできないものではありません。むしろ、普通に日々の生活をする「凡人」だからこそ、格好つけずに失敗してもその事実を受け止め、小さなことを馬鹿にせず積み上げ、利が生じても欲深くならずに継続できるのです。平凡である、そのこと自体が強みなのです。

どこにでもある地域に起こるこの物語を通じて、小さな一歩を踏み出してくれる人が一人でも増えれば、著者として何よりの喜びです。

最後に、本書は小説形式ではありますが、実際に役立ててもらえるよう、注釈やコラムに特に力を入れて書きました。他の本以上に、しっかり読み込んでもらえると嬉しく思います。また、それらの「付録」を充実させたことにより、多少物語の流れが途切れがちになってしまっているかもしれませんが、あくまで「実践のための本」であることを鑑みて、ご容赦いただければと思います。

著者

木下 斉 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/11/15)、出典:出版社HP

主要登場人物紹介

瀬戸 淳
Atushi Seto
Age 33
高校卒業とともに上京。大学卒業後に中堅メーカーに就職。社内調整に明け暮れる毎日に疑問を持ちながらも、他にやりたいこともなく過ごす。目立つタイプでもなく流されやすい半面、はっきりと物申さないことで憎まれない性格でもある。実家が地元で商売をしているが、父が他界し、今は母だけで店を切り盛りしている。

佐田隆二
Ryuji Sada
Age 33
瀬戸と同じ高校を卒業後、大学には進学せず飲食店修行に出る。実家を継いだうえで、今では地元で五つの店を経営し、人気を博している。物事に対する姿勢がはっきりし男気もあるため、慕う後輩たちは多いが、地元の上の世代からは言うことを聞かないやつとして厄介者扱いされている。

森本祐介
Yusuke Morimato
Age 33
瀬戸と同じ高校を卒業後に地元の国立大学に進学。その後地方公務員試験に合格して市役所に就職した。世渡り上手を自負している。日々、上司の顔色をうかがっているものの、実際には何か大きなことをなしたいという野心もあり、瀬戸たちを度々巻き込む。

鹿内 宏
Hiroshi Shikauchi
Age 31
官僚としてここまで冷や飯を食わされてきたが、課長となったことをきっかけに、新たな補助金政策で地方出身の有力政治家に食い込み、評価される。さらなる出世を目指し鼻息が荒い。「地方は国に指導されるべき存在だ」という歪んだ正義感を持つ。

瀬戸聖子
Seiko Seto
Age 58
淳の母。淳とは対照的に根っからの明るい性格で、夫の死後も客や取引先からも協力あって店をつぶさずに続けてきている。しかし、体力の限界を感じ、自分の今後の人生を考えて、店を畳む決心をする。

田辺 翔
Sho Tanabe
Age 31
芸大を卒業後、東京で中堅の広告代理店に勤める。地元に戻ってきてからはフリーペーパーの広告営業などをしていた。もともとは佐田の飲み仲間で、とにかくノリは軽く、顔が広い。しかし、仕事ではクリエイティビティあふれるアイデアを次々と思いつく。

あらすじ

物語の舞台は、東京から新幹線で1時間、さらに在来線で20分という、人口5万人ほどのどこにでもある地方都市。主人公の瀬戸淳は、高校卒業までこの街で育った。
大学時代は東京で過ごし、そのまま東京の中堅メーカーに就職。実家を離れて10年がたち、最近は年に1回帰省すればいい方だ。
淳の父は地元の商店街で小売店を営んでいた。5年前、その父が亡くなって以来、店の切り盛りは母の聖子が担っていたのだが、その聖子が突然、店も家も売り払い、友人と旅行でもしながら老後を楽しみたいと言い出した。
そもそも店のある商店街は、少子高齢化や人口減少の煽りを受ける地方都市の典型として、完全なシャッター街となっていた。淳の実家に限らず、長年続いた店を畳むというのは珍しくない。
「難しいことはわからないから」と言う聖子に代わり、淳は東京と地元を行き来し、廃業手続きや不動産売却といった“実家の片付け”に追われ、その過程で高校時代の友人たちと再会する。
友人たちを通じて、地元の置かれた現実と向き合ううち、淳は「自分の将来」、そして「地元の将来」について思いを巡らせるようになる。やりがいを感じられない東京での仕事。「仕事がない」と思っていた地元で活躍する佐田の頼もしい姿。果たしてこのまま、実家を売り払い、東京でサラリーマンを続けることが正しい道なのだろうか——。
そして、淳の「実家の片付け問題」は、シャッター街の再生、さらに地域全体の再生という思わぬ方向へと進んでいくのだった。

木下 斉 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/11/15)、出典:出版社HP

目次

凡人のための地域再生入門

はじめに:凡人だからこそ、地域を変えられる

目次

第一章 シャッター街へようこそ
突然の帰郷
不本意な再会
名店は路地裏にある
コラム1・1 どんな地域にも「人材」は必ずいる
コラム1・2 地方は資金の流出で衰退する

第二章 たった一人の覚悟
役所の誤算、自立する民間
嘔(わら)う銀行
「逆算」から始めよ
コラム2・1 なぜ、今の時代に「逆算開発」が必須なのか
コラム2・2 地方に必要なのは、「天才」ではなく「覚悟」である

第三章 見捨てられていた場所
そこでしか買えないもの
仲のよさこそ命取り
次の一手
コラム3・1 地方のビジネスにおける「場所選び」で重要なこと
コラム3・2 資金調達で悩む前にやるべきこと

第四章 批評家たちの遠吠え
田舎の沙汰も金次第
「子どもじゃないんだからさ」
覚悟の先の手応え
コラム4・1 地方の事業に「批判」はつきもの
コラム4・2 地方でビジネスを始める悩みと不安

第五章 稼ぐ金、貰う金
「欲」と「隙」
お役所仕事
名ばかりコンサルタント
コラム5・1 役所の事業がうまくいかない構造的理由
コラム5・2 見せかけの地方分権のジレンマ

第六章 失敗、失敗、また失敗
成功続きの成功者はいない
原点回帰
丁稚奉公の旅
コラム6・1 本当の「失敗」とは何か
コラム6・2 「よそ者・若者・馬鹿者」のウソ

第七章 地域を超えろ
資金調達
小さな成果、大きな態度
血税投入
コラム7・1 他地域連携でインパクトを生むための思考法
コラム7・2 地方で成功することにより生まれる「慢心」

第八章 本当の「仲間」は誰だ
他人の茶碗を割る権利
仲良し倶楽部を超えて
金は霞が関ではなく、地元にある
他人の金で、人は動かない
コラム8・1 嫌われる決断をすべきとき
コラム8・2 孤独に耐え、各地域のストイックな仲間とつながる

最終章 新しいことを、新しいやり方で、新しい人に
さよなら、シャッター街
コラム9・1 今の組織を変えるより、ゼロから立ち上げよう

おわりに

木下 斉 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/11/15)、出典:出版社HP