NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く

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ビジネスパーソン必読

スタートアップから巨大ビジネスまで、どんな企業も優れた適応力を身につけなければ、ライバル企業にイノベーションで先を越されてしまいます。本書は、著者がネットフリックスで学んだ教訓や、生み出した原則や手法を紹介し、ネットフリックスの成功を支えてきた、俊敏なハイパフォーマンス文化を形成するための方法を説明していきます。

パティ・マッコード (著), 櫻井祐子 (翻訳)
出版社 : 光文社 (2018/8/17)、出典:出版社HP

NETFLIXの最強人事戦略――自由と責任の文化を築く
パティ・マッコード著
櫻井祐子訳

POWERFUL
Building a Culture of Freedom and Responsibility
by Patty McCord
Copyright © 2018 by Patty McCord First Published in the United States by Missionday Japanese translation rights arrranged with Missionday
c/o Nordlyset Literary Agency, Minnesota
through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo 本書は、光文社がタトル・モリ・エージェンシーを通じて Missiondayとの契約に基づき、軸訳出版したものです。

初めて知った真のリーダー、父に捧ぐ

目次

序章 新しい働き方
―自由と責任の文化を育む
人にはもともと力がある。それをとり上げてはいけない、人の力を解き放て/自由と責任の規律

第1章 成功に貢献することが最大のモチベーション
―従業員を大人として扱う
優れたチームは嬉々として挑戦に立ち向かう/迅速でなければ、思いがけないニーズやチャンスに対応できない/光明が見えた

第2章 従業員一人ひとりが事業を理解する
―課題が何であるかをつねに伝える
人は仕事に娯楽を求めない、学びたいのだ/コミュニケーションのハートビート/コミュニケーションは双方向で(どんなレベルの従業員も事業を理解することができる/飲み会よりも、事業や顧客について学ぶ機会を提供しよう/継続する

第3章 人はうそやごまかしを嫌う
―徹底的に正直になる
それ直接いったの?/人は批判を歓迎するようになる/フィードバックの与え方を練習しよう/上司が模範を示せば部下もそれをまねる/フィードバックのしくみを設ける/全員が事業に関する問題についても知る権利がある/まちがいを素直に認めればよりよいインプットが得られる/オープンな共有は歴史の書き換えを難しくする/匿名調査が発する矛盾したメッセージ

第4章 議論を活発にする
―意見を育み、事実に基づいて議論を行う
根拠に基づく意見をもとう/データ自体には何の意見もない/見栄えはよいが中身のないデータに注意/事業のため、顧客のための議論に徹する/私心のない人という評判を得よう/自分のやりたい議論を企画する

第5章 未来の理想の会社を今からつくり始める
―徹底して未来に目を向ける
頭数をそろえればよいというものではない、今のチームがこの先必要なチームになると期待してはいけない/6か月先を考える/会社はチームであって家族ではない/昇進させることが正解とは限らない/スタートアップ創業者の目線で考える/ノスタルジアは危険な兆候

第6章 どの仕事にも優秀な人材を配置する
―すべての職務に適材をそこで働いていたことが誇りになるような会社にしよう/従業員特典がすばらしい仕事をさせるわけではない/愛はお金じゃ買えない/モチベーションは人材濃度と魅力的な課題から/才能の多様性/履歴書に表れないスキル/採用の文化を形成する/人事担当者はビジネスマインドを持て

第7章 会社にもたらす価値をもとに報酬を決める
―報酬は主観的判断である
人事考課と報酬制度を分離する/あなたの会社で働くことの価値を説明する/トップレベルの給与を支払うことの価値/契約時ボーナスの不思議/透明性が市場ベースの報酬を支える

第8章 円満な解雇の方法
―必要な人事変更は迅速に
―その会社で働いていたことを誇れるような組織にしよう
「10試合」ごとに人事考課を行う/人事考課制度を廃止しよう/PIPを破棄せよ(または業績改善に実際に役立つものにせよ)/訴訟を起こされることはめったにない/従業員「エンゲージメント」について/私流のアルゴリズム/文化を自分のものとして受け入れ、実践する/みずから実践する

