飲食業界 成功する店 失敗する店

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飲食店サバイバル&繁盛店づくりの極意

ある金融機関の非公式データによると、東京都で新規出店した飲食店の約3.5割が1年以内に閉店しています。そんな難しい商売である飲食店経営の失敗リスクを軽減させるため、著者が失敗で得た教訓とプロデュース経験等をもとに、多くのノウハウが解説されています。

重野 和稔 (著)
出版社 : すばる舎 (2020/1/18)、出典:出版社HP

目次

はじめに

飲食店プロデュースの基礎知識

第1章 店舗コンセプトで決まる成功と失敗
私が飲食店業界に参入するまで
【成功】大人の男性を狙った「塩と日本酒」の店(青山・和食居酒屋)
【成功】香川出身のスタッフで固めたこだわりのうどん(新宿・大型讃岐うどん店)
【成功】黒港焼府を全種類揃え、味噌にこだわる(千駄ヶ谷・黒港焼肉居酒屋)
【失敗】半年で閉店、借金2億円!「ダメになる準備」ができていた悲劇の3号店(代官山・大型和食居酒屋)
【失敗】設備費用がかからないという甘言にのって痛い目にあう(神戸・和食居酒屋)
【失敗】味噌コンセプトを丸パクリした他店のケース(銀座・和食居酒屋)
【成功】飲食店の経験がない設計士に頼んだ悲惨な店を救う(大阪・丼屋)

第2章 メニューで決まる成功と失敗
【成功】〈こだわりの手打ちを〉やめたら売り上げアップ(つくば・そば居酒屋)
【成功】2年で業態変更し、PRで集客する驚異のお店(大阪・大型居酒屋)
【成功】外国人客対応の看板で売り上げアップ(新宿・とんかつ店)
【成功】店内の壁にピールがすすむ絵を描いて、夜の売り上げがアップ(池袋・ラーメン)
【失敗】「がらり」をパクった大手飲食他店のケース(札幌・和食居酒屋)
【失敗】「おでんとカレーだ!」独りよがりの青年実業家(六本木・居酒屋)
【成功】言葉遣いを悪くしたら売り上げアップ(秋葉原・ラーメン)
【成功】たった1品の商品開発で起死回生(藤沢・焼鳥屋)
【成功】名物に手間も原価もかけて大ヒット(大阪・韓国料理)
【失敗】万人ウケするメニューにして売り上げダウン(渋谷・イタリアン)
【成功】盛り付け、見せ方を変えただけで大ヒット(横浜・カフェ)
飲食店の仕事を続けるために飲食店で食べ続ける

第3章 人材で決まる成功と失敗
スタッフ次第で店の売り上げは変わる
【成功】スタッフを1人変えただけで、1か月の売り上げが150万円アップ(千駄ヶ谷・黒糖焼酎居酒屋)
【失敗】雨が降るとこないスタッフを教訓にして(ハワイ・和惣菜店)
【失敗】「犯人はこの中にいる!」売上金を盗むスタッフ(静岡・鉄板焼)
売上金横領を防ぐには
【成功】スタッフの離職率を改善させた二代目経営者(六本木・海鮮居酒屋)

第4章 コスト管理で決まる成功と失敗
「失敗する飲食店」にならないコスト管理
「居酒屋○○」出店費用概算
「居酒屋○○」平均売上予想
「居酒屋○○」月間収支計画
「居酒屋○○」年間収支計画
出店地マーケットリサーチ例
【失敗】固定費のボディーブロー(大井町・串カツ)
【失敗】経営者のアルバイトへの対応ミス(神楽坂・イタリアン)
【失敗】黒子なのに倒産の危機!消費税の落とし穴(渋谷・スペイン料理)
【成功】どんぶり勘定からの脱出!事業計画を立て予算を管理し、赤字から黒字へ(中目黒・ビストロ)
【成功】原価率50%のメニューで繁盛店にしたご夫婦(浅草・洋食店)
【失敗】駅徒歩2分の好立地も、原価と人件費を削って自滅(新橋・薬膳料理)
開店時に撤退について考えておくことも大事

