超成長都市「福岡」の秘密 世界が注目するイノベーションの仕組み

【最新 – 福岡市のまちづくりについて学ぶためのおすすめ本 – 経営や組織の視点から見る】も確認する

世界から人と企業が集まる理由

近年は、世界のグローバル化とテクノロジーの進歩をふまえた新しいビジネスモデルの創出によって、まちづくりのさまざまな領域にイノベーションが生まれています。本書では、まちづくりにおいて大きな成果を挙げた福岡市の取り組みに焦点を当てながら、地域の活力を創出するためのまちづくりと新たなビジネスの創出について解説していきます。

石丸 修平 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2020/2/18)、出典:出版社HP

はじめに

まちづくりは、ビジネスチャンスの宝庫です。
たとえば、仕事での移動の際に、配車アプリサービスを使ってタクシーを呼び出し、キャッシュレスで料金を支払う。
別の日には、急な事情により一時的に子供を保育園に預けて用事をこなしたい親向けに、アプリで一時保育のマッチングサービスを提供する。
これらはほんの一例ですが、まちづくりを進めていく中で「ビジネスだから実現できる」「ビジネスによって付加価値が高められる」機会が増えてきました。都市や地域が置かれている状況は、この20年ほどで大きく変貌しています。近年は、世界のグローバル化とテクノロジーの進歩をふまえた新しいビジネスモデルの創出によって、まちづくりのさまざまな領域にイノベーションが生まれているのです。

これまで、まちづくりは行政や地権者など、特定の人たちによる取り組みと思われていましたが、そのようなやり方では成り立たなくなってきています。世界の都市化が進んでいく中で、都市同士の競争は激しさを増しています。日本国内でも、人口が減少する中で、地域が人を取り合うのはもはや当たり前です。まちが魅力的でなければ都市や地域が選ばれない時代が訪れているのです。
まちで暮らす人が減り、訪れる人も減っていけばビジネスは縮小し、企業の力は弱まる。そうなればあらゆる都市機能にネガティブな影響が及びます。そうした事態を回避するためにも、「みんなでまちづくりに関わる」ことが、ますます重要になってきているのです。このような潮流の中で、都市や地域がさらにまちの魅力を高めていくために、まちづくりにはさまざまなビジネスチャンスが潜んでいます。
都市化による渋滞の増加や、人口減少による相対的な高齢者の増加など、まちにはさまざまな課題があふれています。それらに対応していくために、世界では産官学民(民間企業、行政機関、教育・研究機関等、地域住民やNPOなどを指す言葉)が一体となって新しいビジネスを創出し、政策を連動させて諸課題を解決する取り組みが進んできました。

さらに、世界には、国際地域ベンチマーク協議会(IRBC)というユニークな枠組みがあります。シアトルの呼びかけで発足したもので、魅力ある都市形成や住みやすいまちづくりに向けて成功事例を発表・共有していく集まりです。福岡(日本)、シアトル(アメリカ)、バンクーバー(カナダ)、バルセロナ(スペイン)、ダブリン(アイルランド)、ヘルシンキ(フィンランド)、ストックホルム(スウェーデン)、ミュンヘン(ドイツ)、メルボルン(オーストラリア)、大田広域市(韓国)の10都市が加盟。国際的な地域競争力を高めるために相互に学習しながら、データを収集し、比較するベンチマークを行いつつ、年に1回の会議を開催しています。
加盟都市の特徴はいずれも都市圏を構成しており、都市圏人口が100万~300人規模であることです。東京のような1000万人の巨大都市でないような地域がどのように生きていくのかを考えています。
その中で、従来のようなある特定の連携ではなく、イノベーションを促進する地域づくりのための産官学民連携によって、地域全体でビジョンを共有し、地域にとっての顧客ニーズに焦点を絞り、グローバルな視点で競争力の向上に取り組む例が共有されています。
私は、過去に経済産業省で中小企業政策や地域政策に従事してきました。中でも、地域の観光資源や農林水産品、産地の技術などの価値ある資源(地域資源)を活用して事業活動を行う中小企業を支援する法律の立案などに携わってからは、地域における自立した経済活動や、それらを担保する地域のあり方や仕組みづくりが主な関心事項でした。
経済産業省退職後は、政府や地方自治体、大学などの公共的な領域を支援するコンサルティング会社に転じ、日本各地でブロジェクトを担当しました。地域それぞれに特有の文化や風土、特性があることを知り、地域ごとにその特性を生かしたまちづくりや課題の解決を行っていく必要があることを実感しました。それとともに、まちづくりは行政だけが頑張るものではなく、住民や企業などのさまざまな関係者が関わるものだとの認識も強く持ちました。「ビジネスでまちづくりや地域の課題解決ができるのではないか」と考えたのもこの頃です。