結論

謝辞
訳者あとがき
原註

◎本電子書籍は、左記に基づいて作成しました。
『NETFLIXの最強人事戦略
―自由と責任の文化を築く」(光文社刊)2018年8月30日初版発行

パティ・マッコード (著), 櫻井祐子 (翻訳)
出版社 : 光文社 (2018/8/17)、出典:出版社HP

序章 新しい働き方

自由と責任の文化を育む

ある日のネットフリックスの経営会議で、私たちは突然気がついた。あと9か月もすれば、アメリカの全インターネット・トラフィックの3分の1を、うちの会社が占めるようになるのだと。
当時ネットフリックスは3四半期連続で0%近い成長を続けていた。いつかHBO[アメリカ最大の衛星・ケーブルテレビ局」と規模で肩を並べるようになるだろうが、それは何年も先のことだと、このときまで誰もが思っていた。プロダクト責任者は、今のペースで成長を続けたとして、1年後にどれだけの帯域が必要になるかをざっと計算して、こういった。「ええっと、アメリカの全トラフィックの3分の1になるね」みんなが彼のほうを向き、声を合わせて叫んだ。「何だって?」私は尋ねた。「それに対応する方法がわかる人、うちにいる?」彼はうちの会社でつねに求められているように、正直にいった。「わからないよ」私が経営陣の一員として過ごした4年の間、ネットフリックスは成長につきものの手ごわい課題をたえず突きつけられていた。会社の存続を脅かすような重大な課題もあれば、私たち自身が開発した技術やサービスに関する課題もあった。出来合いの攻略法などあるはずもなく、その場その場を切り抜けるしかなかった。私が参画した草創期から今に至るまで、ネットフリックスの事業の性質と競争環境は、驚くほどの速さでめまぐるしく変化し続けている。
ビジネスモデルにも、サービスを提供するためのテクノロジーにも、成長を実現するために必要なチームにも、たんに遅れずについていく以上のことが求められる。変化を予測し、それを迎え撃っための戦略を策定し、準備をする。まったく新しい専門分野のスター人材を採用し、チームを粛々と組み換えていく。また、いついかなる瞬間にも、計画をかなぐり捨て、まちがいを認め、新しい進路をとることのできる態勢でいなくてはならない。

ネットフリックスはみずからをたえまなくつくり替えてきた最初はDVD宅配レンタル事業の急成長を維持しつつも、ストリーミング動画配信技術の構築に果敢にとりくみ、続いてシステムをクラウドに移行し、それからオリジナル作品の制作に着手した。
この本はネットフリックス創業の歴史をふり返る本ではない。事業環境の急激な変化に柔軟に適応できる、ハイパフォーマンス文化を育むための方法を、あらゆるレベルのチームリーダー向けに説明する本である。
たしかにネットフリックスは極端な例かもしれない。だがスタートアップから巨大ビジネスまで、どんな企業も優れた適応力を身につけなければ生きていけない。新たな市場需要を先読みし、大きなビジネスチャンスや新しいテクノロジーをものにする能力がなければ、ライバル企業にイノベーションで先を越されてしまう。私はネットフリックスをやめてから、世界中の企業にコンサルティングを行っている。ジェイ・ウォルター・トンプソンなどの有力企業をはじめ、ワービー・パーカーやハブスポット、インドのハイク・メッセンジャーのような成長著しい新興企業、創業間もないスタートアップなど、多種多様な企業にコンサルティングを提供するうちに、企業をとり巻く競争環境を、より幅広い視点からはっきりととらえられるようになった。
企業の抱える根本問題は、どれも驚くほど似通っていて、どれも早急な対応を必要とする。コンサルティングではいつも同じことを聞かれる。「どうすればネットフリックスの魔力を身につけられるんですか?」
具体的にいうと、「どうすればネットフリックスの成功を支えてきた、あの俊敏なハイパフォーマンス文化を形成できるのか」ということだ。それを説明するのが本書である。私たちがネットフリックスで学んだ教訓や、生み出した原則や手法を、あなた自身のチームや会社に活かす方法を教えよう。
私たちがネットフリックスでやってきたことは、すべて正しかったのか?とんでもない。山ほどの失敗をしたし、そのうちのいくつかは広く知られるところとなった。それに私たちは挑戦に立ち向かう方法を、稲妻のようにいきなりひらめいたわけでもない。段階的に適応しながら、新しい方法を編み出していった。新しいことを試しては失敗し、また一からやり直すうちに、優れた結果を出せるようになった。やがて適応力とハイパフォーマンスを支える独自の文化をもつようになった。
もちろん、急激な変化に適応することが、どんな分野のどんな人にとっても簡単だ、などというつもりはない。だがさいわいなことに、重要な行動規範の周知を図り、それを実行するかどうかを各人の裁量に任せることでーいや、実行するよう求めることでーチームは驚くほど活性化し、積極的になることがわかった。会社がめざす方向に進む原動力として、このようなチームに勝るものはない。
この本には、ネットフリックスがどう試練に立ち向かってきたかという物語をちりばめた。その方が楽しく読めるし、私たちが開発した手法を実際に導入する方法を理解しやすいと思ったからだ。なんだか変わった本だな、と思うかもしれない――そして、常識を打破することをめざす本にぴったりのスタイルだと思ってもらえるとうれしい。