終章 長続きする飲食店をめざして
感性を戦略に則って体現する

おわりに

(カバー表写真)
塩と日本酒の店GALALI青山店

装丁/本文DTP
久保洋子

企画編集/出版プロデュース
野口英明

編集協力
高関 進

重野 和稔 (著)
出版社 : すばる舎 (2020/1/18)、出典:出版社HP

はじめに

私は飲食店の仕事をしています。国内・海外における直営店、プロデュースやコンサルティングなど携わったお店を合わせると、200店舗以上になりました。
仕事の原動力は、料理とお酒はもちろん、飲食店という空間で出会うお客様、そこで働く人たち、すべてです。
特に、飲食店で働いている人を見ると、裏で起こっているドラマ、たとえば店舗コンセプトが生まれるまで、内装のこだわりや看板メニューの開発にどれだけ努力したかなど、いろいろなことが頭に浮かび、愛おしくなります。
そんな自分にとって、飲食店の仕事は天職だと思っています。

しかし、それほど飲食店の仕事が好きな私でも、20年以上にわたる業界経験の中で、何度も心が折れそうになりました。
特につらかったのは2005年、代官山駅から徒歩1分、70坪(約230㎡)、約120席もとれる大型和食居酒屋を出店し、わずか半年で閉店させたときです。この失敗により多額の借金を背負い、お金が回らなくなりました。
その結果、あれほど大好きな飲食店に足を踏み入れることすらできない心理状態になり、なにもかも放り出して、死を選ぼうとしたほどです。

実は、このようなつらい経験をしている飲食店経営者は、たくさんいます。
ある金融機関の非公式なデータによると、その金融機関から融資を受け、東京23区内に新規出店した飲食店の約9割が、1年以内に資金繰り悪化し、返済が滞るそうです。そして、約3・5割が1年以内に閉店しています。また飲食店向け不動産サイト、居抜き情報.comによると、2年で約6割、5年で約8割の飲食店が消えてゆくそうです(ともに、2016年のデータ)。
帝国データバンクも、2019年の飲食店事業者の倒産件数について、過去最多を更新する可能性が高いと発表しました(同年12月)。

こうして改めてデータでみると、飲食店は本当に難しい商売だということがわかります。
まず、参入障壁が低いので他店との競争が激しいことがあります。
それに加え、原材料費や店舗貨料の値上がり、人材確保が難しい業界なので募集費がかかり人件費も高騰しています。
消費動向も芳しくありません。お酒を飲まない人が増えていますし、世帯当たりの外食に使うお金が少なくなっているというデータもあります。

それでもみな、成功すると思って飲食店を開業します。自分のアイデアと未来を信じ、リサーチなどの準備も十分といえぬまま……実際、私がそうでした。
しかし、私は直営店での死を選択したくなるほどの失敗を教訓にし、また飲食業界に参入するまで勤務していた銀行、不動産会社での経験と知識を最大限に活用し、飲食店の成功と失敗の正体はなんなのか、とことん追求してきました。
そして、失敗のリスクを軽減させるノウハウを学び、今では直営店の7割が10年以上、プロデュース店の8割が5年以上という、息の長い繁盛店になっています。

本書では、その200店舗以上の中から、それぞれに異なる飲食店の成功と失敗の事例を精選し、なぜ成功したのか、なぜ失敗したのかを解説しています。
具体的には、店舗コンセプト、メニュー、人材育成、コスト管理、そして撤退のシナリオの重要さをできるだけわかりやすく書きました。
中でも、飲食店のプロデュースに際して、出店費用などをシミュレートした事業計画書(この事業計画書は、融資を受けたり、出店後の姿を数字で把握するために必要なものです)を必ず作成して、クライアントにプレゼンしているのですが、飲食店のコスト管理がリアルにわかるようにモデルケースを作成しました(出店費用は約1000万円。店として独立しやすい、15坪の居抜き物件で居酒屋を想定しています)。
そのモデルケースを前提に、「出店費用概算」「平均売上予想」「月間収支計画」「年間収支計画」「出店地マーケットリサーチ例」などの事業計画書を、詳しく解説しています。

これから独立してお店を始めようと思っている方、すでに開業している方、飲食店の世界を知りたい方に、なにかしらお役に立てたらと願いを込めた本書を、どうぞ最後までご一読していただけたら幸いです。

