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閉塞感が強まる霞が関の実態に迫る
本書は、不祥事で弱体化する財務省、官邸に食い込む経産省、ブラック職場とも揶揄される厚労省、2001年の中央省庁再編後も続いているかのような旧省庁時代の慣行など、国民経済や生活に直結する霞が関の悩めるエリート官僚たちの実態に迫った一冊です。
霞が関 悩める官僚 目次
・没落する忖度エリート官僚の悲哀
・官僚は”おいしい”職業なのか
・東大生は霞が関よりコンサル、ベンチャー志向に
・【財務省】財政再建の大義を捨てた罪と罰
・【経済産業省】露呈した持たざる官庁の限界
・【外務省】「英米研修組」優遇に変化
・外務省vs.警察庁 国家安保局長をめぐる暗闘
・【厚生労働省】霞が関有数のブラック職場
・【総務省】実質3人の次官が仕切る
・【国土交通省】旧運輸と旧建設の間に不文律 揺らぐバランス人事
・有力企業に在籍する元事務次官たち
・【防衛省】優先される身内の論理
・【文部科学省】加計で揺れる”地味省”
・産業革新機構を軸に再編も 官民ファンド投資の実態
・INTERVIEW 官僚OBの提言
・経産省はもっと「領空侵犯」せよ(経済産業省OB)
・走りながら考えるしかない(財務省OB)
・財務、経産、厚労…若手官僚座談会 本音で語るカネ、転職、働き方
・INTERVIEW 達人がズバリ明かす! 官僚の徹底活用術
・元小泉首相秘書官・飯島 勲
・元金融相、総務相・竹中平蔵
霞が関に強まる閉塞感、襲いかかる三重苦
没落する忖度エリート官僚の悲哀
不人気、不遇、不祥事——。スキャンダルにまみれる霞が関。政策を担うエリートたちは政権への忖度と官僚ムラの掟でがんじがらめだ。悩める官僚の実態に迫った。
忖度(そんたく)という言葉がこれほどマスコミに登場し、人々の口にのぼった年はないだろう。国会に呼ばれ森友学園や加計学園の問題で苦しい答弁を行う省庁幹部の様子が幾度となくテレビに映し出された。今、霞が関の官僚ムラ”を襲うのは、不人気、不退、不祥事の三重苦だ。
人事院によると、2018年6月29日に合格者が発表されたキャリア試験(総合職)の応募者数は2万人を割り、約半世紀ぶりの少なさを記録した。かつてとは違い「東大を中心として優秀な層が官僚を志望しない」と、幹部ボストを歴任した官僚OBは指摘する。東大生の人気職種は民間のコンサルティング会社や商社など。今や優秀な学生は就職活動をせずに起業する時代。官僚不人気に歯止めがかかりそうにない。
30代で手取り30万円台 統計に出ない大量残業
キャリアと呼ばれる「官僚中の官僚」は、全公務員の0・5%という限られた層だ。ノンキャリと呼ばれる大半の官僚を採用する一般職試験よりも難易度の高い、総合職試験を突破したキャリア官僚は各省庁で国を動かす政策を立案する。海外留学や大使館勤務などのチャンスも多く、中には政治家に転身する者もいる。約27万人の全官僚のうち、キャリア官僚は約1万6000人しかおらず、ノンキャリに比べてその扱いは別格。課長ポストの9割弱をキャリアが占め、出世もノンキャリより約10年早い。
だが、霞が関では働き盛りの20~30代の退職が増えている。転職市場が盛り上がり、「コンサルなどから「来ないか」とつねに声がかかる」(経済産業省の官僚)。キャリアの給料は「30代前半で手取りは月30万円台後半」(現役官僚)。「大学の同窓会に参加しても、給料がいちばん低くてみじめな気分になる」(国土交通省OB)といい、辞めるキャリアも相次いでいる。
不遇の象徴が残業の多さだ。使が関の平均残業時間は年間363時間と、民間の154時間の倍以上。だが「数字以上に残業しているのが実態」と、各省庁のガ衡組合が参加する霞が関国家公務員労働組合共闘会議の小池浩之議長は指摘する。「一人当たり月36時間の残業を前提に国が予算を組んでおり、長時間の残業を申請しても原資がなく認められない。公表の残業時間はあくまで支給した額に基づいたもの」という。実際、「忙しい月は残業が200時間を超えたが、翌月に受け取った残業代は10万円に満たなかった」と、若手の元官僚は霞が関の残業の裏側を明かす。
幹部人事で年次逆転は起きないという”掟”がある中、昇進が以前よりも遅くなっている。官僚の天下りにメスが入り、上の世代が組織に滞留。その結果、10年前と比べて、働き盛りの30代が減り、50代が増えている。現場からも「かつて40代後半といえば官房長になれた歳。今は課長止まり」(総務省40代)と不満の声が上がる。
広がる省庁間格差”ヒラメ官僚”も急増
追い打ちをかけるのが不祥事だ。世間を騒がすモリカケ(森友学園・加計学園問題)に加え、セクハラや複数の省庁での文書隠蔽などで世間のイメージは悪化した。ある省庁の若手官僚は、「霞が関を志望する女性の大学生から、『セクハラって多いんですか?」と質問された。本当にショックだった」と振り返る。
不祥事の裏側で省庁間のパワーバランスも大きく変化している。かつて「われら富士山、ほかは並びの山」と他省庁を見下していた最強官庁、財務省の凋落が止まらない。直近ではセクハラ問題で事務次官が辞任し、空席になるという異常事態を招いた。(注・18年7月、後任に岡本薫明(しげあき)前主計局長)一方、安倍晋三政権下で「わが世の春」を謳歌するのが、官邸の中枢に人を送り込み政権の知恵袋となっている経産省だ。政治主導を進める安倍首相の下、「官僚が力をつけ、どれだけ官邸に食い込めるかが重要」(厚生労働省幹部)。官邸と近い経産省では、「今は政治の理解も得やすく、政策を実現しやすい」(若手官僚)。
安倍政権は官邸主導を進め、内閣人事局を通して各省庁の幹部人事権を掌握する。「官邸のほうばかり向くヒラメ官僚、が増えた」(総務省幹部)と嘆く声は少なくない。かつてとは違い優秀な人材が集まらず、入ってきても若くして辞めていく負のスパイラル。上が詰まっており、働き続けても出世は遅れる一方、官邸の顔色ばかりをうかがう幹部は出世する。閉塞感が強まる霞が関はどこに向かうのか。その実態に迫る。