ネットフリックス文化の柱の一つは、「徹底的に正直であれ」だ。幼い頃から歯に衣着せぬテキサスで鍛えられた私も、これをモットーとしてきた。ネットにアップされた私の動画を見れば、いいたいことをはっきりいうのが私の流儀だとわかってもらえるだろう。この本でも同じやり方でいきたい。活発な議論に参加するような気もちで、この本を読んでもらいたい。私のいうことに苛立ったり反発したりすることもあるだろう。また、うん、うん、と強くうなずきながら読むこともきっとあるだろう。私はネットフリックスで白熱した議論を重ねるうちに、自由な知性の応酬ほど楽しいものはないと思うようになった。この本も楽しみながら読んでもらえればと願っている。

人にはもともと力がある。それをとり上げてはいけない
これから紹介する手法をとり入れる第一歩として、まずは常識を覆すような人材管理の考え方を受け入れてもらいたい。
私たちがネットフリックスで学んだ、今日のビジネスでの成功に関する根本的な教訓は、「3世紀に開発された複雑で面倒な人材管理手法では、1世紀の企業が直面する課題に立ち向かえるはずがない」ということだ。創業者のリード・ヘイスティングスと私たち経営陣は、これまでにない斬新な人材管理方式を考えようじゃないかと誓った。誰もがもてる力をいかんなく発揮できるようにする、そんな方法を見つけようとした。
従業員全員に、経営陣やお互いを相手に活発な議論を戦わせてほしかった。アイデアや問題について自由に発言し、同僚や経営陣に公然と反論してほしかった。
どのレベルのどの従業員であろうと、貴重な発見や疑問を胸に秘めてほしくなかった。だから経営陣がみずから模範を示した。話しかけやすい雰囲気をつくり、質問を歓迎した。従業員の前で激しい議論を交わし、マネジャー全員にもそうしてほしいと促した。リードは経営陣の公開討論まで企画した。また会社がどんな課題を抱えていて、どうやって対処するつもりかを、正直にかつ継続的に知らせた。変化が常態だということ、すばやく前進するために必要とあれば、計画や人員をいくらでも変更するつもりでいることを、全員に理解してほしかった。
変化が必要だということを受け入れ、みずから変化を起こすことにスリルを感じてほしかった。破壊的変化の荒波のなかで最も成功できる組織とは、すべてのチームのすべてのメンバーが、「この先何が起こるかはわからず、何もかもが変化している」と考え、それに心を躍らせるような組織だと、私たちは考えるようになった。

そんな会社をつくるために、私たちはチームワークと斬新な問題解決を促す文化にこだわった。毎日職場にわくわくしながら難しい課題が「あるにもかかわらず」ではなく、「あるからこそ」胸を躍らせながら来てほしかった。ネットフリックスでは肝を冷やすようなできごとが何度もあった。未知の世界に目をつぶって飛び込むこともあったし、本当におっかない思いもした。でもそれは血湧き肉躍る経験でもあったのだ。
ネットフリックスの文化は、複雑な人材管理方式を通して形成されたのではない。むしろ、その正反対だ。人材管理の手法や方針を次々と廃止していったのだ。破壊的変化のペースが加速するなか、製品開発の手法が時代遅れになり、微捷で無駄のない顧客中心主義の手法が必要とされるようになったのと同様、従来型のチーム構築や人材管理の手法では時代に対応できなくなっている。企業が人材をよりよく活かすための努力を怠っているとはいわない。そうした努力のほとんどが的外れか、逆効果だといいたいのだ。
多くの企業がいまだにトップダウンの指揮統制方式にしがみつきながら、「従業員エンゲージメント」を高め「エンパワメント」を促すための施策でうわべを飾り立てている。
言葉倒れの「ベストプラクティス」がまかり通っている。たとえば人事考課連動型のボーナスと給与、最近流行りの生涯学習のような仰々しい人事施策、仲間意識を育むための楽しい催し、業績不振の従業員に対する業績改善計画(PIP)など。こういうことをすれば従業員の力を引き出し(エンパワメント)、やる気を促し(エンゲージメント)、仕事に対する満足度と幸福度を高めることができ、それが高い業績につながるという思い込みがあるのだ。

