天皇制ってなんだろう?: あなたと考えたい民主主義からみた天皇制 (中学生の質問箱)

【最新 – 天皇制について学ぶためのおすすめ本 – 歴史・概要から今後について】も確認する

天皇制の実態がわかる

日本独特の“天皇制“とは一体何なのか?本書では、日本の天皇制の歴史や各国の君主制を踏まえて、生前退位や基本的人権の保障など天皇制の実態を学びます。私たち一人ひとりがこの国について考えるための機会が得られる入門書です。

私たちの生きる社会はとても複雑で、よくわからないことだらけです。
困った問題もたくさん抱えています。普通に暮らすのもなかなかタイヘンです。なんかおかしい、と考える人も増えてきました。
そんな社会を生きるとき、必要なのは、「疑問に思うこと」、「知ること」、「考えること」ではないでしょうか。裸の王様を見て、最初に「おかしい」と言ったのは大人ではありませんでした。中学生のみなさんには、ふと感じる素朴な疑問を大切にしてほしい。そうすれば、社会の見え方がちがってくるかもしれません。

天皇制ってなんだろう?
あなたと考えたい民主主義からみた天皇制

もくじ

はじめに

第1章 どうして日本には天皇制があるの?

第2章 天皇制ってずっと同じじゃないの?
1 明治の天皇制ってどんなもの?
2 神格化ってどういうこと?
3 戦後の天皇制ってどんなもの?

第3章 今はどうなってるの?
1 今の天皇制ってどうなってるの?
2 私たちが天皇制について考えるの?

第4章 未来のために考えるべきことってなに?
1 戦争責任が日本の未来や天皇制と関係あるの?
2 ドイツはどんなことしてきたの?

第5章 民主主義から天皇制を考えるの?

第6章 私が民主主義社会の主人公?
1 どうやったらなれる?
2 私にもできることってあるの?

おわりに

はじめに

こんにちは。私は宇都宮健児といいます。弁護士です。
この本が出版されるのは2018年の12月の予定ですが、2019年には今の天皇が生前退位し、次の天皇が即位することになっています。天皇の「ビデオメッセージ」を発端に、亡くなる前に退位することを認める特別な法律をつくり、退位と即位の日が決められました。これによって、天皇制のあり方がひとつの転換点を迎えます。
長い間天皇制がつづいてきた日本では、天皇制は空気や水のように、当たり前のもののように定着していますが、じつは、長い歴史のなかで天皇制のあり方も変わってきています。そして今回、また少し現代の天皇制も変化することになりました。
この機会に、天皇制がなぜつづいてきたのか、時代時代の天皇制のあり方について、振り返って考えてみたいと思います。
でも、どうして天皇制についての専門家、研究者ではない弁護士が天皇制について話すのかと思いますよね?そのことについて、簡単にお話しします。

まず、弁護士とは、法律にもとづいて困っている人、人権を侵害されている人を助けるのが仕事です。1949年に施行された「弁護士法」のいちばん最初、第1章第1条に次のように書かれています。

「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」

基本的人権が守られない人の多くは、社会的、経済的に弱い立場の人や、”一般的ではない”とされるさまざまなマイノリティ(少数者)の人たちです。裕福な人、権力のある人は自分の人権を自分で守れるからです。ですから弁護士の使命は、弱い立場の人の味方をすることです。

——弁護士って、お金のある人のために働くんじゃないの?

もちろん、企業の顧問弁護士など、そういう弁護士もいます。でも、私は弁護士になるときに、弁護士法第1条に示されているような活動をしようと決めて、これまでそのように活動してきました。
その活動のなかで天皇制について考えるようになりましたが、じつは、弁護士になる前は、天皇制についてとくに考えたことはありませんでした。ただ、父は23歳のときに徴兵されて、青春まっただなかの10年間を戦争に従事しました。銃撃を受けて負傷し、歩くときは足をひきずっていた父から、よく「日本は神の国だから負けるはずないと思っていた」と聞いていました。「神の国」とは天皇の国ということです。
弁護士になって、人権を守る仕事を始めると、疑問に思うことがでてきました。
法律の大本となる日本国憲法では、「法の下の平等」を謳っています。そして、基本的人権を保障しています。これらは憲法の中でもいちばん重要な原理です。法の下の平等はすべての人が平等でなければなりませんし、基本的人権も、ある人とない人があっていいわけではありません。お金持ちも貧乏人も、障がいを抱えている人も障がいのない人も、みんなが法の下では平等で、みんなに人権があります。そこに差別があってはなりません。
でも、法の下の平等、基本的人権ということについて考えを深めていくと、天皇制と矛盾がでてくるのではないか?と思いはじめたのです。
どうしてそう思ったのかは、この本のなかでお話ししていきます。
その前に、もう少し私自身のことをお伝えしておきます。
弁護士の活動として私が最初に取り組んだのは、高い利子でお金を借り、厳しい取り立てに追われて困りきっている人たちを助けることでした。当時、借金で人生がめちゃくちゃになってしまう人たちがたくさんいて、「サラ金問題」として社会的な問題になっていました。
この問題に取り組むなかで、利子に関する法律に問題があることがわかり、仲間とともに国会に働きかけて、法律の改正を求めました。一人ひとりの被害者を法律にもとづいて助けるという弁護士の仕事から一歩踏み出して、「サラ金問題」解決のために、社会の制度そのものをよくするための活動をはじめたのです。長年の運動の結果、2006年に「貸金業法」の改正が実現しました。
その後も、貧困問題や、2011年の東日本大震災と福島原発事故の被害者の支援などに、弁護士として取り組むとともに、その問題の解決のために積極的に社会に働きかけてきました。そして、その一環として2012年と2014年の2度、東京都知事選挙に立候補しました。結果は落選しましたが、いずれも2番目に多い票を得ることができました。

今回、「中学生の質問箱」シリーズで天皇制について話してほしい、という依頼があったことから、改めて天皇制について調査し、勉強し、考えました。それをもとに法律にもとづいて「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」という弁護士の視点からみた天皇制について、お話ししたいと思います。