その後、地元の福岡県に戻り、2015年に福岡市の高島宗一郎市長から、福岡都市圏で産官学民を取りまとめ、一体となってまちづくりを行う福岡地域戦略推進協議会(FDC)の事務局長という大役を、35歳(当時)で仰せつかりました。また、九州大学で教員として、政策や事業などを立案、実施して地域の課題解決を行う人材を育成する「地域政策プロジェクトデザイン」を担当するなど、私自身も産官学民のそれぞれの立場を経験したキャリアを持っています。
私が所属するFDCは、IRBCの知見から生まれた組織です。だからこそ、本書で紹介する福岡の取り組みは、世界の潮流の中に位置しているといえます。本文でさまざまな事例に触れますが、「まちづくりの中で、これまで行政が行っていなかったことについて、民間がサービスを作って課題の解決につなげる」といったケースがどんどん生まれてきています。ニーズ(課題や新たな価値につながる取り組み)を掘り起こし、ユーザー(住民)が必要とするサービスを作る。まちづくりは新たなビジネスチャンスなのです。
これからの都市や地域では、一つの基礎自治体だけでなく地域全体での連携が必要です。そのためには、行政だけでなく民間の知恵やリソースを活用した「官民連携」による新しい形のまちづくりを実現することが重要なのです。

このような例はIRBC加盟都市はもちろん、東京と同規模のニューヨークでも見ることができます。つまり、紹介する事例は都市の規模に関わらず、また産官学民のどの立場からも今後の日本のまちづくりにおいて大いに参考になるはずです。
FDCは、2020年度より、新たな地域戦略がスタートします。今回、本書の執筆のお話をいただけたことは、自分の頭を整理する意味でも大変良い機会でした。私は、全国を講演する中でさまざまな方からどうやってFDCのような組織を作るのか、運営するのかといった質問をいただくことも多いのですが、本書はそうした方々への具体的な指南書のような位置付けとしても使えるかもしれません。
本書を手に取られて全国に私どものように行動し、日本の未来を一緒に担っていく方々が増えることを願ってやみません。新たなビジネスの創出により、地域の活力を創出していく。そんな未来を覗いてみませんか?

石丸 修平 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2020/2/18)、出典:出版社HP

目次

はじめに

序章 Prologue なぜ福岡は注目されているのか
福岡で起業が増える理由
ネガティブ要素だらけの都市だった福岡
なぜ九州全体に勢いがあるのか
「都市圏」という単位で機能する組織
まちづくりに「決まった型」はない
「画一的な施策」から多様性を受け入れる社会に

第1章 Chapter1 世界から人と企業が集まる理由
田舎に価値を見出しムーブメントが生まれる
二人の兄弟がまちの魅力を発信する
商店街活性化で「Airbnb」と連携
テクノロジーでまちをハックする
市民発でアジアに広がるネットワーク
福岡の呼びかけでアジアの「地域」が集まる
民間企業のパワーが福岡の宝
ラグビーワールドカップに10万人の署名
世界最大級のゲームイベントを「熱さ」で誘致
地元の「のぼせもん」が誘致のキーパーソン
MICEを呼び込む戦略的チーム
進む新展示場の新設とホテル開発
BRIでインバウンドをまちなかへ!
インバウンドナイトタイムエコノミーがカギ

第2章 Chapter2 なぜ福岡で「アイデア」は生まれるのか
ビジネスが活性化するコンパクトシティ
お酒を片手にビジネスの話を
「交ざる」からこそアイデアは生まれる
大学生が起業する部活「九州大学起業部」
創業後、約半年で海外進出した学生ベンチャー
福岡をエンジニアのまちに
なぜエンジニアは福岡に集まるのか
クリエイティブが人を呼ぶ「プロジェクトスタジオQ」
社会課題を解決するのは「カッコいい」
連携しながら社会的価値を生む
アイデアはキーパーソンが集まる「場」から生まれる

第3章 Chapter3 未来の暮らしのアイデアを現実に
新しいソリューションは地方から生まれる
走りながら考えてアイデアを動かす
未来のインフラ「九州ドローンコンソーシアム」
福岡の強みを輸出するワンコンテナ実証実験
新しい移動手段が生活や観光を変える
すでに実用化されているAI運行バス
政策課題だった健康寿命の延ばし方
民の資金での事業成果を測るSIB
未来の健康都市の形を探ろう
トレーラーハウスが災害時の暮らしを変える
都市の成長を加速させるスマートシティ
データより「人」を起点にサービスを考える
Column1 スマートシティ

第4章 Chapter4 「連携」で九州がよみがえる
なぜ長崎は仮想通貨で資金を調達するのか
長崎県壱岐市で移住増・雇用増を達成
ライフスタイルを変える多拠点生活
高速道路から始まるまちづくり
「かつての暮らし」を未来に生かす
世界遺産の価値って何だろう?
廃校でコミュニティを復活させよう
日本初「九州廃校サミット」がスタート
廃校は最先端の社会課題
価値をネットワークする
Column2 廃校活用

第5章 Chapters5 東京を越えて世界とつながる
創業と同時に海外マーケットを視野に入れる
ボルドーとの連携がもたらす価値
ボルドーの持つ強力なエコシステム
海外連携でスタートアップが加速する
世界都市の強みを取り込む
逆境から生まれたセキュリティ大国
世界の都市が福岡と連携したい理由
東アジアのビジネスハブ都市を目指して
福岡は日本のシリコンバレーか?
「暮らす価値」が世界を良くする

終章 Epilogue 世界への扉は福岡に
まちづくり検出で外貨を稼ぐ
移民起業式がひらく未来
これからの福岡都市圏とは
国際都市に必要な付加価値
まちが一つになった時にこそ成長は起こる
官民連携で必ず起こる思惑のズレ
産官学民連携における重要なボイント
おわりに

石丸 修平 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2020/2/18)、出典:出版社HP