私自身、そう信じていた時代があった。私はサン・マイクロシステムズと、続いてボーランドで人事のキャリアを開始し、ありとあらゆる従来型の手法を実施していた。魅惑的なボーナスを導入し、うんざりするような人事考課の季節には部下の人事部員たちにハッパをかけ、業績改善計画のやり方をマネジャーたちに指導した。サンで多様性プログラムを運営していたときは、0万ドルかけてシンコ・デ・マヨ・パーティー[メキシコのお祭り]を主催したこともある。
でもそのうちにわかってきた。こうした施策や制度は、どれもお金と時間が無駄にかかるうえ、本来の業務の妨げになるのだ。さらに悪いことに、それらは人間に関する誤った考えを前提としている。つまり、人が仕事に全力を尽くすためには、インセンティブを与えられ、何をするかを指示されなくてはならない、という考えだ。皮肉なことに、この前提をもとに考案された「ベストプラクティス」は、かえってやる気と力を削ぐ結果になっている。
たしかに、やる気の高い従業員は業績も高いのだろう。だが問題は、最終目標が顧客サービスの向上ではなく、やる気を高めることそれ自体になりがちなことだ。それに、「人がどうやって、なぜ仕事に打ち込むか」に関する一般通念からは、仕事へのやる気を駆り立てる原動力の理解が抜け落ちている。
そしてエンパワメントに関していえば、私はこの言葉が大嫌いだ。よかれと思ってやっているのだろうが、そもそもエンパワメントがこんなに注目されるのは、今行われている人材管理の手法が従業員から力を奪っているからにほかならない。力をとり上げることを狙っているわけではないが、やたらと介入しすぎる結果、従業員を骨抜きにしている。
私は血気盛んなスタートアップの世界に足を踏み入れてから、人にもともと力があることを、以前とはちがう視点から深く理解するようになった。従業員に力を与えるのではなく、あなたたちはもう力をもっているのだと思い出させ、力を存分に発揮できる環境を整えるのが、会社の務めだ。そうすれば、彼らは放っておいてもめざましい仕事をしてくれる。

人の力を解き放て

ネットフリックスで私たちが開発した新しい人材管理手法をこれから紹介するが、まずは今日の人材管理の大前提に異議を唱えたい。すなわち、従業員の忠誠心を高め、会社につなぎ止め、キャリアを伸ばし、やる気と満足度を上げるための制度を導入することが、人材管理の仕事だとする考えである。そのすべてがまちがっている。そんなのものは経営陣の仕事でも何でもない。
代わりに、ラディカルな提言をさせてほしい。ビジネスリーダーの役割は、すばらしい仕事を期限内にやり遂げる、優れたチームをつくることである。それだけ。これが経営陣のやるべきことだ。
ネットフリックスでは、時代にそぐわない方針や手順のほとんどを廃止した。一気にすべてを廃止したのではなく、数年かけて実験を重ねながら一歩ずつ行った。業務革新を進めるのと同じ方法で、文化の形成にとりくんだ。これほど抜本的な改革を断行できる企業ばかりでないことはわかっている。それにすべてのチームリーダーが、現行の方針や手順を廃止する裁量を与えられているわけでもないだろう。だがネットフリックスの柔軟性を支える手法を、社内に定着させるために私たちが用いた施策をとり入れることなら、どんな企業のどんなマネジャーにもできるはずだ。

自由と責任の規律

既存の方針や手順を破棄し、従業員の主体性を尊重しても、やりたい放題の風潮を生むことにはならない。私たちはお役所的な決まりごとを廃止しながら、どんなチームのどんな人も、基本的な行動指針をしっかり守るように指導した。「方針」や「手順」という言葉は今後一切使わない、でも規律は大好きよ、というのが私の口癖だった。私はキャリアを通じてエンジニアたちとずっと仲よくやってきた。エンジニアはとても規律正しい人たちだ。私が導入しようとする施策にエンジニアから不満の声が上がるときは、何が彼らを悩ませているかをはっきり突き止めなくてはならない。彼らは無意味な手続きやばかげた施策を忌み嫌う。だがそんな彼らも、規律は一向に気にしないのだ。
チームの文化であれ全社的な文化であれ、文化を抜本的に変えようとするときに理解しておきたい大切なことがある。それは、たんに理念や業務方針を示すだけでは不十分だということだ。