重野 和稔 (著)
出版社 : すばる舎 (2020/1/18)、出典:出版社HP

飲食店プロデュースの基礎知識

「長年構想を温めてきた、あの飲食店を開業しよう!」
そう思ったとき、店の立地、コンセプトからメニュー開発、資金調達まで、すべて自分1人でこなす人もいれば、立ち上げは不安なので外食産業のプロと事業計画を練りながら進めたいという人もいます。また、「飲食店を始めたはいいけれど、思ったように売り上げが伸びない。なにかいい方法はないか」と、外部に運営の相談をする人もいます。飲食店を開業し、繁盛店にするまでにはいろいろな道のりと運営形態があるのです。

Basic1 社長(代表、オーナー)
法人、個人を問わず飲食店経営の最高責任者。飲食店を本業とする人、しない人の2つに大きく分かれ、さらに細分化される。

飲食店を本業とする人
出店費用やランニング費用の責任をもち、店の運営を誰かに任せることなく、自分で行っている人。店舗数や規模によって現場で働く人や経営に専念する人に分かれる。
料理人として現場で陣頭指揮を執る人(オーナーシェフ)」
ホールで働きながら現場で陣頭指揮を執る人
現場は店長に丸投げし、経営に専念する人

飲食店を本業としない人
他業種が本業ではあるが、投資や事業の柱の1つとして飲食店を経営する人
会社員としての収入があり、出店費用やランニング費用の責任をもつが、店の運営は店長に任せている人(サラリーマンオーナー)

Basic2 飲食店プロデュース
業態、メニュー、内装デザイン、サービスなどのコンセプト立案から、そのコンセプトを店舗として体現するまで、あらゆる業務を遂行すること。具体的には、出店先のエリア設定、マーケットリサーチ、売上予測、資金調達サポート、メニュー開発、設計デザイン、グラフィック関係、工事、取引先業者の選定、立ち上げ指導、スタッフ教育まで多岐にわたる。案件によっては、大まかなコンセプトと業態だけが決まっていて、その他すべての業務を担う場合もあれば、たとえばコンセプトの立案だけを担当し、メニュー開発や設計などの業務は他者と共同で行うこともある。

Basic3 運営管理
飲食店オーナーから、管理者不足や業績改善、飲食以外の事業に専念するなどの理由で、運営の一部を委託され、基本的に業態を変えずに利益がでる体制をつくり上げること。具体的にはメニューやサービスの見直し、同じ品質でより安い取引先業者への変更、シフトやオペレーションのスリム化などによって利益を生み出す。人材を派遣したり、定期的に店舗に行って指導する場合もあり、仕事内容によってフィー(料金)の取り方が変わる。

Basic4 運営委託(受託)
飲食店オーナーから、管理者不足や業績改善、飲食以外の事業に専念するなどの理由で、運営を全面的に委託され、利益がでる体制をつくり上げること。イタリアンから居酒屋へというように業態変更を伴うこともある。新メニューやオペレーション構築でオーナーの希望を考慮する場合もある。フィーは賃料+α、売り上げに対するパーセンテージ、利益配分の方法で支払われるパターンが多い。

軽井沢
カスターニエ軽井沢ローストチキン
軽井沢駅から徒歩5分に位置するイタリアン。軽井沢ローストチキンが名物で、オーナーさんたちのセンスとホスピタリティーが反映された人気のお店。店舗リニューアルのお手伝いをしました。

新宿
讃岐うどん大使 東京麺通団
(上)西新宿に2003年9月オープン、私が初めてお手伝いしたお店で、「香川の讃岐うどんをそのまま東京で食べていただく」をコンセプトに、香川県出身のスタッフが本物の讃岐うどんを提供する。讃岐うどんを全国に広めた、タウン情報誌のメンバーからなる「麺通団」が事業主。「本物はあとからやってくる」というキャッチコピーで開業時から話題となり、現在も行列が絶えない人気店です。
(左)東京麺通団のこだわりは、麺や味だけではありません。ライブ感を出すために、外を歩くお客様から見えるよう、店の入り口にうどんを湯掻く大きな釜を設置し、ゆでているところを見せる演出にしました。

茅ヶ崎
スポーティフ カフェ
湘南を代表するアパレルブランド「SPORTIFF」が事業主の、イタリアンを中心としたカフェ。海の近くにある、通称「SPORTIFF Village」(複数のショップとブランドが集う)の一画にあり、さまざまなイベントも開催。有名人が訪れる人気店のお手伝いをしています。

重野 和稔 (著)
出版社 : すばる舎 (2020/1/18)、出典:出版社HP