まず従業員に一貫してとってほしい行動をはっきりと打ち出し、続いてそれを実行するための規律を定着させる必要がある。
ネットフリックスでは、規律をもって実践してほしいと経営陣が思う行動を、全員にあますところなく繰り返し伝えた。まずマネジャー全員から始めた。会社の哲学と経営陣が実践してほしいと望む行動を、一人残らずすべての人に理解してもらいたいとの強い思いから、リードはそれを説明するためのパワーポイント資料をつくり始め、私とほかの経営陣が一緒に完成させた。これが、ネットフリックスの「カルチャーデック」(略してデック)という名で知られるようになった資料だ[Deckは甲板の意味。甲板にすべてを並べるように全項目を列挙した資料]。読んでくれた人も多いだろう。
リードが何年か前にそれをオンラインで公開したところ[https://www.slideshare.net/reed20017culture-1798664]、あっという間にクチコミで広まり、これまでに1500万回以上も閲覧されている。
こんなに話題になるなんて予想もしなかった。一般向けにつくったものではなく、ネットフリックスの文化を新入社員に教え、どんな行動が求められているかを明確に説明するための社内資料なのだから。
またこの資料は経営陣が従業員に求める行動であるとともに、従業員が経営陣に求めるべき行動でもあることを、はっきり説明した。カルチャーデックは一度に作成されたわけでもないし、リードと私の2人だけで作成したわけでもない。それは、経営陣全員が社内リーダーの助けを借りて、文化を形成するうちに気づいたことを書き留めたもので、命をもち、呼吸をし、成長し、変わり続けている。
この本はデックと合わせて読むと、より一層理解が深まるだろう。実際、講演やコンサルティングを行うたびに、デックの内容や、それを実行に移す方法について質問が殺到することが、この本を書いたきっかけの一つなのだ。
私はじっくり考え、デックの原則や行動指針をチームに定着させる方法について、自分なりに学んだことをまとめた。ネットフリックスがとり入れ、デックで説明した具体的な手法を、すべてのチームや企業にそのままあてはめることはできない。ネットフリックス社内でさえ、文化は部署によって多くの点で異なる。たとえばマーケティング部門は、エンジニアの集団とはかなりちがう方法で運営されている。それでも企業文化を支える基本的な行動規範が存在する。

●マネジャーは自分のチームだけでなく会社全体がとりくむべき仕事と課題を、チームメンバーにオープンにはっきりと継続的に伝える。
●徹底的に正直になる。同僚や上司、経営陣に対して、時機を逃さず、できれば面と向かって、ありのままを話す。
●事実に基づくしっかりした意見をもち、徹底的に議論し検証する。
●自分の正しさを証明するためではなく、顧客と会社を第一に考えて行動する。
●採用に関わるマネジャーは、チームが将来成功できるように、適正なスキルを備えたハイパフォーマーをすべてのボストに確実に配置する。

経営トップを含むすべてのマネジャーに、これら行動方針の模範になってほしいと求めた。彼らは自分のチームの手本となり、そうすることによって文化を具体的に実行に移す方法を示すことができた。
こうした要求事項に沿ってチームに行動してもらうなんてとても無理だ、とあなたは思うかもしれない。実際、この本を書くためにネットフリックスの現役・元社員に話を聞いてみると、最初はいくつかの手法に抵抗があったという人が多かった。たとえば、面と向かって正直な意見をいうのは気が進まなかったという人がいた。それでも勇気を奮い起こしてやってみると、部下がすぐにやり方をとり入れ、チームの業績が劇的に改善したそうだ。

大切なのは、段階的に進めることだ。小さな一歩から始め、どんどん続けよう。自分のグループや課題に合いそうな手法を選び、それを踏み台にするといい。経営陣の場合は、最もやりやすい、または最も変化を必要としている部署やグループから始める。文化の創造は、積み重ねのプロセスだ。実験を通した発見の旅のようなものと思ってほしい。私たちもネットフリックスでの文化形成をそんなふうに考えていた。どのステップから始めてもかまわない。とにかく始めることが肝心だ。めまぐるしく変化する今日のビジネスでは、何事も「思い立ったが吉日」なのだから。

パティ・マッコード (著), 櫻井祐子 (翻訳)
出版社 : 光文社 (2018/8/17)、出典:出版社HP